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<概要>
 オランダでは国内で唯一の原子力発電所であるボルセラ(Borssele:PWR、グロス電気出力51.5万kW)が総発電電力量の約3%を供給している。1994年の総選挙で、原子力を推進してきたキリスト教民主勢力政権が倒れ、労働党をはじめとする現3党連立が発足して以来、原子力を取り巻く政治的状況は厳しかったが、その後の経済情勢とボルセラを所有するEPZ社の保守改善作業により、政府は2006年、寿命を60年に延長して2033年までの運転継続を公式に発表した。
 発電所で発生した低中レベル放射性廃棄物は放射性廃棄物中央機構(COVRA)により、ボルセラ原子力発電所近くの集中中間貯蔵施設で管理される。使用済燃料はフランス核燃料公社(COGEMA、現Areva NC)と英国核燃料会社(BNFL)で再処理し、返還された廃棄物は集中中間貯蔵施設のHABOGでCOVRAの管理のもと100年間貯蔵される。
<更新年月>
2014年12月   

<本文>
1.原子力発電所の概要
 オランダには1969年3月に営業運転を開始したドーデバルト原子力発電所(DODEWAARD:BWR、6万kW)と、1973年10月に営業運転を開始したボラセラ原子力発電所(BORSSELE:PWR、51.5万kW)がある(表1参照)。政府は1986年のチェルノブイリ原子力発電所の事故(以下、チェルノブイリ事故)をきっかけに原子力推進政策を見直し、1995年には新規発電所の建設は行わないとした。以降、新規発電所の建設はない。1997年3月、電力自由化を前に経済性に劣るドーデバルト原子力発電所を閉鎖し、現在、ボラセラ原子力発電所1基のみが稼動中である。
 オランダにおける2011年の全発電設備容量は、約2,791万kWで、構成比率は水力0.13%、火力83.8%、原子力1.7%、再生可能エネルギー14.4%である(表2参照)。また、2013年の全発電電力量は986億kWhで、そのうち原子力による発電は2.8%、27.4億kWhであった。オランダの火力発電の75%は北海から産出される豊富な天然ガスを利用したガス火力で、残り25%は輸入炭を利用した石炭火力発電である(図1参照)。また、クリーン・エネルギーの開発のうち、再生可能エネルギーに関しては風力及びバイオマスの開発が主流となっている。
 現在、オランダで唯一運転中のボラセラ原子力発電所は順調に運転を続け、2013年の設備利用率は64.67%であった。2014年6月から、MOX燃料を装荷し、プルサーマール発電を開始している。2014年5月28日から約1カ月の定期検査に入ったボラセラ原子力発電所は、定検期間中に全炉心の燃料集合体121体中24体を交換し、そのうち8体はMOX燃料を装荷した。MOX燃料は最大48体装荷可能であり、今後の燃料交換時にも12体程度のMOX燃料を装荷していく予定である。ボルセラへのMOX燃料装荷について環境影響評価に関する許認可手続は2008年に開始され、運転会社のオランダ電力(EPZ社)は2010年7月に原子力法上の許認可申請を提出した。オランダ経済省は6月29日付の官報で、同申請を許可する意向をEPZ社に通知している。MOX燃料はアレバのラ・アーグ再処理工場で回収したプルトニウムを使用してメロックス燃料製造工場で製造された。
2.原子力発電開発の経緯と経過
 オランダは、1959年に北海油田に連なる西欧最大の天然ガス田の発見を契機に、1960年代から1970年代にかけて急速な工業化と経済成長を達成した。この間、ドーデバルド原子力発電所が1965年に、ボルセラ原子力発電所が1969年に建設を開始し、それぞれ1969年3月と1973年10月に営業運転を開始した。
 1973年の第1次石油危機(オイルショック)を契機に石油と天然ガスへの過剰な依存が見直され、エネルギーの安定供給の観点から、省エネルギーとエネルギー源の多様化が図られた。政府は1985年に総発電電力量の3分の1を原子力発電により供給する原子力開発計画を発表し、原子力発電所2基の新規建設を決定したが、翌1986年にチェルノブイリ事故が発生したため、この決定は凍結・撤回となった。
 1990年代に入ると、キリスト教民主勢力(CDA)率いる連立政権が原子力発電に関する見直し作業を行い、原子力は地球温暖化問題に貢献する上、原子力発電所に伴うリスクや放射性廃棄物問題は技術開発により克服できるとした。しかし、1994年5月に行われた総選挙で、反原子力の労働党やグリーン・レフト(急進党)が躍進し、原子力推進派であるCDAは野党に退くこととなった。また、同年8月には、労働・自民・民主66の3党連立政権が発足し、原子力を取り巻く政治情勢は厳しくなった。1997年3月には、電気出力6万kWのドーデバルト原子力発電所が経済性を理由に、運転期間28年で閉鎖された。
