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<概要>
 旧ソ連は米国に対抗して、1940年代初期から国家の威信をかけて核兵器を開発するため、原子力関連技術者や囚人達を総動員し、非常な勢いで10の秘密都市を含む多くの核開発関連施設を建設した。1945年に第二次世界大戦が終了すると、米国、ソ連邦は互いに競い合って、核開発のためプルトニウム生産炉やプルトニウム抽出用の放射化学工場(再処理工場)、高濃縮ウラン工場を建設し、また原子力潜水艦を建造した。これらの施設および技術が、ソ連の商業用原子炉であるRBMK型原子炉やVVER型原子炉に生かされ、現在のロシアの商業用原子力発電となった。ここではロシアの原子力産業を支える運転中の原子力発電所(10か所、2224.2万kW)、原子力発電機器メーカー(10企業)および核燃料サイクル施設(13施設)に関わる所在地と地図および製品項目と設備概要をまとめた。
 ロシアで1980年代に運転を開始した原子力発電所も、運転寿命を30年とすると2010年頃から急速に退役する。このため新規原子力発電所の建設が急務であるが、原子炉メーカーの工場の老朽化、また熟練工の不足のため、新規原子力発電所の建設には重電機器メーカーの設備の更新、熟練工の育成、外国資本との提携、また原子力発電所の寿命延長など多くの問題を解決する必要がある。
<更新年月>
2008年12月   

<本文>
 旧ソ連は米国に対抗して、1940年代初期から国家の威信をかけて核兵器を開発するため、原子力関連技術者や囚人達を総動員し、非常な勢いで10の秘密都市を含む多くの核開発関連施設を建設した。1945年に第二次世界大戦が終了すると、米国、ソ連邦は互いに競い合って、核開発のためプルトニウム生産炉やプルトニウム抽出用の放射化学工場(再処理工場)、高濃縮ウラン工場を建設し、また原子力潜水艦を建造した。これらの施設および技術が、ソ連の商業用原子炉であるRBMK型原子炉やVVER型原子炉に生かされ、またプルトニウムや高濃縮ウランをつくった施設は、商業用の核燃料サイクル施設として平和目的に利用され、現在のロシアの商業用原子力発電となったのである。
ページ数の関係で、ここではロシアの原子力産業を支える運転中の原子力発電所(10か所、2224.2万kW)、原子力発電機器メーカー(10企業)および核燃料サイクル施設(13施設)に関わる所在地と地図および製品項目と設備概要をまとめた。
1.ロスエネルゴアトム(FSUE Rosenergoatom)所属のロシアの原子力発電所
 注:FSUEはFederal State Unitary Enterpriseの略号(参考文献1、2、3)
 旧ロスエネルゴアトムは1992年に設立され、2001年9月8日、ロシア政府の法令により、ロスエネルゴアトムは、運転中および建設中の原子力発電所による発電および熱エネルギーを発生する発電会社として、運転および科学的・技術的支援を実施することになった。ロスエネルゴアトムは、10か所にある原子力発電所を所有している。総発電設備容量は2224.2万kW(ロシア側発表の数値)である。図1にロスエネルゴアトムに所属する原子力発電所の立地図を、表1−1表1−2および表1−3に運転中、建設中、計画中および閉鎖された原子力発電所の炉型、発注、着工、臨界、営業運転開始に関するデータを、表2に原子力発電所の所在地を、図2−1および図2−2に原子力発電所の写真を示した。
2.ロシアにおける原子力機器製造メーカー(研究所を含む)
 ロシアの原子力機器製造メーカーの所在地図を図3に、各企業の概要を表3に、製品の写真を図4に示した。
2.1 ドレジャーリ動力工学開発研究所(露語:NIKIET、英語:RDIPE)(参考文献2、8)
 1946年に設立され、ソ連最初の原子炉F−1(黒鉛減速天然ウラン空気冷却炉)を設計した。この研究所は1952年から動力炉の設計・建設を担当し、ソ連最初の動力炉であるオブニンスク原子力発電所、トムスク−7に建設したソ連最初の発電および熱供給を行った二重目的炉のトムスク−2号炉、またベロヤルスク1、2号炉、レニングラード1、2号炉(RBMK−1000)、リトアニアのイグナリナ1、2号炉(RBMK−1500)を設計・建設した。また、旧共産圏諸国にある各種研究用原子炉の設計・建設を行った。
2.2 ギドロプレス(FSUE Gidropress (Hydropress) Design Office)(参考文献2、8)
