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<概要>
 ロシアにおける大規模な世論調査は1989年から開始された。そこで1990年代初期に実施された原子力発電に関する世論調査結果、原子力の発展に関する世論調査およびロシア原子力省所属の広報センターの主要課題について述べる。また、および発電・熱供給会社である「ロスエネルゴアトム」の広報活動を紹介する。
<更新年月>
2003年01月   

<本文>
1.世論調査−PA(公衆の受容性)活動の重要な要素
 原子力発電、軍需産業の軍民転換、演習場や潜水艦隊等の軍事施設、原子力関連研究センターの活動およびその他の原子力利用関連の問題に関するロシアの各階層の意見に関する調査は、ロシア国内各地域にある地域広報センターの世論モニタリング部が、センターを訪問する人々を対象とするアンケート調査という形で実施している。
 ロシアにおける大規模な世論調査は1989年以降に開始された。
 第1回全ロシア世論調査は1992年に実施され、その結果は次の通りであった。
・31%:既設の原子力発電所の存続に賛意を示した。
・26%:原子力発電の発展に賛意を示した。
・10%:原子力発電の利用に反対であった。
・33%:明確な態度を示さなかった。
 第2回全ロシア世論調査は、ロシアの13地域に住む2,029人を対象として1993年に実施された。現在、「最も懸念する問題は何か」というやや広い設問(幾つかの選択肢の中から選ぶ。複数の選択可能)に対し、原子力利用問題と回答した人は、1992年同様、最も少なかった。しかもその割合は、半分近くに減少した(1992年に9%だったのが、1993年には5%になった)。1992年同様、多くの人が最も懸念する問題は犯罪の増大で、67%が懸念していると答えた。以下、経済的困窮66%、政情不安42%、国際紛争35%であった。
 原子力発電の発展に関する意見は、次のように分かれた。
・35%:新しい原子力発電所は建設せず、既設の原子力発電所の安全性を維持すべきである。
・29%:新しい原子力発電所の建設を支持する。
・12%:ロシアにある既設の原子力発電所はすべて閉鎖すべきである。
・24%:明確な態度を示さなかった。
 1992年と1993年の調査結果を比較すると、既設の原子力発電設備を維持すべきであるとする割合が1992年の31%から1993年には35%と4%(ポイント)増え、原子力発電を支持する割合が26%から29%と3%(ポイント)増えた。しかし原子力発電所に反対の立場を示す割合も、10%から12%と2%(ポイント)増えた。逆に、明確な態度を示さなかった数は33%から24%と9%(ポイント)も減少した。
 米国およびフランスの評価方式に従えば、1993年時点での原子力発電支持者は64%(35+29)で、1992年の57%(31+26)より7%(ポイント)多かった。反対派の主要な論拠は、国内の原子力発電所で大事故が発生する可能性があるというもので36%を占めた。ただ、原子力発電は、他の電源と比較して住民の健康に及ぼす影響が大きいことを諭拠とする反対派の数は、1992年の18%から1993年には11%に減少した。
 最新の社会調査データによると、ロシア国民の60−65%が既設の原子力発電所の存続および新しい原子力発電所の建設に賛意を示しており、原子力発電は、従来通り住民に不安を与える焦眉の問題の中には入っていない。
 世論動向は、マスコミの報道分析(肯定的報道と否定的報道の数の比較)、社会活動家および政治活動家の公的発言の分析、およびセミナーや円卓会議の参加者を対象とするアンケート調査を通して追跡されている。
2.ロシアにおける原子力発電の今後の発展に関する世論
 ロシアの原子力分野におけるPA活動システムの構築は、原子力発電の発展を考える上で必要である。ロシアの原子力発電分野は、1986年に起きたチェルノブイル発電所事故により大きなダメージを受け、ソ連解体による政治的危機からも、比較的軽度ではあるがダメージを受けた。また、ロシアの原子力発電分野は、2002年現在も経済的に困難である。