 国内で唯一運転中の原子力発電所となったボルセラ発電所は、運転認可期間をめぐり、政府との間で訴訟問題にまで発展している。オランダの運転認可は原子炉の運転期間を設定していないが、同炉は当初30年間の運転後、2003年末に閉鎖される計画だった。しかし、同炉を所有するSEP社は運転実績が良好であるため、総額3億ギルダー(約170億円)をかけて安全系を大規模に改良した上で、運転期間を2007年まで延長する方針を打ち出した。政府は、同炉の改良工事の実施は認めるが、運転期間は延長せずに2003年末に停止すること、運転期間の延長を認めない損失分として、SEPへ7000万ギルダー(約40億円)を補償することでSEPと合意した。同炉は、1997年2月から7月にかけて耐震性やATWS(Anticipated Transient Without Scram)、内部火災・冠水対策などに関する最新技術による改良作業を行った。
 一方、1998年の電気法の改正にともない、同炉の所有者はSEP社から運転者だったEPZ社に代わった。1999年11月、EPZ社の職員は「発電所の2003年末閉鎖計画は原子力法に違反とする」という訴訟を起こした。オランダ高等行政裁判所は2000年2月に原告側EPZ社の主張を認める判決を、また、民事裁判所でも運転期間を30年とする法的根拠はないとして、政府の訴えを退けた。この判決を受け、キリスト教民主勢力(CDA)率いる3党連立政権は、ボラセラ原子力発電所の運転期間を設計上の耐用年数に当たる40年とし、2013年までの運転継続を許可した(2003年5月合意)。
 さらに、EPZ社は運転管理や保守を適切に行うことにより、2013年以降の運転継続を目指した。政府は二酸化炭素排出量削減目標を遵守するために原子力発電所は不可欠と判断、2006年には2003年5月の合意を公式撤回して2033年までの運転継続を公表し、議会もこれを承認した。なお、政府は運転延長を認める条件として、(1)EPZ社が省エネルギーの推進、二酸化炭素回収・貯留(CCS)付きの石炭火力発電プラントの開発、再生可能エネルギー研究開発などに2.5億ユーロ(約350億円)拠出すること、(2)ボルセラ原子力発電所の安全管理を重視して、5年ごとに独立専門家チームによる安全確認を実施すること、欧米諸国のうち「最も安全な原子力発電トップ25」に入ること、(3)2033年以降、原子炉を速やかに解体・撤去すること等を義務付けた。
 また、EPZ社は2006年の計画停止期間中にタービン・ローター、タービン・ブレード、汽水分離器等の交換を行い、ボルセラ原子力発電所の電気出力を3万kW増強して、グロス電気主力を51万5,000kWとした。なお、EPZ社の株式の70%はオランダの電力会社デルタ社(Delta)が、残りの30%はドイツの電力会社RWEの子会社Essent社が所有している。
3.新規原子炉建設をめぐる動き
 オランダでは1986年のチェルノブイリ事故後の世論情勢を受け、1995年に原子炉の新設を行わず、2003年までに原子力発電から撤退する政策方針を決定。2007年の第4次バルケネンデ政権の連立合意でも任期中に新規建設に関する政府決定は行わないことを取り決めていた。しかし、天然ガスを主力としたエネルギー構成を擁してきたオランダが、天然ガス産出量の減少により、2025年以降、天然ガスの純輸入国になるとの見通しを持ったことから、2008年6月、第4次バルケネンデ政権は次政権以降での原子炉新設オプションを「エネルギーレポート」のなかで発表した。
 これに呼応する形で、2008年9月、デルタ社はボルセラ原子力発電所のリプレース計画の開始を発表。2009年6月には環境影響評価手続に関する最初の書類を環境省へ提出、環境省は翌7月に公聴会にかけた。2010年9月には、エナジー・リソーシズ・ホールディング(ERH)がボルセラのリプレース計画に係る環境影響評価の開始通知を提出した。2010年10月にはルッテ政権が誕生、オランダは再び原子炉の新設が実現可能となった。フェルハーヘン経済相は、事業者による原子炉の建設許可申請の提出を2012年末頃と見込み、2014年までの現政権任期内に許可を発給する方針を示していた。また、デルタ社は当初、ボルセラ原子力発電所敷地内に、第3世代PWR、設備容量最大250万kWの建設を2015年から開始し、2019年頃からの営業運転を目指していたが、2012年1月の欧州債務危機等により投資環境が悪化したことから、2012年2月、新設計画を2〜3年凍結すると発表した。同2月、Essent社も同様の延期を発表している。Essent社は炉型にAP1000(1〜2基)かEPR、またはBWR(1基)を計画していた。
4.原子燃料及び放射性廃棄物
 オランダの原子力施設の所在地を図2示す。
 オランダの主な核燃料サイクル施設に、アルメロで操業する英国、ドイツ、オランダのコンソーシアム・ウレンコ(URENCO)社のウラン濃縮工場がある。1972年に操業を開始、遠心分離法を採用し、年間の処理能力は4,500トンSWUである。
 使用済燃料の取扱いに関し、オランダ政府は再処理するか直接処分するかの判断を事業者に委ねている。従来、再処理は英仏との契約に基づき国外で実施されており、2015年までの現契約では、使用済燃料の全量を再処理し、回収されたプルトニウムをMOX燃料に加工してボルセラ原子力発電所に装荷することになっている。旧契約では、回収したプルトニウムはMOX燃料の材料として売却されていた。
