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<概要>
 1991年にイラクの包括的保障措置協定(INFCIRC/153)違反が発覚し、IAEAの保障措置は申告された核物質に対しては有効であるが、未申告の核物質および原子力活動の存在を探知するには不十分であることが指摘された。それをうけて未申告の核物質および原子力活動に対する新たな法的権限を与える方法およびその手続きについてIAEA理事会で議論が重ねられ、その結果「モデル追加議定書案」が作成され、1997年9月に署名のため開放された。2000年5月のNPT運用検討会議において、包括的保障措置協定および追加議定書(Additional Protocol:AP(INFCIRC/540))を一体化した文書として取り扱うことが合意された。追加議定書に規定されている措置と手段は、包括的保障措置協定のそれと統合し運用することによって、十分な「保障措置の強化と合理化」を可能にするものであり、そのため、包括的保障措置と追加的議定書に基づく新しい保障措置を一体化した統合保障措置(Integrated Safeguards:IS)が提唱された。
<更新年月>
2006年12月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.追加議定書の歩み
 1991年にイラクの包括的保障措置協定(INFCIRC/153)違反が発覚し、IAEAの保障措置は申告された核物質に対しては有効であるが、未申告の核物質および原子力活動の存在を探知するには不十分であり、IAEAの保障措置を強化する必要性が指摘・検討された。1993年、IAEA事務局は常設諮問委員会(SAGSI)の勧告および理事会の要請に従って、事務局プログラム案を理事会に提出し、了承された。このプログラム案がいわゆる「プログラム93+2計画」であり、1993年に開始され1995年までの2年間で結論を出すことになっていたため、このように呼ばれた。
 1995年6月の理事会に、包括的保障措置協定の枠組み内で実施できる各種方策からなる第1部と、新たなる法的権限が与えられて初めて実施可能となる、主として未申告の核物質および原子力活動に対する方策をまとめた第2部から構成された、「93+2計画」の最終報告書が提出され、第1部は直ちに実施することが承認された。第2部については、IAEAに新たな法的権限を与える方法およびその手続について理事会で議論が重ねられ、最終的に1996年6月、上記報告書第2部をモデル議定書の形に起草する為の委員会の設置が決定された。本委員会は、理事会で設定されたこの種の委員会の24番目にあたるため、通称24委員会(COM24)(正式名称は、「IAEA保障措置システム有効性評価および効率改善に関する委員会」)と呼ばれた。
 1996年7月から開始されたCOM24は、1997年4月にその任務を終了し、作成された「モデル追加議定書案」が同年5月に特別理事会で承認され、同年9月に署名のため開放された。2000年5月のNPT運用検討会議において、包括的保障措置協定および追加議定書(Additional Protocol:AP(INFCIRC/540))を一体化した文書として取り扱うことが合意された。追加議定書に規定されている措置と手段は、包括的保障措置協定のそれと統合し運用してはじめて、十分な「保障措置の強化と合理化」を可能にするものであり、そのため包括的保障措置と追加的議定書に基づく新しい保障措置を一体化した統合保障措置(Integrated Safeguards:IS)が提唱された。
 2005年末現在、IAEAとの間で追加議定書を発効させた国は71か国である。
 IAEAは、追加議定書に基づきこれらの国から申告されたその国の原子力活動全般や関連する施設情報をもとに、その完全性と正確性を確保するための補完的アクセス(Complementary Access:CA)と呼ばれる立入りを実施し、当該国内に未申告の原子力活動がないことを確認している。2001年には日本を含む13か国で補完的アクセスが88回実施された(図1参照)。2001年7月時点で、IAEAは国から提出された追加議定書第2条に基づく申告の評価のためのベースライン国別評価報告を54か国に関して作成し、審査を終了させている(図2参照)。
2.日本の追加議定書の歩み
 日本は1998年12月4日に追加議定書に署名し、関連する原子炉等規制法の改定を経て、1999年12月16日に発効した。次いで、2000年6月、追加議定書第2条に基づき、約150のサイト内の建物(合計約5000)に関する説明を含む冒頭報告をIAEAに提出し、この申告に伴う補完的アクセスも受入れた。2002年10月、従来の包括的保障措置および追加議定書に基づく新しい保障措置活動から、日本において核物質の転用がないこと、未申告の核物質および原子力活動がないこと等が結論することができるように検討された。
