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<概要>
  欧州連合(EU)の行政を担当する欧州委員会(EC)は、27名の委員と38の局(総局を含む)で構成される。原子力の研究開発は、共同研究センター(JRC)と、今も半独立機関として残っている欧州原子力共同体(EURATOM)とが担当する。原子力利用に関する業務は「運輸・エネルギー総局」及び「研究総局」が分担する。EUの科学技術開発計画は、フレームワーク・プログラムと呼ばれている。第7次フレームワーク・プログラムは2007年から7年計画である。原子力の研究開発は、欧州原子力共同体の策定した第7次FP7(2007から5年計画)による。運輸・エネルギー総局は、原子力エネルギー局(H局)、原子力保障局(I局)が業務を分担する。研究総局では、原子力研究について、T局は若手研究者の育成を分担し、J局は核分裂核融合、国際協力を分担する。
<更新年月>
2008年12月   

<本文>
1.欧州連合(EU)と欧州委員会(EC)
 欧州連合(EU)成立には、1946年、ウィンストン・チャーチルの「ヨーロッパ合衆国構想」から始まる歴史がある。1951年には「欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)」の成立、1957年には欧州経済共同体(EEC)および欧州原子力共同体(EURATOM)が成立、1967年には上記の3共同体は欧州共同体(European Community)委員会の下に置かれた。
 1993年に、欧州連合条約マーストリヒト条約)が発効し欧州連合(EU、European Union)が発足した。EUは経済的な統合を中心に発展してきた欧州共同体を基に、共通外交・安全保障政策、および警察・刑事司法協力の三つの政府間協力を目指しており、2008年には27の加盟国がある。表1はEUを運営する機関を示す。一方、欧州原子力共同体(EURATOM)は、完全にEUの下にありながら今も半独立機関として残っている。
 欧州委員会(EC、European Commission)は、EUの行政執行機関である。加盟国から派遣された27名の委員は、国の省庁に相当する38局を分担し、(1)法令案の提出、(2)法令の執行、(3)局の業務に関する対外交渉と条約締結、および(4)予算執行の責任がある。
 原子力の研究は「欧州原子力共同体(EURATOM)」と「共同研究センター(JRC)」が担当し、利用に関する業務は「運輸・エネルギー総局」及び「研究総局」が分担する。
2.原子力の研究・開発計画
2.1 欧州連合(EU)のフレームワーク・プログラム(FP)
 EUの科学技術開発計画は、フレームワーク・プログラム(FP)と呼ばれている。第7次計画(FP7)は2007−2013年の7年計画で、予算は総額505億ユーロである。研究分野は協力研究、アイデア研究、人材育成、競争力強化、原子力の5分野に分かれている。計画の概要を表2に示す。予算の1/3は協力研究費である。
 共同研究センター(JRC)は、原子力に関して、放射性廃棄物管理、環境影響、原子力の安全と保安の研究等を進める。総予算額は17.5億ユーロである。
2.2 欧州原子力共同体(EURATOM)の第7次フレームワーク・プログラム(FP7)
 欧州連合(EC)の原子力の研究開発は、欧州原子力共同体(EURATOM)の策定した第7次フレームワーク・プログラム(2007−2011年、5年計画)による。EURATOMにはEUとは別に27億ユーロの予算がある。計画は大きく二つに分かれる。予算の配分を表3に示す。
(1)第1A計画(核融合研究):国際熱核融合炉(ITER)の建設、研究力の向上、DEMO炉の技術開発、人材の育成、技術力の向上と保全、技術の民間移転等を進める。
第1B計画(核分裂と放射線防護の研究):放射性廃棄物の処理処分技術の実証、分離・変換技術の開発、将来の原子力システムの研究、放射線利用と放射線防護、テロに対する防護、人材の育成等を進める。
(2)第2計画(JRCの支援):研究計画に従い、共同研究センターJRCの研究開発を支援する。
3.共同研究センター(JRC)の研究計画
研究開発は以下の3項目に分かれる。
(1)放射性廃棄物と環境影響:エネルギー供給から放射性廃棄物までの研究と情報の蓄積に努める。高レベル放射性廃棄物について、直接処分及び分離・変換処理の効率的方法を開発する。また、長半減期廃棄物の処理技術の開発とアクチノイドの基礎的研究を続ける。
(2)原子力の安全:現用の燃料サイクルや新燃料サイクル、ヨーロッパ型炉、ロシア型炉、及び新型炉の安全性を研究する。
(3)原子力の保安:バックエンド、環境の放射線モニタリング、包括的保障措置の実施、放射性物質の不法な輸送と分散の防止等について、欧州連合(EU)の活動を支援する。
 また、再生可能エネルギーと原子力を含め、ヨーロッパ社会の需要に見合うエネルギーの多様化について、現実的な討議を進め政策決定に貢献する。
4.運輸・エネルギー総局と研究総局
(1)運輸・エネルギー総局
 原子力に関して副総局長の下に、原子力エネルギー局、原子力保障局がある。
・原子力エネルギー局:EURATOM、国際協力、法制、エネルギー輸送、デコミ、放射性廃棄物対策、放射線防護等を担当
・原子力保障局:原子炉、燃料工場、再処理等の施設の保障措置などを担当
(2)研究総局
 原子力のFP7は、実施担当の副総局長と科学技術推進担当の副総局長が担当する。
・FP7実施担当:T局(研究契約担当)は若手研究者に、奨学金と機会を提供
・科学技術推進担当:J局(EURATOM)は核分裂、核融合、国際協力を担当
K局(エネルギー)はエネルギー転換、新エネルギー燃料電池、水素等を担当
5.日本とEUの原子力分野の協力
(1)原子力協力協定
 2006年、日・ユーラトム(EURATOM)原子力協力協定
(2)ITER関連の協力協定
 2007年、日・ユーラトム(EURATOM)国際熱核融合実験炉(ITER)協定
(前回更新:2004年2月)
<図/表>
表1 欧州連合(EU)の主な機関
表1  欧州連合(EU)の主な機関
表2 第7次フレームワーク・プログラム(FP7)の概要
表2  第7次フレームワーク・プログラム(FP7)の概要
表3 第7次のフレームワーク・プログラムの予算
表3  第7次のフレームワーク・プログラムの予算

<関連タイトル>
欧州原子力共同体(Euratom) (13-01-01-09)

<参考文献>
(1)外務省、欧州連合EU
(2)欧州連合EU、欧州委員会
(3)欧州連合(EU)、原子力関連の協力
(4)EC、Research、第7次フレームワーク計画の概要、http://ec.europa.eu/research/fp7/understanding/fp7inbrief/structure_en.html
(5)EURATOM、第7次フレームワーク計画、原子力関連(2007−2011)、Concerning the Seventh Framework Programme of the European Atomic Energy Community(Euratom) for nuclear research and training activities (2007 to 2011),
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