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<概要>
 1950年代初頭に頻繁に行われた核実験による環境影響および人間への健康影響を世界的に調査するために、1955年12月に国際連合に原子放射線の影響に関する国連科学委員会(United Nations Scientific Committee on the Effects of Atomic Radiation, UNSCEAR)が設置された。当委員会は、その後、大気圏内核実験の縮小に伴い、調査対象を放射線に係わる人類と環境への重要事項すべてとし、国連総会に報告を行うとともに、適宜詳細な報告書を刊行している。内容は、自然放射線、人工放射線、医療被ばくおよび職業被ばくからの線量評価、放射線の身体的・遺伝的影響リスク推定に関する最新の情報を総括したものである。この報告書はICRP国際放射線防護委員会)への基礎資料となる一方、世界の関係者の重要な拠り所となっている。
<更新年月>
2010年09月   

<本文>
1.設立および任務
 国連科学委員会(以下、「科学委員会」)は、第10回国連総会決議(1955年)に基づき設立され、設立時のメンバー国は15ヶ国であった。1973年12月の第28回国連総会決議により、科学委員会のメンバー国を最大20ヶ国に増加するほか、核実験地域に位置している国または被ばくしていると認める国よりの要請に応じて、科学委員会は(その要請国の費用で)科学委員会メンバー国の中から専門家グループを任命してそれらの国に派遣し、その国の科学当局と協議させ、その協議について科学委員会に報告させることが定められた。その後、第41回国連総会決議(1986年)により中国がメンバー国として招請された。2010年9月現在、メンバー国は21ヶ国である。
 科学委員会の任務は、次の(1)〜(6)に集約されるように国連加盟国等から各国の自然放射線レベル、人工放射線レベルの情報の提供あるいは収集を行い、放射線による発がんのリスクおよび遺伝影響のリスクを推定することにある。
(1)国連加盟国、専門機関加盟国から提供される下記の情報を受領し、収集すること。
 (イ)環境における電離放射線および放射能のレベルに関する報告。
 (ロ)電離放射線の人間と環境への影響に関する科学的調査・実験に関する報告。
(2)資料収集方法、計測装置の規格並びに放射線計測法に関する標準を勧告すること。
(3)上記(1)の(イ)の放射能レベルに関する各種報告を総合的方法で編集すること。
(4)上記(1)の(ロ)の各国報告を検討評価して、その有用性を決定すること。
(5)国連総会への年次報告の策定、人間・環境の放射能レベルと放射線影響に関する報告について、(4)に規定する評価を行い、必要な調査計画を作成すること。
(6)前項に掲げる情報とその評価に関する報告を出版し、かつ国連加盟国または専門機関加盟国に配布することが適当と認めるときは、事務総長に送付すること。
2.メンバー国
 2010年時点のメンバー国は、以下の21ヶ国である:アルゼンチン、オーストラリア、ベルギー、ブラジル、カナダ、中国、エジプト、フランス、ドイツ、インド、インドネシア、日本、メキシコ、ペルー、ポーランド、ロシア、スロバキア、スーダン、スウェーデン、英国、米国。
3.活動
 科学委員会は第1回会議を1956年10月にニューヨーク国連本部で開催し、それ以降、2010年までに57回にわたって会合を開き、国連総会に年次報告を提出してきている。1960年代までは核実験フォールアウトからの線量評価に重点が置かれた。その後、原子力発電利用に伴う採鉱から廃棄物処分に至る全過程からの、単位発電量あたりの集団線量評価が重視されるようになった。1970年以降の20年間に世界中の原子炉稼働データが蓄積したが、原子力発電からの線量寄与は小さいことが判明した。この背景には大きな技術進展があったことが挙げられる。人工放射線からの最大の線量寄与は医療被ばくであるが、自然放射線からの線量寄与はさらに大きいことも明らかにした。今後、職業被ばくも含め、さらに詳細で的確な評価を進め、人類の受ける放射線の線量レベルが一層明確にされるように調査が続けられている。
 放射線の影響とリスクの評価では、動物実験データおよび原爆被爆者の追跡調査に応じた進展があり、1977年報告書はICRPの1977年勧告、また1988年報告はICRPの1990年勧告への重要な基礎資料を提供した。近年、分子生物学の著しい進展を受けて、発がん機構、放射線適応応答など、新しい知見がまとめられている。これらは1993年報告書、1994年報告書および1996年報告書として刊行された。ついで、20世紀の総まとめとして生物学的影響および放射線源の安全性に関する現状の知見を集約した2000年報告書が刊行された。
 第57回会合(2010年8月16日〜20日)では、第56回会合で選択された12課題(表1参照)のうち、6課題に係る文書を作成するための計画等について審議が行われ、作業部会の議論を通じて以下のとおり決定された。
1)健康影響における放射線寄与能力:放射線被ばくが健康影響の発現にどの程度寄与しているかを評価する際に、その概念的・実践的限界を明確化する。
2)電気エネルギー生産からの放射線レベルの評価:これまでの核燃料サイクルからの放射線被ばくに加え、異なる発電方式による放射線被ばくの影響を評価する。
3)放射線リスク評価における不確実性:疫学データの不確実性、数学モデルを構築する際のモデルの選択・パラメータ設定における不確実性など、多岐にわたる専門的検討を行う。
4)放射線影響の概要:低線量放射線影響に関する委員会の見解をまとめた広報的な文書で、バイスタンダー効果、ゲノム不安定性、適応応答などのキーワードが加えられた。
5)放出に起因する被ばく評価についての方法論:原子力施設からの放出物による一般公衆の線量評価に関して、これまでの報告書の概観、手法、特徴をまとめ、検討課題を整理する。
6)データ収集、解析、公表の改善:公衆、作業者および患者の被ばく線量を収集するための戦略と実施方針をまとめる。科学委員会の代表が連絡窓口となり参加国からのデータ収集を開始する。
4.我が国との関係
 我が国は原爆被災国という立場から、広島、長崎における原爆傷害による災害調査などに広範な規模にわたる科学者の組織的協力が推進され、この活動が国連科学委員会に対し大きく寄与する我が国の協力の母体となった。我が国は、1956年の科学委員会第1回会議以来、引続き会議に代表団を派遣し、国際的な協力を行っている。第30、31回国連科学委員会の副議長および第34、35回国連科学委員会の議長は、放射線医学総合研究所(放医研)元所長が務めた。1997年6月のウィーンにおける第46回会合では当時の放医研所長が日本国代表(代表団は他5人)として出席した。以降、第54回会合まで同氏が日本国代表を務めている。第55回会合および第57回会合(2010年8月)では放医研理事長が日本国代表を務めている。なお、科学委員会総会への参加に際しての審議内容に対する専門的意見の取りまとめ等については、放医研に設置された「UNSCEAR国内対応委員会」において検討がなされている。
(前回更新:2004年2月)
<図/表>
表1 科学委員会第56回会合において選択された課題および57回会合における検討課題
表1  科学委員会第56回会合において選択された課題および57回会合における検討課題

