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<概要>
 ベラルーシは、国内のエネルギー資源に乏しく、旧ソ連崩壊後もロシアとの関係を基礎とした旧ソ連型の経済体制を維持してきた。両国政府は1995年から関税同盟を結び、ロシアの原油を関税なしで輸入し、ベラルーシは付加価値を付けて製品を輸出し、ロシアへ輸出関税を支払う経済体制を構築してきた。従ってエネルギー自給率は14〜15%と極めて低く、ロシア、ウクライナ、リトアニアから電力やエネルギー資源を輸入している。
 なお、ベラルーシの原子力開発は1980年代にミンスクに合計出力200万kWの原子力発電所を建設する計画が浮上したが、1986年のチェルノブイリ事故後に中止となっている。
 その後具体的な進展はなかったが、2009年10月、ベラルーシ政府は、ロシアの支援による同国初の原子力発電所を建設するため、ロシアとの原子力協力協定を締結した。2009年1月、ロシア・アトムストロイエクスポルト(ASE)社を建設計画の主契約社として、ターンキー契約で、120万kW級ロシア型軽水炉AES−2006を2基、ベラルーシ北部のオストロベツ村に建設することになった。1号機は2013年11月に、2号機は2014年4月に建設を開始している。
<更新年月>
2015年10月   

