<大項目> 海外情勢
<中項目> ヨーロッパ各国
<小項目> イギリス
<タイトル>
セラフィールド再処理工場の技術開発と現状 (14-05-01-17)

<概要>
 イギリスでは、当初、軍事用プルトニウムの生産を目的に再処理開発を始めたが、その後、民間原子力発電計画に基づき発生する使用済み燃料の処理、再処理施設を持たない国に対しての再処理請負へと転換してきた。イギリスにおける最初の産業規模の使用済燃料の再処理施設として、1952年にウインズケール(後に「セラフィールド」と改称)にマグノックス炉の使用済燃料の再処理工場が運転を開始した(1960年代から運転し30,000トン以上の処理実績を持つ)。さらに同サイトに改良型ガス炉(AGR)およびドイツ、日本等海外からの受託軽水炉使用済燃料の処理を目的に酸化物燃料用の大型工場(THORP)を建設し、1992年2月に建設工事完了、1994年3月に試験操業を開始、1997年8月に全運転許可証を得た。2005年4月1日から、原子力エネルギー法の改正により、施設の運営責任は従来通りBNFL内の廃止措置部門BNGにあるものの、原子力デコミッショニング機構(NDA)にマグノックス炉の廃止措置、THORP再処理工場、MOX加工工場(SMP)、廃棄物工場、などの資産と施設の廃止にかかる費用、廃棄物管理に関する費用などの債務処理が移管されている。2005年4月19日、THORP再処理工場は前処理施設で放射性溶液の漏えい(INES)が発見され、操業を停止した。
<更新年月>
2007年07月   

