<大項目> 海外情勢
<中項目> 北米各国
<小項目> アメリカ
<タイトル>
アメリカの電気事業および原子力産業 (14-04-01-06)

<概要>
 アメリカの電気事業者は、私営電気事業者(IOU:Investor−Owned Utility、民間電力会社)、連邦営電気事業者、地方公営電気事業者、協同組合営電気事業者の4つに大別される。事業者数でみると、地方公営事業者が圧倒的に多く、2013年時点2010社を数える。IOUはわずか189社に過ぎないが、発電設備容量では全体の約36%を占めている。電力市場の自由化を背景に、発電部門の分割譲渡、買収が進んだことや技術革新等から独立系発電事業者(IPP:Independent Power Producer)による発電設備の所有が41%まで上昇した。またパワー・マーケターによる電力の取引だけを行う業者も発生している。電力自由化に伴い電力供給体制は複雑化している。
 なお、アメリカの原子力発電開発は4半世紀以上にわたり停滞していたが、原子力発電量は総発電量のほぼ20%を占め、ベースロード電源と位置付けられてきた。各原子炉が設計寿命40年を迎えるなか、2000年3月のカルバートクリフス1・2号機を皮切りに、20年の運転期間延長が原子力規制委員会(NRC)により認められてきた。電力の安定供給と地球温暖化対策を背景に、2000年以降、原子炉の新規発注に向けた環境整備がなされ、原子力産業界も活性化してきつつあったが、近年のシェールガス革命を迎え、安価で投資リスクの少ない天然ガス火力発電所の建設が勢いを増している。
<更新年月>
2017年01月   

<本文>
1. 電気事業
1.1 電気事業の動向
 アメリカでは、「1992年エネルギー政策法」(EPACT:Energy Policy Act of 1992)の成立を契機に、電力市場の自由化が本格的にスタートした。同法に掲げられた目標達成に向け連邦エネルギー規制委員会(FERC:Federal Energy Regulatory Commission)は1996年に「オーダー888」(Order 888)を発給し、電気事業の再編を加速した。アメリカの電気事業は1907年に州規制の対象となって以来、今日まで州政府の監督形態が続いている。発送電分離の判断や、電気料金の許認可は州政府が行うことから、電力市場の自由化の形態は州ごとに異なる。
 2017年1月時点、規制緩和が導入された州は、ニューヨーク州、メリーランド州、ニュージャージー州などの東部とテキサス州の15州およびワシントンD.C.のみが自由化されている(図1参照)。なお、オレゴン、ネバダ、モンタナ、バージニア、カリフォルニアの5州は大口需要家に限定した部分自由化が実施されているが、その他の州は発電・送配電・小売事業が一体となった垂直統合型で非自由化のままである。これは、1998年に電力自由化に踏み切ったカリフォルニア州で、電力卸売価格の高騰により電力会社の破綻に繋がる電力危機が発生し、同州の小売自由化が2001年10月に停止されたことが大きい。この所謂カリフォルニア電力危機は、自由化の検討段階にあった多くの州の電力自由化の動きを凍結することになった。
1.2 電気事業者の特徴
 アメリカの電気事業者は、州政府と連邦政府機関の規制下に置かれ、所有形態により私営所有電気事業者(民間電力会社:IOU)、連邦営電気事業者、地方公営電気事業者、運営される協同組合営電気事業者の4つに大別される(表1参照)。このほか、自家用や他の事業者に電力を小売供給している非電気事業者がある。また、電力市場の自由化を背景として、発電所や送・配電設備を持たないパワー・マーケターと呼ばれる電力の売買だけを行う企業が台頭してきた。図2に自由化後の電力供給体制を示す。事業者数でみると地方公営電気事業者が圧倒的に多く、2013年時点で2010社以上に達する(表2参照)。
 電力設備の発電部門はかつて大きな投資を伴うことから新規事業者の参入が困難であったが、技術革新により低コスト化や小型化が実現し、一般事業者でも所有し運用することが可能となった。しかし、送配電網は自然独占が生じるボトルネック資源と位置付けられ、IOUが送電設備の7割を所有している。このような状況を解消するため、FERCは1996年に制定した規則(Order 888/889)を通じて、送電網を所有する電力会社に送電事業の別部門科や非差別的なオープン・アクセスを義務付けるとともに、独立系統運用者(ISO:Independent System Operator)の設立によって送電の運用機能を分離することを促した。加えて、FERCは1999年にOrder2000を制定し、ISOの概念を拡張した地域送電機関(RTO:Regional Transmission Organization)の設立を促した。その結果、アメリカでは現在までに7つのISO/RTO(California、ERCOT(Texas)、NYISO(New York)、ISO−NE(New England)、PJM、MISO(Midcontinet)、SPP(Southwest))が設立されている。なお、州をまたがる電力取引と送電設備はFERCに属するが、多くの規制は州の規制機関(公益事業規制委員会)が行っている。