<本文>
1. ベラルーシの概要
 ベラルーシは東をロシア、西をポーランド、北をバルト3国のリトアニアとラトビア、南をウクライナと国境を接する面積20.76万m2(日本の約半分)、人口約947万人(2014年:IMF調べ)の東欧に位置する共和制国家で、国土の約45%は森林地帯であり、20%を湿原が占める。南部には最大の湿原であるポレーシエ湿地があり、約1万1000もの湖がある。民族的にはベラルーシ人が83.7%、ロシア人が8.3%で、1991年にベラルーシ共和国としてソビエト連邦(ソ連)から独立した。
 旧ソ連の崩壊後、米国・西欧に対する軍事同盟であったワルシャワ条約機構が解体するなか、旧共産圏諸国は北大西洋条約機構(NATO)に組み込まれ、次々に親欧米政策に傾斜していったが、ロシアとベラルーシは1995年から関税同盟を結び、ロシアの原油は関税なしでベラルーシに輸出され、ベラルーシは付加価値を付けて製品を輸出することが可能となった。輸出関税は、85%がロシア、15%がベラルーシへ配分されたほか、ベラルーシの農産物等は関税なしでロシアへ輸出された。従って、ベラルーシは、ロシアとの関係を基礎とした旧ソ連型の経済体制を維持しながらも、他のC1S諸国と比較して高い生活水準を享受している。
 国際通貨基金(IMF)の統計によると、2013年のベラルーシのGDPは717億ドル。一人あたりのGDP(為替レート)は7,577ドルで、バルト三国を除く旧ソ連構成国の中では、ロシア(14,818)、カザフスタン(12,843)についで3番目である。2010年にロシア、カザフスタンおよびベラルーシは関税同盟を発足させ、2015年からアルメニアを加えてユーラシア経済同盟を発足させている。
 ベラルーシは1986年4月にウクライナの北部でおきたチェルノブイリ原子力発電所事故による最大の被害国である。2015年現在、国土の15%が汚染されており、国民の12%に当たる約114万人が汚染地域に居住している。
2. ベラルーシのエネルギー事情
 エネルギー資源に乏しいベラルーシは、1950年代まで国産の化石燃料資源は泥炭のみであった。1960年代初頭に小規模な油田が発見され、1965年に石油生産を開始した。現在でもごく僅かに石油と天然ガスを産出するが、エネルギー自給率は非常に低く、2013年は約15%であった(表1および図1参照)。国内一次エネルギー供給量の内訳は、1990年時点は石油が約65%を占めていたが、火力発電やその他の部門における使用燃料が天然ガスへ転換するに従い、その割合は2013年には約27%まで低下し、天然ガスの割合が約63%まで上昇している。
 前述のようにベラルーシは、1991年に旧ソ連から独立したものの大型の国営企業が温存された旧ソ連的な管理経済体制を維持し、ロシアへのエネルギー依存度は高い。また、ロシアは旧ソ連時代に東欧から西欧にかけて石油と天然ガスの一大パイプライン輸送網を構築し、ベラルーシを経由して各国に輸出している。これら歴史的な経緯から欧州諸国に比してCIS諸国への輸出は割安な価格であったが、2001年以降、ベラルーシは支払い能力の低下から、石油製品輸出税をロシアに戻さなくなり、これをめぐって両国の関係は緊迫化していった。ロシア側は2007年1月の原油輸送停止措置、価格優遇策の縮小という強硬手段に訴えることによりベラルーシ経済の不安定化を誘引し、最終的にはユーラシア連合の核となる関税同盟へのベラルーシ参加や、国営企業の買収交渉を有利に進めている。
3. 電力設備
 2013年の国内総発電電力量は約313億kWh、このうち国営のベルエネルゴ(Belenergo SPA)社が電力の95%、電熱供給の50%以上を供給している。発電設備容量は8488.4MWで、その内訳は水力発電が26.3MW、風力が1.5MW、自家発が636MWと、ほとんどが火力発電により賄われている。2013年におけるロシアやウクライナから輸入される正味輸入電力量は64億kWhで、国内供給電力量は377億kWhとなった。また、需要家別の消費電力の割合は、産業用が55%、業務用が14%、家庭用が約23%、農業用が5%、その他運輸・鉄道などが3%で、民生用の電力需要に比して、産業用のシェアが突出した構造となっている。図2にベラルーシにおける発電電力量の推移を、図3にベラルーシの送電系統図を示す。
4. ベラルーシの原子力開発
4.1 原子力導入経緯
 ベラルーシでは、1980年代にミンスクから南へ約50km離れたRudenskで型式VVER−1000、合計出力200万kWの原子力発電所を建設する計画が浮上した。首都ミンスクへの電熱供給を目的としたもので、準備工事を一部開始したが、1986年4月に起きたチェルノブイル事故後に中止されている。しかし、独立後の1992年12月、政府は原子力発電所建設計画を発表。1996年5月、政府は経済省、燃料・エネルギー省、チェルノブイリ事故対策省、科学アカデミーの4者に対してフィージビリティ・スタディの実施を命じた。1998年までに54カ所で立地調査を実施し、ミンスク北東のヴィテブスク地方と東部のモギレフ地方などで最有力地点3ヵ所が絞られたほか、8ヵ所が予備地点としてリストアップされた。エネルギーのロシア依存から脱却するため、ベラルーシ政府は1999年に原子力モラトリアムを採択。2005年〜2010年にかけて100万kW級の原子炉、5−6基を建設する方針を表明した。しかし、1998年3月に設置された調査委員会は、代替エネルギー開発、公衆の態度、資金問題等を総合的に検討した結果、今後10年以内に原子力発電所の建設を開始することは得策でないとの結論した。
 一方、2007年初旬に生じたロシアとの天然ガス料金の未払いをめぐる関係悪化が生じると、エネルギー安全保障確保が最重要課題となり、原子力発電の推進を後押し。2007年10月にルカシェンコ大統領は、原子力発電所を建設する方針を明らかにした。これを受け、ベラルーシ政府は国際入札を実施することになり、2008年5月には、ロスアトム傘下のアトムストロイエクスポルト(ASE)社、仏アレバ社、および東芝/ウェスチングハウス社に対して、ベラルーシの原子力導入計画への参加を呼びかけた。
4.2 原子力発電所の建設
 2009年1月、ベラルーシはASE社を原子力発電所建設計画の主契約社に選択し、同国北西部のリトアニアとの国境に近いオストロベツ村を第1立地候補地として選択し、120万kW級ロシア型軽水炉AES−2006を2基、ターンキー契約で建設することになった。AES−2006は安全系に動的システムと静的システムを組み合わせた第3世代プラス原子炉である。
 2009年9月、ベラルーシとロシアの両政府は、ロシアが原子力発電所を建設するための法的基盤となる両国間の原子力協力協定を承認。2011年3月、両政府間で、オストロベツにベラルーシ初の原子力発電所を建設することで合意、10月にはASEとの間で建設契約に調印した。2012年7月には、1号機と2号機の完成日程をそれぞれ2018年11月と2020年7月に設定し、建設コスト設定や機器納入および支払い時期などの契約や双方の責任義務事項など基本的原則を定めた発電所建設計画の一括請負契約に調印した。同時にベラルーシへの融資に関する政府間協定も締結され、2012年1月にはベラルーシ産業銀行がロシア国営・開発対外経済銀行(VEB)と銀行間協定を結び、ロシア政府から100億ドル規模の融資を得ることが可能となった。
 2013年11月に1号機が、2014年4月に2号機が建設を開始している(図4参照)。
 また、発電所建設を円滑に推進するため、ベラルーシ政府は2007年11月に組織編成を行った(図5参照)。エネルギー省の管轄下に原子力庁を設置し、計画・建設・試運転までを担当するほか、非常時対省の管轄下では法令・規則、許認可システムを行う部署が設置されている。なお、科学アカデミーのソスヌイ原子力研究所(Sosny)が科学的サポートを行っている。
5. 原子力に対する世論調査結果
 ベラルーシ科学アカデミー所属の社会学研究所が原子力発電所建設に関する世論調査を行っている。2005年に行った世論調査によると、国全体では、原子力導入に関して賛成が28.3%、反対が46.7%という結果であったが、2012年5月の世論調査によると賛成が53.5%に上昇、反対は21%になった。
(前回更新:2010年3月)
<図/表>
表1 ベラルーシの一次エネルギー需給バランス
表1  ベラルーシの一次エネルギー需給バランス
図1 ベラルーシのエネルギー需給バランスの推移
図1  ベラルーシのエネルギー需給バランスの推移
図2 ベラルーシにおける発電電力量の推移
図2  ベラルーシにおける発電電力量の推移
図3 ベラルーシの送電系統図
図3  ベラルーシの送電系統図
図4 ベラルーシ原子力発電所の概要
図4  ベラルーシ原子力発電所の概要
図5 ベラルーシの原子力関連当局
図5  ベラルーシの原子力関連当局

<関連タイトル>
世界の原子力発電開発の動向・CIS(2005年) (01-07-05-05)
旧ソ連チェルノブイルから10年−放射線影響と健康障害−(OECD/NEA報告書) (09-03-01-07)

<参考文献>
(1)(社)日本原子力産業協会:原子力年鑑 2015年版(2014年10月)、ベラルーシ
(2)(社)日本原子力産業協会:世界の原子力発電開発の動向 2015年版(2015年4月)
(3)国際エネルギー機関(IEA):Belarus:Balances for 1990−2012など
(4)EU FP7 project ENER2I:Belarus ENERGY Sector:The Potential for Renewable Energy Sources and Energy Efficiency、2014年11月、http://ener2i.eu/page/34/attach/0_Belarus_Country_Report.pdf
(5)ベラルーシエネルギー庁:Power Engineering Complex of the Republic of Belarus(2014年)
(6)IAEA PRIS 発電炉情報ホームページ:
(7)OECD/NEA:Nuclear Legislation in Central and Eastern Europe and the NIS、2003年、https://www.oecd-nea.org/law/legislation/nea2609-eastern.pdf
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