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<概要>
 米国では、2020年までに約6,000万kWの発電容量の増加が必要と推定されている。他方、2002年の世論調査では、原子力の安全確保と信頼性向上の実績から公衆の75%が原子力発電の重要性を認め、56%が将来の増設を望んでいるという結論を得た。米国原子力エネルギー協会(NEI)は「原子力ビジョン2020」を発表し、この中で、「2020年までの20年間に原子力発電開発として、新設プラントで5,000万kW、既設プラントの出力増強で1,000万kW」という目標を掲げた。原子力エネルギーの再活性化に向け、ブッシュ政権は、「原子力2010計画」を策定して、原子力発電所の早期新設に向けて支援策を講じるとともに、新規炉型の設計認証、早期サイト許可制度の導入、より合理的な許認可プロセスとして建設・運転一括認可の制度の導入等を行い、民間事業者もこうした政府の後押しの下で新規原子力発電所の建設準備を活発に進めている。
<更新年月>
2010年04月   

<本文>
1.「ヴィジョン2020」の背景
 米国では31の州に約100基、電気出力1億kWを超える容量の原子力発電所を擁しており、原子力は米国の電力の約5分の1を供給している。米国の電力需要の年平均増加率は1950年代の8.7%から1990年代に2.3%(図1)と低下してきた。2000年以降は1.0%とさらに減少しているが、今後とも年率1%程度の割合で増加するとみられており、2020年までに約6,000万kWの発電容量の増加が必要と予想されている。このうち、1,000万kWは既設の原子力発電所の出力増強で賄うことができるが、残りの5,000万kWに関しては新たに建設しなくてはならない。
 原子力利用の拡大に関する米国の消費者、エネルギー政策関係者の認識、賛否は、以下のとおりである。
(1)2002年2月の世論調査では原子力の安全確保と信頼性向上の実績から公衆の75%が原子力発電の重要性を認め、56%が将来の増設を望んでいる。
・原子力発電所近くの住人は、発電所が安全と環境保護に努力するのを見ているので、一般の人々よりも強く、新規原子炉の増設を支援している。
(2)原子力エネルギーは安価で(図2)、環境への汚染物質や温室効果ガスの排出がなく、環境を浄化するのに役立つエネルギー源である。
・原子力エネルギーは汚染された水の浄化、海水脱塩にも広く利用されている。
・原子力エネルギーは水素生産のクリーンなエネルギー源で、水素は輸送と分散的発電のためのクリーンな燃料として使用される。
(3)生活の質を高めるため、原子力技術の役割を拡大することを望んでいる。
・バイオ医学研究での放射性同位元素の利用は、病気の解明に役立っている。
・核医学的診断および治療によって、毎年1,000万人以上の生命が救われている。
・世界中で食品照射は、食物中の病原体を殺し、食物腐敗防止に役立ちつつある。
・放射性同位元素は農業技術の改良、特に土壌改良と収量の改善に役立っている。
電離放射線を使って、バイオテロリズムの防護ができる。例えば、郵便を通して散布される炭疽病の防止等。
放射線は、消耗品と医薬品の殺菌に広く使われている。
・原子力技術の革新を続けて行けば、もっと多く人類の役に立つようになる。
2.原子力産業及びDOEの動き
2.1 「ヴィジョン2020」
・議会および州当局者の認識では、エネルギー政策と環境政策の一体的推進の必要性が強まりつつある。原子力エネルギーは、家庭や事業のための電気の5分の1を生産する一方、大気中への汚染物質の排出を防止するという、優れたクリーンなエネルギー技術である(図3)。
・2001年9月の米国同時多発テロ事件後、発電所の安全確保に多くの人々の関心が集まったが、原子力発電所は厳重な警備体制のもとで防護されており、頑丈な構造と物理的防護がテロ行為に対する優れた障害となっている。深層防護の思想は、核燃料の被覆、鋼製の容器、および厚い強化コンクリートなど、格納容器を含め一連の安全システムとして統合している。
・将来の重要なオプションとしての原子力
 米国エネルギー情報局EIAによれば、米国のエネルギー需要は2020年までに50%以上増加すると予想されている。米国では、石油、石炭等の化石エネルギーへの依存が強いが、原子力エネルギーも安全運転の実績を積み重ねて信頼性を向上させており、今後のエネルギー源の多様化に大いに貢献できると期待されている。こうした背景の下で、米国原子力エネルギー協会(MEI)は2001年に原子力発電の積極的な推進を目指した「ヴィジョン2020」を発表した。「ヴィジョン2020」では2020年までの20年間に原子力発電容量を、新設プラントで5,000万kW、既設プラントの運転延長と出力増強で1,000万kWを開発するという目標を掲げている。
2.2 DOEの「原子力2010計画」
 DOEは2002年2月に「原子力2010計画」−クリーンで使いやすいエネルギーに関する政府と企業の協力−を公表し、原子力エネルギー利用の再活性化に向けて動き出した。
 2010年までに新しい原子力発電所を建設する政府支援策として、DOEは民間部門と協力して新規原子力発電所を設置する場合の「早期サイト許可」(ESP:Early Site Permit)手続きの実証を開始した。これは建設決定から運転開始までの期間を大幅に短縮することを目指し、原子力発電所の建設決定前に候補地の承認が得られるようにしたものである。
