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<概要>
 韓国の原子力発電計画は、1970年に韓国初の原子力発電所である古里1号を米国に発注したところから始まった。続いて1970年代後半から現在までに順次発注された発電所が稼働し、2012年1月現在では21基(設備容量:1871.6万kW)が運転中で、5基(設備容量:580.0万kW)が建設中である。古里1号と月城1号は、運転開始後の数年間は初期トラブルに見舞われて設備利用率が低かった。しかし、その後建設した原子炉は国産化に努めて信頼性を高めた結果、設備利用率は2000年以降90%以上、2010年には90.7%に達している。韓国の総発電設備に占める原子力発電設備の割合は2011年6月時点で23.7%、2010年には総発電電力量4746.6億kWhのうち31.3%の電力を原子力が供給した。2010年に策定された第5次長期電力需給基本計画によると、2020年までにさらに10基程度を増設する計画である。
 韓国は1980年代以降、米国・ウェスチングハウス社やコンバッション・エンジニアリング社、カナダAECL社、フランス・フラマトム社(現AREVA-NP社)の原子力技術を国産化し、標準化を経てさらに発展させ、韓国標準型原子炉(OPR1000及びAPR1400)を開発した。今後自国の電源開発とともに輸出分野での国際展開を目指しているほか、次世代炉APR+の開発を行っている。
<更新年月>
2012年01月   

