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<概要>
 原子炉から使用済燃料貯蔵区域に受け入れた使用済燃料中の核物質は燃料集合体単位で管理される。また分離工程を出入りする核物質の計量は、計量槽内での溶液の容量測定および組成分析により行う。操業運転(キャンペーン)終了時の洗浄(クリーンアウト)後、実在庫確認(PIT)および実在庫検認(PIV)を実施する。再処理工場はキャンペーン中は24時間連続操業をし、多量の直接利用物質を取り扱うことから、IAEA査察員が常駐する。施設は3区域に大別され査察される。第1区域は燃料受け入れ・貯蔵・剪断・溶解区域で受払間差異(SRD)が算出され、員数確認による計量と封じ込めおよび監視(C/S)および入量計量槽における計量検認が保障措置の手段として主に用いられる。第2区域は主に化学処理区域で移動および在庫の核物質に対して試料が収去・分析され、また在庫差(MUF)が算出され評価される。第3区域にはプルトニウムおよびウラン製品貯蔵庫が含まれ、員数確認による計量とC/Sが主に用いられる。なお、現在統合保障措置の検討が進められているが、再処理施設の場合には、年間査察業務量の効率化はあまり期待できないと言われている。
<更新年月>
2006年09月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.再処理施設の保障措置の特徴
 再処理施設は使用済燃料を処理、貯蔵し、かつこれをバルクで取り扱うためプルトニウム燃料製造施設とともに保障措置上最も重要な施設と考えられる。その運転は直勤務体制を組んで昼夜行われるため査察も常駐で24時間体制で実施される。
 その保障措置上、難しい点としては、
(1)再処理施設の工程区域では核物質および核分裂物質を含む設備の殆どが接近不可能である。
(2)再処理施設に搬入される使用済燃料の中の核物質の組成は、原子炉側の計算によって算定されているが、誤差を含んでいるので再処理施設側で核物質の確定を行わなければならない。
このため、再処理施設では特に細心の計量管理で、これらの点に対応する必要がある。
 現在まで日本国内の再処理施設は原子力機構(旧 サイクル機構(現日本原子力研究開発機構))において年間処理量200トン以下のものが運転されており、保障措置が適用されている。これに対し年間処理量800トンの、いわゆる大型再処理施設が現在青森県六ヶ所村に建設中であり、2007年より本格運転が開始される予定である。その保障措置についてはLASCAR(大型再処理保障措置会合)というIAEAプロジェクトにおいて1987年から1992年にかけて検討された。ここでは主に前者の再処理施設(中小型再処理施設という。)の保障措置について述べ、後者についてはLASCARの結論について簡単につけ加える。
2.再処理施設の計量管理
 再処理施設の工程は、使用済燃料のせん断・溶解工程、ピューレックス法を用いた抽出工程等からなっており、これらの工程を経て軽水炉の使用済燃料が再処理される。
 原子力機構の東海再処理施設には3つの物質収支区域(MBA)および9つの流れの測定点(FKMP)と7つの在庫の測定点(IKMP)が設定されている。
 1番目の物質収支区域(MBA)は使用済燃料貯蔵区域でSRD(受払間差異を算定する)区域となっており、使用済燃料1体が1バッチを構成し、刻印番号の確認と員数確認を、受入れおよび実在庫量の確認の時の計量手段としている。また、この区域にせん断、溶解工程を含めている。
 2番目のMBAは工程区域(工程MBA)であり、分析所、廃棄物処理場も含まれている。この区域の核物質は、おもに硝酸塩溶液であることから、予め較正された槽で容量を求め、試料の収去、分析によって得られた結果とあわせて核物質量を求める。入量計量槽および製品プルトニウム計量槽は、物質収支区域間の主要な核物質移動量を求めるために、年1回の頻度で較正を行っており、工程管理用機器とは別に計量機器が設置されている。
 最後のMBAは製品貯蔵区域で、ウラン貯蔵所およびプルトニウム製品貯槽から成っている。ウラン製品については、それが粉末であることから重量測定および分析によって核物質量を求めるが、貯蔵容器1個を1バッチとしているので、実在庫量確認の時には員数確認を計量手法としている。さらにこの区域では封じ込めおよび監視も計量の補助手段として用いられている。プルトニウム製品については、それが溶液であることから工程MBAの計量と同様の方法がとられている。
 使用済燃料の処理が終了すると、溶解区域から順に洗浄作業を行い、核物質を較正された貯槽等に集め、実在庫確認を行う。この実在庫確認は年に2回行われ、核物質の多くが溶液であることから、容量測定と分析により在庫量を求めている。
 計量管理で得られたデータは、記録、保存されるとともに、計算機による計量管理システムに蓄積され、査察用試料の提供等にも用いられる。
3.再処理施設に対する査察検認
 再処理施設に適用される査察としては次のような例がある。即ち、キャンペーン終了時の施設の実在庫確認に対する実在庫検認、キャンペーン中については常時査察、又運転停止中については中間査察の適用である。IAEAの保障措置クライテリアを参考にその具体的な内容について説明する。
(1)記録と報告の検査
 記録と報告の検査は、在庫変動報告書(ICR)、実在庫明細表(PIL)等を中心として、整合性の検査が行われる。実在庫検認の際には、施設者から在庫品目明細表が提供されることが前提となっている。
(2)実在庫検認(PIV)