 放射性廃棄物は、現在、全てボルセラ東部にある放射性廃棄物中央機構(COVRA)の集中中間貯蔵施設で管理されている(図3及び図4参照)。COVRAは原子力法に基いて、政府とエネルギー研究所、電力会社(ドーデバルト及びボルセラ)が出資して、1982年に設立された放射性廃棄物の管理・処分責任機関である。2002年4月から政府単独の機関となっている。すべての放射性廃棄物は基本的に100年間、COVRAの管理下で中間貯蔵される。
 低中レベル放射性廃棄物は、現在、AVG(ドラム缶貯蔵)、LOG(ドラム缶及びコンクリート貯蔵)、VOG(コンテナ貯蔵)、COG(DV-47コンテナ貯蔵)の4つの建屋で貯蔵される。2011年時点、LOGに9,854m3、COGとVOGに合計10,687m3が保管されている。
 高レベル放射性廃棄物に関し、集中中間貯蔵施設のHABOG(オランダ語でHoogradioactief Afval Behandlings en Opslag Gebouw「高レベル放射性廃棄物貯蔵施設」の頭文字)が2003年11月より操業している。この施設はボルセラとドーデバルトの原子力発電所及びペテンとデルフトの研究用原子炉で発生した高レベル放射性廃棄物を100年間収容できるよう設計されている。2002年にCOVRAで推定した集中中間貯蔵施設の100年後における貯蔵容量の内訳を表3に示す。貯蔵施設は、冷却の必要のない廃棄体(ビチューメン固化体など)を貯蔵する部分と、使用済燃料やガラス固化体(返還廃棄物)を貯蔵し冷却する部分(ボールト方式の間接自然空冷(2重管)タイプ)に分かれている。2011年現在、中レベル放射性廃棄物16m3、返還廃棄物35m3が貯蔵されている。
 最終処分場に関して、具体的な計画段階にないが他国との共同処分、国内岩塩層における回収可能な深地層処分等が検討されている。
5.原子力の研究開発体制
 研究炉がデルフト工科大学に1基、ペテンのオランダエネルギー研究財団(Energy Research Centre of Netherlands:ECN)に2基あり、原子力分野の研究の中心となっている。デルフト大学には、熱出力2,000kWの研究炉(HOR)があり、同炉は1963年4月に臨界を達成した。ECNにある2基のうち、1つは欧州委員会(EC)の共同研究センター(Joint Research Center)が所有する高中性子束炉(HFR:High Flux Reactor、熱出力4万5,000kW)で、1961年11月に臨界を達成した。もう1つはECNが所有する低中性子束炉(LFR:Low Flux Reactor、熱出力30kW)で、同炉は1960年9月に初臨界を達成した。
 HFRはRIの製造、医療照射、中性子科学研究などに使用していたが、2015年に閉鎖が予定されている。HFRの閉鎖は欧州域内のがん診断用モリブデン99やがん治療用イリジウム92の供給を停滞させることが予想され、オランダエネルギー研究機構(Nuclear Research and Consultancy Group:NRG)を中心にHFRに換わる研究炉の新規建設(パラスプロジェクト)を提案した。NRGはECNとオランダ電力研究所(KEMA)が1998年に設立した組織である。NRGは、医療用アイソトープの製造をはじめ核医学技術、保健物理、物性研究、原燃サイクル、廃棄物管理、原子力発電所全般の技術改良などの原子力分野で専門知識とサービスを供給している。
 一方、デルフト工科大学のHOR改造について、2018年初めまでに冷中性子研究施設を構築するプロジェクト(Oysterプロジェクト)が韓国原子力研究院コンソーシアムにより進行している。韓国原子力研究院とデルフト工科大学は、2014年11月、放射線安全と原子炉技術の開発、研究用原子炉、放射性廃棄物管理、放射線・核医学・同位体技術、ナノ物質利用などの研究協力を強化する覚書(MOU)も締結している。
 なお、オランダでは現在、原子力安全規制の関連業務が経済省、住宅計画環境省、厚生省など複数の省庁に分散して実施されているが、政府は2014年1月、住宅計画環境省の下に原子力安全・放射線防護庁(ANVS)を新設し、これらの業務を一カ所に集約することを決定した。これにより、国際原子力機関(IAEA)が求める規制機関の独立性が確保される。
(前回更新:2005年10月)
<図/表>
表1 オランダの原子力発電所
表1  オランダの原子力発電所
表2 オランダの発電設備容量および電力需給バランス
表2  オランダの発電設備容量および電力需給バランス
表3 集中中間貯蔵施設(COVRA)における100年後の推定貯蔵容量
表3  集中中間貯蔵施設(COVRA)における100年後の推定貯蔵容量
図1 オランダにおける電源別発電電力量の推移
図1  オランダにおける電源別発電電力量の推移
図2 オランダの原子力施設の所在地
図2  オランダの原子力施設の所在地
図3 集中中間貯蔵施設(COVRA)サイト概観
図3  集中中間貯蔵施設(COVRA)サイト概観
図4 集中中間貯蔵施設(COVRA)における放射性廃棄物の貯蔵状況
図4  集中中間貯蔵施設(COVRA)における放射性廃棄物の貯蔵状況

