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<概要>
 ブルガリアは、ドナウ川河畔近くのコズロドイに旧ソ連型PWRである第一世代炉(VVER-440/V230)4基と、第三世代炉(VVER-10000/V320)2基の合計6基を、1970年から1982年にかけて建設し、1974年から1993年にかけて相次いで営業運転を開始した。1993年の総発電設備容量は376万kWになったが、旧ソ連型第一世代炉であるコズロドイ1〜4号炉は、安全・防護策が西欧諸国の基準を満たさないとされて安全性向上対策が実施された。しかし、1998年から始まったEU加盟交渉により、1、2号機を2002年12月31日に、3、4号機を2006年12月31日に運転停止することになった。2010年時点で、原子発電設備容量は200万kWとなったが、原子力発電電力量は153億kWh、全発電電力量に占める割合は32.6%となっている。
 ブルガリア政府はコズロドイ原子力発電所の閉鎖を見込み、代替エネルギー源としてベレネ原子力発電所の建設工事再開計画を、2002年5月に公表した。発電所を所有するブルガリア国営電力(NEK)は、2006年10月からロシアのアトムストロイエクスポルト社とフランス・ドイツの合弁企業フラマトム社によりベレネ原子力発電所の建設再開計画を進めていたが、建設費の高騰、共同出資者であったドイツのエネルギー会社RWEの撤退により、2012年3月に発電所建設を断念した。現在、コズロドイ5、6号機の寿命延長計画が進められている。
<更新年月>
2012年11月   

<本文>
1.コズロドイ原子力発電所(Kozloduy)
 ブルガリアは石油・天然ガス資源量が僅かで、石炭生産量も品位の低い亜炭・褐炭が中心であるなどエネルギー資源に乏しい。そのため、1960年代から原子力発電の研究開発を進めてきた。まず、1966年に旧ソ連と原子力発電所の建設に関する協力協定を締結し、1960年代後半から1970年代前半にかけて40万kW級の旧ソ連型加圧水型原子炉(VVER-440モデルV230、第一世代炉)4基の導入を首都ソフィアから北200km、ルーマニアと国境を接するドナウ川沿いに立地するコズロドイ(Kozloduy)に計画し、1号機を1974年に、2号機を1975年に、3号機を1981年に、4号機を1982年に営業運転開始した。さらに1970年代後半に西欧の原子炉と同程度の性能を持つ100万kW級旧ソ連型原子炉(VVER-1000モデルV320、第三世代炉)2基の導入を計画し、5号機を1988年から、6号機を1993年から稼動させた。コズロドイ原子力発電所の発電設備容量は376万kWとなり、バルカン半島で最大の原子力発電所として隣国ギリシャ、セルビア、マケドニア、アルバニアへ余剰電力の輸出を開始した。表1にブルガリアの原子力発電所一覧を、図1にブルガリアの原子力発電所の所在地を示す。
 一方、西欧諸国は1986年のチェルノブイリ原子力発電所事故を契機に旧ソ連型原子力発電所であるコズロドイ原子力発電所の技術的安全性に懸念を示し、ブルガリア政府は国際原子力機関(IAEA)、フランス原子力安全防護研究所(IPSN)等の調査団を受入れ、その勧告に基づき安全対策を実施した。しかし、1998年からブルガリアの欧州連合(EU)加盟交渉が始まり、行政、経済、エネルギー分野での改革が要請された結果、コズロドイ原子力発電所1、2号機は2002年12月末に、3、4号機は2006年12月末に運転を停止した。5、6号機は設備の近代化が図られ、EUの基準に相当する安全性の向上が図られることになった。
 2012年11月現在、ブルガリア唯一の原子力発電所であるコズロドイ発電所では、5、6号機(VVER-1000、旧ソ連製PWR)2基200万kW(図2)が稼働中であり、2011年の原子力発電電力量は163億kWh、全発電電力量に占める割合は32.6%になった。6基376万kWが稼働中であった2002年の発電電力量は202億kWh、全発電電力量に占める割合は47.3%。4基298万kWが稼働中であった2006年の発電電力量は195億kWh、ブルガリアの全発電電力量に占める原子力の割合は42.6%であった。図3にコズロドイ原子力発電所の各ユニットの発電電力量と全発電電力量に占める割合を示す。なお、現在運転中の5、6号機はブルガリア・エネルギー・ホールディング(BEH:Bulgarian Energy Holding)傘下のコズロドイ原子力発電所(KOZLODUY NPP PLC)が運転管理しているが、1〜4号機の管理は廃止措置会社へ移行し、早期解体する方針でプロジェクトを進めている。図4にコズロドイ原子力発電所の組織を示す。
