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<概要>
米国エネルギー省(DOE)エネルギー情報局(EIA)は、2005年1月「エネルギー見通し2005年版」を発表した。これは2025年までの中期の米国のエネルギー供給、需要、価格の分析と予測を示したものである。ここでは、原子力を含む電力の予測について記す。四半世紀以上も原子力発電所新設がなかった米国において、原子力発電所の新設について予測することは、建設コストに関する具体的なデータがないため、困難を伴うものと思われる。National Energy Modeling System(NEMS)を用いたそのプロセスについて紹介する。また、原子力の予測については、従来から米原子力エネルギー協会(NEI)がレビューしている。今回の原子力新設がないと予測されていることに対するNEIの批判についても紹介する。
<更新年月>
2005年07月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
I はじめに
 米国エネルギー省(DOE)エネルギー情報局(EIA)は、2005年1月「エネルギー見通し2005年版」を発表した。これは2025年までの中期の米国のエネルギー供給、需要、価格の分析と予測を示したもので、予測には、EIAの National Energy Modeling System(NEMS)が用いられている。以下では、原子力を含む電力の予測について記す。また、原子力の予測については、従来から米原子力エネルギー協会(NEI)がレビューしている。今回の批判について紹介する。
II 「エネルギー見通し2005年版」の電力の予測
(1) 販売と需要の動向
 全販売電力量は、AEO2005レファレンス・ケースで、2003年の3兆4810億kWhから1.9%の年平均増加率で増加し、2025年の5兆2200億kWhに達すると予測される(図1)。
 2003年から2025年までの電気販売量の増加は、民生住居部門で1.6%、同業務部門で2.5%、産業部門で1.3%と予測される。2025年の住居の平均サイズは、2003年に比べて面積と天井までの高さとも増加すると予測され、対応する暖房、冷房、照明用電力使用量の増加をもたらす。加えて、より温暖な気候の地域への人口シフトは空調のために使われる電気の量を増やす、しかし、予測される増加は、2006年に実施されるエアコンとヒートポンプのより厳しい効率基準によって幾分緩和される。表1に2002年から2013年までの部内別販売電力量と、そのシェアの予測を示す。
 業務部門の電気設備の予想される効率向上は、新しい電気通信技術と医学のイメージング装置の使用増加、事務用機器の使用増加及び床面積の急速な増加によって相殺される。
 産業部門の電力の使用は産業の産出量増加と共に増加すると予測されるが、産業部門への電力販売の増大は年平均2.7%の現地での発電増加で相殺される。
(2) 増設設備
・増設設備容量追加を早くするため、天然ガス、石炭プラントを使う。
 電力需要の増加と能率の悪い古い発電設備43,000MWの閉鎖によって新しい設備容量(熱・電気併給を含む)281,000MWが、2025年までに必要である。閉鎖される大部分の設備は、新しい天然ガス燃焼タービンまたは複合サイクル設備と競合できないような、古い石油・天然ガス燃焼スチーム設備、石油・天然ガス燃焼タービン及び石炭専焼設備と予測される。
 追加新設備容量の60%以上は、天然ガス燃焼複合サイクル、燃焼タービンまたは、分散型発電技術によると予測される(図2)。
 追加設備容量の80%以上は、発電容量の現在の過剰が解消される2010年以後必要である。予想では、天然ガス価格が予測の後の期間に上昇するので、新しい石炭燃焼設備容量は競合可能になり、レファレンス・ケースで予期される容量拡大のほぼ3分の1になると予想される。大部分の新しい石炭設備容量は、改良型の微粉炭技術を使用して、2015年以降操業開始となっている。資本費が高いが比較的安い燃料コストの改良型のクリーンコール技術を使用する16,000MWの石炭火力もまた、加えられることになっている。予測される設備容量拡大の約5%は、再生型発電ユニットである。別に7,000MWの分散型発電−大部分はガス燃焼のマイクロタービン−も、また、2025年までに新設される。
 高い燃料コストで低効率の石油専焼蒸気プラントは、新しい産業用の複合熱・電容量としてのみに、使われる。
(3) 電源別のシェア
 石炭専焼発電所は、2025年まで国の大部分の電力を供給し続けることになっている(図3)。表2に燃料別発電電力量とそのシェアの予測を示す。
 2003年に、石炭専焼発電所(電気事業者、独立生産者及び最終用途の熱・電複合を含む)は、全発電量の51パーセント(1兆9700億kWh)であったが、その全発電量中のシェアが天然ガス燃焼発電の急速な増加の結果、50パーセントまで下落するが、2025年に2兆8900億kWhまで増加すると予測される。
 環境の規制に応じて、既存の石炭火力設備容量の約3分の1が二酸化硫黄排出を減らすスクラバーを付けているが、さらに27,000MWの設備容量が2025年までにスクラバーを持つと期待される。また、2010年以後天然ガス価格が上がり続けるので新しい石炭専焼の87,000MWの設備容量が、レファレンス・ケースでは追加されると予測される。