 BP統計によると2015年のアメリカの発電量は中国の5810.58TWh(5.8兆kWh)に次ぐ世界第2位の4,303TWh(4.3兆kWh)で、日本の約1035.5TWh(1兆kWh)の4倍強に相当する。なお、アメリカ北西部は水力が多いが、東部には石炭火力が多いなどエネルギー資源の賦存状況が地域により大きく異なり、需要規模や密度も地域により様々である。地域格差の影響は燃料価格の動向を強く反映する電気料金にも表れ、2016年のアメリカ本土の小売価格の場合、ワシントン州では9.58セント/kWhであるが、コネチカット州では19.95セント/kWhと割高になっている(図3参照)。電気料金の比較的割安な州は、主に水力や安価な国内炭を利用した石炭火力のシェアが高く、料金が割高な州は天然ガスのシェアが高い傾向にある。しかし、最近のシェールガス革命の影響で、天然ガス価格が下落しており、天然ガスシェアが高い州でも電気料金が低下するルイジアナ州のようなケースもある。
 以上のように米国の電力供給体制は、(1)事業者数が多い、(2)地域により供給体制が大きく異なる(規制権限が州と連邦に分化していて、影響力が限定される)、(3)電力自由化に伴い供給体制が複雑化している、という特徴がある。
2. 原子力産業
2.1 原子力発電の動向
 アメリカでは、2017年1月末現在、30州・62サイトで99基(PWR65基、BWR34基)、設備容量約9906.2万kWの原子力発電所が平均稼働率約90%で稼働している(図4参照)。2016年10月19日にワッツバー2号機(Watts Bar−2、テネシー峡谷開発公社TVA、1973年建設開始)が営業運転を開始したほか、ボーグル3・4号機(Vogtle、サザン・ニュークリア社)とVCサマー2・3号機(V.C.Summer、サウスカロライナ・エレクトリック&ガス社)が2013年3月および11月から建設中である。2016年10月の原子力発電電力量は606.8億kWh(ネット電気出力)、総発電電力量に占める原子力の割合は19.4%で、天然ガス火力(32.8%)、石炭火力(31.8%)に次ぐ電源となっている。原子力による発電電力量は、1988年以降総発電量のほぼ20%を維持しベースロード電源となっていたが、近年のシェールガス革命により、安価で投資リスクの少ない天然ガス火力発電所の建設が増加し、天然ガスシェアが上昇する傾向にある。一方、原子力は2000年以降次々と設計寿命40年を迎え、運転許認可の更新が相次いでいる。40年を超える原子炉の運転許認可は、原子力規制委員会(NRC:Nuclear Regulatory Commission)により、1995年に改定されたNRC安全性の基準(10CFR54)と環境基準(10CFR51)に照らし合わせ、原子炉の運転を継続しても安全であると判断された場合、20年の運転期間延長が認められる。2000年3月にカルバートクリフス1・2号機が運転認可(Calvert Cliffsの申請:1998年4月)の延長を認められて以来、2016年3月の時点で81基が運転延長を認められている。
 なお、1979年のスリーマイルアイランド(TMI)発電所の事故後、過剰なまでに規制が強化されたことや、電力市場自由化により電気事業者の関心が短期的なコスト削減に注がれていることから、アメリカの電源開発はリードタイムの長い原子力発電所が敬遠され、1978年以降新たに発注された原子力発電所がなかった。この原子力産業の停滞を受け、原子力関連企業の売却・買収は世界的規模で行われ、世界全体の約40%のPWRを供給してきたウェスチングハウス(WE)社は1998年に英国原子燃料会社(BNFL)へ売却され、2006年には東芝へ売却されている。また、ゼネラル・エレクトリック(GE)社は2006年に日立製作所と原子力部門を統合し、日立GEニュークリア・エナジーを設立している。
2.2 アメリカにおける原子力発電事業者の動向
 1991年には過半数未満出資者も含めて101の企業が原子力発電所の運営に参加していたが、電力料金の規制緩和や化石燃料に対する原子力の優位性上昇から原子力発電所の資産価値が高まり、原子力発電所の売却・買収および電力会社の合併・統合が急速に進んだ。1999年末には87社に減少している。発電所運営者数は1995年の45社から、2016年10月時点23社に減少しており、トップの10社が原子力発電の70%以上を担っている。また、運転管理の合理化を図るため、吸収合併のほか、中小規模の事業連携が行われ、USA(Utilities Service Alliance、8社の運転会社からなる企業連合で1996年設立)とSTARS(Strategic Teaming and Resource Sharing、中西部と南西部のWE社製PWRを所有する6社の企業連合、2000年にUSAから分離独立)が設立している。なお、現在の原子力発電事業者の事業体制は原子力プラントの売買やM&Aなどを通じて広域化・合理化しているものの、旧電気事業体制下の公益電気事業者が構築した小売・配電・発電会社を中核とした子会社体制が継続されている(表3参照)。以下、エクセロン(Exelon)社を例にアメリカの原子力発電事業者の動向を示す。
○エクセロン(Exelon)社
 エクセロン社は2000年10月に、シカゴを基盤とするコモンウェルス・エジソン(Commonwealth Edison)の親会社であるユニコム社(Unicom INC)と、フィラデルフィア電力(PECO Energy)が合併した電力およびガスの発電事業者で、2015年時点、48州・32700MW(このうち原子力は20000MW)の発電設備を有する。2012年3月にコンステレーショ・エナジグループ(Constellation Energy)を、2016年3月にPepco Holdingsを買収している。原子力プラントは電力の自由化が行われている州に立地し、イリノイ州(11基
