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<概要>
 フィンランドでは、紙・パルプ製造などのエネルギー多消費型産業の発展や、寒冷な気候条件により国民一人当たりの電力消費量はEU域内でもトップクラスとエネルギー消費量が多いが、エネルギー資源に乏しく、エネルギーの輸入依存度が高い。そのため、国内資源の開発、エネルギー有効利用の促進などによりエネルギー自給率を高めることをエネルギー政策の中心的課題としてきた。また、環境面でも大気環境保全に向けてSOx、NOxの大幅削減を目標にするとともに、地球温暖化の対策として二酸化炭素排出量の削減を課題としているが、経済成長との両立が難しい状況にある。
 原子力開発はエネルギー自給率を高めるため、1977年から導入してきた。2002年5月には、同国5基目となる原子力発電所の建設を議会が決定。2005年2月からオルキルオト3号機の建設許可が与えられ、出力160万kWの欧州加圧水型炉(EPR)の建設をフランスのアレバ社が中心となって進めている。ちなみに、2010年の総供給電力量の電源別シェアは火力40.5%、原子力28.4%、水力16.5%、黒液・木質燃料12.9%で、ロシア等から総供給量の12%相当の電力を輸入している。フィンランドは原子力発電バイオマス(木質燃料など)等の再生可能エネルギーの利用拡大を中心にエネルギー政策を推進している。
<更新年月>
2011年11月   

