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<概要>
 プルトニウム(Pu)はアクチノイド類に属する超ウラン元素で、プルトニウム234からプルトニウム246までの13種が主な同位体として存在するが、核燃料関連ではプルトニウム236、プルトニウム238、プルトニウム239、プルトニウム240、プルトニウム241、プルトニウム242の6種が重要になる。プルトニウム239はプルトニウムの研究開発時代から核兵器として、現在では原子炉使用済燃料からの回収プルトニウムとして注目されている。回収プルトニウムには各種のプルトニウム同位体が色々な割合で含まれ、組成は原子炉の型、燃料の種類、燃焼度によって異なる。この質的変化によってプルトニウム239が大部分を占める核兵器級プルトニウムとは異なり、このままでは核兵器用の材料になり得ない。
 また、プルトニウムには非放射性同位元素は存在しない。ヒトへ体内摂取された場合、プルトニウム酸化物は非常に難溶性であり、消化管吸収性が極端に低く、血液中に入ることは極めて困難なので経口毒性は実際上は問題にならない。プルトニウムの吸入による体内摂取許容限界は定められており、厳重な管理が要求される。
<更新年月>
2007年08月   

<本文>
 プルトニウム(Pu)は原子番号94の人工元素で、周期表でアクチノイド類に属する超ウラン元素である。プルトニウム234からプルトニウム246までの13種が主な同位体として存在するが、核燃料関連ではプルトニウム236、プルトニウム238、プルトニウム239、プルトニウム240、プルトニウム241、プルトニウム242の6種が重要になる。プルトニウム239は、ウラン238が中性子を吸収して生成するアルファ放射性核種(半減期約2万4千年)で、プルトニウムの研究開発時代から核兵器として、現在では原子炉の使用済燃料からの回収プルトニウムとして注目されている。
<平和利用のプルトニウムは原爆用プルトニウムとは形態と密度などが異なる>
 プルトニウムは原子炉の使用済燃料を再処理することにより回収プルトニウムとして取り出される。回収プルトニウムには各種のプルトニウム同位体が色々な割合で含まれ、その組成は原子炉の型、燃料の種類、燃焼度により異なる。軽水炉ではプルトニウム239は60%程度である(表1参照)。最もプルトニウムを多く含む原子炉は高速増殖炉であり、これでもプルトニウムは最大30%を含むもので、しかもウランとの混合酸化物(MOX)の形態で核兵器用の物質とは全く異なる。日本における再処理工場からMOX燃料加工施設への流れでも、プルトニウムはウランと50/50の比率で混合され、核兵器用の材料にならない。
 従って、プルトニウムの単体の存在は単体転換方式を採っているフランスなどからMOX燃料加工施設へ運ばれてくるものに限られている。しかしながら、MOX燃料加工施設は粉末(密度が最大3.5g/cc)およびセラミック・ペレット(密度が最大11g/cc)の取扱いに限られ、原爆用の金属(密度19.8g/cc)状に比べて、形態と密度がまったく異なり、直接に原爆用の材料にならない。
 さらに、核物質については核燃料規制法などの放射線防護の上からの規制以外に、保障措置と呼ばれる核物質防護のための規制が並列的に存在する。これは核物質、特にプルトニウムを不当な手段で奪取されたり、盗み出され核兵器に転用されたり、脅しの手段として使われることを防止するためである。核物質は、日本国内の問題に留まらず、核兵器不拡散に関する条約(核不拡散条約、NPT)のもとで保障措置協定を国際原子力機関(IAEA)との間で締結することによって、国際的な規制の下にある。一例として核燃料サイクル開発機構(現在、日本原子力研究開発機構)におけるIAEA査察実績を図1に示す。
<プルトニウム数kgで原爆1個がつくられると言われるが>
 プルトニウムからエネルギーを取り出すには、核分裂連鎖反応により持続させることが必要である(臨界)。臨界状態とするには体系と核分裂物質の一定量が必要であり、理想的な状態で最も少ない核分裂物質で臨界になる量を「最小臨界量」と言っている。プルトニウムの最小臨界量はウランに比較して小さく、米国臨界安全ハンドブックTID-7016によると、溶液状態で0.51kg(ウラン235、0.82kg)、金属状態で5.6kg(ウラン235、22.8kg)と示されている。このプルトニウムはプルトニウム239が100%の条件であり、計算上の値である。