 原子力発電(現在2番目に大きい電源、シェア約20%)は、プラント・性能の追加の改良、原子力発電所の設備利用率は少し増加し、現存の容量の増加の結果として発電量は少し増加し、2017年以後横ばい(シェア約15〜14%)になると予測されている。天然ガスは、全発電量中のシェアを、2003年の17%から、2010年に20%、2025年の24%へと大きく増加させると期待され、2010年までに、原子力に追いついて、2番目に大きい電源となると予測される。水力を含む再生型電源からの発電は2003年から2025年まで36%増加すると予測される、しかし、全電力供給中のそのシェアは2003年の9%から2025年に8%まで低下する。
 アメリカ合衆国は現在104基の商用原子炉の稼動を認可している。2003年に発電量の全体3兆6900億kWhの約20%を提供している(図4)。
(4) 原子力発電の動向
・米国の原子力ユニットの性能は、最近改善されている。
 国の平均の設備利用率は、2003年に88%にやや落ちる前2002年には90%まで上がった。プラントの加齢の間はパフォーマンス改良が続くと仮定される。そして、2010年以後92%の加重平均設備容量になると仮定される。レファレンス・ケースでは、2003年から2025年まで、原子力ユニットの閉鎖は予測されていない。既存のユニットでの予定の増加のために、原子力発電容量は、わずかに増大する。米国原子力規制委員会(NRC)は2003年に8つの出力増加の申請を承認し、さらに12の申請を2004年に承認するか未決定にするかとなっている。
 レファレンス・ケースは、全ての出力の増加が実行されると仮定し、次の15年間に、同様なことがNRCによって予期され、2025年までに全原子力設備容量に3,500MWの増加があると仮定している。新しい原子力ユニットが、2003年からと2025年の間で稼動するとは予測していない。その運転が置換設備容量の建設コストと比較して、もはや経済的でないならば、原子力ユニットは閉鎖されるだろう。また、2025年までに、大多数の原子力ユニットが、その本来の認可失効日を越えるであろう。2004年12月現在、30基の原子力ユニットの認可更新がNRCに承認された、そして、16の申請がレビューされていた。28の追加申請者が来る3年間に許可更新をするという意向をアナウンスし、原子力ユニットの現存のストックを維持することに強い関心を示した。
(5) 新設備容量の増設
 増設は全ての地域で必要とされている。増設の要望は南東部と西側で最も大きい。この増設には多様な電源が使用され、大部分は天然ガス燃焼火力と予測される。
 新発電設備の選択は、地方と連邦の排出規制に適合しつつコストを最小にするように行われる。設備容量追加のための技術の選択は、利用できるうちの最も安価なオプションに基づく(図5)。リファレンス・ケースでは、資本の回収期間を20年とみなしている。加えて、新しいユニットのサイト決定のリスクを考慮するために、資本コストは競争的市場のレートに基づいている。資本費は、各テクノロジーの開発の現段階に依存するレートで時間と共に減少すると予測される。最新のテクノロジーに対して、資本費はプロジェクト・コストの初期の評価に、地域的偏差と固有の楽観主義を反映するために最初は上方へ調製される。プロジェクト開発者が経験を得ると、コストは落ちると仮定される。より多くのユニットが建設されるので、コストの低下がゆっくりとした割合で続く。これによって増設の予測を行っている。
III NEI の批判について
 EIAによる予測に対してNEIは、「1999年版エネルギー見通し」では5080万kWに相当する原子力発電所が2020年までに閉鎖するとみていた当時と比べると、ずいぶん様変わりだと指摘をしている。
 EIAは今回の見通しのなかで、一転して(新規の建設がないにもかかわらず)原子力発電設備容量が拡大すると見ている。「エネルギー見通し2005年版」では、原子力発電設備容量が2003年の9920万kWから、2025年には1億270万kWに増加すると予測している。これには、定格出力の増加が寄与している。また、2025年までに閉鎖される原子力発電所が1基もないと予測しているのも、以前の見通しとまったく異なる点であり、NEIは、今回の見通しに対して、ここまでは一応の評価を下している。
 しかし、新規原子力発電所の建設に関するEIAの見通しについては同意しておらず、大幅に改善の余地があると指摘している。
 この原因として、EIA のNEMSで非現実的に、高く膨らました新設容量あたりの資本費を用いたためであるとしている。EIAは2004年に新設設備の金利抜き建設コスト(Overnight Cost)を1928 (2002$/kW) と仮定しており、今回も同じ手法によっている。すなわち、基準のオーバーナイト・コストは、アジアの建設実績等から1694(2003$/kW)として、これに地域的な違い及び技術的楽観からくる因子、1.05及び1.10をそれぞれ乗じて、全オーバーナイト・コスト1957(2003$/kW)を導出し、これを用いている。その際2025年においてレファレンス・ケースよりも20%安くなるとするAdvanced Nuclearケース、さらに、もっとコストの安いAP−1000型炉に関する企業側のコスト評価も参考にして、低コスト予測の感度解析をしている。
