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<概要>
 首都ブタペストから南方114kmにあるパクシュ原子力発電所は、ソ連型PWRであるVVER−440の第二世代炉V-213・4基で構成され、同国唯一の原子力発電所である。同発電所の運転実績は、世界最高レベルにあり、安全水準も西側と同等と言われ、2012年には157億9,300万kWh、ハンガリー国内消費電力量の45.89%を供給した。
 パクシュ原子力発電所は、更なる経済性と運用効率を向上させ、市場での地位を高めるため、2005年に経済効率向上プログラム(EEP:Economical Effectiveness Enhancement Programme)を開始した。プログラムの基本的要素は、出力効率の向上、保守の最適化、運用寿命の延長である。出力効率の向上に関しては、2010年以降、電気出力440MWeから8%出力を増強して運転している。また、運用寿命延長のバックフィットも順調に進み、2012年12月、ハンガリー原子力庁(HAEA)は1号機に対して20年の運転延長を認可した。
<更新年月>
2013年12月   

<本文>
1.パクシュ原子力発電所
 ハンガリーの首都ブタペストから南方114kmのところに位置するドナウ川沿いに、パクシュ原子力発電所(Paks NPP)が設けられている(表1及び図1参照)。パクシュ原子力発電所は旧ソ連製PWRであるVVER-440の第二世代炉V-213・4基で構成され、2012年に157億9,300万kWhの電力を生産し、ハンガリー国内電力消費量の45.89%を供給した(図2参照)。4基(1〜4号機)は1983年から1987年にかけて次々と営業運転を開始し、2012年末における発電電力の総量は3,600億kWhを超えている。
 発電所は4基とも当初の運転期間が30年に設定され、バックフィット作業を重ねて運転期間を延長することが課題となっており、2001年11月、パクシュ発電所の当局者は20年間の運転期間延長計画を明らかにした。運転期間延長計画は、2000年に実施された技術・経済性報告書に基づいており、報告書では「パクシュ発電所は運転期間を50年に設定しても安全上支障ない」と結論し、また、「パクシュ原子力発電所は国内の発電所の中で最も発電コストが低い」として、2003年1月1日から実施される電力市場の部分自由化においても、十分に競争力を持つとした。一方、同発電所では計装制御系の改良作業も進められ、欧州の原子力規制当局からなる西欧原子力規制者会議WENRA)で「パクシュ発電所の安全レベルは、西側と同等」と評価されている。
 同発電所の4基全体の累積設備利用率は2012年には89.9%に達し、運転実績は世界最高レベルにある(図3参照)。この良好な運転実績の要因として、燃料交換に伴う運転停止期間が短いこと及び従業員の訓練が充実していることが挙げられている。
 このような状況を踏まえ、パクシュ原子力発電所は経済性と運用効率を向上し、市場での地位を高めるため、2005年から経済効率向上プログラム(EEP:Economical Effectiveness Enhancement Programme)を開始した。このプログラムの基本的要素は、出力効率の向上、保守の最適化、運用寿命の延長である。
 まず、出力効率の向上プログラムに関しては、2007年に1号機と4号機を対象とし、ハンガリー原子力庁(HAEA:Hungarian Atomic Energy Agency)が発行したライセンスに従い、年1回の運転停止期間中に必要な改良を加えて108%の認可出力を達成。グロス電気出力は運転開始当初の44万kWeから50万kWeとなった。同様に2008年には2号機と3号機の出力効率の向上プログラムが実施された。なお、3号機の場合は、2008年10月31日に電気出力が104%の値に達した後、2009年の計画運転停止期間中に更なる改良を加えることで、グロス電気出力は50万kWeに達した。2010年以降、これらの4基は、運転開始当初の熱出力1,375MWth、電気出力440MWeから8%出力が増強され、熱出力1,485MWth、電気出力500MWeで運転されている。
 また、パクシュ原子力発電所では、新しいタイプの燃料要素を適用するプログラムが進行中である。可燃性毒物ガドリニウムを含有する適度に濃縮度の高い新しいタイプの燃料要素を、2010年から試験的に装荷し、これにより未使用燃料の必要量及び使用済燃料量を削減させる予定である。
 寿命延長プログラムに関しては、運転寿命30年をさらに20年間延長させるもので、準備作業は順調に進み、パクシュ原子力発電所は2008年11月14日、寿命延長プログラム(LEP:Lifetime Extension Programme)をHAEA原子力安全局へ提出した。ライセンス取得には、国の専門家や市民団体が参加する公聴会が開催され、環境影響評価報告が実施されたほか、オーストリア、クロアチア、ルーマニアなどの周辺諸国とハンガリーの関連当局との間で調整が行われた。その結果、2012年12月、パクシュ1号機の20年の運転延長が認められ、2032年までの運転が可能となった。
 一方、ハンガリーのTNS Modus社が実施した世論調査では、2001年に国民の73%がパクシュ原子力発電所の運転継続を支持して以来、7割を超えるハンガリー国民が原子力発電所の運転を支持している(図4参照)。
 ハンガリー政府は福島第一原子力発電所の事故を受け、ストレステストとして安全の再評価を実施した上で、原子力を推進する方針を示している。その大きな理由として、国内の電力消費量の30%以上を輸入電力で賄い、特にロシアからのエネルギー資源の輸入に依存していること、パクシュ発電所の改修工事が継続していることがあげられる。なお、ハンガリー政府は、脱原子力政策を進めるドイツやスイスの状況を踏まえ、配電会社Mavirや研究機関との共同で、両国の政策が及ぼす影響を調査し、これら2カ国の電力輸入が拡大することで、この先ハンガリーの電力輸出が輸入を上回るとの見通しを得ている。
2.新規原子力発電所の建設
 パクシュ原子力発電所5・6号機の建設は、1980年代からしばしば議論されている。政府はVVER-1000(出力95万kW)・2基の導入を計画したが、準備がほぼ完了した段階で、電力需要の低下を理由に一旦凍結した。また、1996年には出力60〜70万kWの1基または2基の追加建設が提案され、東芝WHのAP600、カナダAECLのCandu6、ロシアASE及びドイツSiemensのVVER-640が検討されたが、政府方針に沿わず、計画は頓挫した。
 ハンガリー政府は、原子力発電の能力を2030年までに500〜700万kWとする必要性を重視し、パクシュ発電所サイトに200万kWの追加建設を提案した。ハンガリー議会は2009年3月、一部海外の戦略的投資を含めると、これに予備承認を与えた(賛成330に対して反対6、棄権10)。2011年に入札を開始し、2012年4月までに落札企業を決定。5号機は2020年、6号機は2025年の稼動開始を目指すとした。炉型として、フランスArevaのEPR、Areva/三菱重工のATMEA 1、ロシアASEのVVER-1200、東芝・WHのAP-1000、韓国KEPCOのAPR-1400の導入が検討された。このような状況下、2010年4月の総選挙で8年振りに返り咲いたOrban政権では、財政赤字の削減を目指し、大型プロジェクトの投資が見直されている。図5にハンガリー国家開発省が2011年に策定した「エネルギー政策 2030」に基づく原子力開発の見通しを示す。
3.原子力規制体制
 ハンガリー議会は1996年12月、1980年制定の「原子力法」に代わる「新原子力法」を採択、1997年6月に成立した。この1996年原子力法は、1980年原子力法の基本部分をほぼ踏襲しているが、国際原子力機関(IAEA)や経済協力開発機構/原子力機関(OECD/NEA)が発行した最新の国際規則・勧告を取り込んでいる。
 新原子力法の下、HAEAが原子力政策の策定、安全対策、保障措置協定、許認可、安全性、放射性廃棄物の規制、原子力関連活動の監督・規制を担当する。また、HAEAは原子力規制で中心的な役割を果たし、原子力法や関連規則で規定された関係省庁・政府機関による関連規制との調整を行なう。たとえば、放射線防護などの健康面の管理は厚生省の管轄であり、核燃料の輸送に関しては経済・交通省と調整を行う。図6にHAEAの組織図を示す。HAEAの原子力安全局は、原子力施設(パクシュ原子力発電所、使用済燃料中間貯蔵施設、原子力研究所(KFK AEKI)研究炉など)の安全対策も担当する。
 なお、新原子力法では、あらゆる原子力施設の建設計画に対して、議会の事前同意が必要とされるほか、放射性廃棄物管理のための原子力基金が創設されることになった。放射性廃棄物管理に関しては1998年に放射性廃棄物管理委員会(PURAM:Public Agency for Management of Radioactive Waste)が創設されている。表2にハンガリーの原子力開発の動向を示す。
 HAEAの原子力庁長官は首相によって任命され、内閣の閣僚でもある。各局長は、各省並びに原子力法に従い規制業務を実施する組織の高官である。また、HAEAの科学的支援体制として、最大12名の専門家で構成される科学諮問委員会が、原子力安全や放射線防護、緊急時対策などで助言を行っている。
(前回更新:2005年1月)
<図/表>
表1 ハンガリーの原子力発電所一覧
表1  ハンガリーの原子力発電所一覧
表2 ハンガリーの原子力開発歴史年表
表2  ハンガリーの原子力開発歴史年表
図1 パクシュ原子力発電所のサイト位置図
図1  パクシュ原子力発電所のサイト位置図
図2 ハンガリーにおける電力供給量の概要
図2  ハンガリーにおける電力供給量の概要
図3 パクシュ原子力発電所の設備利用率の推移
図3  パクシュ原子力発電所の設備利用率の推移
図4 ハンガリーにおける原子力に関する世論調査
図4  ハンガリーにおける原子力に関する世論調査
図5 「エネルギー政策 2030」に基づく原子力政策
図5  「エネルギー政策 2030」に基づく原子力政策
図6 ハンガリー原子力庁(HAEA)組織図
図6  ハンガリー原子力庁(HAEA)組織図