<本文>
 英国セラフィールドにおいては、原子炉から再処理、MOX加工まで、核燃料サイクルのフロント・エンドを除く全ての事業が行われている。
1.英国における再処理工場の開発と経緯
 英国は、軍需省(Ministry of Supply)の計画により、1945年に独自のプルトニウム生産炉の建設を決定した。1947年7月にはスコットランドとイングランドの境界のアイリッシュ海に面したウィンズケールにプルトニウム生産炉パイル1号機(コルダーホール、熱出力180MWth、1950年10月臨界達成、2003年3月運転終了)と再処理工場(第一再処理工場(B204)、1951年4月着工)の建設サイトが設定された。当初の開発目的は軍事利用であったため、1952年10月3日にはオーストラリア沖のモンテベロ島で最初の核実験が実施された。しかし、後にマグノックス炉として発電を目的に改良された。
 1954年には英国原子力公社(UKAEA:United Kingdom Atomic Energy Authority)が設立。1971年から英国核燃料公社(BNFL:British Nuclear Fuels Limited)がUKAEAの生産・運転部門を引き継いで設立され、プロジェクトを推進した。2005年4月1日、英国原子力エネルギー法の改正により、施設の運営責任は従来通りBNFL内の廃止措置部門BNG(British Nuclear Group)にあるものの、原子力デコミッショニング機構(NDA:Nuclear Decommissioning Authority)にマグノックス炉の廃止措置、THORP再処理工場、MOX加工工場(SMP)、廃棄物工場、などの資産と施設の廃止にかかる費用、廃棄物管理に関する費用などの債務処理が移管されている。
 1951年から操業を開始した英国初の第一再処理工場(B204)は、1957年10月パイル1号機で火災事故が発生したため、1964年に運転を停止。処理能力は300トン/年、アルミ被覆燃料の処理は1,000トン程度と推定される。第二再処理工場(B205)は発電用黒鉛ガス炉(GCR:Gas−Cooled Reactor)用で1964年2月から運転を開始、処理能力は1,500トン/年、マグノックス炉の廃止計画に従い2012年で運転を終了する予定である。再処理は軽水炉使用済燃料の需要に合わせて第一再処理工場が改造され、酸化物燃料用のせん断・溶解を行う前処理施設(B240)として軽水炉燃料の再処理を1969年から開始。約90トンを処理した1973年9月26日にルテニウム漏えい事故を起こしたため施設は閉鎖された。1976年にTHORP(Thermal Oxide Reprocessing Plant)再処理工場計画を開始、1994年1月から操業を開始した。処理能力は900トン/年、10年間で約5,000トンを処理した。
 使用済燃料の再処理は、高速増殖炉燃料を除くとプルトニウム生産炉のアルミ被覆燃料、GCR炉のマグノックス燃料、軽水炉の酸化物燃料の3つに大別される(表1参照)。世界的にはプルトニウム生産炉の使用済燃料再処理は米国,ロシア中心に約75万トン、またGCR燃料は英国が最大の実績で4万トン、フランスが1万トン程度である。一方、軽水炉(AGR燃料を含む)の使用済燃料は、フランス約20,000トン、英国約5,000トン、世界合計約3万トンを処理している。表1が示すように、世代が進むにつれ、燃料の燃焼度が高くなることから、被覆材のせん断、溶解、放射能量の低減化など、様々な技術の高度化が要求される。
2.THORP(軽水炉酸化物燃料再処理プラント)の設備概要
 BNFLは、英国内では改良型ガス炉AGRが、また、諸外国では軽水炉が引続き建設されることを受け、使用済燃料の再処理を商業規模で行える施設として、THORP(THermal Oxide Reprocessing Plant)を建設した。1976年に公称処理能力濃縮ウラン1201トン/年、最初の10年間で6,000トンの処理を予定したが、実際の処理能力は900トン/年。1983年から受入れ・貯蔵施設の建設が開始され、1992年建設を終了し、1994年3月、最初の使用済燃料がせん断され、1995年1月には、抽出工程に溶解液が供給され、原子力施設検査庁(NII:Nuclear Installations Inspectorate)および環境庁(Environmental Agency)の検査に合格、1997年8月に公式に認可され、本格運転を開始した。また、1990年からガラス固化施設(WVP:Windscale Vitrification Plant)が運転を開始している。THORPの酸化物燃料処理、第二再処理工場のマグノックス燃料処理、WVPのガラス固化体生産の実績を表2で示す。
 THORPのプロセス構成は、せん断、溶解、ピューレックス溶媒抽出であり、他の新大型工場(フランスUP3、六ケ所工場)と基本的には同じである。ピューレックス法のフローシートを図1に示す。この工場では、放射能放出の低減化や保障措置の適用の面からも技術的向上が見られる。例えば、1971年にBNFLが施設を引き継いだ時には、液体のα放射能放出が年間100TBq、β放射能が6,000TBqに達していたが、2002年には液体放出はαは0.35TBq/年、β110TBq/年に激減している(図2参照)。THORPの燃料受入れ・貯蔵工程での輸送用遮蔽容器の着脱式内部密封容器を使用したMEB(Multi Element Bottle)方式の採用、遠隔操作、プルトニウム分離の第1サイクルでの”Salt−free”方式の採用等により、廃液量、汚染量ともに低減された。抽出装置は、第1サイクルではパルスカラム(脈動塔)を、ウラン第2、第3サイクルではミキサーセトラーを、プルトニウム第2、第3サイクルではパルスカラムを使用する。図3にTHORPの主工程施設を示す。
 セラフィールドでは透明性と情報公開を目的にセラフィールド地域リエゾン委員会(SLLC:Sellafield Local Liaison Committee)が設けられ、年に地元説明会が2回と公開の場でBNFL、UKAEA、原子力施設検査局(NII)から活動状況が報告される。SLLCは2005年4月から西カンブリアサイト・ステイクホルダー・グループ(WCSSG:West Cumbria Sites Stakeholder Group)へ移行した。
3.THORPの現状
 2005年4月19日、THORP再処理工場前処理施設で放射性溶液(使用済燃料の硝酸溶液)の漏えいが発見され、操業を停止している。BNFL社では、5月27日に概要を公表したが、それによると、4月18日にソープ内で異常を検知したため、通常運転を一時的に停止することを決定した。翌19日に清澄液供給セル内で清澄機から計量槽への配管の破損をカメラで発見し、約83m3の放射性溶液の漏えいを確認している。このセルは、ステンレス鋼製のライニング(内張り)がされており、漏えい液はセル内に閉じ込められているため、大気中の異常放射能は観測されておらず、環境や従業員への影響はなかった。
 原因は、計量槽に接続している配管が金属疲労で破損したため。この計量槽は、槽内の溶液の重量を計測するために、セルの天井から吊り下げられており、この槽に接続している配管に力が働き、金属疲労を起こして破損に至った。計量槽では、次の工程で行われる核分裂生成物、ウラン、プルトニウムの分離のための溶液の計量、硝酸濃度の測定・調整等が行われる。
 THORPの計量槽はAとBの2つが設置され、破断した配管はB槽へ接続されていた。破断箇所は槽の上部と配管のノズルの部分である。(図4参照)。計量槽は図のように天井から吊下げられ計量台に4本のロッドによって支持されており、また上下に移動する仕様だった。BNFLの調査報告書では、計量槽の当初の設計が変更され、容器の動きを抑制する目的の「耐震ブロック」が設置されていなかったことなどにより、配管の接続部分に過大な負荷応力がかかり「金属疲労」が生じていたために破断した記している。事故は国際原子力事象評価尺度(INES)レベル3に分類された。なお、配管の亀裂は2004年8月頃から始まり、2005年1月半ばに破断したとされている。健康安全局(HSE)は施設の設計ミスや漏えいの長期間放置など多くの問題点を指摘し、2006年10月には原子力施設法(1965年)に基づくセラフィールド施設の許可条件への違反として50万ポンド(約1億円)の罰金を科した。
 THORP再処理工場の運転再開には原子力デコミッショニング機構(NDA)と原子力施設検査局(NII)の許可が必要となる。THORP再処理工場の運転停止はオランダ、ドイツ、スイスなど再処理委託行っているヨーロッパ諸国への影響も大きい。
<図/表>
表1 再処理世代分類
表2 セラフィールドでの年間処理
図1 THORPのピューレックスフローシート
図2 セラフィールド再処理工場からの海洋への放射能放出量
図3 THORPの主工程施設俯瞰図
図4 THORP計量槽