 2002年2月に、早期サイト許可の事例として、DOE施設のIdaho National Engineering Environmental Laboratory(INEEL)およびオハイオ州ポーツマスサイトと、ドミニオン社のノースアンナ(ヴァージニア州)、エンタジー社のグランドガルフ(ミシシッピ州)、エクセロン社のクリントン(イリノイ州)の民間原子力発電会社の増設可能な3地点で立地適合性の審査申請準備が行われている。これらの会社は、2003年秋までに申請書を提出し、2005年頃にNRCの承認を期待している。DOEは新規の許可プロセスの最初のデモンストレーションのコストを分担し、各会社に少なくとも資金の50%を提供する。
 早期サイト許可審査にあたっては、当該サイトが原子力発電所立地点として適しているかどうかということに加え、緊急時計画や発電所の建設・運転にともなう環境影響などの問題を中心に、立地に関連したあらゆる問題に検討が加えられる。新しい許認可プロセスでは、サイト決定と炉型のデザイン審査の両方について、早くから公衆を参加させるものである。NRCが承認すれば、最高20年の間有効で、炉型のデザイン証明と一緒に使われ、建設と運転認可、並びに新プラント建設の最終的な規制段階で使用するためにファイルされる。
3.新設準備・更新の進行状況
3.1 先進的原子炉の設計認証
 米国では革新的な安全機能を持つ先進的原子炉のデザインが幾つか提案されているが、下記のように2006年までに4件がNRCによって設計認証(Design Certification)を得ており、さらに、幾つかのデザインについて審査が進められている。
 1. GE Nuclear EnergyのAdvanced Boiling Water Reactor(1997年8月)
 2. WestinghouseのSystem 80+(前はABB-Combustion Engineeringの)(1998年6月)
 3. WestinghouseのAP600(2000年3月)
 4. WestinghouseのAP1000(2006年1月)
 以下の炉は設計認証申請が提出され、NRCによる審査が行われている。
・AREVA社のU.S.Evolitionary Power Reactor(U.S.EPR)
・GE-日立社のEconomic Simplified Boiling Water Reactor(ESBWR
・GA(General Atomics)社のGas Turbine-Modular Helium Reactor(GT-MHR)
・三菱重工のU.S. Advanced Pressurized-Water Reactor(US-APWR)
3.2 早期サイト許可証
 NRCは以下の申請に対して早期サイト許可を発行した。
・エクセロン社のクリントンサイト(2007年3月)
・System Energy Resources社のグランドガルフサイト(2007年4月)
・ドミニオン社のノースアンナサイト(2007年11月)
・サザンニュークリア運転会社のボーグルサイト(2009年8月)
3.3 建設・運転一括認可
 米国政府は新規原子力発電所の建設を促すために許認可プロセスの合理化の一環として、建設・運転一括認可(COL)の制度を設けた。こうした政府の支援の下で民間事業者も新規発電所の建設に積極的に取り組む姿勢を見せており、2007年から2009年にかけて17件(26基)の申請がNRCに提出されている。NRCが受理した新規原子力発電所の建設申請のサイトを図4に示した。
(前回更新:2004年1月)
<図/表>
図1 米国電力需要の年平均増加率の年代別推移
図1  米国電力需要の年平均増加率の年代別推移
図2 米国の電力生産コスト
図2  米国の電力生産コスト
図3 原子力発電と大気汚染状況
図3  原子力発電と大気汚染状況
図4 米国における原子力発電所の新規立地点
図4  米国における原子力発電所の新規立地点

<関連タイトル>
アメリカの原子力政策および計画 (14-04-01-01)
アメリカの原子力発電開発 (14-04-01-02)
アメリカの原子力開発体制 (14-04-01-03)
アメリカの電気事業および原子力産業 (14-04-01-06)
米国原子力規制委員会の許認可プロセスとその適用状況 (14-04-01-35)

<参考文献>
(1)Vision 2020−Nuclear Energy and the Nation's Future Prosperity,
(2)USNRC, Nuclear Reactors, New Reactors, Design Certification Applications, http://www.nrc.gov/reactors/new-reactors/design-cert.html
(3) USNRC, Nuclear Reactors, New Reactors, Early Site Permit Applications, http://www.nrc.gov/reactors/new-reactors/esp.html
(4)Joe F. Colvin (Nuclear Energy Institute), "Shaping Tomorrow's Reality:Vision 2020", American Nuclear Society Plenary Session, August 5, 2001,
(5)USDOE, Nuclear Energy Home, Nuclear Power 2010, Proposed Sites of New U.S. Commercial Nuclear Power Plants,
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