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<概要>
 社会主義国家東ドイツの崩壊により1990年10月に再統一したドイツでは、8社の大手電力会社VEBA、VIAG、RWE、VEW、EVS、Badenwerk、HEW、BEWAGが国内総発電電力量の約80%を占め、電気事業の中心的役割を担っていた。この8社は発電と送・配電の3分野を垂直統合する大規模事業体で、地域電力会社や地方公営の小規模な配電会社など、全部で900以上のある電力会社へ電力を供給していた。しかし、エネルギー事業法が1998年4月に施行され、電力会社の市場規制が完全撤廃されて即時全面自由化が実行されると、市場経済化が進み、大手電力会社の合併・経営統合など寡占化により、RWE、E.ON、EnBW、Vattenfall Europe社の4グループ体制へ移行している。原子力発電所は大手電力会社RWE、E.ON、EnBWが中心で、残りは共同開発の形態がとられている。
 原子力産業の中核的存在シーメンス社は、2000年7月にフランスのフラマトム社原子力部門を統合し、欧州加圧水型軽水炉EPRの開発を目的にフラマトムANP社が発足した。フラマトムANP社は2001年9月、アレバNP社として総合原子力企業アレバ社の傘下に入ったが、フランス側の原子力産業集約戦略と、シーメンス側の出資比率の不満から、2009年1月に技術提携を解消した。2009年3月にはロシアの国営原子力企業ロスアトムと原子力発電技術の開発などで提携すると発表し、対等出資で新たな合弁会社を設立する。
<更新年月>
2010年01月   

<本文>
1.電気事業
1.1 電力事業の概要
 第二次大戦後ドイツは東西に分断されたが、1990年10月に社会主義国家東ドイツの崩壊によりドイツは再統一した。統一後のドイツでは旧東ドイツ地域における経済不振のため、一時的にエネルギー消費と電力消費が低下する事態が発生した。しかし、1994年を境に再び増加し、1996年以降は統一前の水準に回復した。発電電力量の電源別構成としては、石炭比率が高いことが特徴である。1973年の石油危機以降、政府は石炭への再転換策を打ち出し、1996年まで国内石炭産業保護政策を継続してきた。その結果、石炭が国内エネルギー生産量の43%を占め、原子力と合わせ40%程度のエネルギー自給率を維持している。また、褐炭と石炭をあわせた石炭火力発電量は全体の約50%を占める(表1参照)。最近では、天然ガス火力の導入も進みつつあるが、まだ総発電量の1割余りにとどまる。
 なお、ドイツでは、電力市場の完全自由化が実施されている。EUの1996年指令をうけ、1998年4月にはエネルギー事業法(電力とガスの市場自由化)が改定され、電力会社の市場規制が完全撤廃された。これは段階的な規制緩和ではなく、家庭用も含めた全需要家が対象となる即時全面自由化であった。また、2000年以降2箇所の卸電力取引市場が創設され、2002年には統合されたが、欧州エネルギー取引所(EEX)がライプチヒ市で運用している。2007年の実績では、取引所の実物の取引量が全国の消費電力量の約23%を占める。図1にドイツの電力供給体制を示す。
1.2 ドイツ全体の電気事業体制の変遷
 ドイツには国内総発電電力量の約90%を占める4大電力会社があり、電気事業の中心的役割を担っている。他に地域電力会社や地方公営の小規模な配電会社などが存在し、ドイツには全部で1000以上の電力会社がある。大手4社、RWE、E.ON、EnBW、Vattenfall Europeは、発電と送・配電の3分野を垂直統合している大規模事業体である。
 従来、ドイツの電力供給企業は、(a)結合経営(Verbundunternehmen)、(b)地域経営(Regionalunternehmen)、(c)地方経営(locale Unternehmen)の3類型より構成されてきた。電力自由化直前の1998年4月には全部で1000社程度が活動しており、(a)企業が8社、(b)企業が約80社、(c)企業は約900社であった。(a)は発電と送・配電の3分野を垂直統合している8社の大規模事業体で、VEBA、VIAG、RWE、VEW、EVS、Badenwerk、HEW、BEWAGの寡占体制であった。また、(b)企業は発電能力は極めて僅かであるが、(a)企業から電力を購入して、主に農村地域の市町村の最終ユーザーに小売りする会社である。高、中、低電圧の配電網を所有し、配電事業の20%を占める。(c)企業は自治体の公益事業体(都市事業体)の形態をとり、若干の自己発電能力を有するものの、電力を購入して、最終需要家に再販売する会社で、その数は非常に多く、事業規模も都市により様々である。都市事業体は、管轄する地域住民に対するガス、水道、遠隔暖房の提供、都市交通機関の運営等の一環として、電力供給を担っている。