1.1 コズロドイ原子力発電所1-6号機の安全性向上計画
 コズロドイ原子力発電所は、旧ソ連製のVVER-440加圧水型軽水炉であることから西側諸国から原子炉容器の脆化、非常用炉心冷却システムの不備、格納容器システムの耐漏洩特性など安全性を疑問視され、ブルガリア政府はIAEA、IPSNなどの調査団の勧告に基づき、欧州復興開発銀行(EBRD)の原子力安全基金、東欧援助緊急計画(PHARE)などからの融資を得て安全対策を実施した。1991〜97年まで第一世代炉(VVER-440モデルV-230)1〜4号機の安全対策が、1997年からは更なる安全対策プログラムと、第三世代炉(VVER-1000モデルV-320)5、6号機の近代化プログラムが実施された。図5にVVER-440モデルV-230の、図6にVVER-1000モデルV-320の建屋の垂直断面図を示す。
 なお、ブルガリア政府はEU加盟交渉の中で1〜4号機を2006年末までに閉鎖したが、5、6号機に関しては、シーメンス社、フラマトム社、アトムエネルゴエクスポルト社の3社による企業連合(ユーロピアン・コンソーシアム・コズロドイ)とウエスティングハウス(WH)社が主契約者となり、2,200に上る設計変更、制御室の改善、安全性の向上が図られた。現在ではEU基準並みの安全性が確保されている。5、6号機の運転寿命はそれぞれ2017年と2019年までであるが、2012年4月からロシアのロスエネルゴアトムとフランスのEdFのコンソーシアムの間で運転寿命を30年から50年へ延長するプログラムに着手している。
1.2 コズロドイ原子力発電所7号機の新規建設計画
 2010年2月、ブルガリア政府はコズロドイ原子力発電所の運転寿命延長と並行してコズロドイ7、8号機の新規建設を検討した旨を発表した。7、8号機の敷地確保は1980年代から行われていたが、コズロドイ原子力発電所は改めてスペインのイベルドローラと共同で実現性の再評価を行った。ブルガリア政府は2012年4月、コズロドイ発電所7号機の新規建設計画を、政府予算や政府融資保証を行わず、国内外の民間投資家からの資金だけで進めることを決定した。2012年8月には5、6号機の近代化プログラムを担当した東芝WHがコズドロイ7号機の実現可能性を調査することとなった。炉型はロシア製のVVER炉(ベレネ用を転用)と西欧型PWRの2案が検討されている。最終決定は2013年5月頃を予定しているが、プロジェクトの実現には設計調査等を含め少なくとも5年以上の時間を要すると見られている。
1.3 コズロドイ原子力発電所1〜4号機の廃止措置計画
 コズドロイ1〜4号機の廃止措置は、エネルギー・経済・観光省で管理していたデコミッショニング資金と、2001年6月に創設されて欧州復興銀行(EBRD)が運営管理するコズロドイ国際廃止措置ファンド(KIDSF:Kozloduy International Decommissioning Support Fund)の追加資金により行われる。コズロドイ国際廃止措置ファンドはECや他の西欧諸国の寄付によるもので、除染や原子炉解体して発生する放射性廃棄物の処分費用は総額1億7,000万ユーロ(約250億円)にのぼる。廃止措置の実施においては、地元住民の意見の他、当該プラントに関する経験・知識の散逸の可能性を考慮して2030年までの早期解体の方針が選択されている。一方、除染の必要のない機器は早々に解体・売却される。