 施設者の実在庫確認(PIT)に対するIAEAによる実在庫検認(PIV)が年に1回実施される。この時の検認活動は、対象となる核物質が封じ込めおよび監視(C/S)下にあるかどうかで対応が異なる。C/S下にない使用済燃料は員数勘定をして、50%の探知確率でランダムサンプリングして大量欠損についてNDA機器(非破壊測定機器)等を用いて検認する。監視カメラまたは封印によるC/S下の使用済燃料は、員数勘定し、監視カメラの場合はフィルム等を評価し、封印の場合は20%の探知確率で封印の検認をする。
 溶液については、通常、較正された槽に集め、プルトニウムについては90%の探知確率で大量欠損、部分欠損およびバイアス欠損についてDA(破壊分析)等により検認する。低濃縮ウランについては50%の探知確率で大量欠損および部分欠損について検認する。廃棄物中のプルトニウムについては90%の探知確率で大量欠損について検認する。C/S下にある分離されたプルトニウムについては、員数勘定し50%の探知確率で封印が検認され、さらに、10%の探知確率で大量欠損、部分欠損について検認する。
 PIV時の検認できない核物質量は、0.3SQ(有意量;用語解説参照)以下となることが求められている。このために、PIT時に工程内を十分に洗浄(クリーンアウト)して、測定できない核物質がなるべく少量となるような作業が必要となる。
(3)移転量の検認
 再処理工場では、受け入れる核物質の形態は使用済燃料であり、(2)と同様な考え方で検認する。また、ひとつの物質収支期間内の受け入れおよび払い出しに関する検認出来ない量は0.3SQ以下にするとされている。また、MBA間の核物質の移動に対して、工程区域へ移転される溶解液は移転毎に容量測定し、試料を収去して化学分析する。また、この移転に関しては、すべての移転を検認するためにC/Sを適用する。工程MBAからのプルトニウム製品のすべての移転に対しても容量測定および試料収去による検認が行われる。
(4)物質収支の評価
 物質収支が確定された時点で、受払間差異(SRD)と在庫差(MUF)等が評価される。
(5)適時性の確保を目的とした中間査察
 再処理工場においては、使用済燃料および工程中および製品中のプルトニウムに対して適時探知目的の査察が実施される。使用済燃料に対しては年4回、溶液中のプルトニウムに対しては年に12回の中間査察が実施される。施設の計量記録および操業記録を検査し、査察中に検認したそれらの物質について帳簿在庫を更新して確定する。具体的な検認活動は、PIVと基本的に同じである。また、中間査察時には核物質が工程内の各個所に存在しているため、これを対象とした在庫検認を実施する。この方法に関しては、施設毎に決められる。一つの方法として、NRTA (ニア・リアルタイム計量管理)という計量管理手段があり、原子力機構東海研究開発センターの再処理施設においてトライアル・ユースが実施された。
 適時性目標達成のための検認においては、検認の対象とならなかった量が0.6SQ以下であることが求められており、この量の達成は、検認の困難な工程内の核物質が多量に存在する再処理施設に対してはかなり厳しい基準である。連続運転の場合には、適時性目標よりも短い間隔で物質収支を取る方式のNRTAの適用が考えられる。
4.大型再処理施設の保障措置
 大型再処理施設は使用済燃料の取扱量が大きいため、どのような保障措置手法が適当かという問題が生じる。LASCARの検討結果では、既存の技術および既に利用可能な技術で対応が可能という結論であった。その技術的要点を述べる。
(1)測定精度は実行可能な限り高く保つこと。
(2)検認の適時性はNRTAと封じ込めおよび監視を組み合わせることによって達成可能である。
(3)多重で独立の性質を持った封じ込めおよび監視システムを組み合わせることにより保障措置の信頼性が高まる。
(4)施設者の機器からの情報を有効に活用することが必要で、そのためIAEAは情報の眞正性検証(オーセンティケーション)をする必要がある。
(5)既存の技術を適用するための研究開発によりIAEA保障措置は一層効果的になるであろう。
5.統合保障措置
 追加議定書に規定された新たな保障措置手段を含む保障措置強化・効率化策が導入されたことにより、従来の保障措置手段と新たに導入された保障措置手段を統合した統合保障措置が検討されている。しかし、プルトニウム利用施設である再処理施設の場合には、年間査察業務量の効率化はあまり期待できないのではないかと言われている。
[用語解説]
 有意量(SQ:Significant Quantity)とは、1個の核爆発装置の製造の可能性を排除できない核物質のおおよその量で、プルトニウム:8kg、ウラン233:8kg、ウラン235(濃縮度20%以上):25kgと定められている。
(前回更新:2001年3月)
<関連タイトル>
査察とその現状 (13-05-02-02)
保障措置のための目標と技術的手段 (13-05-02-04)
保障措置に用いられる手法の設計 (13-05-02-05)
軽水炉を対象とする保障措置 (13-05-02-08)
保障措置技術開発と国際協力 (13-05-02-17)

<参考文献>
(1)IAEA/SG/INF/1 IAEA保障措置用語集
(2)IAEA/SG/INF/3 IAEA保障措置 −核物質の国内計量管理制度の指針−
(3)IAEA/SG/INF/6 IAEA保障措置 −核燃料サイクル施設における実施−
(4)保障措置セミナー資料集
(5)(財)核物質管理センター:核物質管理センターニュース:核物質管理センター発行の月刊ニュース
(6)原子炉等規制法
(7)国際規制物資の使用に関する規則
(8)核兵器の不拡散に関する条約第3条1及び4の規定の実施に関する日本国政府と国際原子力機関との間の協定(略して、「日、IAEA保障措置協定」)並びに当該協定への追加議定書
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