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<概要>
 国際海事機関(IMO)は、1948年にスイスのジュネーブでの国連海事会議で採択された政府間海事協議機関条約に基づいて設立された国連の専門機関の1つである。
 その目的は、海上の安全、航行の能率及び海洋汚染の防止等、海運に影響する技術的問題及び法律的問題について政府間の協力を促進することにあり、2006年1月現在、166か国が加盟している。
 IMOの具体的活動は5つの委員会によって遂行され、このうち、海上安全委員会が取り扱っている海上人命安全条約の第VIII章の原子力船の安全確保に関する規定、及び第VII章の危険物の輸送に関する規定、及び照射済核燃料やプルトニウムの海上輸送船舶の安全基準に関する規定、並びに海洋環境保護委員会が取り扱っている海洋汚染防止条約付属書3の容器で海上運送される有害物質による汚染防止等が、原子力関係の主な活動内容である。
<更新年月>
2006年01月   

<本文>
1.設立の経緯と目的
 国際海事機関(IMO:International Maritime Organization)は、国連の専門機関の1つであり、海上の安全、航行の能率及び海洋汚染の防止等、海運に影響する技術的問題及び法律的問題について政府間の協力を促進し、最も有効な措置の採用及び条約等の作成を行っている。
 1948年2月19日〜3月6日、スイスのジュネーブで32か国が参加して国際連合海事会議が開催され、その最終日に政府間海事協議機関条約(IMCO条約)が採択された。その後、本条約は1958年3月17日に発効し、同日、政府間海事協議機関(IMCO:Inter−Governmental Maritime Consultative Organization)が発足した。日本も同日に受託している。さらに1982年5月に、現在のIMOに改称されたが、海上の安全を守り、海運の発展や船舶による貿易に関する情報交換の場を提供するための活動を行っている。本部は英国ロンドンにある。2006年1月末現在の加盟国は166か国で、準加盟国は2か国となっている(表1参照)。
 IMOの目的は、旧IMCO条約、現IMO条約の第1章で次のように規定されている。
(1)国際貿易に従事する海運に影響のあるすべての種類の技術的事項に関する政府の規制及び慣行の分野において、政府間の協力のための機構となり、海上の安全及び航行の能率に関する事項並びに船舶による海洋汚染の防止及び規制に関する事項についての実行可能な最高基準が一般に採用されることを奨励し、かつ、促進し、並びにこの条に定める目的に関連する行政事項及び法律事項を取り扱うこと。
(2)海運業務が世界の通商に差別なしに利用されることを促進するため、政府による差別的な措置及び不必要な制限で国際貿易に従事する海運に影響のあるものの除去を奨励すること。政府が自国の海運の発展及び安全保障のために行う援助及び奨励は、その援助及び奨励が、すべての国籍の船舶が国際貿易に自由に参加することを制限するような措置に基づいていない限り、差別的待遇とはならない。
(3)海運企業による不公正な制限的慣行に関する事項は当事者間の直接交渉の後に審議すること。
(4)国連のいずれかの機関又は専門機関によって付託される海運に関する事項及び海運が海洋環境に及ぼす影響に関する事項を審議すること。
(5)機関が審議している事項に関する情報の政府間の交渉を可能にすること。
2.組織機構
 IMOは、総会、理事会、海上安全・海洋環境保護・法律・技術協力・国際海運簡易化の5つの委員会、及び海上安全及び海洋環境保護委員会の付託を受けた、専門的な技術的事項について審議を行う9つの小委員会と事務局から構成されている(図1参照)。
(1)総会
 全加盟国で構成され、2年に1回開催される。その主要任務は、機関の事業計画及び予算の決定、補助機関の設置、理事会の構成国の選挙、理事会の報告の審議、理事会が付託した事項の審議決定等である。
(2)理事会
 総会で選出された32か国で構成され、任期は2年。32か国は、Aカテゴリー10か国(国際海運業務の提供に最大の利害関係を有する国:中国、ギリシャ、イタリア、日本、ノルウェー、パナマ、韓国、ロシア、英国、米国)、及びBカテゴリー10か国(国際海上貿易に最大の利害関係を有する国:アルゼンチン、バングラディッシュ、ブラジル、カナダ、フランス、ドイツ、インド、オランダ、スペイン、スウェーデン)、及びCカテゴリー20か国(A及びBカテゴリーに選出されなかった国で、海上輸送もしくは航海に特別の利害関係を有する国)の3カテゴリーに分けて選出される。
 理事会の任務は、後述の5つの委員会からの報告、総会が理事会に付記した事項、事業計画及び予算案等につき審議し、総会に提出することの他、総会の会期と会期との間において、条約に定める場合を除き、機関のすべての任務を遂行することである。
(3)事務局
 英国のロンドンに設置されたIMO本部事務局は、海上安全部、海洋環境部、法律・渉外部、総務部、会議部、技術協力部の6つの部局で構成されており、職員は約300名。事務局長は2004年からギリシャのE.E.ミトロプロス(Mr. Efthimios E. Mitropoulos)氏。事務局の任務は、総会、理事会及び後述の5つの委員会ならびに9つの小委員会の活動を補佐することである。