 1946年に設立された。理論実験物理研究所(ITEP)の重水炉、オブニンスク原子力発電所の蒸気発生器、クラスノヤルスク−26およびトムスク−7のプルトニウム生産炉、デミトロフグラードにある原子炉研究所に建設した旧ソ連唯一の沸騰水型原子炉(VK−50)、VVER−440(40万kW級)、VVER−1000(100万kW級)、およびRBMK−1000(100万kW級)の蒸気発生器を製造した。
2.3 OKBM(FSUE Afrikantov Mechanical Engineering Design Office、
 ロシア語略称:OKBM(参考文献2、8)
 プルトニウム生産炉とウラン濃縮用ガス拡散プラント設計のため政府により1947年に設立され、原子力砕氷船や原子力潜水艦の蒸気発生器を製造した。レーニン号を含む8隻の原子力砕氷船と貨物船セブモルプーチ号は、ここで設計した蒸気発生器を搭載している。
2.4 シロヴェイ・マシーヌィ(Power Machines Group)(参考文献6)
 2000年末に設立された。発電設備、変圧設備、配電設備のロシア最大のメーカーで、傘下の企業には、レニングラード金属工場(LMZ)、エレクトロシーラタービン翼工場(ZTL)、カルーガタービン工場(KTZ)、エネルゴマシエクスポルトがある。
2.5 (株)アトムマシ(JSC Energomash−Atommash)(参考文献2)
 原子力発電所の機器を製造するため1976年に設立されたソ連最大の原子力企業である。
2.6 (株)”アトムスペクツコンストラクチヤ・パイロット工場(参考文献2)
 原子力で使用するパイプやチューブを生産している。
2.7 (株)コンツール(JSC KONTUR)(参考文献2)
 原子力発電所で使用する複雑なパイプを製造している。
2.8 (株)ノヴァヤ・シーラ(JSC NOVAYA SILA)(参考文献2)
 原子力発電所のタービン発電機および電力モーターを製造しており、また放射性物質を含む機器の運転も実施している。
2.9 (株)シグナルツール製造工場(JSC SIGNAL Tool−Making Plant)(参考文献2)
 原子炉の制御・保護系設備、原子炉の中性子計測装置、燃料要素被覆管破損検出装置、モニタリングおよび放射線安全測定装置、冷却制御装置、出力密度制御装置、放射性同位元素の薬品、生物学、農業等への応用設備を製造している。
2.10 モスクワ・ポリメタル・アーティクル工場(参考文献2)
 原子炉の各種制御棒、保護装置および酸性液体用ポンプを製造している。
3.ロシアの核燃料サイクル関係
 ロシアの核燃料サイクル関係の事業は、ほとんど旧ソ連から引き継いだものである。ロシアの核燃料サイクル関係施設の所在地図を図5に示した。また各施設の概要を表4に、設備や製品の写真を図6に示した。
3.1 (株)燃料(JSC TVEL)(参考文献2)
 TVELは、資本金全額国有の会社で、核燃料サイクル関係企業全体を所有し統括している(注:日本流に表現すれば本社に相当する)。TVELは、天然ウランの抽出、核燃料を構成する各種部品の加工、核燃料集合体の製造で、ロシア国内および外国の研究用炉および輸送用原子炉を販売している。また核燃料に関する開発と核燃料の製造を行っている。
3.2 ”OECD−NEA/IAEA Uranium 2005”によるロシアのウラン鉱山(参考文献7)
 2004年までに累計で12万トンウランを生産した。(株)プリアルグン鉱業化学生産会社はロシアでの主要なウラン生産者で、この企業のウラン鉱山(露天堀)は東シベリア地域のチタ州に位置し、人口約6万人のクラスノカメンスク町から10〜20kmの位置にある。
3.3 ウラン精鉱の六フッ化ウランへの転換およびウラン濃縮(参考文献2、8)
 ウラン精鉱を六フッ化ウランに転換する転換プラントは、ウラル電気化学コンビナートおよびイルクーツク近くのアンガルスクにある電解化学コンビナートにあり、現在も操業している。
3.3−1 ウラル電気化学コンビナート(旧スヴェルドロフスク−44)(転換と濃縮)(参考文献2、8)
 このコンビナートは1949年に濃縮ウランの生産を開始した。1957年に最初のデモンストレーション用ガス遠心分離工場が操業を開始し、1959年に最初の工業規模のガス遠心分離工場が運転を開始した。この工場は、再処理回収ウランの再濃縮は行っていない。
 旧ソ連は、濃縮ウラン生産するためガス拡散法とガス遠心分離法(小型遠心分離器を採用)を同時に開発し、実験規模のガス遠心分離モデルの運転を1952年に、量産用プラントの操業を1959年に開始した。ガス遠心分離法は、ガス拡散法に比べて電力消費がおよそ1/10であるという利点から、ロシアでは1992年までにガス拡散法からガス遠心分離法への切替を完了した。
