<大項目> 海外情勢
<中項目> ヨーロッパ各国
<小項目> イギリス
<タイトル>
イギリスの原子力発電開発 (14-05-01-02)

<概要>
 2017年1月末現在、15基1036万2000kWの原子力発電所が運転中で、1995年9月にイギリス初のPWRであるサイズウェルB発電所が営業運転を開始して以降、建設された原子炉はない。一方これまでに閉鎖された原子炉は炭酸ガス冷却炉(GCR)26基、AGR 1基、蒸気発生重水炉(SGHWR)1基、FBR 2基の合計30基、550万6,000kWにのぼる。閉鎖された原子炉の大半は、世界に先駆けて実用化に成功した1950年〜1960年代に開発されたマグノックス炉と呼ばれるGCRで、出力は6万〜50万kW級であり、老朽化も進んでいた。
 イギリスでは、1986年のチェルノブイリ原子力発電所の事故以来、原子力発電所開発には消極的な立場をとってきたが、北海ガス田の枯渇、エネルギー安定供給、地球温暖化ガス排出削減目標の達成等から、原子力発電が見直されている。2008年1月に発表した「原子力白書」で新規原子力発電所建設の推進が発表された。
 一方、民営化・自由化が完了したイギリスの電力市場は、国外企業による企業買収が進み、海外資本をベースにした新規原子力発電所の建設計画が5サイトで浮上している。
<更新年月>
2017年01月   

<本文>
1. 原子力発電の現状
 2017年1月末現在、運転中の原子力発電所は8サイト15基で、設備容量は1,036万2,000kW(グロス出力)である(表1および図1参照)。炉型別の内訳は改良型ガス冷却炉(AGR)が14基・911万2,000kW、加圧水型冷却炉(PWR)が1基・125万kWである。ウェールズ地方で唯一稼働中であったウィルファ1号機(WYLFA)が2015年12月30日に閉鎖され、国内すべての炭酸ガス冷却炉(GCR:Gas Cooled Reactor)の運転が終了した(表3参照)。また、イギリス初のPWRであるサイズウェルB(SIZEWELL B)発電所が1995年9月に営業運転を開始して以降、建設された原子炉はない。
 2015年末時点の原子力発電による発電電力量は638億9454万kWhで、総発電電力量に占める原子力の割合は18.9%であった。一方これまでに閉鎖された原子炉はGCR 26基、AGR 1基、蒸気発生重水炉(SGHWR)1基、FBR 2基の合計30基、550万6,000kWにのぼる(表2および図1参照)。AGRは改良型とはいえ1970年〜1980年代に運転を開始しており、2016年〜2023年にかけて閉鎖される計画であったが、所有者であるEDFエナジー社は2016年2月までに全てのAGRの運転期間を5年〜7年間延長し、PWRに関しても20年間の運転を延長、新規原子炉に引き継ぐまでの間は既存原子炉によって必要な電力供給量を賄う方針を明らかにしている。なお、イギリスでは原子力発電所の運転期間に法的規定はなく、原子力規制庁(ONR:Office for Nuclear Regulation)が実施する定期安全審査(PSR:Periodic Review of Safety)に合格した場合、10年間の運転延長が認められる。
2. 原子力発電の位置付けの推移
 イギリスでは、原子力開発の初期1950年−1960年代にウラン濃縮プラントや重水濃縮プラントもなかったことから、黒鉛減速炭酸ガス冷却型原子炉(GCR:Gas Cooled Reactor)の開発に着手した。GCRは天然ウラン金属棒をマグノックス(マグネシウム合金)で被覆していることから、マグノックス炉ともいわれる。GCRの実用規模の発電用としては世界で最も早い時期にイギリスで実用化され、その1号機(コールダーホール型、6万kW)が1956年10月に運転を開始した。GCRは出力の割には大型で経済性が低いことから、出力密度熱効率の向上が図られ、1970年代を中心に改良型ガス冷却炉(AGR:Advanced Gas−cooled Reactor)の開発が進められた。
 しかし、AGRの開発において様々な問題が生じたことから、開発計画は大幅に遅れ、最終的にAGR開発路線に変更はなかったものの、その間、PWRや蒸気発生重水炉(SGHWR)を含めた炉型決定の試行錯誤が続いた。1980年代に入ってから、AGRの予備的オプションとしてPWRが採用され、ヒンクリーポイントC、サイズウェルB&CおよびウィルファBの4基のPWRの建設が計画された。PWR初号機としてサイズウェルB発電所が1987年6月に着工、1995年9月に運転を開始している。しかし、1986年のチェルノブイリ原子力発電所の事故以降、イギリスは原子力発電所には消極的な立場を取り、1997年に反原子力の立場を取る労働党が18年ぶりに政権を奪還すると、ブレア首相は運転中の原子力発電所の運転継続は認めたものの、新規発電所の建設は凍結されることになった。
