計算科学技術部

材料科学 分子動力学・材料科学・国プロ

分子シミュレーションで探るカーボンナノチューブ成長

CNT成長過程に引張

テーマ概要

カーボンナノチューブ(CNT)は、高強度・高導電性・高熱伝導性を兼ね備えた次世代材料として注目されています。CNTの実用化において、成長速度と品質の両立は長年の課題です。本研究は、CNT成長中に物理的な「引張ひずみ」を印加するという合成方法:浮遊触媒化学気相成長法(Floating Catalyst Chemical Vapor Deposition method, FCCVD)は高速成長を可能にする手法ですが、この成長過程を分子動力学シミュレーションによって再現しました。解析の結果、適切な温度のもとで加速された炭素原子は触媒金属表面上に拡散し、引張ひずみによってCNTの成長速度が飛躍的に向上するだけでなく、構造欠陥の少ない高品質なCNTが得られていました。この知見は、従来の温度や原料組成の調整に加え、力学的な場を利用した能動的な成長制御の道を開くものであり、CNT製造の生産性向上とコスト競争力強化に直結する極めて重要な指針となるでしょう。

研究目的

  1. FCCVDにおける高速成長の要因を分子論的に解明する
  2. CNTのキラリティ(構造の違い)が成長速度に与える影響を比較する
  3. 成長過程における引張ひずみと触媒界面の役割を明らかにする

計算方法

  1. セメンタイト(Fe3C)ナノ粒子上で成長するアームチェア型 (5,5)、ジグザグ型 (9,0)、キラル型 (6,4) CNTの3種を対象とした。
  2. セメンタイトの溶融温度前後の1073K、1273K、1473Kについて計算した。
  3. LAMMPSを用いた分子動力学計算
  4. 引張ひずみ速度 1 mm/s を付与

主な成果

温度依存性

溶融点未満の1073Kでは炭素供給が不十分で成長停止し、溶融点を大きく上回る1473Kでは欠陥形成が増加し構造が不安定化した。溶融点である1273Kではキラル型CNTが安定に成長を継続した。

図1 500ナノ秒のシミュレーション後のスナップショットと6員環および5・7員環数の推移
キラリティの影響

キラル型CNTは引張ひずみに適応しやすく、安定した6員環形成を継続したのに対し、アームチェア型・ジグザグ型は成長が途中で停滞した。

図1 CNT下端に6員環が形成される様子
成長メカニズムの解明
  1. 高温条件下ではセメンタイトから炭素が供給され、CNT端部に結合しやすい
  2. 引張ひずみにより炭素原子が効率的に配置され、高速成長が可能となる

意義と展望

本研究は、FCCVDにおけるCNT成長の分子論的理解を大きく前進させました。特に、キラル型CNTが高速成長に適していることを実証、引張ひずみが成長促進に寄与することを確認したほか、欠陥形成の温度依存性を明らかにしました。これらの成果は、CNTの大量合成技術の最適化や、電子材料・ナノデバイス応用に直結する基盤知識を提供します。

謝辞

本研究は、防衛装備庁「安全保障技術研究推進制度」の支援を受けて実施されました。また、筑波大学計算科学研究センターの共同利用プログラムを活用しました。

学術的成果

本共同研究の成果は以下の学術論文として発表されています。

※太字:RIST所属研究員

  1. 1. Molecular dynamics simulation of carbon nanotube growth under a tensile strain. Ayaka Yamanaka, Ryota Jono, Syogo Tejima , and Jun-ichi Fujita, Sci. Rep. 14, 5625 (2024)

担当研究員

本プロジェクト担当研究員

本共同研究におけるシミュレーション解析は、以下の研究員が担当いたしました。

担当研究員:山中 綾香 山中 綾香 研究員
担当研究員:城野 亮太 城野 亮太 主任研究員
担当研究員:手島 正吾 手島 正吾 研究員

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