 原爆は溶液では成立しないので金属状に限られる。兵器級のプルトニウムはプルトニウム239が93%以上(表1参照)と言われており、金属プルトニウムをタンパー(濃縮しないウランなどが材料として用いられ、核分裂によって塊が急膨張するのを防ぎ、中性子反射体にもなる)で覆うと原爆1個には少なくとも5kg前後の兵器級プルトニウムが必要となることになる。さらに化学爆薬によるインプロージョン(爆縮=内側に爆発させ、圧縮すること)によって、臨界質量を大幅に小さくすることができるが、この爆縮技術は、小さな丸い塊に圧縮が均等に行われる必要があるため大変に困難な技術といわれている。約1キロのプルトニウム239が核分裂すると、高性能火薬TNTに換算して、20キロトンの爆発となる。
 一般に原子力発電から発生するプルトニウムの純度は、臨界の観点からは兵器級よりも劣る。プルトニウム239にプルトニウム241を加えた核分裂成分プルトニウムは約70%であり、これを通常原子炉級プルトニウムと言っている。原子炉級プルトニウムの最小臨界量は兵器級プルトニウムよりも増えることになり、図2の例から判るように、プルトニウム中の核分裂成分が100%から80%の減少に対して最小臨界量は約70%の増加となる。一方、1993年(平成5年)1月早々にフランスから「あかつき丸」で運ばれたプルトニウムは粉末状のもので、密度は高くとも3g/cc程度であり、図3から読めるようにプルトニウム中の核分裂成分が仮に100%としても最小臨界量は80kgとなる。
<プルトニウム取扱い施設での臨界管理臨界事故
 原子力発電所は原子炉内核燃料の臨界を制御してエネルギーを取り出すプラントである(図4参照)。プルトニウムを取扱う施設全般では、臨界事故を未然に防止するための安全管理体制に特別の注意が払われている。実際の管理に当たっては、体系の質量制限、濃度制限、形状寸法制限などの技術的手法、並びに体系の相互併用が用いられる。これらは安全審査指針などの法により安全規制が施されているほか、誤操作などを回避するための安全管理体制が強化されている。
 しかしながら臨界事故は、過去米国、英国において1958年から1978年にかけて表2のように報告されている。これらの事故の特徴は、ほとんどの場合ウランあるいはプルトニウムの回収工程で、またはインベントリ回収洗浄などの非定常作業中に起きている。事故の現象はダイナマイト爆発のように施設全体が破壊されることはなく、1次密封が壊れる程度の小さな爆発(バースト)であり、溶液の沸騰・飛散により自然に未臨界状態になり治まっている。しかし、付近にいる作業者は多量の放射線被ばくを受けることになる。
 日本では、1999年(平成11年)9月30日、茨城県東海村の(株)ジェーシーオー東海事業所のウラン加工施設において臨界事故が発生している。臨界事故の直接原因は事業者の作業基準の逸脱行為であったが、再発防止の観点から「原子炉等規制法」を一部改正するとともに「原子力災害対策特別措置法」が制定され、原子力防災専門官・保安検査官が配置されるなど各方面にわたって安全管理の一層の強化が図られた。
<原子爆弾をつくることは容易か>
 原子爆弾をつくるためには、最小臨界量以上のプルトニウム(又は高濃縮ウラン)の核分裂性物質を確保するに加えて、専門的知識および技術が必要である。爆弾をつくるにはプルトニウムの小片を単に寄せ集めても爆発はしない。適当な大きさの金属片を非常に早く合体させ、核反応が進行する間、中性子源の存在下でその合体の状態を維持することが必要である。このため起爆薬を注意深く配列するなどの複雑で高度の技術が要求される。また製造・取扱い上、発熱、中性子被ばく、ガンマ線被ばくなども考慮する必要があり、原子爆弾をつくることは容易ではない。
<プルトニウムの人体におよぼす影響は>