<本文>
1.エネルギー事情
 フィンランドは、面積約33万8,145平方キロメートル、人口約531万人で、寒冷な気候のために暖房用のエネルギー需要が大きく、製紙・パルプ、冶金産業などエネルギー多消費型産業が立地し、国民1人あたりの一次エネルギー消費量は世界でもトップクラスにある。
 一方、エネルギー資源に恵まれておらず、石油、天然ガス、石炭は、輸入に依存している。エネルギー安定供給の確保はエネルギー政策上の中心的な課題であり、国内資源の開発や省エネルギーの推進が進められ、原子力発電の推進とバイオマス(木質燃料など)を中心とする再生可能エネルギーの利用拡大が積極的に図られている。
(1)エネルギーの需給
 2008年における一次エネルギー供給量は石油換算3526万トン、輸入量は2,690万トンで、供給の5割以上を輸入に依存している(図1参照)。また、一次エネルギーの国内生産量は石油換算1,656万トンであるが、その多くは原子力、バイオマスによる電熱生産等が占めている。国内の燃料資源は泥炭(ピート)のみで、石油、天然ガスなどの化石燃料は産出されていない。石炭はロシア、ポーランド、米国、カナダ、オーストラリアから輸入され、石油の8割はロシアから、1割はデンマークから、残りは英国、カザフスタン、ノルウェーから輸入される。また、天然ガスは1970年以降には全量をロシアから輸入している。なお、フィンランド国内には約18万個の湖沼群が存在するが、比較的なだらかな地形のため水力資源の寄与は一次エネルギー供給量の3〜5%程度にとどまる。
 国内のエネルギー消費量は2000〜2010年の期間に約9%上昇した。燃料別消費量の推移(図2)をみると、1970年代の石油危機以降には、原子力、天然ガス、木質燃料等の石油代替エネルギーを導入してエネルギー需要の増加に対応してきた。これにより、石油への依存度が大幅に軽減し、2010年の国内消費量に占める石油の比率は24.5%まで低下した。森林資源の豊富なフィンランドでは紙・パルプ産業が盛んであり、製造過程で発生する黒液を燃料として使用することができ、また、森林産業の廃材等を利用するペレット工場も国内各地に立地されていることから、発電や暖房分野でのバイオマスの利用が21.3%と高い比率を占めている。
 また、エネルギー自給率を高めるため、1977年から原子力発電を導入した。現在、国内5基目となるオルキルオト3号機の建設が2002年5月に決定され、フランスのアレバ社が中心となって、出力160万kWの欧州加圧水型炉(EPR)の建設を2005年2月から進めている。
 エネルギー需要を部門別にみると、2010年現在、エネルギー消費量の約50%が産業用で、家庭用が約30%、輸送・サービス部門の消費が約22%となっている。フィンランドの主要産業は、パルプ・製紙、冶金、化学、エレクトロニクス産業など、いわゆるエネルギー多消費型産業のため、産業分野でのエネルギー消費の割合が特に大きい。
(2)エネルギー政策
 フィンランドではエネルギーの輸入依存度が高いことから、国内資源の開発、エネルギー有効利用の促進等によりエネルギー自給率を高めることを政策の中心的課題としてきた。また、環境面でも大気環境保全に向けてSOx、NOxの大幅削減を目標にするとともに、地球温暖化の対策として二酸化炭素排出量の削減を課題としている。しかし、同国の主要産業である紙・パルプ製造業は大量のエネルギーを消費するため、経済成長との両立が難しい状況にある。
 2008年11月に政府が採択した新たなエネルギー政策「国家エネルギー・気候変動戦略」では、電力の自給自足のための電熱供給及び水力発電のフル稼働、風力発電及び原子力発電の増強に加え、エネルギー効率の改善、温室効果ガス排出量の大幅削減(2020年までに2005年の水準より21%削減)、最終エネルギー消費に占める再生可能エネルギーの割合を2020年までに38%に上昇させることなどが掲げられている。ちなみに、EUは最終エネルギー消費に占める再生可能エネルギーの割合を2020年までにEU全体で20%と設定しているが、フィンランドは独自にさらに高い38%を目指している。2008年時点の実績では30.5%に留まっているので、さらに相当量の再生可能エネルギーを導入する必要がある。政府は、これまでほとんど普及してこなかった風力発電の推進とバイオマスのさらなる利用拡大を目指し、支援策の強化に乗り出している。
2.電力事情
 フィンランドの2010年の総供給電力量は877億kWhで、前年比7.6%増であった。エネルギー源別には、原子力28.4%、石炭18.2%、天然ガス14.2%、石油0.58%、水力16.5%、泥炭7.6%、黒液・木質燃料12.9%である(表1参照)。また、輸入電力は105億kWhで、供給量全体の12%である。電力消費量のうち、47.2%は産業部門が消費した(図3参照)。フィンランドのエネルギー消費の特徴としては、寒冷な気候を反映して暖房需要が大きいことが挙げられるが、電熱併給による地域暖房が発達しており、暖房需要は総エネルギー需要の約23%を占めている。2008年11月の政府による電力消費量予測では、2024年には970億kWh、2030年には1,000億kWhへ増加し、中長期的な電力需要は緩やかに上昇することが見込まれている。
 北欧諸国では1963年に設立された北欧電力専門家協議会(NORDEL)を中心に、古くから国境を越えた電力融通が行なわれてきたが、より効率的な電力利用を図るため、1993年に世界初の多国間共通電力市場ノルドプール(NORD POOL)をノルウェーに設立した。フィンランドは1995年に電力市場法を施行し、1997年1月から全面自由化を実施、他の北欧諸国とともに自由化された北欧電力市場に参加し、ノルドプールを中心とした卸電力市場の枠組みの中で電力輸出入を行っている。これにより、北欧市場での毎年の電力輸出入量は、北欧諸国の主力電源である水力発電の発電電力量に大きく依存することとなった。すなわち、降水量が豊富な年には、水力発電比率が高いノルウェー(約100%)やスウェーデン(約50%)の安価な電力が市場に出回るため、フィンランドの電力輸入量は増大する。逆に降水量が少ない場合には、フィンランドの電力輸入量は減り、国内の火力発電所による電力供給で賄うことになる。ちなみに、ノルドプールでは、電力の現物・先物取引を行うほか、二酸化炭素排出量、グリーン電力証書等をも取扱う。