<関連タイトル>
ハンガリーの国情およびエネルギー事情 (14-06-09-01)
ハンガリーの電力事情 (14-06-09-02)
ハンガリーの核燃料サイクル (14-06-09-03)

<参考文献>
(1)海外電力調査会:海外諸国の電気事業 第2編、(2010年3月)、ハンガリー共和国
(2)日本原子力産業協会:原子力年鑑 2013、(2012年10月)、ハンガリー
(3)日本原子力産業協会:世界の原子力発電開発の動向2013年版、(2013年5月)、p.124-125
(4)原子力安全研究協会(編):旧ソ連、中・東欧諸国ハンドブック、1997年3月
(5)OECD/NEA(編集発行)、日本原子力産業会議(訳):中・東欧、旧ソ連諸国の最新原子力法(1998年9月)
(6)ハンガリー原子力庁(HAEA):組織図、

(7)ハンガリー原子力庁(HAEA):National Report Fourth Report prepared within the framework of the Joint Convention on the Safety of Spent Fuel Management and on the Safety of Radioactive Waste Management, 2011、

(8)MVM Paks Nuclear Power Plant Ltd.:gallery、

(9)MVM Paks Nuclear Power Plant Ltd.:PRESS CONFERENCE、2013年2月、

(10)ハンガリー国家開発省:NATIONAL ENERGY STRATEGY 2030、(2012年)、

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