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<概要>
 ラジオアイソトープ(RI)・放射線利用について、韓国は1994年7月に定めた「2030年に向けての長期原子力政策方針」のなかで、公共の福祉のため原子力技術の利用を医療、農業、産業分野に拡張するという目標を提示している。この方針に沿って韓国原子力研究所及び民間企業は、食品照射、滅菌、高分子材料の品質改良、農業分野の品種改良などを進めている。
 また、医療分野では、韓国原子力研究所(KAERI)が研究炉HANAROを使用して、放射性医薬品の生産を、さらに、KAERI傘下の韓国がんセンター病院が中心となって、放射線治療などを実施している。
<更新年月>
2011年01月   

<本文>
はじめに
 韓国は、1994年7月に「2030年に向けての長期原子力政策方針」を定め、(1)原子力を主要な電源の一つとして位置づけ、その開発を通じて安定な電力供給を行う、(2)核不拡散を基本とする核燃料サイクルの開発を行って、その技術的自立性を達成する、(3)国際的な競争力を強化し、国内の原子力産業を育てる、(4)公共の福祉のため、原子力技術の利用を、医療、農業、産業分野に拡張するなどの4つの目標を決定した。韓国におけるラジオアイソトープ(RI)・放射線利用に関する基本的な政策は、この(4)において明確にされている。また、経済成長と安心できる環境の入念なサイクルの確立、いわゆるグリーン・グロースに強く関与することを宣言しており、2030年まで原子力施設の増設を計画している。近年、RIの生産、R&Dと医療処置等のために、7つのサイクロトロン・センターを整備した。
 韓国におけるRI・放射線利用は、韓国原子力研究所(Korea Atomic Energy Research Institute:KAERI)が中心となっている。KAERIは、原子力庁(Office of Atomic Energy:OAE)傘下の機関として1959年3月に設立された原子力研究所(Atomic Energy Research Institute:AERI)が、1973年2月に放射線研究所(Radiological Research Institute:RRI)及び農業放射線研究所(Radiation Research Institute in Agriculture:RRIA)と統合して発足した。1988年1月には韓国がんセンター病院(Korea Cancer Center Hospital:KCCH)が傘下に入った。2005年には、KAERI先端放射線技術研究所(ARTI)が発足し、ガンマ線、電子線施設を備えた新しい研究所で放射線照射利用分野の開発研究の中心となっている。
1.RI及び放射線利用
 韓国におけるRI及び放射線の産業利用について概括すると、食品照射は1987年以来16品目について許可されているが、実用照射を行っているのはグリンピア1社だけであり、香辛料4,000トン、粉末食品500トン、酵素剤100トンの照射が行われている。
 滅菌・殺菌利用でもグリンピア社の施設(200万Ci:74PBq)で商業照射が行われており、医療用具500トンやその他に化粧品なども含めて500トンが照射されているほか、1985年からKAERIにおける研究開発が進められている。
 工業分野では、架橋により被覆物を改質した電線、熱収縮チューブ、発泡ポリエチレン、タイヤ、印刷などの分野で、低エネルギー電子加速器を用いた実用照射が行われている。
 農業分野では、放射線を用いた育種(突然変異育種)がKAERIならびに農村振興庁を中心に30年以上にわたって実施されている。これまでに稲、大豆、エゴマ、コショウ、馬鈴薯、甘藷などの作物で多くの突然変異種が育成されている。これらのなかで品種として登録されているものは、大麦3品種(草型、耐倒伏性、早稲)、大豆1品種(早生、ウィルス耐性)、ゴマ1品種(分岐性、多収性)などであり、広く普及している。このほか、現在までに得られた突然変異個体の800系統について遺伝資源としての評価が進められている。今後の方向として、突然変異育種と他の手法を組合せたより効率的な育種法の開発が検討されている。また、トレーサー利用の分野でも、RI・放射線は作物の代謝生理、植物栄養、土壌、農薬、家畜栄養等の研究に広く利用されている。
 また、医学部門におけるRI・放射線利用は拡大を続けており、1963年から開始された韓国における放射線治療では、1997年時点で43ヶ所の病院(公立12、私立31)に放射線治療科が設置されている。