 しかし、1998年の全面自由化以降、電気事業体制も大きく変化した。1998年〜2000年の第1期には事業者の経営効率化が進み、低価格競争が始まり、電力料金は家庭用電力で10〜20%程度、産業用電力では25%〜35%、卸売料金で60%下落した。2000年以降の第2期になると価格競争は収束したが、新規参入者は市場から阻止され、大手事業者間の合併が続いた。2005年末以降、8大事業者体制は4大グループ体制へ移行している(表2および図2参照)。4大グループは総発電設備容量の約70%を占め、小売市場でも約45%を占める。電気料金に関しては、燃料価格の上昇や環境税の引き上げ、CO2排出権取引の開始等の影響なども重なって、値上がりの傾向にある。
 なお、4大グループ体制への移行は2001年9月にVIAGとVEBAが合併してE.ONがドイツ最大の電力会社として誕生したのが最初であるが、2002年6月にはRWEがVEWと合併吸収し、RWEが再び首位の座を占めた。HEWはBEWAGおよびVEAGと合併し、スウェーデンの公営電力会社バッテンフォール(Vattenfall)を親会社とすることから名称をVattenfallヨーロッパに改称した。中規模のEnBWは地理的に近いフランスのEDFと資本提携している。現在はE.ON、RWEのドイツ系2社とVattenfallヨーロッパとEnBWの外資系2社の4大電力が電力市場を支配する。なお、VEAGは東西ドイツ統合を契機に、東独の国営電気事業(コンビナート)が解体され、設立された発・送電事業を行う電力合同会社である。旧東独地域では、旧西独電力会社の出資により12のエネルギー供給会社(旧西独の地域電力会社に相当)が設立される一方、合計164の自治体公営事業者が設立された。さらに1994年にはVEAGの生産シェアの25%ずつが西側の上位3社に譲渡され、残りの25%が他の西側5社に均分に譲渡された(表2のA列とB列を比較)。そして1997年、比較的低位規模のBadenwerkとEVSが統合して、EnBWとなった。
1.2 ドイツ全体の電気事業形態
 4大電力グループは垂直統合と水平統合は進めているものの、部門別(発電・送電・配電・営業)には分社化を実施している。EU電力指令(2003年)では送電部門の中立要件として「会計分離」と「経営分離」を義務付けているが、ドイツでは2000年頃から主体的に始まった。部門別分離の形態は最上位組織として持株会社を設置し、その下部組織として各部門を統括する中間持株会社が置かれている。実質業務を担当する会社は中間持株会社の下に置かれる。重層的構造の例を図3のRWEグループ組織図に示す。また、ドイツ電気事業者は送配電ネットワークを形成し、運用していることから、総延長36,000km(2006年末時点)の超高圧送電線を有し、供給信頼度の高い水準で、他の欧州諸国と国境を越えた発電設備の運用を可能としている。西側系統(UCTE)に加え、ポーランド、スロバキア、チェコ、ハンガリーなどの東側系統(CENTREL)ともRWEトランスポルトネッツ・シュトローム社の中央給電指令所が電力輸出入の調整を行っている。
2.原子力産業
 従来、ドイツには発電プラントメーカーとしては、伝統的な重電メーカーのシーメンス社(Siemens)、アルゲマイネ電機会社(AEG)、ブラウン・ボベリー社(BBK)、エンジニアリング社であるグーテホフヌングスヒュッテ社(GHH)、マンネスマン社(Mannesmann)、ドイツ・バブコック社(BBR)などがあった。
 このうち、シーメンス社がPWR、AEG社がBWRを製造してきたが、1969年に両社が合弁でクラフトヴェルクユニオン社(KWU)を設立し、KWU社がPWR、BWR双方の供給者となった。その後、シーメンス社はKWU社のAEG社持株を買収し、KWUという略称を残したまま、シーメンス社エネルギー生産事業部と名称を変更した。また、かつてシーメンス社の子会社で、現在同社に吸収されたインターアトム社(Interatom)は、高速増殖炉SNR−300を供給すると同時に、高温ガス炉の研究開発にも力を入れてきた。
