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<概要>
 中国がこれまでに進めてきた改革・解放政策は、原子力発電にも好ましい影響を与えており、成功裏に原子力開発計画を進めることができた。
 軍事用を中心に原子力開発を進めてきた中国にとって、1970年代までは原子力分野の国際協力は念頭になかった。1980年代に入り原子力発電が指向されるようになって、初めて国際協力を模索するようになった。建設準備の進む秦山原子力発電所で部品の輸入が必要となり、原子力協力協定の交渉を各国と進めるようになった。2001年現在、協力協定を結んでいる国は17カ国である。中国は1984年にIAEAに加盟、1989年に核物質防護に関する条約に調印、1992年には核不拡散条約(NPT)に調印した。中国の国際協力には2つの側面がある。1つは先進原子力国から器材、情報、技術、経験を導入、吸収することで、もう1つは開発途上国への器材の輸出である。特に後者については、欧米諸国が輸出をためらうアルジェリア、パキスタン、イラン、インド等に輸出しているので、国際的な関心がもたれている。
<更新年月>
2005年04月   

<本文>
 中国がこれまでに進めてきた改革・解放政策は、原子力発電にも好ましい影響を与えており、事実、中国が成功裏に原子力開発計画を進めることができた。中国初の国産設計で建設した秦山第1原子力発電所は、主要機器の一部を外国から輸入した。また、広東・大亜湾原子力発電所は、フランス企業により設計・建設され、全ての機器を外国から輸入した。中国は、外国企業と原子力発電所の建設で様々な協力を実施している。過去20年間の努力により、原子力産業を一定レベルまで向上させたが、先進国の技術レベルとは格差がある。また、常に「国産技術を柱とした国際協力」の基本方針に従うとともに、外国企業との国際協力は必要であることを表明している。中国は、独自設計と機器の国産化技術基盤を最大限に活用するとともに、外国企業から支援を受け、国際水準の原子力技術を維持するよう努力している。
1.各国との原子力協力協定
 中国の原子力開発は、1955年にソ連と原子力協定を締結して開始したが、1959年に中ソ間の対立が深まり、1959年に中ソ協力が破棄されると、独力で軍事利用開発を進めた。以後原子力で国際協力を行うことはなく、1971年、国連で北京政権が中国を代表する政権と認められ、台湾が国連およびIAEAを脱退した後も、中国はIAEAに加盟することなく、独自の道を歩もうとしていた。1980年第1回中国核学会で原子力発電の方向が示され、1982年の全国人民代議員大会で原子力発電計画が公表された頃から、原子力の平和利用には国際協力が必要であることを認識するようになり、1984年1月にIAEAに加盟した。
 IAEA加盟前から、中国は原子力の国際協力の道を模索しつつあった。1980年に中国−米国の原子力学会が協力議定書に調印、同じく1980年に中国−イタリア原子力委員会協力議定書に調印した。さらに、1980年には中国−ユーゴスラビア原子力協力協定も調印した。また、建設準備中の秦山原子力発電所で部品の輸入が必要となった。部品輸入には原子力協力協定が前提となることから、各国との協力協定の交渉を開始した。
 2001年現在、中国が原子力協力協定を結んでいる国は17カ国で、1955年に旧ソ連と調印(1959年に原子力協力協定破棄)、1980年にユーゴスラビアと調印、1982年にルーマニアと調印、1983年にフランスと調印、1984年に西ドイツおよびブラジルと調印、1985年にベルギー、英国、日本、アルゼンチンおよび米国と調印、1986年にパキスタンおよびスイスと調印、1994年に韓国およびカナダと調印、1995年以前にインドと調印、1996年にアルジェリアと調印した。
 1984年には、日本との科学技術協力協定の下での秦山用原子炉圧力容器輸出について合意成立へと進んだ。また、アルジェリアに研究炉を輸出しており、1993年にイランへ発電所を輸出する約束をした。
 中国は、1984年のIAEAの加盟に続き、1989年9月に核物質防護に関する条約に調印、1992年3月には核不拡散条約(NPT)にも調印した。
 米中両国は、1998年6月29日、北京で「原子力技術の平和利用協定」に調印した。この協定は、同年3月に発効した「米中平和利用協定」の具体化を目指す付随協定である。なお、両国は1998年5月にも「原子力施設に対する相互訪問に関する覚書」に調印しており、米国としてもフランスやカナダなどに先行されていた中国の原子力発電市場へ進出する体制が整備された(表1参照)。
 中国政府は、国内体制の整備の一環として1998年6月30日に核関連施設・技術の輸出管理を強化するための政令23条「中国核軍民用品・関連技術輸出管理条例」を公布した。これは、核不拡散と原子力平和利用の促進を目的としており、軍事用、民生用の原子力・非原子力関連の技術・設備・材料の輸出、対外無償供与、協力などを対象としている。同政令は、輸出業者を登録させ、輸出などの案件ごとに許可証を出す制度を定めるとともに、核関連設備・技術について、供与を受ける側が、1)核爆発の目的に使用しない、2)国際原子力機関(IAEA)の査察を受けていない原子力施設には提供しない、3)中国政府の許可なく第三者に譲渡しないなどを保証することを義務付けている。