3.3−2 電気化学工場(旧クラスノヤルスク−45)(濃縮)(参考文献2、8)
 ガス拡散プラントは1962年に操業を開始し、その後ガス遠心分離工場を建設したので、ガス拡散工場は1990年に操業を停止した。この工場は、ロシアの濃縮設備容量の約30%を占めており、VVER−1000の燃料集合体を成型加工するノボシビルスク化学コンセントレートに濃縮ウランを納入している。また、濃縮工場で発生する劣化ウランの再濃縮も行っている。この濃縮工場は、当初は高濃縮ウランを生産していたが、国際協定により1987年に高濃縮ウランの生産を停止した。それ以降は、原子炉用の濃縮度5%以下の低濃縮ウランを生産している。また核兵器から取り出した高濃縮ウランの濃度を薄めている。
3.3−3 シベリア化学コンビナート(旧トムスク−7)(転換と濃縮)(参考文2、8)
 アメリカの核兵器に対抗するため、ここに建設した5基の軍事用プルトニウム生産炉は、1958〜1963年に運転を開始し、プルトニウムの生産とトムスク市へ電気と蒸気を供給した。プルトニウムを抽出する放射化学工場(再処理工場)も1958年頃から操業を開始した。この工場はプルトニウム生産炉の燃料しか再処理できない。5基のプルトニウム生産炉のうち3基は、米ロの協定により1990〜1992年にかけて運転を停止した。残りの2基は、コンビナートとトムスク市に電気と蒸気を供給しているため2005年2月現在も運転している。このコンビナートには転換工場と濃縮工場があり、ウラン精鉱を転換工場で天然六フッ化ウランに転換し、隣接した濃縮工場で濃縮ウランを生産している。なお、この転換工場は、1998年に閉鎖された。この濃縮工場は動力炉用燃料の濃縮ウランも生産できる。このコンビナートは、1992年から民需転換を図っている。また濃縮工場は、フランスの再処理回収ウランの再濃縮を受注している。
3.3−4 アンガルスク電解化学コンビナート(転換と濃縮)(参考文献2、8)
 このコンビナートは1954年に設立した。ここでは、ウラン精鉱の六フッ化ウランへの転換プラントと、濃縮プラントがあり、計測装置を製造する工場もある。
3.4 燃料の成型加工
3.4−1 (株)チェペック機械工場(参考文献2、8)
 燃料集合体に使用するジルコニウム被覆管および減損ウランを使用した生体遮蔽を製造している。
3.4−2 (株)メカニカル・エンジニアリング工場(参考文献2、8)
 VVER−440(ソ連型加圧水炉)、RBMK−1000(黒鉛減速チャンネル型炉)、BN−600(高速炉)舶用炉の燃料集合体および研究用原子炉の燃料を製造している。
3.4−3 (株)ノヴォシビルスク化学コンセントレート工場(参考文献2、8)
 VVER−1000(ソ連型加圧水型炉)の燃料を製造している。燃料集合体を構成する燃料棒に挿入する燃料ペレットは、カザフスタン東部のウスチカメノゴルスクに位置するウルビンスク冶金工場から供給されている。また、研究用原子炉の燃料も製造している。
3.4−4 生産合同マヤーク(旧チェリャビンスク−65)(参考文献2、8)
 ペレット方式の小規模生産施設PAKETで、MOX燃料(混合酸化物燃料)を製造している。
3.5 使用済燃料の貯蔵および再処理
3.5−1 生産合同マヤーク(旧チェリャビンスク−65に改称)(参考文献2、8)
 マヤークに建設したプルトニウム生産炉5基の使用済燃料からプルトニウムを抽出する放射化学工場(再処理工場)は、1948年から操業を開始した。この放射化学工場は、その後VVER−440、高速炉、舶用炉および研究炉の使用済燃料を再処理できるように改造され、商業用再処理工場RT−1として1977年から操業を開始した。
3.5−2 鉱業化学コンビナートに建設中のRT−2再処理工場と使用済燃料受入貯蔵施設(参考文献2、8)
 VVER−1000の使用済燃料を再処理するため、1984年に年間再処理量1,000〜1,500トンウランの商業用再処理工場RT−2を着工したが、資金難などのために建設を中断し、1955年1月に出された大統領令により建設再開を認められたが、資金難で完成していない。
3.5−3 シベリア化学コンビナート(旧トムスク−7)(Puの抽出)(参考文献2、8)
 プルトニウムを抽出する放射化学工場は1958年から操業を開始した。この放射化学工場は、プルトニウム生産炉の燃料しか再処理できない。