 プルトニウムは通常固体や液体で取り扱われ、気体にはならない。しかし、極微量エアロゾルやミストとして人体に摂取される可能性がある。プルトニウムの同位体はその全部が放射性で、非放射性の同位元素が存在しないことから、純粋な化学毒性を一般の元素あるいは一般の化学物質と比較することは困難である。また通常の物質は経口摂取の毒性が問題となるが、プルトニウム酸化物は非常に難溶性であり、更に消化管吸収性が極端に低く、血液中には極めて入りにくいので、経口毒性は実際上は問題にならない。一方、呼吸により体内に摂取された場合、肺にしばらく留まるとともに血液を介して、主に骨、肝臓に集まるので、肺、骨および肝臓に有意な発ガンが認められないように判断基準の目安が設定されている。プルトニウムを取り扱う施設では、プルトニウムを体内に入れないために「グローブボックス」又は「セル」内でのみ取り扱い、それらの密閉性が損なわれた場合は、内部を負圧にしてプルトニウムがまわりの作業室に出てこないようにしている。
 しかしながら、プルトニウムの人体影響は過剰被ばくが問題である。プルトニウムの人体での確実な障害例は報告されていないが、プルトニウムの安全性が問題になるごとに、将来障害の発生が予想される可能性のある過剰被ばく例が注目されている。
 放射線防護のための設備も体制も不完全であった1944年から1945年にかけて、米国では原子爆弾製造のためのマンハッタンプロジェクトが推進され、ロスアラモス研究所で過剰被ばく集団が発生した。この集団に関して継続的な追跡調査が発表されている。マンハッタンプロジェクトにおけるプルトニウム被ばく者中の死亡者(7人)の死因を表3に、作業者の身体負荷と死亡者の関係を図5に示す。このなかで肺がんが死亡原因とされる人はいずれも喫煙者であり、そのうち2例はプルトニウムの沈着量が少なく、肺がんの発生率は自然発生の変動の幅に入るものであると報告している。プルトニウム毒性の詳細な説明は原子力百科事典:プルトニウムの毒性と取扱いについて <09-03-01-05>参照。
(前回更新:2006年1月)
<図/表>
表1 核兵器級と原子炉級プルトニウム同位体重量比の例
表1  核兵器級と原子炉級プルトニウム同位体重量比の例
表2 欧米の核燃料施設における臨界事故
表2  欧米の核燃料施設における臨界事故
表3 マンハッタンプロジェクトプルトニウム被ばく者中の死亡者(7人)の死因
表3  マンハッタンプロジェクトプルトニウム被ばく者中の死亡者(7人)の死因
図1 IAEA査察実績
図1  IAEA査察実績
図2 22w/oPuO
図2  22w/oPuO
図3 乾燥PuO
図3  乾燥PuO
図4 原子力発電と原爆の原理の違い
図4  原子力発電と原爆の原理の違い
図5 26名のマンハッタン作業者におけるプルトニウムの沈着量分布
図5  26名のマンハッタン作業者におけるプルトニウムの沈着量分布

<関連タイトル>
プルトニウム核種の生成 (04-09-01-01)
プルトニウム燃料施設の安全管理 (04-09-01-02)
世界の原子力施設における臨界事故 (04-10-03-05)
核兵器用のプルトニウムと高濃縮ウランの原子炉への転用 (07-02-01-08)
核実験 (09-01-01-04)
プルトニウムの毒性と取扱い (09-03-01-05)
プルトニウムの被ばく事故 (09-03-02-09)
日本の原子力防災対策の概要−考え方と体制 (10-06-01-01)

<参考文献>
(1)ANS:Q&A−Nuclear Power and the Environment(1976)
(2)松岡理:プルトニウム物語−その虚像と実験−、テレメディア(株)(1992.6)
(3)核燃料施設臨界安全管理編集委員会(編):核燃料の臨界安全、(財)原子力安全研究協会(1984.12)
(4)日本原子力産業会議(編):核燃料の取扱技術’93年版(1992.11)
(5)今井隆吉:プルトニウムと国際政治、日本原子力学会・核燃料研究連絡会報、No.18(1993.1)
(6)松岡理:プルトニウムの安全性評価、日刊工業新聞社(1993.6)
(7)日本原子力研究所核燃料施設安全性研究委員会臨界安全性専門部会 臨界安全性実験データ検討ワーキンググループ:臨界安全ハンドブック第2版、JAERI 1340(1999.1.11)
(8)電気事業連合会(編):「原子力」図面集−1998年版−(1998年10月)
(9)核燃料サイクル開発機構ホームページ:
(10)原水爆禁止日本国民会議:原水禁ニュースNo.448、核問題入門(6)ウラン核爆弾とプルトニウム核爆弾(2004.5)、http://www.gensuikin.org/gnskn_nws/0405_2.htm
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