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<概要>
 (財)放射線影響研究所は、1975年に原爆傷害調査委員会(ABCC)の活動を継承し、放射線の人に及ぼす医学的影響及びこれによる疾病を調査研究し、原子爆弾の被爆者の健康保持及び福祉に貢献するとともに、人類の保健の向上に寄与する目的で日米共同で設立された。このため、被爆者や胎内被爆者の寿命・健康・遺伝的影響等の調査、放射線生物学調査、分子疫学調査被ばく線量の推定、データの統計学的処理等を進めている。
<更新年月>
2010年11月   

<本文>
1.目的及び事業
 (財)放射線影響研究所(RERF:Radiation Effects Research Foundation)の設立の目的と事業は、「寄付行為(定款)」に以下のように明記されている。
 協会の目的は、平和的目的の下に、放射線の人に及ぼす医学的影響及びこれによる疾病を調査研究し、原子爆弾の被爆者の健康保持及び福祉に貢献するとともに、人類の保健の向上に寄与することである。
 上記の目的を達成するために以下の事業を行う。
(1)被爆者の寿命に関する調査研究、被爆者の健康に関する調査研究、被爆者に関する病理学的調査研究、その他放射線の人に及ぼす影響及びこれによる疾病に関する調査。
これらを総合的に行う研究所を、広島市及び長崎市に設置・運営
(2)大学、大学附置の研究所又はその他の研究機関と共同して放射線の影響及びこれによる疾病に関する調査研究
(3)放射線の影響及びこれによる疾病に関する調査研究の成果の管理、報告及び公表
(4)被爆者の健康診断など
2.沿革
 表1に原爆傷害調査委員会(ABCC)と(財)放射線影響研究所(放影研)の歴史を示す。
 1947年、原爆傷害調査委員会(ABCC)が、米国原子力委員会の資金で米国学士院(NAS)により設立。1948年には厚生省国立予防衛生研究所(予研)が参加して、共同で被爆者の健康調査に着手。
 1955年、ABCCプログラム再評価特別委員会が設立され、研究計画を再検討し日米共同で被爆者の健康調査等を継続。
 1975年、(財)放射線影響研究所の発足、日米共同による調査研究を続行。
3.組織、人員及び経費
 図1に組織を、表2に人員の構成を示す。
 放影研は日米の理事による「理事会」が運管理営する。理事長は常勤1人、副理事長は常勤1人、常務理事は常勤4人以内、非常勤の理事6人以内、非常勤の幹事2人である。理事長と副理事長は日米で交互に務める。2010年の役員は3人、うち一人は米国学士院から派遣され副理事長と研究担当理事を兼務する。
 2010年の役員・職員数は235人、うち6人は米国学士院から派遣されている。
 日本の外務省及び厚生労働省が所管し、また日米両国政府が共同で管理運営する。経費は、日本は厚生労働省を通じて、米国はエネルギー省を通じて交付される。
4.調査研究と成果
 調査研究は、日米の「専門評議員」で構成される「専門評議員会」の検討を経て進める。
4.1 調査研究
(1)寿命調査(LSS)
 寿命調査は、原爆の放射線による死因やがん発生に与える長期的影響の検討が目的であり、疫学調査に基づいて生涯にわたり健康も調査する。
 この調査は、被ばく線量幅は広く、一般から抽出したあらゆる年齢層の人々を含む大きな集団が対象者(協力者)であり、その対象者を生涯にわたり追跡調査してガンの発生・死亡率、その他の疾患と放射線の関連を調査・記録する。これは放射線の影響に関する世界で最も有益な疫学調査となっている。
(2)成人健康調査(AHS)
 成人健康調査の目的は、原爆放射線の健康に及ぼす影響の検討である。2年ごとの健康診断を中心とした臨床調査である。1958年から寿命調査の対象者の中から約20,000人を追跡調査し、さらに1977年に対象者約2,400人と胎内被爆者約1,000人を追加した。
 健康診断の結果から、各種疾患の有病率や発生率、生理学的及び生化学的検査結果の変動、加齢及び放射線に関連する生理学的変化、ガン以外の疾患の放射線との関連等が検討される。
(3)原爆被爆者の子供(F1)に関する調査