3.5−4 鉱業化学コンビナート(旧クラスノヤルスク−26)(Puの再処理)(参考文献2、8)
 スターリンは、アメリカの核兵器に対抗するため、核兵器を生産するため核兵器を生産する施設を建設するよう命じ、山中に巨大な空洞を掘り、この中に軍事用プルトニウム生産炉3基とプルトニウムを抽出する放射化学工場(再処理工場)を建設し、放射化学工場は1958年に操業を開始した。プルトニウム生産炉3基のうち2基は、米ロの協定により1992年に運転を停止した。
4.ロシアの国産重電機メーカーの現状
 ロシアの一般電力分野における重電機メーカーの現状と問題点を表5に示した。
<図/表>
表1−1 ロシアの原子力発電所一覧(1/3)
表1−1  ロシアの原子力発電所一覧(1/3)
表1−2 ロシアの原子力発電所一覧(2/3)
表1−2  ロシアの原子力発電所一覧(2/3)
表1−3 ロシアの原子力発電所一覧(3/3)
表1−3  ロシアの原子力発電所一覧(3/3)
表2 ロシアの原子力発電所の所在地
表2  ロシアの原子力発電所の所在地
表3 ロシアの原子力機器製造メーカーの所在地と概要および説明図の番号
表3  ロシアの原子力機器製造メーカーの所在地と概要および説明図の番号
表4 ロシアの核燃料関係企業の所在地と概要および説明図の番号
表4  ロシアの核燃料関係企業の所在地と概要および説明図の番号
表5 ロシアの国産重電機メーカーの現状と問題点
表5  ロシアの国産重電機メーカーの現状と問題点
図1 ロシアの原子力発電所所在地図
図1  ロシアの原子力発電所所在地図
図2−1 ロシアの原子力発電所(1/2)
図2−1  ロシアの原子力発電所(1/2)
図2−2 ロシアの原子力発電所(2/2)
図2−2  ロシアの原子力発電所(2/2)
図3 ロシアの主要な原子力産業および施設の所在地図
図3  ロシアの主要な原子力産業および施設の所在地図
図4 ロシアの重電機器企業が製造する機器
図4  ロシアの重電機器企業が製造する機器
図5 ロシアの核燃料サイクル施設の所在地図
図5  ロシアの核燃料サイクル施設の所在地図
図6 ロシアの核燃料関係施設
図6  ロシアの核燃料関係施設

<関連タイトル>
ロシアにおける原子力船の開発 (07-04-05-02)
ロシアの原子力政策 (14-06-01-01)
ロシアの原子力発電開発 (14-06-01-02)
ロシアの原子力開発体制 (14-06-01-03)
ロシアの原子力安全規制体制 (14-06-01-04)
ロシアの核燃料サイクル (14-06-01-05)
ロシアのPA動向 (14-06-01-07)
ロシア連邦による隣接海への放射性廃棄物の海洋投棄 (14-06-01-16)
旧ソ連の原子力研究施設 (14-06-01-19)
旧ソ連秘密都市の原子力施設 (14-06-01-20)

<参考文献>
(1)日本原子力産業協会(編集発行):世界の原子力発電開発の動向2006年次報告、(2007年4月2日)、p.76−125
(2)NUCLEAR BUSINESS DIRECTORY Guide to the Russian Nuclear Industry NBD 2004: International Business Relations corporation、(2004年)p.114,119,129,140,168,169,171,173,174,175,179,182,185,188,189,197,203,206,221,237?244
(3)50 years ROSENERGOATOM(2004年)p.4,7,8,9,42,50,58,62,68,72,115
(4)MINATOM:MINISTRY FOR ATOMIC ENERGY OF THE RUSSIAN FEDERATION(1992年)p.26,28,29,31,33
(5)MINATOM:MINISTRY FOR ATOMIC ENERGY OF THE RUSSIAN FEDERATION(2000年)p.25,27,28,29
(6)ロシア渡欧貿易会:シロヴィエ・マシーヌィ(Power Machines Group)、2004年1月号、p.58−61
(7)OECD−NEA/IAEA Uranium 2005、p.195
(8)藤井 晴雄:「ソ連・ロシアの原子力開発:1930年代から現在まで」、東洋書店、(2001年3月)p.29−37
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