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<概要>
 従来の包括的保障措置の対象とされていた物質は、国内にある全ての核物質(ウラン、プルトニウム、トリウム)であるが、これらの鉱石や精鉱(例えばウラン鉱のイエローケーキ)の核原料物質は含まれておらず、またある量以下で原子力利用目的以外に使用される場合などは、手続きの後、保障措置の適用が免除されていた。しかしながら、追加議定書に基づく新しい保障措置では、従来の保障措置では対象外とされた核物質即ち核原料物質、保障措置の適用が免除された核物質、そして保障措置の終了したプルトニウムおよび高濃縮ウランに適用する手段を規定し、国内で未申告核物質を生産し、核兵器等に使用する道を閉ざしている。また、従来の包括的保障措置の対象になる物質を取り扱う原子力施設は全て保障措置の対象施設となるほか、追加議定書での保障措置の対象となる物質を取り扱う場所および核分裂性物質に関する濃縮、再処理または放射性廃棄物の処理に関する核物質を伴わない核燃料サイクル関連の研究開発活動を実施している場所もその対象となる。
<更新年月>
2006年08月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.包括的保障措置協定と追加議定書の関係
 イラクの核兵器開発疑惑を発端として包括的保障措置協定に追加される議定書(追加議定書−INFCIRC/540−)が発効され、その中で包括的保障措置協定と本追加議定書が両立する限りは協定が準用されるが、対立する場合には追加議定書が優先するとされている。
2.包括的保障措置の対象となる物質
 IAEAは保障措置の対象となる物質として「核物質」と「特定の非核物質」をあげており、「核物質」は、さらに「原料物質」と「特殊核分裂性物質」に分けられる。
(1)「原料物質」とは、天然ウランとウラン235の含有量が天然ウランよりも少ないウラン(劣化ウラン)とトリウムのことで、これらを金属や合金や化合物などの形で一定の含有率で含有するものをいう。しかし、日本と国際原子力機関(IAEA:International Atomic Energy Agency)との包括的保障措置協定では、採鉱中または精錬中の核物質については対象とされていなかった。
(2)「特殊核分裂性物質」とは、プルトニウム239、ウラン233、同位元素ウラン235または233の濃縮ウラン、およびこれらの一または二以上を含有している物質で「原料物質」を除いたものとしている(ただし、理事会が決定すれば、その他の核分裂性物質も含まれることになっている)。これらの中には低濃縮ウラン(濃縮度が20%未満で天然ウラン以上のもの)、高濃縮ウラン(濃縮度が20%以上)、混合酸化物(ウラン酸化物とプルトニウム酸化物の混合物)などが含まれる。
(3)「特定の非核物質」とは「特殊核分裂性物質」の生産に必要で加盟国の要請に基づいてIAEAの保障措置の対象となる全ての物質を指し、例えば、原子炉級黒鉛重水重水素原子炉用ジルコニウム合金などが含まれるが、日本とIAEAとの現行保障措置協定では保障措置は適用されていなかった。
(4)その他、たとえ核物質であっても次のものは保障措置協定による手続きを経て保障措置の適用が免除されていた(日・IAEA保障措置協定第36条)。
 a)計測器の検出部分として数グラム以下の量で使用されている特殊核分裂性物質
 b)協定第13条の規定によって非原子力活動に使用されている回収可能な核物質
 c)プルトニウム238の同位体濃度が80%を超えるプルトニウム
 なお第13条には、「日本国政府は保障措置の対象となる核物質が合金製品または窯業製品のような形で非原子力活動に使用される場合には、核物質の使用前にIAEAの合意を得れば保障措置の適用を免除できる」となっている。ただし日本政府の要請によって免除される国内の核物質の総量は、何時いかなる場合でも“ある量”またはIAEAの理事会が定める一層大きな量を超えないことが条件とされている。ここで言う“ある量”とは、
(1)次のものの一つまたは二つ以上からなる特殊核分裂性物質については、総量で1kg
 a)プルトニウム
 b)濃縮度が0.2(20%)以上のウラン、ただし総量の算出にはウランの重量にそのウランの濃縮度を乗じた数量を用いる。
 c)濃縮度が0.2(20%)未満で、天然ウランの濃縮度を超える濃縮度のウラン、ただし総量の算出にはウランの重量にそのウランの濃縮度の二乗に5倍を乗じた数量を用いる。
(2)天然ウランおよび濃縮度が0.005(0.5%)を超える劣化ウランについては、10メートル・トン