 1990年の電力民営化や競争導入という流れの中で原子力開発は低迷していたが、2000年代に入ると北海ガス田の枯渇によりエネルギー安定供給や、地球温暖化ガス排出削減が課題となって、政府は原子力開発の再開を視野に入れたエネルギー政策の策定に取りかかることになった。
 高速炉については、1955年から英国原子力公社(UKAEA)により、ドーンレイ炉(DFR:Dounreay Fast Reactor)や、高速原型炉(PFR:Prototype Fast Reactor)の研究開発・建設・運転が実施されていた。しかし、開発・運営にかかる費用がかさむこと、1980年以降は世界で多くのウラン資源が発見され、ウランの希少価値が薄れたことなどを背景に、政府は1988年に開発を中止し、1994年にPFRの運転を終了した。
3. 新規原子力発電所の建設計画
 新規原子力発電所の建設運転に関する安全審査を迅速に行うため、原子炉の安全審査と立地場所の安全・環境・地域社会への影響など総合的な評価を並行して実施する新たな許認可システムが構築された。2008年1月の原子力白書に記載されている新規原子力発電所建設スケジュールでは、計画は(1)戦略的サイト評価(SSA)・・・サイト決定手続き、(2)包括的設計審査(GDA)・・・事前設計認可審査、(3)放射線利用の影響評価・・・ICRP勧告に基づいた電離放射線利用導入前の健康、安全、地域社会・経済に与える影響評価(Justification(註1))、(4)放射性廃棄物と廃止措置・・・バックエンドの財源確保の4つが並行して進められる。建設許可の決定は、サイト許可(NSL)、包括的設計審査(GDA)および放射線利用の影響評価の結論を経て、インフラ計画委員会MIPU(Major Infrastructure Planning Unit(註2))の総合的な助言を受けて、所轄であるエネルギー・気候変動大臣が最終的な判断を行うことになる。
 また、原子力発電開発は建設から発電までのリードタイムが長く、初期費用が高いことから、投資家や電気事業者の投資リスクを軽減するため、政府はFIT−CfD制度(低炭素発電電力の差金決済取引(CfD:Contracts for Difference)による固定価格買取制度(FIT:Feed−in Tariff))を導入した。FIT−CfD制度とは発電事業者と送電事業者が長期間にわたりストライク価格(strike price、権利行使価格)を設定し、売買契約を行うことである。
(註1):Justification of Practices Involving Ionising Radiation Regulations 2004(S.I.2004/1769)
(註2):インフラ計画委員会MIPUは「2011年ローカリズム法」の成立に伴い、2008 Planning Actに基づいて2009年10月に設立された。独立機関IPC(Infrastructure Planning Commission)の一部機能が移管した組織で、コミュニティ・地方政府省(DCLG:Department for Communities and Local Government)の一部局である計画検査局(Planning Inspectorate)に属する。
3.1 包括的設計審査(GDA:Generic Design Assessments)
 原子力規制庁(ONR)と環境庁(EA:Environmental Agency)による原子炉の安全審査で、米国と同様の原子炉型式承認方式が採用されている。2007年1月のGDA手続きガイドラインに従って、カナダ原子力公社AECL(ACR−1000、出力120万kW)、EDF・アレバ社(EPR、出力160万kW)、米国ウェスチングハウス(WE)社(AP−1000、出力110万kW)、GE日立ニュークリアエナジー(GEH)社(ESBWR、出力155万kWとABWR出力130万kW)が設計認証の申請を行った。ACR−1000はAECLがカナダ国内事業に専念するため2008年4月に設計認証申請を取下げ、ESBWRは対象プロジェクトがないため、2008年3月に審査を凍結した。EPRに関しては2012年12月13日、ONRは問題点がすべて解決されたとして設計承認確認書(DAC:Design Acceptance Confirmation)を発行し、環境庁(EA)も同日設計容認声明書(SoDA:Statements of Design Acceptability)を発行した。AP−1000とABWRは2017年の審査完了を目指している。