<本文>
1.原子力発電の経緯・現状と計画
1.1 原子力発電の経緯と現状
 韓国では2012年1月現在、古里(Kori)、月城(Wolsong)、蔚珍(Ulchin)、霊光(Yonggwang)の4サイトで21基・1871.6万kW原子力発電所が運転中であり、5基・580.0万kWが建設中である(表1及び図1参照)。韓国は、最初の原子力発電所「古里1号機」を1970年9月、米国ウェスチングハウス社に発注した。当時、経済成長に伴ってエネルギー消費が急速に増加し、エネルギー資源を持たない韓国では、エネルギー資源の輸入が急増しつつあった。続く1975年に建設を計画した月城1号機と古里2号機は、当時韓国がフランスから再処理パイロットプラントを導入しようとしていたことが支障となり停滞する局面もあったが、韓国が再処理を断念することで建設計画は進行した。以後、発電所の建設は順調に進み、2010年に策定された第5次長期電力需給基本計画では、2020年までに10基程度増設する計画である。
 韓国電力公社(KEPCO)が作成した2011年電力統計によると、2011年12月末現在の総発電設備容量7,881万kWに占める原子力発電の割合は23.7%、2010年には年総発電電力量4,746.6億kWhのうち31.3%を原子力が供給した(図2及び図3参照)。さらに、韓国は原子力発電所の稼働率の向上を目指し、保守・点検技術及び機器の改良、燃料交換間隔の長期化、運転停止時作業の効率化などを行い、平均設備利用率を2000年以降90%以上、2010年には90.7%まで改善している。
1.2 長期電源開発計画
 韓国は少資源国であり、一次エネルギー供給の約97%を輸入に依存していることから、韓国のエネルギー政策では「環境」、「エネルギー効率化」、「エネルギーの安全保障」が考慮されている。2008年8月、韓国国家エネルギー委員会が策定した「第1次国家エネルギー基本計画(2008〜2030年)」では、エネルギー使用量を大幅に削減しながら「低炭素、クリーン成長」の社会を目指すため、国全体のエネルギー原単位を2030年までに46%低減すること、原子力発電と再生可能エネルギーの利用拡大に重点をおくことなどが謳われている。原子力に関しては、原子力発電促進と原子力輸出産業の進展を掲げている。原子力発電促進策としては、原子力発電の安全性の確保を前提にした地域共存型の発電所の建設や使用済燃料の管理、原子力輸出産業策としては、次世代型140万kW級炉「APR+」の技術開発が特記されている。なお、この基本計画は韓国の電力需給の変化と経済状況を考慮しながら、知識経済部(MKE)により約2年毎に策定されている。
 他方、知識経済部(MKE)は、15年間にわたる電力需要の見通しと、発送変電設備の建設計画等を盛り込んだ「第5次電力需給基本計画(2010〜2024年)」を2010年12月に発表した。この計画によると、2024年までに電力需要が年平均1.9%(ピーク時需要は3.1%)で増加していくと見込まれ、2024年までに老朽化で改築するものを含めて、59基・4,897万kW、総計1億1,259万kWの発電設備容量を確保する必要があるとしている。CO2排出量の30%削減を目標に各発電方式の構成比率を検討した場合、2024年までに原子力発電所を14基・1,820万kW増設し、総発電電力量における原子力の割合を現在の31.4%から48.5%に引上げる必要があるとしている(表2参照)。
2.原子力開発
 韓国は、1973年の朴正熙大統領による「重化学工業政策」を発表して以降、工業の近代化が始まった。1980年代に高度経済成長期に入り、長期的な電源開発や原子力発電促進などを一元的に行う必要が生じたため、1982年に韓国電力公社(KEPCO)を国有化した。また、1980年代から「一業種一社育成方針」を採用し、現在の原子力分野は、(1)電源の開発促進や電力事業全体の運営計画を担う韓国電力公社(KEPCO)、(2)水力と原子力の公共発電事業者で発電所の建設計画策定から運転までの総合管理を行う韓国水力原子力(KHNP)、(3)原子炉の設計及びアーキテクト・エンジニアを担う韓国電力技術(KOPEC)、(4)PWRとCANDU炉の原子炉燃料の設計、成型加工を行う韓電原子力燃料(KNF)、(5)発送配電施設等のメンテナンスや炉の改修工事、計装制御系の補修などを行う韓電プラントサービス&エンジニアリング(KPS)の5大原子力公企業が原子力発電産業を構成している。
2.1 原子力開発の国産化計画
 韓国は、1970年代に欧米企業との提携により原子力発電プラントを導入し、1980年代以降、米国・ウェスチングハウス(WE)社及びコンバッション・エンジニアリング(CE)社、カナダAECL社、フランス・フラマトム社(現AREVA-NP社)の原子力技術を導入し、国産化、標準化を経て、自国の電源開発とともに原子力の国際展開を目指している。国産化の状況は5段階に分けられる。
(1)第一期(原子力プラント導入期):1977年までの発注。
 第1〜3号機(古里1、2(WE社)、月城1(AECL))。外国企業によるターンキー・ベース契約で、韓国産業界の受注は一部付帯工事のみ。
(2)第二期(原子炉機器の製造期):1978〜1985年の発注。
 第4〜9号機(古里3、4(WE社)、霊光1、2(WE社)、蔚珍1、2(フラマトム社))。原子炉コンポーネント・ベースの契約。KEPCOによる外国企業への機器を発注。韓国企業も一部は下請を受注した。
(3)第三期(原子力技術の国産化期):1987年の発注。
 第10〜11号機(霊光3、4(CE社))。韓国重工業(KHIC)が単独主契約者となって、炉本体は米CE社に下請発注。他の機器も下請業者に発注。CE社との機器共同設計で自主技術の確立を志向した。この時期から炉本体とタービン系の国産化が本格化した。
(4)第四期(原子力国産技術の自立):1990年以降の発注。
 第12〜20号機(月城2-4、蔚珍3-6、霊光5、6)。PWR完全国産化と標準化を目指し、韓国が全責任を負う契約方式である。「95 in 95」(1995年に95%の国産化を!)のスローガンのもとで、原子力技術の自立に取組むことになった。表3に原子力発電プラントの国産化率の推移を示す。目標達成には経済性との兼合いで困難なこともあったが、蔚珍3、4号機完成の1998年/99年時には国産化率は82.1%に達した。
(5)第五期(原子力国産技術の発展):2000以降の発注。
 第21号機〜(新古里、新月城、新蔚珍)。国産化した技術の輸出。
2.2 韓国標準化炉の開発
 原子力技術の国産化と並行して1983年に「原子力発電所標準化計画」が策定され、国産原子炉の開発が進められた(図4参照)。開発は実証された技術をベースに、運転・保守の単純化、建築工法の効率化、操作性の容易さが考慮され、システムやコンポーネントの信頼性を高め、事故防止や過酷事故対応のための安全余裕度を確保する方向で進められた。
 1987年4月の霊光3、4号機の発注では、米国・CE社をサブコントラクターとして選任し、米国・CE社が開発し、アリゾナ州パロヴェルデ発電所で採用した「システム80」(2ループ構成130万kW級PWR)を、韓国の国情に合うよう100万kWに改良した。炉心設計をKAERIが、2次系設計をKOPECが担当し、1995年には最適化原子炉「OPR1000」として完成した。一方、KEPCOは「システム80」の改良型炉である「システム80+」の開発プロジェクトに参加し、1992年末から国家改良技術開発事業の一環として安全性と経済性に優れた大型炉の開発に取り組んだ。その結果、2002年には130万kW級PWRである「システム80+」をベースに140万kW級PWR「APR1400」として完成した。現在、海外輸出に対応できる150万kW級の先進型第3世代原子炉「APR+」の開発をKHNPにより進めている。「APR+」は2011年の福島第一発電所事故を踏まえ、電源喪失でも稼動する受動型補助給水系PAFSを備え、シビアアクシデントにも十分対応できる設計となっている。
 これらの原子炉の開発に伴い、韓国の知識経済部(MKE)は、2010年1月、2030年までに原子炉80基を輸出し、世界の三大原子力輸出国となることを目指した「原子力発電輸出産業化戦略」を発表した。戦略は輸出国に応じてターンキー契約から、資材供給、保守・運転・コンサルタントまであらゆる分野に及ぶ。しかし、韓国が原子炉を輸出するに当たって、米国・WE社との間で知的所有権をめぐる争いが生じている(CE社の原子力部門は2000年にWE社と統合されている)。韓国側は国産炉が純然たる韓国の国産開発技術であるとしているが、WE社側はCE社の「システム80」及び「システム80+」の技術をベースにしたもので、「米国起源の原子力発電技術の移転」と見なし、米国政府の個別認証を要求した。実際、2009年12月に韓国がアラブ首長国連邦(UAE)とAPR1400・4基の受注契約を結ぶ際、KEPCO側は原子炉冷却材ポンプなどのライセンスをWE社側から購入することになった(ATOMICAデータ「韓国における原子力戦略(14-02-01-09)」参照)。
3.電力の民営化
 40年間にわたって電力事業を独占してきた韓国電力公社(KEPCO)の発電部門が、経営効率の向上と発電コストの削減のため、2001年4月に5社の火力発電会社と、1社の水力・原子力発電会社(KHNP)に分割され、送電・配電部門は韓国電力公社が行うことになった。法制面では電力産業再編推進法が制定され、2002年12月には電力事業法が改定されている。この民営化政策の波に押された形で、原子力発電の主要機器製造企業、韓国重工業(Hanjung)も筆頭株主となった斗山(トゥサン)に移管され、2001年3月から斗山工業になっている。
(前回更新:2004年2月)
<図/表>
表1 韓国における原子力発電所の状況
表1  韓国における原子力発電所の状況
表2 第5次電力需給基本計画での電源構成見通し
表2  第5次電力需給基本計画での電源構成見通し
表3 原子力発電所設備、技術国産化目標と国産化率の推移
表3  原子力発電所設備、技術国産化目標と国産化率の推移
図1 韓国の原子力発電所配置図
図1  韓国の原子力発電所配置図
図2 韓国における総発電設備容量の推移
図2  韓国における総発電設備容量の推移
図3 韓国における総発電電力量の推移
図3  韓国における総発電電力量の推移
図4 韓国における原子力発電開発の概略
図4  韓国における原子力発電開発の概略