・図表を一括してダウンロードする場合は ここをクリックして下さい。


<関連タイトル>
世界の再処理工場 (04-07-01-07)
イギリスの再処理施設 (04-07-03-09)
イギリスの再処理施設における放出放射能低減化 (04-07-03-10)
イギリスの原子力政策および計画 (14-05-01-01)
セラフィールド再処理工場をめぐる動き (14-05-01-09)

<参考文献>
(1)旧核燃料サイクル開発機構:再処理技術の歴史、現状及び課題の分析・評価、技術報告、サイクル機構技法 No.27(2005年7月)、p.23−30
(2)BNFL:Discharges and Monitoring of the Environment in the UK Annual Report 2002(2003年)、http://www.bnfl.com/UserFiles/File/1343_1.pdf
(3)内藤 奎爾(監訳):原子力の技術、燃料サイクル上・下、筑摩書房(1987)(Nuclear Power Technology,Vol.2 Fuel Cycle,UKAEA(1983),Oxford Pressの翻訳)
(4)英国セラフィールド地域リエゾン委員会の議事メモ、http://www.sllc.co.uk/committee.html
(5)Board of Inquiry Report−Thorp fractured pipe,http://www.britishnucleargroup.com/pdf/2765_1.pdf
(6)Proceedings of International Conference on Nuclear Fuel Recycling,Conditioning and Disposal,”RECOD 98”,1998,in Nice,VOL.I,p.19−26,p.87−94
(7)BNFL:The Thermal Oxide Reprocessing Plant,British Nuclear Fuels plc.(1992)
(8)原子力委員会:新計画策定会議(第28回)参考資料5:英国ソープ再処理工場の放射性溶液漏えいについて(平成17年6月7日)、http://aec.jst.go.jp/jicst/NC/tyoki/sakutei2004/sakutei28/sanko5.pdf
(9)British Nuclear Group:Sellafield,http://www.nuclearsites.co.uk/site.php?LocationID=1
(10)健康安全局(HSE):Nuclear Safety Newsletter,http://www.hse.gov.uk/nuclear/nsn3806.pdf
(11)原子力デコミッショニング機構:Assessment of issues associated with THORP non−restart and restart options,http://www.nda.gov.uk/documents/assessment_of_issues_associated_with_thorp_non−restart_and_restart_options,_published_2_march_2006.pdf
RIST RISTトップページへ ATOMICA ATOMICAトップページへ