 コズドロイ1〜4号機のライセンスは、コズロドイ原子力発電所運転会社から国営放射性廃棄物会社(SE-RAW:State Enterprise Radioactive Wastes)に移行しており、ブルガリア原子力庁(BNRA)と環境・水省(MEW:Ministry of Environment and Water)及び厚生省が規制・監督省庁となっている。2011年5月に乾式中間貯蔵施設(DSFSF)が完成し、燃料集合体のまま湿式使用済燃料プールで保管されていたVVER-440用使用済燃料(約5,300体)が搬入されている。乾式使用済燃料貯蔵施設はドイツのRWE・NUKEM Technologies社が燃料貯蔵キャスクメーカーであるGNB社と協力して建設した貯蔵施設で、BNRA及びEU、EBRDの環境基準に準拠した50年間貯蔵可能な施設である。また、プラズマ溶融技術を利用した低レベル放射性固体廃棄物の減容処理設備も稼動している。
1.4 コズロドイ原子力発電所のストレステスト結果
 2011年3月11日の福島第一原子力発電所の事故後、安全対策を最優先課題とするコズロドイ原子力発電所は、ブルガリア原子力規制庁による原子炉及び使用済燃料プール等のストレステストを実行し、EUに報告している。コズロドイ原子力発電所はIAEA、WANO、欧州閣僚会議原子力問題検討グループ等、多くの機関のレヴューを受けた経緯もあり、5、6号機の運転に関しては安全上問題がないことが確認されている。
2.ベレネ原子力発電所(BELENE)
 ブルガリアの第2サイトでの原子力発電所建設計画は1970年代初頭から始まり、1981年3月、閣僚令によりソフィアの北東約180kmのドナウ河畔にあるベレネ(Belene)が選定された。1987年には100万kW級VVER-1000(モデルV320)の建設を開始した。1990年までに1号機の建設工事進捗率は40%、装置の80%が発注されていた。しかし、社会主義政権崩壊後ブルガリア経済の不振による資金難や地元住民の反対、地震の危険性、原子炉安全に関する国際基準の遵守などの理由から、1990年2月に建設中止の政府決定を行った。
 ブルガリア政府は2002年12月、閉鎖した原子炉の代替電源としてベレネ原子力発電所建設再開の方針を示した。技術、経済、金融の面からの再調査と環境調査が行われ、2005年4月にベレネ原子力発電所の建設再開を正式に決定した。2006年10月、ベレネ原子力発電所を所有する国営電力会社(NEK)はロシアのロスアトム(Rosatom)傘下のアトムストロイエクスポルト社(ASE)とフランスとドイツの合弁企業フラマトム社によりベレネ原子力発電所の建設再開計画が39億9,700万ユーロ(約5,000億円)で落札されたと発表した。ブルガリア原子力規制庁(NRA)は2006年12月にベレネのサイト承認を行い、2007年5月には、NEKはドイツのエネルギー会社RWE(ライン・ヴェストファーレン電力会社)とベレネ電力(BPC)を設立した(出資比率NEK51%:RWE49%)。2007年12月には欧州委員会(EC)からユーラトム条約に合致していることが保証され、ユーラトム貸付要件の1つを満たした。
 総出力200万kW、VVER-1000(モデルV-466)2基の建設を再開するプロジェクトが2008年1月にASE社と正式に締結された(営業運転開始:1号機は2013年、2号機は2014年)。VVER-1000(モデルV-466)は第3世代原子炉と位置づけられるVVER AES-92(4ループ一次冷却系システム、ECCS、格納容器、受動的熱除去システムを装備)をベースにした安全システム改良型で、設計寿命は60年である。図7に完成予想図を示す。建設再開決定後、ASE主導の下でフランスのアレバNP(I&Cシステム)、ロシアのOMZ Izhorskiye・Zavody(原子炉圧力容器)への発注が決まったが、施設インフラ事業の段階にとどまり、完成時期が1年延長された。
 2009年7月に中道右派政権が誕生すると、当初予算を大幅に上回る発電所建設費の見直しが進められたほか、2009年11月にRWEが撤退を表明し、資金難に陥った。ロシア側は早期事業再開を目指して資金調達手段を提案したが、ASEとブルガリア政府の関係が悪化。さらに2011年3月の福島第一発電所の事故の影響を受け、発電所建設は具体的な進捗が見出せないまま、政府は2012年3月に建設中止の決定を行った。
 ベレネ発電所建設予定地を利用して、サウス・ストリーム(ロシアから西欧州へ供給される天然ガスパイプライン)からのガス発電所建設などが議論されている。
(前回更新:2006年2月)
<図/表>
表1 ブルガリアの原子力発電所一覧
表1  ブルガリアの原子力発電所一覧