<関連タイトル>
韓国標準型軽水炉(KSNP) (02-01-01-11)
第4世代原子炉の概念 (07-02-01-11)
韓国のエネルギー事情とエネルギー政策 (14-02-01-01)
韓国の電力事情 (14-02-01-02)
韓国の原子力開発体制と安全規制体制 (14-02-01-03)
韓国の原子力発電 (14-02-01-04)
韓国の核燃料サイクル (14-02-01-05)
韓国のPA動向 (14-02-01-06)
韓国におけるRI・放射線利用の現状 (14-02-01-07)
韓国における原子力戦略 (14-02-01-09)

<参考文献>
(1)(社)日本原子力産業会議:原子力年鑑 平成8年度版(1996年10月)、p.255
(2)(社)日本原子力産業協会:原子力年鑑2012(2011年11月)、p.102-131
(3)(社)日本原子力産業協会:、躍進するアジアの原子力:韓国の原子力開発(2010年4月)、http://www.jaif.or.jp/ja/asia/korea/korea_data.pdf
(4)(社)日本原子力産業協会:世界の原子力発電開発の動向2011年版(2011年5月)
(5)韓国水力・原子力発電会社(KHNP: KOREA HYDRO & NUCLEAR POWER CO. LTD):

(6)韓国電力公社(KEPCO):
(7)韓国知識経済部(MKE):第5次電力需給基本計画(2010-2024)、(2010年12月)、

(8)韓国原子力委員会:Rationale of Innovative Nuclear System(17回目の環太平洋地域原子力会議)、

(9)世界原子力協会(WNA):韓国、http://www.world-nuclear.org/info/inf81.html
(10)韓国電力公社(KEPCO):KEPCO in Brief (2011. 6. 30)
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