 食品照射では、スパイスをはじめいくつかの食品群についての許可が出され、球根及び地下根菜類の発芽防止、新鮮果実及び野菜の熟度調製や殺虫、穀類及びその製粉品の殺虫、乾燥野菜及びスパイスの殺虫や殺菌、動物性乾燥食品の殺虫などで成果を上げている。放射線照射利用施設は、グリンピア社のコバルト100万Ci(37PBq)が利用されている。
1.1 研究炉HANARO
 韓国におけるRIの製造は、1962年のTRIGA MarkIIに始まり、数年後にはヨウ素131を生産し、甲状腺がんの治療に用いられた。その後、1972年にTRIGA MARKIIIにより国内の要求に応えられる複数のRIを製造するとともに、製造技術の開発にも役立てることができた。
 1995年2月に臨界に達した高信頼性の多目的炉であるHANARO(High-flux Advanced Application Reactor)は、KAERIの主要施設である。この原子炉は、オープン・プールのタンク型炉で、熱出力30MWの高中性子束密度の新型研究炉である。2008年には、新しいRI製造施設が完成し、ヨウ素131を20Ci(740GBq)/年以上の製造で、国内需要の60%以上を満たしている。また、非破壊検査のためのイリジウム192(192Ir)線源の20万Ci(7.4PBq)以上を製造し、これは国際市場の約10%に相当する。医療用・産業用RI生産、中性子ビーム利用、中性子ラジオグラフィ及び中性子放射化分析が行われているほか、ボロン中性子捕獲療法(Boron Neutron Capture Therapy:BNCT)が可能であり、冷中性子源施設なども整備されている。
 炉心及び反射体領域にある計22本の照射孔がRI生産のために使用されるが、そのうちの4本がカプセル照射用に、そして17本がRI生産用に供される。残りの1本は水圧移送システムを装備した照射孔である(表1)。
1.2 加速器等照射施設
 ガンマ線照射施設は、ソウル近郊のグリンピア社に750kCi(28PBq)の実用規模施設が1基あり、釜山に新たな施設の建設が計画されている。このほか小規模の研究開発用施設が2基ある。電子加速器は17基あり、KAERIの300keVの1基以外は民間の所有である。
 表2に韓国の電子加速器を示す。
1.3 医療用放射線利用施設
 外部照射機器として、線形加速器とマイクロトロンを合せて56台、コバルト遠隔照射機器が14台、遠隔操作式ラルス(RALS)腔内照射装置が36台、その他の腔内装置が10台設置されている。
 ガンマカメラは127台、単一光子放射コンピュータ断層撮影装置(SPECT)は66台、サイクロトロンが1台稼働している。1994年4月にはベビーサイクロトロンと陽電子放射断層撮影装置(PET)がソウル大学病院に設置された。韓国がんセンター病院にサイクロトロンが設置されている他、コンピュータ断層撮影装置(CT)が11病院で保有されている。
 また、韓国は、放射線の産業利用等の一層の高度化をめざして、日本原子力研究所の高崎研究所(現日本原子力研究開発機構 高崎量子応用研究所)をモデルにして各種照射施設(中性子源、γ線、加速器)を保有する研究開発機関の設置計画を進めている。
2.RI生産及び利用
 KAERIは、HANAROを用いて医学及び工業利用のためのRIを生産し、病院や工業界に供給している。表3にRI製品リストを示す。
 放射性医薬品及びRIの開発で、最近達成され注目されるものに肝がん、皮膚がん及び嚢包性脳腫瘍治療用のホルミウム166キトサン化合物(166Ho-CHICO)、甲状腺がん治療用のヨウ素131カプセル、小頭治療用及び非破壊試験用のイリジウム192密封線源などがある。
 2001年以降、新しい放射性医薬品、工業及び治療用の新しい放射線源の開発、核分裂を利用した99Mo/99mTcジェネレーターの生産技術の開発にも重点が置かれている。また、がん治療のために188Reジェネレーターや90Yジェネレーターシステムの開発も行われている。
2.1 RI生産施設
 KAERIのRI生産設備は、HANAROの建屋に隣接したRI建屋に設置され、1997年に完成した。本施設は最新のマニピュレーターを装備したホットセル群とクリーンルームから構成されている。ホットセルは、密封線源生産用コンクリートセル4基、開発研究用鉛セル11基、医療用RI生産用鉛セル6基と、まもなく整備される見込みの99mTcジェネレーター生産用セル5基から成る(表4)。
