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<概要>
 1977年(昭和52年)に、原子炉等規制法の適用を受ける事業所が対象の「被ばく線量登録管理制度」が発足し、1984年には放射線障害防止法の適用を受ける事業所が対象の「RI被ばく線量登録管理制度」が発足した。両制度で、放射線従事者の被ばく線量等は、(財)放射線影響協会に設置された「放射線従事者中央登録センター」に登録・管理される。「中央登録センター」は、原子力事業者等から放射線管理記録を受け取り、それを永久保管のため電算機に登録し、維持・管理する。このデータは、放射線従事者等の被ばく管理、健康管理、さらに放射線のリスク、線量限度、生体影響等の検討に役立てられる。原子炉等規制法に関連する施設で作業する放射線業務従事者は、登録に伴い放射線管理手帳を受け取る。放射線障害防止法の登録管理制度には、放射線従事者の移動が少ないことから、「手帳制度」はない。平成22年度末の放射線従事者の登録は約45万件、放射線管理手帳の発行登録は約39万件である。他方、原子炉等規制法の適用を受ける事業所でも大学等の研究用原子炉等で働く放射線作業者の被ばく線量は登録されていない。また、放射線障害防止法の適用対象となる事業者のうち被ばく線量登録管理制度に参加している事業者は一部に留まる。さらに、これらの法令の適用を受けない事業者に所属する放射線作業従事者が全従事者の約50%を占めると推定されている。そこで、日本学術会議は、2010年にこの現状に対する問題点を指摘し、一元管理の充実を図る提言をしている。
<更新年月>
2012年01月   

