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<概要>
 パキスタンの2008-09会計年度の総発電設備容量は1,978.6万kWで、そのうち火力発電が64.9%、水力発電が32.8%、原子力発電は2.3%である。総発電電力量は918.4億kWh、火力発電が67.7%、水力発電が30.3%、原子力発電が1.8%を賄った。GDPは年間約5%の伸びを示し、都市部で6時間、地方で10時間を超える計画停電を行うなど電力不足が深刻化している。増大する電力需要を満たし、かつ輸入エネルギー量を減らすため、パキスタンは原子力開発を推進している。
 2011年現在、運転中の原子力発電所は、カラチ原子力発電所(KANUPP、CANDU炉、13.7万kW、1966年着工、1972年営業運転開始)と、チャシュマ原子力発電所1号機(CHASNUPP-1、中国製PWR、32.5万kW、1993年着工、2000年9月営業運転開始)及び同発電所2号機(CHASNUPP-2、中国製PWR、33万kW、2005年着工、2011年5月営業運転開始)の3基である。また、3、4号機(CHASNUPP-3、CHASNUPP-4)についても中国が継続して供給することで、原則的に合意している。CANDU炉の燃料は、当初はカナダから輸入していたが、1991年からすべて国産燃料に切り替えた。
<更新年月>
2011年11月   

<本文>
 パキスタンは南アジアに位置するイスラム国家で、1947年のインドの独立とともに、英国領インドから独立した。インド、中国、アフガニスタン、イランと隣接している。パキスタンは、カシミール地方の帰属問題や東パキスタン(現、バングラデシュ)の独立等をめぐり、1947年、1965年、1971年にインドと紛争を繰り返したほか、アフガニスタン難民問題、タリバーン政権をめぐる米国との衝突など治安は非常に不安定である。一方、中国とは1986年に原子力平和利用協力協定を締結するなど、軍事、経済等で密接な関係が築かれている。
 パキスタンの経済発展は2000年以降順調であったが、経済基盤の弱さや外国投資の減少、国際的な食糧・燃料価格の高騰等で2008年に深刻な経済危機に陥った。経済危機はIMFの融資を得て脱したが、経済成長率の減速、緊縮財政、貧困層の拡大等の社会不安が懸念されている。
1.エネルギー資源
 パキスタンのエネルギー自給率は低く、一次エネルギーの5割は輸入に頼っている。図1に2008年のエネルギー需給バランスを、表1にエネルギー資源供給量の推移を示す。油田はパキスタン北部のイスラマバード南西部に集中し、天然ガス田もカラチ北方約500kmのスーイとマリーガスに集中している。発電用としても利用している。原油と石炭の国内生産量はそれ程でもなく、石油消費量が多いため、天然ガス及び水力の開発を進めている。また、薪、農業副産物、動物の排泄物などの非商業エネルギー資源は農村地域では中心的なエネルギー源である。
2.パキスタンの電力事情
 パキスタンは人口1億8,700万人で、GDPは年率約5%の伸びを示し、2008年には都市部で6時間、地方で10時間を超える計画停電を行うなど電力不足が深刻化している。2005年に策定したエネルギー安全保障計画では、2030年までに発電設備容量を160GW以上に大幅に拡大することを目標に掲げ、その計画の中で、原子力発電を2015年までに900MW、2020年までに1,500MW、2030年には8,800MWに拡大するとした。その後の緊縮財政で、2030年までの拡大目標を106.7GWに下方修正したが、発電設備の拡張は急務となっている。パキスタンの2008-09会計年度の総発電設備容量は1,978.6万kWで、そのうち火力発電が64.9%、水力発電が32.8%、原子力発電は2.3%である。総発電電力量は918.4億kWhで、火力発電が67.7%、水力発電が30.3%、原子力発電が1.8%を賄った(表2参照)。電力不足の原因として、発電設備の老朽化に加え、燃料費の高騰による輸入燃料(天然ガス、石油等)の供給が不十分なこと、送配電ロスが10%にも上る非効率的な送配電システム(送電線、トランス、接続不良)の使用や家庭、オフィスでの電気器具の消費効率の悪さがあげられている。