 そのうち鉛製ホットセル(バンクIII)には、韓国商品製造規範(Korean Good Manufacturing Practice:KGMP)の基準に適合した医療用RI生産用クリーンルームが、セル後面の作業場であるサービスエリアに配置されている。また、疾病の診断及び治療に使用する放射性薬剤用の小ビンなどを作るための装置や、その他関連機器を装備したクリーンルームもある。
 主として診断用及び治療用医薬品の品質管理を行う品質管理ラボが、RI施設の2階と3階に設けられており、放射性医薬品の効能と薬剤特性をラビット、ラットあるいはハツカネズミを用い、ガンマカメラによるイメージングで試験する動物実験室も放射線管理区域内に置かれている。
 増大する一方の医療用及び工業用RIについてのニーズに応えるため、KAERIはRI生産用の原子炉をテジョン(Daejeon)に将来建設することを計画している。
2.2 産業利用
 RIの主な工業利用の1つは、密封線源を用いた工業プロセスユニットの診断である。石油化学プラントにおける流出の減少や圧力の増加の原因を知ることができる。密封線源のさらなる利用では、石油化学工業や環境産業におけるRIトレーサーの多くの利用がある。アルゴン41、クリプトン79、ランタン140などの線源を用いた放射性トレーサー技術により、オンラインプロセス診断を実施し、工程の最適化に重要な情報を得ることができる。ガンマ線イメージングにおける最近の研究では、医療用画像診断システムと同様に、大型プラントのプロセス全体を直接監視できるようになった。
 環境産業分野でもRIトレーサー(たとえば、スカンジウム46)を利用した重要な技術が開発された。
3.韓国がんセンター病院
 韓国がんセンター病院(Korean Cancer Center Hospital:KCCH)は、KAERIの下部組織であり、がん治療を専門とし670床を有するがん総合病院である。
 この病院の19診療部門の治療医は、がん関係及びそのほかの患者に、PET、MRI、加速器、スパイラルCT及びNT50(中性子治療システム)などの最先端の医療、研究装置を用いて質の高い医療を行っている。
 終わりに、表5にKAERIにおける主なRI生産及び利用の変遷をまとめた。
<図/表>
表1 HANAROのRI生産用垂直照射孔
表1  HANAROのRI生産用垂直照射孔
表2 韓国の電子加速器
表2  韓国の電子加速器
表3 RI製品リスト
表3  RI製品リスト
表4 RI生産施設
表4  RI生産施設
表5 RI生産及び利用の変遷
表5  RI生産及び利用の変遷

<関連タイトル>
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<参考文献>
(1)Radioisotope and Radiation Application Team, Korea Atomic Energy Research Institute:パンフレット、Radioisotope Production and Application、または http://hanaro.kaeri.re.kr
(2)韓国原子力研究所HP:(2002年8月)
(3)韓国がんセンター病院HP:(2002年8月)
(4)パンフレット、KOREA ATOMIC ENERGY RESEARCH INSTITUTE、または http://www.kaeri.re.kr
(5)アジア諸国原子力情報ハンドブック、日本原子力産業会議(2001年3月)、p.117-121
(6)永倉邦男ほか:韓国の照射利用 見聞記、放射線と産業、No126(2010)、p.42-46
(7)KAERI:KAERI News [Korea’s nuclear technology(11)] Radioisotopes expand scope of applications、2010.3.12、

(8)(財)原子力安全研究協会 国際研究部:FNCA ニュースレター、NO.19、2010年3月、http://www.fnca.mext.go.jp/newsletter/no19_2010-3.pdf
(9)(財)原子力安全研究協会:FNCA参加国の放射線加工用電子加速器、http://www.fnca.mext.go.jp/eb/institution.html
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