<関連タイトル>
放射線医学総合研究所 (10-04-05-02)
国際放射線防護委員会(ICRP) (13-01-03-12)

<参考文献>
(1)放射線医学総合研究所:放射線科学、31(10)(1988年9月)
(2)放射線医学総合研究所:放射線科学、32(8)(1989年8月)
(3)佐々木康人:第49回国連科学委員会報告
(4)佐々木康人:第50回国連科学委員会報告、放射線科学、Vol.44、No.8、p.246-252(2001)
(5)佐々木康人:第51回国連科学委員会報告、放射線科学、Vol.46、No.6、p.174-183(2003)
(8)UNSCEARホームページ、
   http://www.unscear.org/unscear/en/about_us/mandate.html
   http://www.unscear.org/unscear/en/about_us/memberstates.html
   http://www.unscear.org/unscear/en/general_assembly_all.html
   http://www.unscear.org/unscear/en/about_us/sessions.html
   http://www.unscear.org/unscear/en/general_assembly.html
(9) 国連科学委員会第52回会合報告、原子力安全委員会ホームページ、
  
(10)国連科学委員会第53回会合報告
  
(11)同54回会合報告
  
(12)同55回会合報告、原子力安全委員会放射線防護専門部会
  
(13)同56回会合報告、原子力安全委員会放射線防護専門部会
  
(14)原子力安全委員会事務局、第57回国連科学委員会会合について、
  
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