<関連タイトル>
オランダの国情およびエネルギー事情 (14-05-08-02)

<参考文献>
(1)(社)海外電力調査会:海外諸国の電気事業 第2編(2010年3月)、オランダ
(2)米国エネルギー情報局(EIA):Netherlands、

(3)日本原子力産業協会:原子力年鑑、2014(2013年10月)、オランダ
(4)日本原子力産業協会:世界の原子力発電開発の動向 2014年版、2014年4月、P.134-135
(5)国際エネルギー機関(IEA):IEA energy Statistics/Electricity generation by fuel Netherlands、http://www.iea.org/stats/WebGraphs/NETHLAND2.pdf
(6)IAEA発電炉情報システム(PRIS):

(7)放射性廃棄物中央機構(COVRA)Jeroen Welbergen:Management of radioactive waste、2009年
(8)放射性廃棄物中央機構(COVRA)Hans Codee:CONTROLLED CONTAINMENT, RADIOACTIVE WASTE MANAGEMENT IN THE NETHERLANDS、2002年、

(9)放射性廃棄物中央機構(COVRA)JAARRAPPORT 2013(ANNUAL REPORT)、

(10)(株)アイ・イー・エー・ジャパン 平成23年度発電用原子炉等利用環境調査(諸外国における原子力発電及び核燃料サイクル動向調査)最終報告書、2012年3月、
http://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2012fy/E002767.pdf、p.56-61
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