2.国際協力
 中国の国際協力には2つの側面がある。1つは、原子力発電所の建設を原則的には自主技術としながら、先進原子力国から器材、情報、経験を導入、吸収することであり、他の1つは、開発途上国への器材の輸出である。特に後者については、アルジェリアへの大型研究炉の輸出、パキスタンへの発電炉の輸出などがあり、欧米では国際的な関心が持たれている。しかし中国は、他国の核兵器開発の援助をせず、核拡散の防止は厳格に守り、相手国にIAEAの保障措置を要求すると述べている。
 1995年1月、インドは、タラプール原子力発電所用濃縮ウランを中国から購入し、アジアの2大国が長年の対立を捨て、原子力開発協力を開始した。
 1990年代初期に、東京電力(1993−1997年)、関西電力(1994−1998年)および中部電力(1995−1999年)が中国からウラン精鉱をそれぞれ5年契約(毎年50ショートトンU3O8)で250ショートトンU3O8、3電力合計750ショートトンU3O8を購入し、1996年に契約量の引き渡しを完了した。
3.資金調達と国際協力
 原子力開発は膨大な資金を必要とし、また建設期間も長い。2010年までに、1,300万kW程度を運転開始させるとすると、数百億元(1998年当時の価格)の国内資金と数十億ドルの外資が必要といわれている。物価上昇分を考えると、必要資金はさらに増大する。
 初期段階では、政府主導の資金調達が中心となっているが、今後とも地方(地元)負担と外資利用にも力を注ごうとしている。電力関係者から、原子力の研究開発基金は国の財政で負担して、建設資金は投資公司や地方財政、外資および電力債権の発行等により調達すべきであるという声がでている。
 原子力発電所の建設と運転に当たっては、技術だけでなく、運営・管理面でも先進工業国に学びたい方針である。近隣諸国・地域との原子力協力では、すでに日本との間で、安全管理技術者の相互交流などを行っている。
4.海外から中国への積極的進出
(1)フランス
 広東・大亜湾原子力発電所(PWR:98万4,000kW×2基)の原子炉および秦山第2期原子力発電所(PWR:60万kW×2基)の原子力技術をフラマトム(FRAMATOME)社と、大亜湾PWR用燃料の設計、製造技術移転協定を四川省宣賓核燃料工場がFRAGEMA(COGEMAとフラマトム社の合弁会社)と締結している。また、1995年10月、中国広東核電合資有限公司(CGNPC)とフランス電力公社(EDF)、フラマトム社、GEC−アルストム社(現在のALSTOM)から構成されるコンソーシアムの間で広東・嶺澳原子力発電所第1期(PWR:100万kW×2基)の建設を契約している。フラマトム社が1次系を、GEC−アルストム社が2次系を供給し、建設工事をEDFが担当している。
(2)イギリス
 GEC−アルストム社(現在のALSTOM)は、広東・大亜湾原子力発電所(PWR:98万4,000kW×2基)の2次系を輸出したほか、広東・嶺澳原子力発電所第1期(PWR:100万kW×2基)の2次系を受注している。
(3)カナダ
 中国核工業総公司(CNNC)と秦山核電公司(QNPC)は、1996年11月上海でカナダ原子力公社(AECL)と秦山原子力発電所第3期(CANDU−6:70万kW×2基)のターンキー契約(完成品受け渡し方式)を締結した。AECLはプロジェクト管理と建設工事を担当し、1998年6月および1998年9月に建設工事を開始した。2基の原子炉はそれぞれ2002年12月と2003年7月に送電を開始した。発電した電力はすべて華東電力網に送られ、浙江省、江蘇省、上海市に送られる。
(4)ロシア
 中国は、1992年12月に調印された「原発建設とロシアの対中借隷供与に関する中ロ協定」に基づき、1997年12月、江蘇省北部の田湾(旧連雲港)原子力発電所(VVER−1000:106万kW×2基、計装・制御システムはシーメンス製)建設契約に調印した。1号機は1999年10月、2号機は2000年9月に着工し、1号機は2004年12月、2号機は2005年12月に営業運転を開始する予定である。中国核工業総公司(CNNC)とロシア原子力省(MINATOM)は、1996年12月に包括契約に原則的に合意しており、1997年5月にCNNCと中国原子能工業公司が、ロシアのザルベザトムエネルゴストロイ社およびアトムエネルゴエクスボルト社と技術設計契約に調印している。1997年11月にはフィジビリティ・スタディ(立地可能性調査)も政府から承認されている。
 また、ロシア原子力省が中国の陜西省漢中に建設していた濃縮施設第1期分(200トン SWU/年)が1996年に完成した。この施設は、1993年に中国ロシア原子力協定の一部としてターンキー方式で建設され、技術移転は行われない。ロシアの遠心分離装置およびその技術を用いて、濃縮ウランの濃縮度は5%以下である。また、第2期は300トンSWU/年(1998年)、第3期は500トンSWU/年(2003年完成)、第4期は500トンSWU/年(2005年完成予定)で設備容量は合計1,500トンSWU/年となる。この濃縮施設はIAEAの査察対象施設となる。
