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<概要>
 日本が、ロシアの原子力潜水艦解体で発生する放射性廃棄物海洋投棄を防止するために、「日露核兵器廃棄協力委員会」の資金の一部を利用して、ロシア極東地域で建設を進めている液体放射性廃棄物処理施設が、近く完成する見通しである。ロシア原子力潜水艦の解体が順調に行われた場合、年間5,000〜6,000立方メートルの液体放射性廃棄物の発生が予想されている。この施設は年間7,000立方メートルの処理能力を有しており、液体放射性廃棄物の海洋投棄を将来にわたって防止するのに役立つとみられている。
<更新年月>
1999年03月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.経緯
 1993年4月、ロシア政府より、1959年から1992年にわたって北方海域及び極東海域において行われてきた放射性廃棄物の海洋投棄の事実が『ヤブロコフ報告書』によって公表された。また、同年10月、ロシア太平洋艦隊が日本海において原子力潜水艦から生ずる900トンの低レベル液体放射性廃棄物の海洋投棄を実施したことが、わが国で大きな問題となった。溯って、1985年8月にはウラジオストック近郊の海軍基地で、原子力潜水艦の燃料交換時に誤操作があり、爆発事故のあったことが明らかになっている。
 放射性廃棄物の海洋投棄に対して、わが国は一連の抗議・申し入れを行うとともに、さらなるロシアの海洋投棄を防止するために、「日ロ核兵器廃棄協力委員会」の資金(日本は1億ドル拠出)の一部を利用して、ロシア極東における液体放射性廃棄物処理施設の建設について協力を行うこととした。その後、ロシア側との数回にわたる協議の結果、1994年8月に液体放射性廃棄物処理施設の建設に係る実施取決めに署名した。
 この処理施設は、1996年1月の建設企業の選定を経て、コムソモリスク(アムール川沿いのロシアの都市)における建設作業の後、1997年10月末にウラジオストック近郊まで曳航された。現在(1998年4月)、建設工事の最終段階にあり、今後試験運転を経て、ロシア側に引き渡されることになっている。
2.液体放射性廃棄物処理施設の概要
 日本のトーメン社と米国B&W社(Babcock & Wilcox Nuclear Enviromental Services,Inc.)が建設を担当し、建設費は約30億円(当初契約価格;約25億円)と見積られている。この処理施設は、長さ65m、幅23.4m、高さ6.6mの自力航行能力のないバージ(はしけ;厚さ1mの耐氷能力;船体はロシア・コムソモルスクのナ・アムール造船所で建造)の上に設置される浮体構造型のものであり、その内部は逆浸透膜や蒸発濃縮器を中心とした化学的処理施設、処理前の液体放射性廃棄物を貯蔵するタンク、および処理後に残る放射能を帯びた汚泥をセメントで固形化してドラム缶に充填する施設の3つのセクターで構成されている。
 取り扱える放射能レベルは、平均で1×10-6 Ci/リットル以下、最大1×10-5 Ci/リットル。処理能力は、35m3/日(年間200日の稼動で7,000立方メートル)である。浄化された後の液体廃棄物は、魚が棲む池に排出しても問題ない程度の水質になっている。係留地は、ウラジオストックの対岸の半島西側のボリショイ・カーメニにあるズベズダ原子力潜水艦解体工場の埠頭である。ただし、必要に応じ日本側に通報のうえ、その周辺の処理個所に移動できることになっている。
 現在、極東において貯蔵されている液体放射性廃棄物に加えて、今後、極東における原子力潜水艦の解体に伴って生じる液体放射性廃棄物(年間5,000〜6,000立方メートル)の海洋投棄を将来にわたって防止する上で、十分な処理能力を有するものとなる。本処理施設は、すずらん(花言葉で「清潔・清廉」の意)と名付けられた。 図1 に本処理施設の外観を示す。
<図/表>
図1 液体放射性廃棄物処理施設の外観
図1  液体放射性廃棄物処理施設の外観

<関連タイトル>
放射性廃棄物処理処分に関する国際協力−OECD/NEAにおける活動− (05-01-03-16)

<参考文献>
(1) 日本原子力産業会議:液体廃棄物処理施設が完成へ、原子力産業新聞 (1998年4月16日)
(2) 外務省科学原子力課(資料):極東における液体放射性廃棄物処理施設建設プロジェクト(1998年4月2日)
(3) 山内 康英:CIS諸国の核解体・原子力安全支援と日米協力、インターネット
(4) 川上俊之:旧ソ連非核化支援をどう推進するか、外交フォーラム、通巻96号、p.45-49(1998年8月)
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