 なお、パキスタンの電気事業は水利電力省(MWP)の監督の下で、水利電力開発公社(WAPDA)とカラチ電力供給会社(KESC)が担当してきたが、WAPDAは電気事業再編の一環として1998年に3発電会社/1送電会社/8配電会社に分割され、2007年に新WAPDAとパキスタン電力会社(PEPCO)に分割された。また、1997年電力法に基づいて設立した電力規制庁(NEPRA)が許認可・規制権限をもつ。IPP事業については、1994年に発足した民間電力・基盤委員会(PPIB)が支援を行っている。なお、KESCは発・送・配電の一貫体制は堅持しているが、2005年11月に73%の政府保有株を売却して民営化された。図2にパキスタンの電気事業構成を示す。発電設備容量の構成は2009-10会計年度時点で、WAPDAが56.5%で11,399MW(水力6,555MW、火力4,844MW)、IPPが31.6%で6,374MW、PAEC(原子力)が2.3%で462MW、KESCが9.7%で1,955MWとなっている。
3.原子力発電の動向
3.1 原子力発電開発
 パキスタンは比較的早い時期に原子力の研究開発に着手した。1947年の独立後、1955年に原子力委員会(PAEC)を設立して原子力の研究を開始した。1957年にIAEA(国際原子力機関)に加盟し、IAEAの保障措置を受け入れて一部の施設で査察が行われているが、2011年現在、核不拡散条約(NPT)には批准していない。原子力委員会の構成委員には、物理科学や生命科学の担当も含まれている。発電担当の下には、カラチ原子力発電所、チャシュマ原子力発電所及び原子力鉱業センターが付属し、技術担当の下には、多くの分野の研究所群が配置されている(図3参照)。1990年代後半に規制関連の法律が再整備され、2001年1月に原子力規制庁(PNRA)が発足した。PNRAは、原子力安全と放射線防護の全般を担当しており、1)原子力施設の安全規制、告示・基準・指針等の策定、2)電離放射線リスクからの国民の生命・健康・財産の保護、すべての原子力施設の設置許可、検査・監督等を行っている。
 また、原子力の研究開発と人材育成のため、1965年にイスラマバードの東南東15kmにパキスタン原子力科学技術研究所(PINSTECH)を設立している。PINSTECHにはIAEAの保障措置下にある軽水減速・軽水冷却炉の2基の研究炉がある。熱出力5MW(1995年に10MWに改造)のプール型研究炉(PARR-1)を米国AMF社より購入し、原子炉を中心として、農業、医学、及び工業分野での各種研究を進めている。また、中国で開発された熱出力30kWプール型研究炉(PARR-2)は高濃縮ウラン(濃縮度90%)燃料を使用しており、各種の教育訓練を実施している。この他に、中国が協力して熱出力50万kWtの天然ウラン重水炉をクシャブ(Khusab)に建設して1998年から運転を開始し、プルトニウムとトリチウムを生産している。
3.2 原子力発電の現状と今後の計画
 パキスタンでは、2011年現在、3基79.2万kWの原子力発電所が運転されている(図4参照)。1972年10月にカナダから導入したカラチ(Karachi)原子力発電所(KANUPP:12万5,000kW、CANDU)が営業運転を開始した。1990年代に入ると中国との協力が軌道に乗り、中国上海工程研究院が自主開発して建設した秦山1号機と同型の30万kW PWRをターンキー契約(完成品渡し)で輸入することを決定。1992年にPAECは中国核工業公司(CNNC)と発電炉供給に関する契約を締結した。その結果、首都イスラマバード南西のインダス川流域チャシュマ(Chashma)にチャシュマ原子力発電所1号機(CHASNUPP-1:32万5,000kW、PWR)が2000年9月に営業運転を開始した。また、同発電所では2011年5月に2号機(CHASNUPP-2:33万kW、PWR)が営業運転を開始している。続く3号機(CHASNUPP-3:34万kW、PWR)の建設を2011年5月に開始したほか、2012年には4号機(CHASNUPP-3:34万kW、PWR)の建設に着手する予定である。稼働中の3基の原子炉はいずれもIAEAの保証措置下にある。核不拡散条約に加盟していないパキスタンと中国の関係は、原子力供給国グループ(Nuclear Suppliers Group:NSG、核拡散を防ぐために作られた原子力資材等の輸出規制を実行するための原子力技術等の保有国の集まり)加盟規約以前の協定として効力を発している。
4.核燃料サイクル施設
 1974年5月のインドの核爆発実験後、カナダによる原子力協定改訂の申し入れをパキスタン側が拒否したため、カナダはカラチ原子力発電所への燃料と予備部品の追加供給を停止した。そこで、パキスタンは自主開発せざるをえなくなり、核燃料サイクル技術開発に力を入れ、2年間で燃料の自給技術を確立した。なお、チャシュマ発電所の核燃料は中国が供給している。図5に原子力関連施設の地図を示す。
 2006年にパキスタン原子力委員会は商業用原子炉への核燃料供給のために、軍事用と商業用の核燃料施設の分離を準備していると発表した。新施設の建設費は12億ドルで、転換施設、濃縮施設、燃料加工施設の全てがIAEAの保証措置下に入り、濃縮施設は、2013年頃までに150tSWU/年、2030年までにさらに150tSWU/年を増設する予定であり、8,800MWの需要の3分の1を供給する。転換施設と核燃料加工施設については現在建設中で、濃縮工場については2010年1月、政府が建設を承認した。施設群は、チャシュマ原子力発電所と同じパンジャブ州クンディアン(Kundian)に立地する。