図1 ブルガリアの原子力発電所の所在地
図1  ブルガリアの原子力発電所の所在地
図2 コズロドイ原子力発電所(5号機及び6号機)の全景
図2  コズロドイ原子力発電所(5号機及び6号機)の全景
図3 コズロドイ原子力発電所における発電電力量と全発電電力量に占める割合
図3  コズロドイ原子力発電所における発電電力量と全発電電力量に占める割合
図4 コズロドイ原子力発電所の組織図
図4  コズロドイ原子力発電所の組織図
図5 VVER-440(モデル230)の原子力プラント建屋の垂直断面図
図5  VVER-440(モデル230)の原子力プラント建屋の垂直断面図
図6 VVER-1000(モデル320)の原子力プラント建屋の垂直断面図
図6  VVER-1000(モデル320)の原子力プラント建屋の垂直断面図
図7 ベレネ原子力発電所完成予想図
図7  ベレネ原子力発電所完成予想図

<関連タイトル>
ロシア型加圧水型原子炉(VVER) (02-01-01-03)
旧ソ連型VVER-440/V-230に対するIAEA安全評価 (14-06-01-12)
旧ソ連型原子炉に対するWANOの見解 (14-06-01-13)
コズロドイ原子力発電所(ブルガリア)のIAEAによる安全調査 (14-06-06-09)
ブルガリアの国情およびエネルギー、電力事情 (14-06-06-01)
ブルガリアの原子力政策および計画 (14-06-06-02)
ブルガリアの原子力開発体制 (14-06-06-04)
ブルガリアの原子力安全規制体制 (14-06-06-05)

<参考文献>
(1)(一社)日本原子力産業協会:世界の原子力発電開発の動向2012年版(2012年5月)、p.84、p.102-103
(2)(社)日本原子力産業協会:原子力年鑑、2012年版(2011年10月)、ブルガリア
(3)(社)海外電力調査会:海外諸国の電気事業、第2編、2010年(2010年3月)、p.122-133
(4)(財)原子力安全研究協会(編):旧ソ連、中・東欧諸国原子力ハンドブック(1999年3月)、p.215-233
(5)世界原子力協会(WNA):Nuclear share figures, 2001-2011、
http://www.world-nuclear.org/info/nshare.html
(6)世界原子力協会(WNA):Nuclear Power of Bulgaria、
http://www.world-nuclear.org/info/inf87.html
(7)Worley Parsons Nuclear Services Ltd.:FINAL REPORT ON THE ADDITIONAL SAFETY ASSESSMENT "STRESS TSTS" FOR BELENE NPP(2011年10月)
(8)コズドロイ原子力発電所(Kozloduy NPP PLC):年報、
Annual Report 2011 (http://www.kznpp.org/uf//anual_reports/en/KozloduyNPP_AR_2011_eng.pdf)
Annual Report 2010
Annual Report 2006 (http://www.kznpp.org/uf//anual_reports/en/ar_2006_eng.pdf)
Annual Report 2002 (http://www.kznpp.org/uf//anual_reports/en/ar_02_eng.pdf)
REPORT JANUARY-JUNE 2011 (http://www.kznpp.org/uf//anual_reports/en/KozloduyNPP_Report2011_eng.pdf)
(9)国際原子力安全(INS):VVER-440 Model 230 Plant Layout
(http://insp.pnnl.gov/inspmedia/vver230.gif) 及びVVER-1000 Plant Layout
(http://insp.pnnl.gov/inspmedia/vver1000.gif)
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