<本文>
1.沿革
 原子力と放射線や放射性物質の利用は、エネルギー、医療、工業、科学等の分野で拡大し、今日の日常生活と切り離すことはできない。それに伴い、原子力関連の放射線作業従事者、医療関係者、工業技術者、科学研究者、さらに一般人の放射線被ばくが起きる。放射線の健康に与える影響には、世界の多くの人々に危惧の念があり、早くから安全な放射線被ばく量等について研究・検討が続けられている。
 1965年(昭和40年)に原子力委員会の「原子力事業従業員災害補償専門部会」の報告書は、事業主の負担軽減と労働者の健康管理のため、放射線業務従事者(放射線従事者)等に関する記録を管理する「中央登録管理制度」の確立を提言している(表1参照)。1973年(昭和48年)に、旧科学技術庁原子力局の「個人被ばく登録管理調査検討会報告書」は、「中央登録管理制度」が放射線従事者等の被ばく管理、健康管理、記録の散逸防止、さらに放射線のリスク、線量限度、生体影響等の検討に役立つと記している。
 この状況の下に、1977年(昭和52年)に、原子炉等規制法「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」の適用を受ける事業所が対象の「被ばく線量登録管理制度」が発足し、(財)放射線影響協会(放影協)に「放射線従事者中央登録センター」が設けられた。
 1984年(昭和59年)、放射線障害防止法「放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律」の適用を受ける事業所が対象の「RI被ばく線量登録管理制度」が発足した。本制度でも、放射線従事者の被ばく線量等は「放射線従事者中央登録センター(以下、「中央登録センタ」ー)」の管理となった。
2.中央登録センターの業務
2.1 目的
 中央登録センターの目的は、放射線従事者等の被ばく管理、健康管理、記録の散逸防止、さらに放射線のリスク、線量限度、生体影響等の検討に役立てるため、放射線従事者等の被ばく線量の一元的管理である。
 原子力施設等での放射線従事者の被ばく管理は、法律では原子力事業者が施設ごとに行う。しかし、原子力利用に伴い原子力事業者と放射線従事者の数は増え、放射線従事者一人ひとりの被ばく線量が一元的に把握、管理できる制度を確立することが望まれるようになった。
2.2 中央登録センターへの登録
 中央登録センターは、法令に基づく放射線従事者の「放射線管理記録」の「引渡し機関」である。中央登録センターは登録管理制度に参加している原子力事業者から放射線管理記録を受け取り、それを永久保管のため電算機に登録し、維持・管理する。なお、放射線管理記録は個人情報であり、その秘密は保たれている。図1に原子力施設で放射線業務に従事する際の登録手続の概要を示す。平成22年度末の放射線従事者の登録は451,445件である。
2.3 手帳制度(図2参照)
 原子力施設で作業する放射線業務従事者はすべて中央登録センターに登録される。登録に伴い事業者は、放射線従事者に全国統一様式の「放射線管理手帳」を発行する。この制度は「手帳制度」と呼ばれ、必要な記録を迅速に把握するため有効である。手帳を発行できるのは、電力各社(10社)、燃料加工業者等(5社)、元受メーカ(5社)等の71法人の169事業者であり、平成22年度末の放射線管理手帳の発行登録は394,244件である。なお、放射線障害防止法の登録管理制度には、放射線従事者の移動が少ないことから、「手帳制度」はない。
2.4 被ばく線量データの公表と利用
 中央登録センターは、統計資料を公表している。表2に公開されている平成21年度の放射線従事者の年齢別被ばく線量を示す。約79%の従事者が1mSv/年以下であり、30mSv/年を超える者はいない。一人当たりの平均被ばく線量は、1.1mSv/年である。中央登録センターの登録データは、国の「原子力発電施設等放射線業務従事者等に係る疫学的調査」に利用されている。また、インターネット、広報誌「放影協ニュース」等で公表している(図3参照)。
3.現行の「中央登録管理制度」の課題
 現行の制度の下で、原子炉等規制法の適用を受ける事業所でも大学等の研究用原子炉や核燃料物質研究施設で働く放射線作業者の被ばく線量については、中央登録センターに登録されておらず、全国的な一元管理がされていない。また、放射線障害防止法の適用対象となる事業者のうち被ばく線量登録管理制度に参加している事業者は一部に留まる。さらに、これらの法令の適用を受けない事業者に所属する放射線作業従事者が全従事者の約50%を占めると推定されている。そこで、日本学術会議の、基礎医学委員会・総合工学委員会合同「放射線・放射能の利用に伴う課題検討分科会」は、2010年(平成22年)に「提言:放射線作業者の被ばくの一元管理について」で、現行の管理の問題点を以下のように指摘している。
 1)被ばく管理について:原子炉等規制法関係では、放射線従事者が登録制度に参加していない放射線施設がある。放射線障害防止法関係では、医療関連の放射線従事者は、全従事者の50%を占めると推定されるが、正確な人数は不明である。
 2)被ばく前歴の確認方法について:放射線従事者の被ばく前歴は、記録がない場合は申告でも可とされている。したがって、放射線従事者の被ばく前歴の精度は低い。
 また、日本学術会議は以下の提言をまとめている。
 1)行政に対して:放射線従事者の被ばくの一元管理の必要性について認識する。一元化を検討する検討会等をつくる。一元管理のため関連法令を改正する。
 2)医療放射線安全に関連した学会に対して:放射線診療従事者の定義を明確にして従事者数を明らかにする。保健物理学会、日本原子力学会等は被ばく管理の一元化を理解し協力する。
(前回更新:2005年10月)
<図/表>
表1 放射線従事者中央登録センターの沿革
表1  放射線従事者中央登録センターの沿革
表2 放射線従事者の年齢別線量(平成21年度)
表2  放射線従事者の年齢別線量(平成21年度)
図1 原子力施設で放射線業務に従事する登録手続の概要
図1  原子力施設で放射線業務に従事する登録手続の概要
図2 放射線管理手帳制度の仕組
図2  放射線管理手帳制度の仕組
図3 放射線従事者数と平均被ばく線量の推移
図3  放射線従事者数と平均被ばく線量の推移

<関連タイトル>
放射線影響協会(REA) (13-02-01-24)
放射線影響協会・放射線疫学調査センター (13-02-01-25)
放射線影響研究所 (13-02-01-27)
個人線量データの管理 (09-04-07-04)
放射線管理手帳 (09-04-07-06)

<参考文献>
(1)放射線影響協会、原子炉等規制法関係登録管理制度、RI被ばく線量登録管理制度、
http://www.rea.or.jp/chutou/chutouindex-new.htm
http://www.rea.or.jp/chutou/ri-seido.htm
(2)日本学術会議、「提言、放射線作業者の被ばくの一元管理について」、2010、
http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-21-t99-1.pdf
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