3.2 立地選定
 2025年末までに建設が可能な新規原子炉の立地選定には、まず戦略的サイト評価(SSA:Strategic Siting Assessment)が行われる。2009年3月までに11か所の立地申請が行われたが、潜在的環境影響リスクの高いダンジネス発電所サイトは除かれ、ハートルプール、ヘイシャム、ヒンクリーポイント、サイズウェル、セラフィールド、ブラッドウェル、カークスアントン、ブレイストーンズ、ウィルファ、オールドベリーの10ヶ所が立地サイトとして2009年11月に「原子力国家政策声明書(Nuclear National Policy Statement)」の草案の中で公表された(図2参照)。このうちカンブリア州ブレイストーンズとカークサントンを除く全ての立地候補地が既存原子力発電所の立地点である。その後候補地はさらに既存原子力発電所の立地点に絞り込まれ、公聴会を経て2011年7月に国会の正式承認を得た。戦略的サイト評価を経た8サイトは、さらに原子力規制庁(ONR)の審査を受け、サイト許可(NSL:Nuclear Site License)が発給される。なお、ONRの審査は、用地の使用目的、建設から廃止措置までの事業計画、サイト適性、申請者の組織体制や安全管理能力に及んでいる。
4. 新規原子炉建設計画の進捗状況
 イギリスの発電市場は、国営電力会社の分割民営化と市場の自由化によって海外企業による企業買収が進み、フランスの電力会社EDFとドイツの電力会社のE.ON(ドイツ第1位)とRWE(ドイツ第2位)、スペインの電力会社イベルドローラ(Iberdrola)および国内企業のSSE(Scottish and Southern Energy)の5社に集約された(図3参照)。これ等5社は全て原子力発電所の建設を計画したが、2011年9月にSSEが撤退、さらに2012年3月29日に脱原子力政策を進めるドイツの電力会社E.ONとRWEが撤退を表明した。2017年1月時点、EDFエナジー・中国広核集団有限公司(CGN)のヒンクリーポイントとサイズウェル、東芝・Engie社のムーアサイド、日立・GE社のウィルファとオールドベリーの5か所で原子力発電所建設プロジェクトが進行中である(図4参照)。
(1)ヒンクリーポイントおよびサイズウェル・プロジェクト
 推進母体はNNB GenCoであり、請負会社はEDFエナジー社である。NNB GenCoはEDFとセントリカ社の合弁会社であったが、セントリカ社が2013年2月に撤退したため、中国企業が資本参加することになり、2016年9月中国広核集団有限公司(CGN)と資本提携することがイギリス政府に承認されている。
 このプロジェクトは新規発電所建設の第一弾プロジェクトとして大きく期待されているものの、なかなか前進していない。アレバ社製EPR(グロス電気出力167万kW×2基、設計寿命60年)が採用され、サイト許可(NSL)を2012年11月に取得、GDA審査を2012年12月に完了、開発合意書(DCO)が2013年3月に発給され、新規建設に向けた許認可をすべてクリアしている。2013年10月にはイギリス政府とEDFとの間で、FIT−CfD制度のストライク価格を92.5ポンド/MWh(サイズウェル実施時は89.5ポンド/MWh)、適用期間35年で合意している。なお、CGNの出資比率は33.5%である。
 サイズウェルCはサイズウェルA(GCR×2基、2006年閉鎖)、サイズウェルB(PWR、2035年まで運転)に隣接するサイトである。プロジェクトではアレバ社製EPR・2基を建設する予定で、EDFエナジー社は2012年11月から地元対象に公聴会を開いている。なお、CGNの出資比率は20.0%である。
(2)ウィルファおよびオールドベリー・プロジェクト
 ウィルファでの新規原子炉建設の推進母体はホライズン社であり、請負会社は日立・GEである。ホライズン社はE.ONとRWEが2009年11月に設立した会社で、当初の計画では、ホライズン社が2012年中にIPCへの建設申請を行い、2020年から2025年の間に運転の開始を予定していた。しかし、E.ONとRWEが撤退したため、2012年11月に日立・GEがホライズン社の株式を取得、採用原子炉をABWRに変更した。これを受けて2013年1月、イギリス政府はABWRについてGDAの開始をONRとEAに要請した。
 日立・GEは、2013年11月に同プロジェクトの正式名称をWylfa Newydd(ウィルファ・ニューウィッド)と決定している。イギリス政府債務保証スキームによる資金援助を受けるため、12月4日にプロジェクト協力協約を財務省との間で締結している。当面は型式認定取得が先行することとなり、ONRおよびEAによりABWRのGDAが進められている。