(5)日本
 秦山原子力発電所第1期1号機工事(PWR:30万kW)および秦山原子力発電所第2期1号機工事(PWR:60万kW)の原子炉圧力容器は三菱重工業が供給した。また、秦山原子力発電所第3期(CANDU−6:70万kW×2基)のタービン発電機、復水器、給水加熱器など2次系部分を日立製作所と伊藤忠商事が米国ベクテル社とコンソーシアムを結成して供給する。
(6)米国
 秦山原子力発電所第1期工事の運転シミュレータについて技術協力を行った。また、核工業総公司の中国核動力研究設計院と新世代原子力発電所CPA600(中国型AP600)を共同開発中である。WH、GE、CEEなどの外国先進企業が積極的に中国に接近中である。
(7)ドイツ
 四川省宣賓の高レベル放射性廃棄物ガラス固化模擬試験設備の建設に協力している。
(8)韓国
 秦山原子力発電所第3期工事(CANDU×2基)の蒸気発生器等を受注した。
(9)パキスタン
 1989年中国−パキスタン両国は、パキスタンのチャシュマ原子力発電所(CHASHMA:30万kW、PWR×1基)を中国が建設することに合意し、1991年12月に総額5億6千万ドルで輸出契約を締結した。チャシュマ原子力発電所は、中国の秦山1号機をモデルとして、上海工程研究院が設計し、中国核工業総公司(CNNC)が建設にあたり、1993年8月年に着工し、2000年9月に営業運転を開始した。「中国第一重型機械集団公司」が原子炉圧力容器を、「上海ボイラー工場」が蒸気発生器を製作しパキスタンに輸出している。1996年12月には、パキスタンで3番目の原子炉になるチャシュマ2号機(30万kW、PWR)も中国が供給することで合意している。中国、パキスタン両国は、1980年代から原子力利用面で技術協力を進めている。
 表2に各国の中国への原子力協力状況、表3にロシアの中国への原子力協力の現状、表4に日中原子力平和利用協定、表5に各国の中国に対する最近の動き、表6に中国の原子力発電所の一覧を示した。

[用語解説]
1ショートトン(short ton):907.18kg
<図/表>
表1 中国−各国間の原子力協定
表1  中国−各国間の原子力協定
表2 各国の中国への原子力協力状況
表2  各国の中国への原子力協力状況
表3 ロシアの中国への原子力開発協力の現状
表3  ロシアの中国への原子力開発協力の現状
表4 日本の中国への原子力平和利用協力協定
表4  日本の中国への原子力平和利用協力協定
表5 各国の中国に対する最近の動き
表5  各国の中国に対する最近の動き
表6 中国の原子力発電所一覧
表6  中国の原子力発電所一覧

<関連タイトル>
中国のエネルギー資源、エネルギー需給、エネルギー政策 (14-02-03-01)
中国の電力事情と発電計画 (14-02-03-02)
中国の原子力発電開発 (14-02-03-03)
中国の核燃料サイクル (14-02-03-04)
中国の原子力国際協力 (14-02-03-05)
中国のエネルギー事情 (14-02-03-06)
中国の原子力開発体制 (14-02-03-07)

<参考文献>
(1)(社)日本原子力産業会議(以下原産):「アジア諸国原子力情報ハンドブック」(1999年3月)、(2001年3月)、p.29、31
(2)(社)原産:原産マンスリー(1997年1月)、p.1(カナダ)、p.16(ロシア)
(3)(社)原産:原産マンスリー(1997年3/4月)、p.13(カナダ)
(4)(社)原産:原産マンスリー(1997年2月)、p.11(ロシア)
(5)(社)原産:原産マンスリー(2000年6月)、p.18−21(中国)
(6) 動力炉・核燃料開発事業団:「ウラン−今日と明日−、第26巻 第1号臨時増刊」(中国、カナダ、オーストラリアの原子力事情)p.1−13
(7)(社)原産(編):原子力ポケットブック1996年版、p.189−190
(8)(社)海外電力調査会:海外諸国の電気事業1998年版、第16章中国(1998年3月)、p.454
(9)(社)原産:世界の原子力発電開発の動向1997年次報告 p.13−15
(10)(社)原産:世界の原子力発電開発の動向1998年次報告 p.31−33
(11)(社)原産:世界の原子力発電開発の動向2000年次報告 p.24−25
(12)(社)原産:世界の原子力発電開発の動向2003年次報告 p.29−30,111−113
(13)(社)原産:原産マンスリー(1997年11月)、p.20
(14)(社)原産:原子力年鑑−平成8年、平成9年(1997年10月)p.285、1998/1999(1998年10月)、1999/2000(1999年10月)、2000/2001(2000年10月)p.289?296
(15)(社)原産「中国におけるエネルギー事情及び原子力プラント輸出」2005年1月22日、永崎隆雄
(16) R.W.Jones and M.G.McDonough: TRACKING NUCLEAR PROLIFERATION, 1998, CARNEGIE ENDOWMENT FOR INTERNATIONAL PEACE、p.50
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