3.包括的保障措置協定と追加議定書の関係
 追加議定書第1条に「保障措置協定の規定は、本議定書の規定に関連しおよび両立する限度において、本議定書について準用する。保障措置協定と本議定書の規定が抵触する場合においては、本議定書の規定を適用する」とあり、包括的保障措置協定と本追加議定書が両立する限りは協定が準用されるが、対立する場合には追加議定書が優先するとされている。また、上述のように、追加議定書に規定されている措置と手段は、包括的保障措置協定のそれと統合し運用することではじめて、十分な「保障措置の強化と合理化」を可能にするものである。
4.追加議定書の構成
 追加議定書は、前文、本文18か条および二つの付属書から構成されており、概要は以下のとおりである。
 前文:政治的議論のコンセンサスをまとめたもので、(1)IAEAとの包括的保障措置協定締約国であること、(2)IAEA保障措置システムの有効性強化および効率改善による核不拡散のさらなる促進が国際社会の願望であること、(3)強化された保障措置の実施は、各国の経済的・技術的発展並びに原子力平和利用における国際協力を阻害せず、健康、安全性その他の規定および個人の権利を尊重すること、(4)入手した各種の秘密情報を保護するものであること、(5)本議定書に規定する活動の頻度および強度を目的に合致する最小限のものにすることが謳われている。
第1条:包括的保障措置協定との関係
第2条:情報の提供
(a)日本国政府は、次の情報を含む報告をIAEAに行う。
 ・核物質を伴わない核燃料サイクル関連研究開発活動に関する情報(政府の関与のあるもの)(i)
 ・原子力サイト関連情報(操業活動(ii)、建物の概要(iii))
 ・付属書Iに掲げられた活動の規模に関する情報(iv)
 ・現行包括的保障措置協定対象外の核物質情報(ウラン鉱山等(v)、濃縮前等の原料物質(vi)、現行包括的保障措置協定から免除された核物質(vii)、中・高レベル廃棄物(viii))
 ・付属書IIの特定設備・資材の輸出入情報(ix)
 ・今後10年間の核燃料サイクル関連研究開発活動に関する情報(x)
(b)日本国政府は、次の情報を機関に提供する為にあらゆる合理的な努力を払う。
 ・核物質を伴わない核燃料サイクル関連研究活動に関する情報(政府の関与のないもの)(i)
 ・原子力サイトに機能的に関連する活動の概要(ii)
第5条:補完的アクセスの場所
(a)原子力サイト内の全ての場所(i)、包括的保障措置協定対象外の核物質の所在する場所(ii)、核物質が使用されていた全ての廃止措置の取られた施設および施設外の場所
(iii)(b&c)核物質の存在しない原子力サイト外の場所(ただし、日本国政府がアクセスを実際に確保することが不可能な場合には、他の方法により機関の要求を満たす為にあらゆる合理的な努力を払う。)
 包括的保障措置制度の運用の効率化;
第11条:機関により通告された査察員について、日本国政府がその拒否を3か月以内に通報しない限り、日本国への査察員として指名されたものとみなす。
第12条:日本国政府は、査証の要請後1か月以内に数次の出入国査証を発給する。
第14条:通信システム
日本国政府は、機関が行う自由な通信を認め、且つ、これを保護する。
 秘密情報の保護;
第7条:日本国政府および機関は、核不拡散上機微な情報の普及防止等の為、管理されたアクセスについての取決めを作成する。
第15条:機関が知るに至った情報を保護する為に厳重な制度を維持する。
第17条:効力の発生
日本国政府が効力発生の為の要件を満たした旨を通告する日に発効する。
付属書I:第2条に従い、日本国政府が申告すべき活動の一覧表
付属書II:第2条に従い、日本国政府が申告すべき輸出および輸入に係る報告のための特定設備・資材の活動の一覧表
5.追加議定書と統合保障措置の開始
 追加議定書に規定された新たな保障措置手段を含む保障措置強化・効率化策が導入されたことにより、在来の保障措置手段と新たに導入された保障措置手段を統合した統合保障措置が検討されている。IAEAでは、追加議定書を発効させた国で、包括的保障措置協定に基づき申告された核物質の転用がなく、また、追加議定書に基づく措置により未申告核物質および原子力活動がないことの結論が導出された場合にのみ、その国に統合保障措置を適用することとしている。統合保障措置においては特定の保障措置適用パラメータ(例えば、適時性目標(探知時間)および探知確率)は、追加議定書による新しい手段により未申告原子力活動の抑止と探知能力が増強されることから、照射済核物質の探知時間を3か月から12か月にする等の見直しが行われており、この結果、年間査察業務量は、大幅に効率化されることが期待される。わが国においては、MOX燃料を使用しない軽水炉に対する統合保障措置の適用に向けてのリハーサルの実施等、統合保障措置実施に向けての取組みが精力的に行われた結果、2004年9月には大規模核燃料サイクルを有する国として世界で初めてIAEAから統合保障措置への移行が認められ、現在実施中である。
