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<概要>
 1990年10月の国際原子力機関(IAEA)の重要安全事象解析チーム(ASSET) の調査に続き、1991年4月にIAEA運転管理調査団(SRM)がチェコ・スロバキアのボフニチェ原子力発電所(旧ソ連型加圧水型炉)で徹底的な安全レビューを実施した。同調査団は、「設計時にソ連で特定の基準が存在しなかったことに起因する根本的な欠陥が依然として存在する。一方、同発電所の管理層や支援組織は、安全性の改善に極めて真剣に取り組んでいる」と結論した。
<更新年月>
1998年05月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.IAEAのASSET使節団の調査(1990年10月)
 チェコ・スロバキア連邦政府の提案で、IAEAの重要安全事象解析チーム(ASSET) は、1990年10月1日から12日まで、ボフニチェ原子力発電所で(旧ソ連製加圧水型炉VVERのうち最もタイプの古いV-230)作業部会を開催した。このASSETによるレビューの目的は、同発電所の事故防止のためにチェコ・スロバキアのとった対策の有効性、および長期的な安全運転のための基礎条件を評価するところにあった。このレビューでは、過去の運転経験から確認された安全関連問題を改善するために行われた措置が、適切で徹底しているかについて見解がまとめられ、さらにIAEAの一団は、異常事象の防止をより信頼性の高いものにするために必要な追加措置を勧告した。

2.IAEA運転管理調査団(SRM)の調査(1991年4月)
 IAEAの運転管理調査団(SRM)は、続いて1991年4月7日から26日まで、VVER-440/V-230型の発電所の安全性に関する調査プログラムの一環としてボフニチェ発電所で徹底的な安全レビューを実施した。以前行われたVVER-440/V-230についての設計審査で得られた知見と比較されたが、オリジナルの設計にかなりの改善が加えられているように見えた。しかし、オリジナルの設計を行った頃のソ連に特定の基準が存在しなかったことに起因する根本的な欠陥が依然として存在すると判定された。特に、安全設備の計装・制御や物理的分離の分野でそのような欠陥があると判定された。
 また、ボフニチェ発電所の管理層や支援組織が同発電所の安全性の改善に極めて真剣に取り組んでいることが調査で結論された。しかし、また原子力安全に対してもバランスのとれたアプローチを行うために、運転分野についても同様の注意が必要とされると結論された。調査結果の概要は次のとおりである。
(1) 運転手順書
・通常および緊急時の運転手順書が不適当である。
・多くの場合、手順書が作成されていない。
・作成されている手順書の一部は不完全かつ不適当に編集されている。
・所員は手順書が使用できる場合でも、手順書を利用しないことが当たり前になっている。
・プラントの管理層は、手順書の使用を重視しておらず、訓練でもそうである。
(2) 発電所での安全面での慣行
・安全設備の試験に関する多くの監視手順が作成されていない。
・監視データは、日常的に記録されておらず、評価も行われていない。
・制御室などで保修用に隔離されている系統や機器について識別タグが付されていない。
(3) 品質保証
・品質保証プログラムが策定されていない。
・運転面とプラント品質保証プログラムに関する独立した評価と審査が実施されていない。
(4) プラントの組織
・発電所運転部門の多くは、非効率的に組織されている。
・責任の所在が断片化している。
・連絡のラインが長すぎる。
(5) 事故対応
・主制御室の計装、情報処理、連絡手段、およびヒューマン・ファクター面での条件は、過渡事象条件下で効率的にプラント管理を行う上で不適当である。
・事故状況での制御室の居住性を維持するための対応措置が評価されておらず、また講じられてもいない。
・事故状況での制御室の人員配置が不適当である。
・所員の運転経験が不十分である。
・所内の事故管理対応策が不完全である。
・サイト内緊急時計画組織が効果的に組織されているとは言い難い。
・緊急時対応設備が不適当である。
・事故管理設備の使用手順書が作成されておらず、所員も適切に訓練されていない。・技術支援要員や緊急時支援要員を使用し、行動を開始させるための体系的、段階的アプローチが不適当である。
(6) 計装・制御
・重要な計装の環境面での性能検定が事故管理に関して必要である。
(7) 封じ込め機能の健全性
・レベルの高い封じ込め系の漏洩試験が必要である。
・封じ込め系の安全弁について試験が必要である。
(8) 炉内監視
・炉内の中性子束監視システムの信頼性に関して問題がある。
(9) 安全設備の改造
・安全設備の改造に関する総合的評価が欠けている。
(10)圧力容器の脆化
・圧力容器の脆化に関する評価を完了させ、その成果を慎重に分析しなければならない。
・他のVVER-440/V-230圧力容器の焼きなましの経験を考慮して、焼なましの方法論を選択しなければならない。
(11)破断前漏洩
・破断前漏洩の概念を採用するには、現在の研究プログラムを完成させるとともに、設置済みの漏洩検知システムの評価が必要である。
<関連タイトル>
チェコの国情およびエネルギー事情 (14-06-07-01)
チェコの原子力事情 (14-06-07-02)

<参考文献>
(1) International Atomic Energy Agency (IAEA): Report of the Asset mission to the Bohunice Nuclear Power Plant,1990.10.
(2) IAEA: Report of A Safety Review Mission to the Bohunice Nuclear Power Plant,1991.04
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