 このように、ドイツの原子力産業をリードしてきたシーメンス社であるが、2000年7月にはフランスのフラマトム社と原子力部門を統合し、共同子会社フラマトムANP社(Framatome ANP)を設立することで合意した。出資比率はフラマトムが66%、シーメンスが34%である(図4参照)。この統合は、欧州次期炉EPRの開発にフラマトムと共同で当たったことなどが契機となったが、2000年6月にドイツ政府と電力業界が、既設原子力発電所の段階的閉鎖と新規建設の禁止を法律で決めることに合意したことも一因となった。
 フラマトムANP社は、フランス国内でのEPR建設や東欧、アジアなどでの受注活動や燃料製造、メインテナンスなどのサービス業務に力を入れ、2001年9月には原子力関連企業の効率化・合理化・国際競争の強化を目的に設立された持株会社アレバ社(AREVA)の傘下に入り、名称をアレバNP社(AREVA NP)に変更した。その後、フランス側の原子力産業集約戦略と、シーメンス側の出資比率の不満から、2009年1月技術提携を解消し、2009年3月にはタービンや発電機、送配電技術の向上を図るロシアの国営原子力企業ロスアトム社との提携覚書に調印した。両者は50:50の対等出資で新たな合弁会社を設立し、燃料サイクル分野も視野に、ロシア型加圧水炉VVERの開発や既存プラントのバックフィット、出力増強を手がける。
 ドイツでは、1998年に決定した脱原子力政策を2005年の政権交代後も維持していたが、2009年秋に発足した保守・中道連立政権では脱原子力政策の見直しを合意しており、全原子力発電所の操業を2020年頃までに停止することを決めた脱原子力政策が修正される可能性が出てきた。2010年1月現在、ドイツの原子力発電所は17基、2146万kWの規模で総発電量の26.1%(2009年)を供給しており、高い安全性と経済性を維持している。
(前回更新:2001年3月)
<図/表>
表1 ドイツの発電電力量の推移
表1  ドイツの発電電力量の推移
表2 ドイツにおける大手電力会社の概要
表2  ドイツにおける大手電力会社の概要
図1 ドイツの電力供給体制
図1  ドイツの電力供給体制
図2 ドイツの4大電力会社の超高圧送電系統の制御区域
図2  ドイツの4大電力会社の超高圧送電系統の制御区域
図3 RWEグループの組織図
図3  RWEグループの組織図
図4 アレバ(AREVA)グループの構成
図4  アレバ(AREVA)グループの構成

<関連タイトル>
旧西独の原子力発電の現状および統一ドイツの原子力政策 (14-05-03-01)
旧東独の原子力政策および原子力発電の現状 (14-05-03-02)
ドイツの原子力発電開発 (14-05-03-03)
ドイツの核燃料サイクル (14-05-03-06)
高速増殖炉SNR-300の中止決定 (14-05-03-11)
ドイツの1998年総選挙後の脱原子力政策 (14-05-03-13)

<参考文献>
(1)(社)日本原子力産業会議:原子力年鑑 2000/2001年版(2000年9月)、p.341-345
(2)(社)海外電力調査会:海外諸国の電気事業 第1編 1998年(1998年3月)p.130-136
(3)(社)日本原子力産業協会:原子力年鑑 2010年版(2009年10月)、p.228-232
(4)(社)海外電力調査会:海外諸国の電気事業 第1編 2008年(2008年10月)p.153-192およびp.111-152
(5)世界原子力協会(WNA):Nuclear Share of Electricity Generation Figures, http://www.world-nuclear.org/info/nshare.html
(6)世界原子力協会(WNA):Table of the World's Nuclear Power Reactors, http://www.world-nuclear.org/info/reactors.html
(7)Gert Brunekreeft/Sven Twelemann, Regulation, Competition and Investment in the German Electricity Market:RegTP or REGTP, in:Energy Journal, 2005, pp.103
(8)加藤浩平:ドイツ電力産業における競争政策の展開、専修大学社会科学年報第42号、http://www.senshu-u.ac.jp/~off1009/PDF/kohei-kato_42.pdf
(9)(社)海外電力調査会:ドイツの電気事業
(10)国際原子力機関(IAEA):動力炉情報システム(PRIS)
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