3.IMOの主要な活動
 IMOの具体的な活動は、海上安全、法律、技術協力、国際海運簡素化、海洋環境保護の5つの委員会と、海上安全及び海洋環境保護委員会の付託を受けた、専門的な技術的事項について審議を行う9つの小委員会とによって遂行される。
(1)海上安全委員会(MSC:Maritime Safety Committee)
 本委員会は、全加盟国で構成され、主たる任務は航行援助施設、船舶の構造及び設備、安全の見地からの配員、衝突予防規則、危険貨物の取扱、海上の安全に関する手続及び要件、水路情報、航海日誌及び航行上の書類、海難調査並びに財産及び人命の救助に関するもの、その他の海上の安全に直接影響のある事項の検討である。詳細な検討は下部の小委員会に付託している。
(2)海洋環境保護委員会(MEPC:Marine Environment Protection Committee)
 本委員会は、第8回総会(1973年11月)の決定に基づき設立され、全加盟国により構成されている。本委員会には次の事項が付託されている。
1)1973年の船舶による汚染の防止のための国際条約(MARPOL、1973)、1978年の同議定書(MARPOL、1973/1978)及び1997年の同議定書(MARPOL、1978/1997)の規則の改正及び各国への通報
2)上記条約の実施を促進する措置の検討
3)海洋防止汚染に関する科学的、技術的情報の収集と各国への周知
4)海洋汚染防止に関する地域機関との協力の促進。なお、詳細な検討は下部の小委員会へ付託
(3)法律委員会(LEG:Legal Committee)
 本委員会は、船主の民事責任等、海事に関する法的事項全般について検討を行う機関で、全加盟国により構成されている。
(4)技術協力委員会(TC:Technical Co−operation Committee)
 本委員会は当初、技術協力作業部会として発足したが(1969年3月、第4回臨時理事会)、IMOの技術力分野の拡大にともない第10回総会(1977年11月)で他の委員会と同格の扱いとなった。本委員会は、全加盟国で構成され、その主たる任務は、IMOが担当する開発途上国技術協力プロジェクトの実施についての検討である。
(5)簡易化委員会(FAL:Facilitation Committee)
 本委員会は1965年に国際海運簡易化条約が採択されたのに伴い、国際海運の簡易化措置に関する事項を検討するため、簡易化作業部会として設立(1965年9月、第4回総会)したが、第28回理事会(1972年5月)において理事会の補助機関となり、第17回総会(1991年11月)で本委員会が他の委員会と同格の扱いとなった。
(6)小委員会
1)航行安全小委員会(NAV:Safety of Navigation):SOLAS条約附属書第V章関係事項(航海設備の技術基準・積付要件、海上通航帯の指定等)、COLREG条約関係事項(海上衝突防止に関する事項)等についての審議を行う。
2)無線通信・捜索救助小委員会(COMSAR:Radio−communications and Search and Rescue):SOLAS条約附属書第IV章関係事項(無線設備の技術基準・積付要件等)、SAR条約関係事項(海上救難に関する取決め等)等についての審議を行う。
3)防火小委員会(FP:Fire Protection):SOLAS条約附属書第II−2章、IBCコード・IGCコード等に規定されている防火構造要件、防火材料の基準・試験方法、消防設備の技術基準・積付け要件等についての審議を行う。
4)復原性・満載喫水線・漁船安全小委員会(SLF:Stability and Load Lines and Fishing Vessels Safety):SOLAS条約附属書第II−1章、MARPOL条約附属書I・IBCコード・IGCコードに規定されている復原性・区画・水密性の確保に関する要件、LL条約に基づく満載喫水線に関する要件、トレモリノス漁船安全条約に規定されている漁船の安全要件等についての審議を行う。
5)訓練当直基準小委員会(STW:Standards of Training and Watch keeping):STCW条約に関する事項等について審議を行う。
6)設計設備小委員会(DE:Ship Design and Equipment):SOLAS条約附属書第II−1章、IBCコード・IGCコード等に規定されている構造・機関・電気設備等に関する要件、HSCコードに基づく高速船の安全要件等についての審議を行う。
7)危険物、固体貨物及びコンテナ小委員会(DSC:Dangerous goods,Solid Cargoes and Containers):SOLAS条約附属書第VI章(貨物の積付け要件関係)及び第VII章(個品危険物の運送要件関係)、IMDGコード等に関する事項等の審議を行う。
8)ばら積液体・ガス小委員会(BLG:Bulk Liquids and Gases):SOLAS条約、MARPOL条約、IBC、IGCコード等に規定されているタンカー、ケミカルタンカー、ガスキャリアに関する安全要件・海洋汚染防止要件等に関する事項の審議を行う。
9)旗国小委員会(FSI:Flag State Implementation):旗国が果たすべき責務を確実に実施させるための方策について審議を行うとともに、寄港国による監督の実施・強化策等を検討する。