4.1 ウラン鉱山
 パキスタン北部のインダス河西部に位置するラッキ(Lakki)近くのQabul Khelにウラン鉱山があり採掘と鉱石処理を行っている。また、パキスタン中部のインダス川西岸に位置するデラ・ガージ・カーン(Dera Ghazi Khan)で、小規模の採掘を行っている。
 なお、ウランの生産は、2015年までに需要の約3分の1に当たる350tU3O8/年(297tU/年)を目標に、パキスタン中央部のBannu盆地とSuleman地域の開発を行なっている。
4.2 核燃料の成型加工工場
 パキスタン北部のインダス川に面するクンディアンに、CANDU炉燃料の成型加工工場がある。1978年に生産を開始し、既に年間1,500体の燃料(天然ウランで年間24tU)を成型加工する能力がある。なお、カラチ発電所の年間燃料取替量は15.4tUで、1991年8月にカナダ製燃料から国産燃料にすべて取り替えられ、国産燃料供給体制を確立した。
5.核兵器の開発と国際協力
 1970年代に入り、敵対するインドの核兵器開発に対抗し、パキスタン内部でもそれに取り組むべきとの声が高まった。1974年にはインドの核実験を機に本格的な推進が図られ、A.Q.カーン博士が核兵器開発をリードした。インドは1988年5月11日に3回、13日に2回の計5回の地下核実験を行った。パキスタンは、インドの核実験に引き続き、アメリカなどの制止を押し切って1998年5月28日に5回、30日に1回の計6回の地下核実験を行った。これにより南アジアに緊張が走り、パキスタンに非難が集中して経済制裁が加えられた。その後、1998年12月には、パキスタンのシャリフ首相が訪米し、包括的核実験禁止条約(CTBT)に署名する条件として、経済制裁解除を求めた。これを受け、パキスタンとインドは1999年秋にはCTBTに署名すると表明。両国は共に核実験を停止し、一応の安定を取り戻した。
(前回更新:2004年12月)
<図/表>
表1 パキスタンのエネルギー資源供給量の推移
表1  パキスタンのエネルギー資源供給量の推移
表2 パキスタンの電力需給バランス
表2  パキスタンの電力需給バランス
図1 パキスタンの一次エネルギーの需給バランス
図1  パキスタンの一次エネルギーの需給バランス
図2 パキスタンの電気事業構成
図2  パキスタンの電気事業構成
図3 パキスタン原子力委員会の組織図
図3  パキスタン原子力委員会の組織図
図4 パキスタンの原子力発電所の概要
図4  パキスタンの原子力発電所の概要
図5 パキスタンの原子力関係施設の地図
図5  パキスタンの原子力関係施設の地図

<関連タイトル>
カナダ型重水炉(CANDU炉) (02-01-01-05)
核兵器不拡散条約(NPT) (13-04-01-01)
包括的核実験禁止条約(CTBT) (13-04-01-05)

<参考文献>
(1)(社)海外電力調査会:海外諸国の電気事業 2010年(2010年3月)、p.316-323
(2)(社)日本原子力産業協会:世界の原子力発電開発の動向2011年(2011年5月)
(3)(社)日本原子力産業協会:原子力年鑑 2011年、p.148−151
(4)(社)日本原子力産業協会:躍進するアジアの原子力 パキスタンの原子力開発の現状、2011年9月、http://www.jaif.or.jp/ja/asia/pakistan_data.pdf
(5)パキスタン民間電力・基盤委員会:PAKISTAN POWER SECTOR PLAYERS,
http://www.ppib.gov.pk/N_fpse.htm
(6)パキスタン財務省:PAKISTAN ECONOMIC SURVEY 2009-10,
http://www.finance.gov.pk/survey/chapter_10/13_Energy.pdf 及びPAKISTAN ECONOMIC SURVEY 2010-11,
(7) 国際原子力機関(IAEA):動力炉情報システム(PRIS)パキスタン,
(8) パキスタン原子力委員会(PAEC):, ,
(9)James Martin Center for Nonproliferation Studies (CNS):Pakistani Nuclear Facilities:
(10)パキスタン水利電力省:石油情報サービス(PPIS)
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