 経済的問題が大きな課題となり、環境問題が一時的に人々の意識から薄れた状況の中で、原子力発電に好意的な世論が形成され、反原子力の気運を積極的に支持する中央紙や政治家は少なくなった。ロシアにおける原子力発電発展の展望は、短期的には、完全に経済的要因で決定されることになろう。また、短期的に反原子力の気運が高まるとは考え難い。しかし、同時に、現在顕著となっている世論の環境問題に対する無関心さが、今後も長く続くとも考え難い。ロシアが経済危機から脱却するのと同時に、環境問題に対する関心が再び高まるのは確実である。つまり、今後、原子力発電およびその他の新しい複雑な技術が、世論の批判と不信の波に遭遇することは必至である。
 1990年代初期から1998年までの間に実施してきたPA活動は、反原子力の気運を沈静化するのに大きく貢献してきた。すなわち原子力発電所の建設がかなり進捗しており、運転させるための好条件が構築されたといえる。1998年現在、総電気出力300万kWe分の発電設備を建設中である(ロシアにおける原子力発電所の所在地図を 図1 に示す)。資金難で建設を中断していたカリーニン原子力発電所3号機は建設を再開し、2003年に営業運転を開始する予定である。なお、当初予定は1998年に運転開始を開始することになっていた。
 ロシアは、エネルギー消費に占める天然ガスの割合が非常に高く、またエネルギーの安全性問題が専門家の間だけで議論されている( 図2 に1998年現在の電源別発電電力量の割合を示す)。また、多くの地域でエネルギー源の多様化が検討されているが、その背景には、やはり経済問題がある。
 例えば、極東地域、極北地域、コラ半島、およびロシア中央部の自治体は、原子力発電の発展を真剣に検討している。しかし、長引く生産部門の不振でその実現は遅れている。
 1997年10月、まずコンツェルン「ロスエネルゴアトム」で、またその後、カリーニン原子力発電所で実施した広報部職員の定例会議では、ロシア南部のロストフ原子力発電所(現在ボルゴドンスクに改称)の状況に大きな関心が寄せられた。ロストフでは、ロシア原子力省および関連の広報部による積極的な活動の結果、ロストフ原子力発電所の建設に対する世論およびロストフ州政府幹部の否定的意見を克服することに成功した。さらに1997年12月、連邦下院の工業・輸送・電力委員会において、「ロストフ原子力発電所の建設の完成問題」というテーマで円卓会議が実施された。
 円卓会議の参加者たちは、ロシア政府によるロストフ原子力発電所の建設終了に関する決定の採択プロセスを終息させなければならないとの見解を示した。原子力発電所の建設に反対の立場をとる人々が提起した問題の多くは、すでに解決済みか、あるいは、原子力発電所の完成によって解決される。現行の法律に従って、2000年までに地域の電力需要を完全に充足させるためには、ロストフ原子力発電所の2基を稼働させるだけで充分である。なお、建設中止時点における1号機は95%完成しており、2号機は47%完成していた。ロストフ原子力発電所の完成が、地域の電力供給不足を解消する唯一の方法である。また、この2基を稼働させることにより、老朽化し、環境的に問題の多いロストフエネルゴの火力発電所およびノヴォチェルカスク火力発電所を閉鎖することが可能となる。さらに、工業、農業および住民の電力料金を大幅に値下げすることが可能となり、結果として、ドン河流域地域の経済復興につながる。
 ロシア政府は、1995年、設計を一部変更して安全性を向上させ、ロストフ原子力発電所1、2号機の建設再開を決定したが、資金難から進捗率の高い1号機に資金を集中して建設を進め、1号機が2001年12月25日に正式に営業運転を開始した。また、2号機は2000年11月、3〜4号機は2001年11月に建設再開の方針を固めた。なお、発電所名は、住民の要請によりロストフからボルゴドンスクに改められた。
3.広報センターの主要課題
 1998年時点における広報センターの課題は次の通りであった。
1) ロシアの原子力発電分野では、稼働中の原子力発電所の安全性を向上させており、新規発電設備計画は完全なものであることを、一般の人々に認識してもらう。
2) 電力供給の安定化のために、電源の多様化は避けられぬプロセスである。また環境問題を緩和させるためには、化石燃科への依存度を低下させ、原子力発電の発展は不可避であるという認識を定着させる。
3) 情報隠匿という習慣が復活するのを阻止し、正確な「原子力関連ニュース」を、真っ先に住民に知らせるための広報活動システムを有効に利用する。