6.追加議定書の対象物
 本追加議定書の第2条にこれまで包括的保障措置協定では申告が義務付けられていなかった、閉鎖又は廃止措置された施設、保障措置開始以前の物質、保障措置から免除された又は保障措置の終了した物質、核分裂性物質の濃縮、再処理又は放射性廃棄物の処理に関連する核物質を伴わない核燃料サイクル関連の研究開発活動および特定設備および非核物質の輸出入に関する情報を提出すべきことが規定されている。
(1)核燃料サイクル関連の研究開発活動とは、第2条a.(iv)で以下のように規定されている。
 a)同位体濃縮用の遠心分離機回転胴の製作又はガス遠心分離機の組立
 b)ガス拡散同位体濃縮用の拡散隔膜の製作
 c)レーザー同位体濃縮用のレーザーを使用したシステムの製作又はその組立
 d)電磁式同位体分離器の製作又はその組立
 e)化学又はイオン交換同位体分離用のカラム又は抽出設備の製作又はその組立
 f)同位体分離用の空気動力学を用いた分離のノズル又は渦巻管の製作
 g)プラズマの製作又はその組立
 h)ジルカロイ管の製作
 i)重水又は重水素の生産又は精製
 j)原子炉級黒鉛の生産
 k)照射済み燃料用フラスコの製作
 l)原子炉制御棒の製作
 m)臨界安全タンクおよび貯槽の製作
 n)照射済み燃料要素切断機の製作
 o)ホットセルの建設
(2)輸出入の報告が義務付けられている特定の設備および非核物質とは、第2条a.(ix)で以下のように規定されている。
 a)原子炉およびその設備
 b)核物質ではない原子炉用資材(重水、黒鉛など)
 c)再処理施設およびその為に特別に設計・製作された設備
 d)燃料要素加工施設
 e)ウラン同位体濃縮工場およびその為に特別に設計・製作された設備
 f)重水、重水素および重水素化合物の生産プラントおよびその為に特別に設計・製作された設備
 g)ウラン転換施設およびその為に特別に設計・製作された設備
(前回更新:2002年12月)
<図/表>
図1 補完的アクセス(CA)実施回数(1998年〜2002年)
図1  補完的アクセス(CA)実施回数(1998年〜2002年)
図2 国別評価報告数(見直し分を含む)(1997年〜2002年)
図2  国別評価報告数(見直し分を含む)(1997年〜2002年)

<関連タイトル>
保障措置のあらまし (13-05-02-01)
保障措置のための目標と技術的手段 (13-05-02-04)
統合保障措置 (13-05-02-21)

<参考文献>
(1)(財)核物質管理センター:IAEA保障措置用語集、2001年版対訳(平成17年8月)
(2)(財)核物質管理センター(編集・発行):核物質管理センターニュース(月刊)各号に掲載の次の記事→Jonathan Sanbornほか、統合保障措置に関する米国の視点(仮訳)、Vol.31、No.7(2002年7月)、p.11-13、小山謹二、保障措置の強化と合理化に向けて、Vol.31、No.3(2002年3月)、p.11-13、保障措置システムの有効性強化及び効率改善並びにモデル議定書の適用−IAEA総会における理事会決議への要請−(仮訳)、Vol.30、No.5(2001年5月)、p.1-6、2001年IAEA年次報告(抜粋・仮訳)−(1)保障措置−、Vol.31、No.11(2002年11月)、p.1-9、ほか
(3)(財)核物質管理センター(編集・発行):核物質管理センター30年史(平成14年6月)、p.61-79
(4)国際原子力機関(IAEA):GENERAL CONFERENCE、http://www.iaea.org/About/Policy/GC/GC44/Documents/gc44-12.pdf
(5)国際原子力機関(IAEA):Pierre Goldschmidt、The IAEA Safeguards System moves into the 21st Century、5/22-12/22
(6)国際原子力機関(IAEA):MODEL PROTOCOL ADDITIONAL TO THE AGREEMENT(S) BETWEEN STATE(S) AND THE INTERNATIONAL ATOMIC ENERGY AGENCY FOR THE APPLICATION OF SAFEGUARDS(INFCIRC/540)
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