(3)濃縮度が0.005以下の劣化ウランについては、20メートル・トン
(4)トリウムについては、20メートル・トン
である。上述の保障措置の適用免除の他に、「保障措置の終了」がある。これは核物質が消費されるか、原子力活動に使用することができないような状態に希釈されるか、または実際上回収不可能になったとIAEAが決定した場合である。主に核物質を含有する廃棄物の一部に適用される。
 以上がIAEAの定義による包括的保障措置の適用を受ける核物質である。
 日本国政府においても、これに対応して国内法を整備し、原子力基本法原子炉等規制法および政令等において“核燃料物質”、“核原料物質”、“特定核燃料物質”、“国際規制物資”を定義しているが、特に“国際規制物資”については、原子炉等規制法に次のように定義されている(第2条の9)。「国際規制物資」とは、
・原子力の研究、開発および利用に関する条約その他の国際約束に基づく保障措置の適用その他の規制を受ける核原料物質、核燃料物質、原子炉その他の資材または設備をいう。
・前項の国際規制物資は内閣総理大臣が告示する。
となっており、告示の中で詳細に定められているが、この中にはIAEAとの包括的保障措置協定による核物質等の他に、米、加、豪等との2国間原子力協定による規制物資、例えば原子炉関連資材が含まれる。国内で核物質を使用する者は、必ず計量管理規定を定め、「国際規制物資の使用に関する規則」に従って計量管理を行い、また報告する義務がある。
 なお、国内で用いられている“核燃料物質”、“核原料物質”、“特定核燃料物質”の定義については「核燃料物質、核原料物質および放射線の定義に関する制令」および「原子炉等規制法施行令」で次のように定めている。
 「核燃料物質」とは、
(1)天然ウランおよびその化合物
(2)ウラン235のウラン238に対する比率が天然の混合率に達しないウラン(注1)およびその化合物
(3)トリウムおよびその化合物
(4)(1)〜(3)の物質の一または二以上を含む物質で原子炉において燃料として使用できるもの
(5)ウラン235のウラン238に対する比率が天然の混合率よりも高いウラン(注2)およびその化合物
(6)プルトニウムおよびその化合物
(7)ウラン233およびその化合物
(8)(5)〜(7)の物質の一または二以上を含む物質。
(注1)劣化ウラン、(注2)濃縮ウラン。
 「核原料物質」とは、ウラン若しくはトリウムまたはその化合物を含む物質で核燃料物質以外のもの。また「特定核燃料物質」とは、
(1)プルトニウム(プルトニウム238の同位体濃度が百分の八十を超えるものを除く)およびその化合物
(2)ウラン233およびその化合物
(3)ウラン235の238に対する比率が天然の混合率を超えるウランおよびその化合物
(4)(1)〜(3)の物質の一または二以上を含む物質
(5)ウラン235の238に対する比率が天然の混合率であるウランおよびその化合物
(6)(5)の物質の一または二以上を含む物質で原子炉に置いて燃料として使用できるもの
としているが、これらは上の「核燃料物質」でもある。
 表1および表2に、2003年12月末現在のわが国における核燃料物質の保有量を施設区分別と国籍区分別に示す。
3.包括的保障措置の対象となる施設
 IAEAの保障措置が適用される物質、すなわち核物質、を保有あるいは使用する全ての施設が保障措置の対象施設となるが、IAEAはこれを“施設”と“その他の場所”に分けている。そしてここで言う“施設”は次のように定義されている。
(1)原子炉、臨界実験施設、転換工場、加工工場、再処理工場、同位体分離工場または独立の貯蔵施設
(2)1実効キログラムを超える量の核物質が通常使用される場所
なお、実効キログラム量(国内法では実効値という)とは次のように算定した数値をいう。
 a)プルトニウム:その重量をキログラム単位で表した数値
 b)濃縮度(ウラン233の量とウラン235の量のウラン総量に対する比率)が0.01(1%)以上のウラン:そのキログラム単位の重量に濃縮度の二乗を乗じて得られる数値
 c)濃縮度が0.005(0.5%)を超え、0.01(1%)未満であるウラン:そのキログラム単位の重量に0.0001を乗じて得られる数値
 d)濃縮度が0.005(0.5%)以下の劣化ウランおよびトリウム:そのキログラム単位の重量に0.00005を乗じて得られる数値
 e)a)〜d)の一または二以上を含む物質:当該物質ごとにa)からd)の方法で算出される数値を合計した数値