 オールドベリー・プロジェクトも推進母体はホライズン社、請負会社は日立・GEで、ABWR×2基を建設する計画である。
(3)ムーアサイド・プロジェクト
 ムーアサイドはセラフィールド(Sellafield)の北側隣接地190haで、2009年10月に原子力廃止措置機関(NDA)から土地購入オプションを取得した。原子力発電所建設の推進母体はNuGen社であり、請負会社は東芝・WE社である。NuGen社は当初、GDFスエズ(現、Engie社)、イベルドローラ(Iberdrola)、SSEの3社による合弁企業であったが、2011年9月にSSEが、2013年12月にイベルドローラが撤退し、2014年6月に東芝・WEが株式の60%を取得してNuGenの筆頭株主となった。これにより、AP−1000が採用されることになり、ONRおよびEAによりGDAが進められている。
(前回更新:2010年9月)
<図/表>
表1 イギリスの原子力発電所一覧(運転中・計画中)
表2 イギリスの原子力発電所一覧(閉鎖)
表3 イギリスのマグノックス炉の閉鎖計画
図1 イギリスにおける原子力発電所配置図
図2 イギリスにおける新規原子力発電所建設候補地
図3 イギリスにおける電力・ガス産業の再編
図4 イギリスにおける新規原子力発電所建設の進捗状況

・図表を一括してダウンロードする場合は ここをクリックして下さい。


<関連タイトル>
改良型ガス冷却炉(AGR) (02-01-01-07)
ガス冷却型原子炉の技術的進展 (03-03-01-01)
イギリスの原子力政策および計画 (14-05-01-01)
イギリスの原子力開発体制 (14-05-01-03)
イギリスの電気事業および原子力産業 (14-05-01-06)
マグノックス炉の廃炉計画 (14-05-01-12)

<参考文献>
(1)日本原子力産業協会:世界の原子力発電開発の動向2016年版(2016年4月)
(2)原子力年鑑編集委員会編纂:日刊工業新聞社発行、原子力年鑑 2017年版
(2016年10月)、イギリス
(3)日本原子力産業会議:原子力年鑑 2003年版(2002年11月)、p.367
(4)エネルギー・気候変動省(The Department of Energy&Climate Change):
Nuclear power in the UK、2016年7月、https://www.nao.org.uk/wp-content/
uploads/2016/07/Nuclear-power-in-the-UK.pdf
(5)原子力安全研究協会:平成27年度文部科学省委託事業 原子力平和利用
確保調査 成果報告書、 2016年3月、http://www.mext.go.jp/component/
a_menu/science/detail/__icsFiles/afieldfile/2016/07/12/1364263_03.pdf
(6)日本エネルギー経済研究所:平成27年度電源立地推進調整等事業(国内外
における電力市場等の動向調査)調査報告書、2016年2月、
http://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2016fy/000099.pdf
(7)エネルギー・気候変動省(The Department of Energy&Climate Change):
Nuclear power in the UK、2016年7月、https://www.nao.org.uk/wp-content/
uploads/2016/07/Nuclear-power-in-the-UK.pdf
(8)株式会社アイ・ビー・ティ:平成26年度原子力発電施設広聴・広報等事業
(原子力発電立地国における原子力発電施設立地地域との関係の変容に関する
調査)、2015年3月、http://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2015fy/000463.pdf
(9)海外電力調査会:海外諸国の電気事業 第1編2008年版(2008年10月)、
p.257−298
(10)世界原子力協会(WNA):Nuclear Power in the United Kingdom(2017年
1月更新)、http://www.world-nuclear.org/information-library/country-profiles/
countries-t-z/united-kingdom.aspx
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