 この調査の目的は、親の被爆による子孫への遺伝的影響の検討である。
 初期の出生時の障害に関する調査では、親の放射線被ばくの影響は認められなかった。その後の被爆者の子供(F1)の死亡率とガン発生率、染色体や血液蛋白質の異常に関する調査でも被爆の影響は観察されていない。2002年から中年以降になって生じる生活習慣病(高血圧や糖尿病など)の発症に関する臨床調査があり、成人期に発症する高血圧や糖尿病などの多因子疾患と親の放射線被ばくの関連の解析が進められている。
(4)胎内被爆者調査
 これは、原爆投下時に胎内にいた約3,600人の生涯の健康状態の調査である。中年から老年を通して死亡までの追跡調査により、多くの知見が得られると期待される。
(5)放射線生物学調査
 この調査は、放射線による体の物理的現象(部位、エネルギー沈着の種類及び量)、生物学的反応(損傷の結果、修復、調整過程)及び内因性因子(年齢、性、ホルモン、食事)の複雑な相関の解明が目的である。特に放射線と乳ガンや甲状腺ガン、ガンになりやすいDNAの指標を調べることに重点がある。
(6)分子疫学調査
 これは、容易に確認できない放射線による影響をDNAの分子変化から検出する方法の開発が目的である。
(7)細胞遺伝学調査
 この調査は、染色体の構造上の損傷の種類と量を調べることにより、放射線被ばく線量を推定する手法の開発が目的である。
(8)原爆放射線量の推定法の開発
 これは、被爆者の被ばく線量を推定する技術の開発である。原爆による被ばく線量を直接測定した結果は無いため、コンクリート、花崗岩等の放射線の影響を検討し、被爆地点、遮へい状態等の過去のデータを組み合わせて被爆者の被ばく線量を推定する。
(9)統計学
 種々の調査研究から得られるデータから、データの解析に適する統計学的手法や数学的モデルを開発する。
4.2 成果
 研究成果は下記の学術論文、定期刊行物、報告書などに公表されている。
(1)学術論文
 ・寿命調査(LSS)報告書シリーズ
 ・成人健康調査(AHS)報告書シリーズ
 ・放影研報告書シリーズ(1993年−現在)
 ・業績報告書シリーズ(1959−92年)
 ・解説・総説シリーズ(1989年−現在)など
(2)定期刊行物
 ・RERF Update(Radiation Effects Research Foundation, News and Views)
  日英語で2008年から年二回発行されている。
(3)報告書
 原爆放射線量推定方式に関する報告書
 ・広島および長崎における原子爆弾放射線被曝線量の再評価−線量評価システム2002(DS02)(2005)
 ・広島および長崎における原子爆弾放射線の日米共同再評価(DS86)(1986)
(前回更新:2004年6月)
<図/表>
表1 原爆傷害調査委員会 ABCC‐(財)放射線影響研究所の歴史の概要
表1  原爆傷害調査委員会 ABCC‐(財)放射線影響研究所の歴史の概要
表2 (財)放射線影響研究所の人員構成
表2  (財)放射線影響研究所の人員構成
図1 (財)放射線影響研究所の組織図
図1  (財)放射線影響研究所の組織図

<関連タイトル>
放射線の晩発性影響 (09-02-03-02)
放射線のリスク評価 (09-02-03-06)
胎児期被ばくによる影響 (09-02-03-07)
晩発性の身体的影響 (09-02-05-01)
放射線が寿命に与える影響 (09-02-05-05)
原爆被爆生存者における放射線影響 (09-02-07-08)
英国における原子力施設周辺の小児白血病 (09-03-01-01)
米国ハンフォード原子力施設従事者の疫学調査 (09-03-01-02)
日本の放射線技師の疫学調査 (09-03-01-03)

<参考文献>
(1)(財)放射線影響研究所、寄付行為
(2)(財)放射線影響研究所、年表
(3)(財)放射線影響研究所、組織、人員
(4)(財)放射線影響研究所、研究の概要
(5)(財)放射線影響研究所、出版物リスト
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