4) 原子力技術を長期的に発展させるための法的基盤を保障する法律を採択するため、下院議会に対する「原子力教育」を強化することが必要である。
5) 広報センターの設備を強化する。例えば、ケーブル・テレビを設置し、カラー印刷を駆使した新しい広報紙を発行している。
6) インターネットのような先進技術を積極的に利用する必要がある。各原子力発電所および原子力省傘下の各企業が、インターネットにホームぺージを持つことにより、原子力分野の開放性をアピールすることができると予測した。ホームぺージに、軽微なトラブルを含む各種トラブルに関する新鮮な情報を適時掲載することにより、それらのトラブルに関するデマや意図的記事の発表を防ぐことが可能となるだろう。
 広報センターには、対世論の他にもうひとつ重要な課題がある。それは、中央および地方行政機関および立法機関に関する課題がある。
 現時点で最も重要な課題は、原子力の専門家と、世論に影響を及ぼすあらゆるオピニオンリーダー(具体的には、ジャーナリスト、議員、地方のエリート、社会団体の代表等)との間で、ここ数年間の間に構築された関係を維持することである。
 広報センターは、原子力分野から需要者にいたるまでの情報の流れを完全に把握する必要がある。最初に情報を流した者の話が最も重視されるというのがマスコミ界の常識である。これは、いかなる情報であれ、原子力の専門家を発信源とすべきであるということを意味する。そのためには、原子力発電に関する高度かつ平易で客観的な情報を常に大量に掌握しておく必要がある。
 原子力発電に対する肯定的世論を形成するためには、新規原子力発電所の建設および既設原子力発電所の設備増強に関する各地域の関心を高めるたことが必要である。
4.発電および熱供給会社である「ロスエネルゴアトム」の広報活動
 ロスエネルゴアトムに属する各原子力発電所、すなわちバラコボ、ベロヤススク、ビリビノ、カリーニン、コラ、クールスク、レニングラード、ノボボロネジ、スモレンスクおよびボルゴドンスクの各原子力発電所には広報センター(PRセンター)がある。これらの広報センターは、30km圏内の市町村に原子力発電所の運転状況を知らせ、また教師や高等学校、技術学校および研究所の訓練生に原子力発電所に来てもらい、原子力発電所で一緒に働き、業務の実態を理解してもらっている。
 ロスエネルゴアトムのプレスセンターでは、エネルギー全体の中で占める原子力産業の役割を一般公衆にお知らせするため、定期的にプレス会議、中央のマスメディアの印刷物、テレビおよびラジオを利用して広報活動を実施している。またプレスレリーズは、「ロスエネルゴアトムの活動」を頻繁に掲載しており、またインターネット<http://www.rosatom.ru>でロスエネルゴアトムの最新の情報を提供している。
<図/表>
図1 ロシアにおける原子力発電所の所在地図
図1  ロシアにおける原子力発電所の所在地図
図2 ロシアにおける電源別発電電力量の割合
図2  ロシアにおける電源別発電電力量の割合

<関連タイトル>
ロシアの原子力政策 (14-06-01-01)
ロシアの原子力発電開発 (14-06-01-02)
ロシアの原子力安全規制体制 (14-06-01-04)
ロシアの核燃料サイクル (14-06-01-05)
ソ連のグラスノスチと原子力PA問題 (14-06-01-09)

<参考文献>
(1)海外電力調査会(編):ロシアのPA活動:原子力広報センターの活動、海外電力 1998/5(1998年5月)、p.52
(2)海外電力調査会(編):パラゴヴォ原子力発電所 広報センターの活動、海外電力 1998/6(1998年6月)、p.34
(3)日本原子力産業会議(編):原産マンスリ−No.24、p.4?5(1997.10)
(4)日本原子力産業会議(編):世界の原子力発電開発の動向−2001年次報告(2002年5月)、p.63、88、114?117
(5)電気事業連合会(編):原子力図面集−2002年版(インターネット版)、p.50
(6)ロスエネルゴアトム(ROSENERGOATOM):Public Relations and Communications with State Authorities
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