 NEIは、米国で新規に原子力発電所を建設する場合、初号機コストを含めるとkWあたり1400〜1500ドルで、また初号機以降のn番目の原子力発電所についてはkWあたり1100〜1200ドルで建設できるとする見方が妥当との見解である。
 その理由として、AP-1000型炉については詳細なコスト予測が行われた。2002年には、ウェスチングハウス、米国内の主要電力会社7社、ベクテル社で構成されたチームが、100万ドルをかけてAP-1000の設計の再評価を行った。その一環としてベクテル社は、コスト予測の見直し作業を実施した。それによると、一部の情報については公開されていないものの、同一サイトにAP-1000型炉を2基(初号機)建設した場合のオーバーナイト・コストはkWあたり1400ドル以下と算定された。この中には、最初のプロジェクトとして2基の原子力発電所を建設するにあたっての設計、エンジニアリング、許認可に要するコストがすべて含まれている。最初の2基が建設されてしまえば、それ以降に建設される後続発電所のオーバーナイト・コストはkWあたり1000ドルの範囲に入ってくる。ここまで来れば、連邦政府の財政支援が何らなくても、原子力発電所は民間の努力だけで建設できるようになる。
 同様に、米国内に単機べ一スでABWRを建設する場合のオーバーナイト・コストは、kWあたり1445ドルと算定された。ほぼ1年の間隔をあけ、同一サイトに2基建設した場合のオーバーナイト・コストは、kWあたり1300ドルに低下する。いずれも、ABWRの出力を145万kWとしてコスト試算が行われた。
 EIA のオーバーナイト・コストはどう見ても高すぎる。このような非現実的な予測は、多くのところで弊害をもたらす。実際、一例として、2003年に上院でMWhあたり18ドルの連邦(電力)生産税控除の導入が検討された際、EIAが2025年までは原子力発電所の新設が無理と予測していたことが、生産税控除の導入が見送られてしまった一因となったと考えられると言う。時限的な生産税控除がなくなった段階で原子力発電所の新設は途絶えると見るEIAの見解に対して、そのようなことはないと言うのがNEIの見解である。
 しかし、2025年までの需要、価格、供給の大勢において、EIAの予測に変更の必要はないと思われる。2020年頃の価格及び供給に多少の変更はあるかもしれない。政策決定に関していえば、この程度の変動に対しては、当然政策に織り込んでいるべきで、政策決定がEIAの見解によって影響されたというのは、短絡的に過ぎないかと思われる。現状のデータを元に予測するとすれば、この予測のようになるのは避けられないことではなかろうか。
<図/表>
表1 部門別販売電力量とそのシェアの予測
表1  部門別販売電力量とそのシェアの予測
表2 燃料別発電電力量とそのシェアの予測
表2  燃料別発電電力量とそのシェアの予測
図1 部門別年間販売電力量
図1  部門別年間販売電力量
図2 燃料別増設設備容量(熱・電複合含む)
図2  燃料別増設設備容量(熱・電複合含む)
図3 燃料別年間発電量
図3  燃料別年間発電量
図4 原子力発電年間発電量
図4  原子力発電年間発電量
図5 新設プラントの平滑化した電力コスト
図5  新設プラントの平滑化した電力コスト

<関連タイトル>
平成17年度電力供給計画 (01-09-05-22)
米国原子力規制委員会の許認可プロセスとその適用状況 (14-04-01-35)
原子力発電拡大を目指す米国の動き (14-04-01-36)
米国エネルギー省と原子力産業界の軽水炉開発共同計画 (14-04-01-39)

<参考文献>
(1)EIAホームページ:Annual Energy Outlook 2005 with Projections to 2025(AEO2005),,Market Trends - Electricity Demand and Supply,
(2)EIAホームページ:AEO2005,Assumption to the Annual Energy Outlook 2005,,Electricity Market Module
(3)EIAホームページ:AEO2004,Assumptions to the Annual Energy Outlook 2004, http://www.eia.doe.gov/oiaf/archive/aeo04/assumption/index.html,Electricity Market Module
(4)NEIホームページ:U.S. EIA’s Annual Energy Outlook 2005 Erroneous Regarding New Nuclear Plant Construction According to Industry Analysis,
(5)山名康裕(編):月刊エネルギー5月号、(株)日刊工業新聞社(2005/4/28)、pp.54-58
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