4.原子力に係るIMOの活動
 海上安全及び海洋環境保護委員会が取扱った主要条約や議定書等を表2に示す。
 このうち原子力関係の活動として最も重要な条約に「1974年の海上人命安全条約」(海上における人命の安全のための国際条約:International Convention for the Safety Of Life At Sea、1974:略称74SOLAS条約)がある。同条約では救命、通信、防火等を含む安全規制が規定されているが、第VIII章「原子力船」には、原子力施設を備えているという特殊な事情を考慮し、追加的安全要件が規定されている。軍艦以外の全ての原子力船に適用される。
 また船舶で放射性物質を運搬する場合には、同条約の第VII章「危険物の運送」が適用され、放射性物質の包装、積付け及び表示等の規制を受けることとなる。より詳細な輸送容器、運送方法及び放射能からの船員の保護等に関する規定は、国際海上危険物規定(IMDGコード)で定められている。
 また、照射済核燃料、プルトニウム及び高レベル放射性廃棄物の海上輸送の安全を確保するための船舶の構造設備要件等について定めた「INFコード」が、第62回MSC及び第34回MEPCでの承認の後、第18回総会(1993年11月)において総会決議(A.748(18))として採択されている。このコードは1995年11月の第19回総会(A.790(19))及び1997年11月の第20回総会(A.853(20))、1999年5月で改正されている。なお、わが国では、低レベル放射性廃棄物、プルトニウム運搬船についても、同様の安全基準を定め海上輸送を実施している。
 また、核物質の海上輸送に伴う法律委員会が扱う民事責任については、1971年に「核物質の海上運送の分野における民事責任に関する国際条約」(NUCLEAR:Convention relating to Civil Liability in the Field of Maritime Carriage of Nuclear Material、1971条約)をIMOは採択しているが、日本はこの条約には加盟していない。
 さらに、「危険物質及び有害物質の海上輸送に関連する損害についての責任並びに損害賠償及び補償に関する国際条約(HNS:International Convention on Liability and Compensation for Damage in Connection with the Carriage of Hazardous and Noxious Substances by Sea、1996条約:1996年5月採択、未発行)」の採択も行った。この場合の「有害危険物質」には、油、ガス、化学物質のほか、核物質も含まれている。
○略語説明
SOLAS条約:海上における人命の安全のための国際条約、
MARPOL条約:船舶による汚染の防止のための国際条約、
COLREG条約:海上における衝突の予防のための国際規則に関する条約、
STCW条約:船員の訓練及び資格証明並びに当直の基準に関する国際条約、
IMDGコード:国際海上危険物コード(International Maritime Dangerous Goods)、
INFコード:照射済核燃料、プルトニウム、高レベル放射性廃棄物の安全輸送コード(International Code for the Safe Carriage of Packaged Irradiated Nuclear Fuel,Plutonium and High−Level Radioactive Wastes on Board Ships)、
IBCコード:国際バルクケミカルコード、IGCコード:国際ガスキャリアコード、HSCコード:高速船コード
<図/表>
表1 国際海事機関(IMO)への加盟国数
表1  国際海事機関(IMO)への加盟国数
表2 IMO主要条約の発効状況(海上安全・海洋環境保護関係)
表2  IMO主要条約の発効状況(海上安全・海洋環境保護関係)
図1 国際海事機関(IMO)の機構図
図1  国際海事機関(IMO)の機構図

<関連タイトル>
原子力船「むつ」開発の概要 (07-04-01-01)
原子力船「むつ」の概要 (07-04-01-02)
原子力施設に対する国の安全規制の枠組 (11-01-01-01)
原子力船の法体系 (11-02-02-04)

<参考文献>
(1)原子力安全委員会(編):原子力安全白書、平成5年版、大蔵省印刷局(1994年3月)
(2)原子力安全委員会(編):原子力安全白書、平成7年版、大蔵省印刷局(1996年7月)
(3)大蔵省印刷局:法令全書(1980年5月)
(4)科学技術庁原子力局同原子力安全局(監):原子力関係法規集、大成出版社(加除版)
(5)外務省国際連合局(編):国際機関総覧、1996年度版、日本国際問題研究所
(6)国際海事機関(IMO:International Maritime Organization):
(7)国土交通省:国際>交通分野の国際的取組>分野別>海事分野における取組み>IMO(国際海事機関)、http://www.mlit.go.jp/kaiji/imo/imo_.html
(8)外務省:リンク>国際機関の概要及びホームページ>国際海事機関(IMO)
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