 )、ペンシルバニア州(6基)、メリーランド州(2基)、ニューヨーク州(3基)、ニュージャージー州(2基)に24基ある。このうち次の7基は共同所有である。
(1)イリノイ州:Quad Cities−1・2号機(75%、他25%はBerkshire Hathaway Inc)
 運転はExelon Generation Co LLCが行う。
(2)ニューヨーク州:Nine Mile Point2号機(82%、他18%はLong Island Power Authority)
 運転はNine Mile Point Nuclear Station LLCが行う。
(3)イリノイ州:Peach Bottom−2・3号機(50%、他50%はPSEG Nuclear LLC)
 運転はExelon Generation Co LLCが行う。
(4)ニュージャージー州:Salem1・2号機(42.6%、他57.4%はPSEG Nuclear LLC)
 運転はPSEG Nuclear LLCが行う。
 エクセロン社の発電構成は原子力64%、天然ガス20%、水力5%、風力4%、石油3%である。なお、エクセロン社はシェールガス革命により天然ガス価格が10年前に比べ約3分の1に下落したことから、2018年6月までにClinton−1号機(BWR、107.7万kW)およびQuad Cities−1・2号機(BWR、91.2万kW×2基)の早期閉鎖を決定している。原子炉の早期閉鎖方針は、エンタジー社、PG&E社など原子力発電所を保有する電気事業者に共通した傾向である。
(前回更新:2009年1月)
<図/表>
表1 所有形態別電気事業者の特色
表2 所有形態別電気事業者の構成
表3 主要な原子力発電事業者の事業体制
図1 各州における小売自由化状況
図2 アメリカの電力供給体制とその具体例(エクセロン社)
図3 アメリカ州別発電構成と電気料金の比較
図4 アメリカにおける運転中原子炉の配置図

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<関連タイトル>
アメリカの原子力政策および計画 (14-04-01-01)
アメリカの原子力発電開発 (14-04-01-02)
アメリカの原子力開発体制 (14-04-01-03)
米国カリフォルニア州の電力危機(2000-2001年) (14-04-01-29)

<参考文献>
(1)海外電力調査会:海外諸国の電気事業 第1編、2008年10月、p.31−83
(2)日本原子力産業協会(監修):原子力年鑑2009年、2008年10月、アメリカ、「原子力年鑑」編集委員会(監修)、原子力年鑑2017年、日刊工業新聞社出版、2016年10月、アメリカ
(3)電気事業連合会:米国の電気事業、https://www.fepc.or.jp/library/kaigai/kaigai_jigyo/usa/index.html
(4)米国原子力規制委員会(NRC):Location of Projected New Nuclear Power Reactors、http://www.nrc.gov/reactors/new-reactors/col.html、http://www.nrc.gov/reactors/new-reactors/col/new-reactor-map.html
(5)原子力エネルギー協会(NEI):http://www.nei.org/resourcesandstats/nuclear_statistics/
(6)米国エネルギー情報局(EIA):State Electricity Profile、http://www.eia.gov/electricity/state/、http://www.eia.gov/state/compare/?sid=US#?selected=US
(7)(株)三菱総合研究所:平成25年度発電用原子炉等利環境調査(海外における原子力政策等実態調査)報告書、2014年3月、http://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2014fy/000859.pdf
(8)世界原子力協会(WNA):Nuclear Power in the USA、http://www.world-nuclear.org/information-library/country-profiles/countries-t-z/usa-nuclear-power.aspx
(9)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社:平成25年度会計検査院委託業務報告書 欧米主要国における原子力発電等に対する国の関与と会計検査に関する調査研究、2014年2月、http://www.jbaudit.go.jp/koryu/study/pdf/itaku_h26_1.pdf
(10)American Public Power Association:2015−16Annual Directory&Statistical Report,http://www.publicpower.org/files/PDFs/USElectricUtilityIndustryStatistics.pdf
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