 フィンランドの電力の純輸入国として歴史は古く、2003年初頭にはロシアとの送電網を増強整備したことで、ロシアからの電力輸入量が急増している。加えてフィンランドは、スウェーデン、ノルウェー、エストニアとの間でも電力の輸出入の実績がある(表2参照)。2010年のロシアからの電力輸入量は、総輸入電力量の約75%で116億kWh 、2000年の45億kWhから2.5倍の増加となっている。なお、フィンランドとロシアとを結ぶ新たな海底ケーブルの敷設が計画されたが、国産エネルギーによる発電増強、電力自給率の向上を図るフィンランドのエネルギー政策を妨げるとして、通商産業省は2006年に建設許認可を却下する判断を下している。一方、欧州全域内では単一電力市場を形成する動きがあり、北欧電力市場と欧州大陸及びバルティック市場との統合が図られ、2008年からノルウェーとオランダをつなぐノルネッド(Nor Ned)と、北欧と、ドイツのEuropean Market Coupling Company(EMCC)が運用を開始している。フィンランドの電力価格はEU域内の平均電力価格の3分の1程度であり、市場統合による優位性が予想されている。
3.フィンランドの電気事業
 フィンランドでは、中小規模の電力会社や事業会社が共同出資で非営利の発電会社を設立し、出資比率に応じた電力を原価で調達する仕組みが発達しており、電力事業会社間の所有関係はやや複雑に入り組んだ構造を形成している。ちなみにフィンランドの発電事業者数は約120社、発電設備数は550と分散しているが、実質は大手電気事業者であるPVO社、TVO社、Fortum(フォルトゥム)社の3社による寡占状態で、3社の発電設備容量シェアは45%〜50%である。以下、3社の会社概要を示す。
(1)フィンランド北部電力(Pohjolan Voima Oy、以下、PVO)
 国内最大の民間卸売電力会社。傘下に各種発電所経営を行う運営子会社を多数擁し、自らは基本的に設備を保有せず子会社管理及び経営支援を行う持株会社である。株主は出資割合に応じて原価による電力購入権利を有する一方、応分の電力引取りと費用負担をする仕組み(総括原価主義)により運営されている。1943年に設立され、紙・パルプ会社が全株式の61.7%、電力会社が21.4%、地方自治体が7.0%、化学会社が5.6%を占める。
(2)フィンランド産業電力(Teollisuuden Voima Oyj、以下、TVO)
 フィンランド北部電力の主力子会社(PVO出資比率58.1%)。株主は限定的かつ安定的であり、総括原価主義により運営されている。1969年に設立されたフィンランドの中心的原子力発電事業者で、オルキルオト原子力発電所(OL1、OL2、OL3)を所有する。ベースロード電力供給の担い手であり、国内電力消費量に対する供給シェアは2009年時点で約18%であるが、建設中の3号機の完成後は、約27-8%となる見込み。発電量の調整弁として、フォルトム社のメリポリ石炭火力発電所(発電能力は565MW)に45%出資している。
(3)フォルトム電熱会社(Fortum Power and Heat Oy:Fortum、旧IVO社)
 国有電気事業者イマトラン・ヴォイマ(Imatran Voima Oy、IVO)として1932年に設立。1998年フィンランド国有石油企業Neste社と統合され、1999年に名称を国有エネルギー企業フォルトム電熱会社に変更した。2005年に石油部門がフォルトム社から切り離された。電源構成は原子力、水力が中心であり、8割以上が二酸化炭素を発生しない設備である。
(前回更新:2004年2月)
<図/表>
表1 フィンランドの電源別発電電力量の推移
表1  フィンランドの電源別発電電力量の推移
表2 フィンランドの電力輸出入国の推移
表2  フィンランドの電力輸出入国の推移
図1 フィンランドの一次エネルギー生産量の推移
図1  フィンランドの一次エネルギー生産量の推移
図2 フィンランドの燃料別エネルギー消費量の推移
図2  フィンランドの燃料別エネルギー消費量の推移
図3 フィンランドの部門別電力消費量の推移
図3  フィンランドの部門別電力消費量の推移

<関連タイトル>
フィンランドの原子力発電開発と原子力政策 (14-05-05-02)
フィンランドの原子力発電所建設計画 (14-05-05-03)

<参考文献>
(1)海外電力調査会:「海外諸国の電気事業 第1編」(2008年11月)、p.347-372
(2)日本原子力産業協会:原子力年鑑2011年版(2010年11月)
(3)日本原子力産業協会:世界の原子力発電開発の動向 2011年版(2011年5月)
(4)国際エネルギー機関(IEA:International Energy Agency):フィンランド、
 Energy production及び

(5)フィンランド統計局(Statistics Finland):
,
http://www.stat.fi/til/ekul/2009/ekul_2009_2010-12-10_kuv_002_en.html,
http://www.stat.fi/til/salatuo/2010/salatuo_2010_2011-10-06_tau_003_en.html,
,
St
(6)Finnish Energy Industries:

(7)フィンランド経済雇用省:国家気候とエネルギー戦略(2008)サマリ:

(8)フィンランド貿易産業省:Nuclear Energy in Finland,

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