 一方、“その他の場所”とは、「そこで核物質が保管されていても通常は使用されない設備、(例えば輸送中の一時貯蔵所)または、設備でなくかつ最大在庫量が1実効キログラム以下の場所」と定義されている。なお、その他の場所は“施設外施設”ともいわれる。表3に2003年12月末現在のわが国におけるIAEAの保障措置対象施設数を示したが、この表には、上で定義された「施設」と、それには該当しない「施設外」とに分けて示されている。
4.追加議定書の対象物
 日・IAEA保障措置協定の追加議定書の第2条にこれまで包括的保障措置協定では申告が義務付けられていなかった、閉鎖または廃止措置された施設、保障措置開始以前の物質、保障措置から免除されたまたは保障措置の終了した物質、核分裂性物質の濃縮、再処理または放射性廃棄物の処理に関連する核物質を伴わない核燃料サイクル関連の研究開発活動および特定設備および非核物質の輸出入に関する情報を提出ことが規定されている。
(1)核燃料サイクル関連の研究開発活動とは、第2条a.(iv)で以下のように規定されている。
 a)同位体濃縮用の遠心分離機回転胴の製造またはガス遠心分離機の組立
 b)ガス拡散同位体濃縮用の拡散隔膜の製造
 c)レーザー同位体濃縮用のレーザーを使用したシステムの製造または組立
 d)電磁式同位体分離装置の製造または組立
 e)化学またはイオン交換同位体分離用のカラムまたは抽出設備の製造または組立
 f)同位体分離用の空気動力学を用いた分離のノズルまたは渦巻管の製造
 g)プラズマの製造
 h)重水または重水素の生産または精錬
 i)原子炉級黒鉛の生産
 j)照射済み燃料用フラスコの製造
 k)原子炉制御棒の製造
 l)臨界上安全なタンクおよび槽の製造
 m)照射済み燃料要素切断機の製造
 n)ホットセルの建設
(2)輸出入の報告が義務付けられている特定の設備および非核物質とは、第2条a.(ix)で以下のように規定されている。
 a)原子炉およびその設備
 b)核物質ではない原子炉用資材(重水、黒鉛など)
 c)再処理施設およびその為に特別に設計・製作された設備
 d)燃料要素加工施設
 e)ウラン同位体濃縮工場およびその為に特別に設計・製作された設備
 f)重水、重水素および重水素化合物の生産プラントおよびその為に特別に設計・製作された設備
 g)ウラン転換施設およびその為に特別に設計・製作された設備
 日・IAEA保障措置協定の追加議定書は、関連する原子炉等規制法の改定とともに、1999年12月16日に発効し、第2条に基づく約150のサイト内の建物数合計約5000に関する説明を含む冒頭報告が2000年6月13日にIAEAへ提出された。
<図/表>
表1 わが国における核燃料物質保有量一覧(規制区分別)
表1  わが国における核燃料物質保有量一覧(規制区分別)
表2 わが国における核燃料物質保有量一覧(国籍区分別)
表2  わが国における核燃料物質保有量一覧(国籍区分別)
表3 わが国におけるIAEA保障措置対象施設数(2003年12月末現在)
表3  わが国におけるIAEA保障措置対象施設数(2003年12月末現在)

<関連タイトル>
保障措置のあらまし (13-05-02-01)
保障措置のための目標と技術的手段 (13-05-02-04)
軽水炉を対象とする保障措置 (13-05-02-08)
運転中燃料交換発電炉を対象とする保障措置 (13-05-02-09)
高速増殖炉を対象とする保障措置 (13-05-02-10)
研究炉と臨界実験装置を対象とする保障措置 (13-05-02-11)
転換施設および燃料加工施設を対象とする保障措置 (13-05-02-12)
再処理施設を対象とする保障措置 (13-05-02-14)

<参考文献>
(1)(財)核物質管理センター(訳)、科学技術庁保障措置課(監修):IAEA/SF/INF/1(Rev.1)IAEA保障措置用語集(1987)、「IAEA保障措置用語集:増補・改定版」(1988)
(2)(財)核物質管理センター(訳):IAEA/SG/INF/3 IAEA保障措置−概論−(1987)
(3)原子力委員会(編):原子力白書、平成10年版、大蔵省印刷局(1998年8月)
(4)(財)核物質管理センター:核物質管理センターニュース、核物質管理センター発行の月刊ニュース
(5)(財)核物質管理センター:核物質管理センター 30年史(2002年6月)
(6)(社)原子力産業会議:原子力ポケットブック、2005年版(2005年7月)
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