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<概要>
 「発電用軽水型原子炉施設におけるシビアアクシデント対策としてのアクシデントマネージメントについて」
 原子力安全委員会は、平成4年3月5日、原子炉安全基準専門部会共通問題懇談会から「シビアアクシデント対策としてのアクシデントマネージメントに関する検討報告書−格納容器対策を中心として−」を受けた。これは、近年、シビアアクシデントへの拡大防止対策及びシビアアクシデントに至った場合の影響緩和対策が発電用軽水型原子炉施設の安全性の一層の向上を図る上で重要であると認識されていること、また、アクシデントマネージメントの一部としての海外諸国において格納容器対策が採択され始めていることを踏まえ、我が国が採るべき考え方について検討を行ったものである。以下に抜粋を示す。(1992年5月28日 原子力安全委員会了承)
<更新年月>
1998年05月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.原子力安全委員会決定文[抜粋]
 原子力安全委員会は、平成4年3月5日、原子炉安全基準専門部会共通問題懇談会(以下、「同懇談会」という。)から「シビアアクシデント対策としてのアクシデントマネージメントに関する検討報告書−格納容器対策を中心として−」(以下、「報告書」という。)を受けた。これは、近年、シビアアクシデントへの拡大防止対策及びシビアアクシデントに至った場合の影響緩和対策(以下、「アクシデントマネージメント」という。)が発電用軽水型原子炉施設の安全性の一層の向上を図る上で重要であると認識されていること、また、アクシデントマネージメントの一部としての海外諸国において格納容器対策が採択され始めていることを踏まえ、我が国が採るべき考え方について検討を行ったものである。
 当委員会としては、報告書の内容を検討した結果下記の方針で対応を行うこととする。また、原子炉設置者及び行政庁においても、同方針に沿って一層の努力をされるよう要望する( 図1 に、我が国の取り組みについて示す)。
                 記
(1) 我が国の原子炉施設の安全性は、現行の安全規制の下に、設計、建設、運転の各階において、イ.異常の発生防止、ロ.異常の拡大防止と事故への発展の防止、及びハ.放射性物質の異常な放出の防止、といういわゆる多重防護の思想に基づき厳格な安全確保対策を行うことによって十分確保されている。これらの諸対策によってシビアアクシデントは工学的には現実に起こるとは考えられないほど発生の可能性は十分小さいものとなっており、原子炉施設のリスクは十分低くなっていると判断される。
  アクシデントマネージメントの整備はこの低いリスクを一層低減するものとして位置づけられている。
  従って、当委員会は、原子炉設置者において効果的なアクシデントマネージメントを自主的に整備し、万一の場合にこれを的確に実施できるようにすることは強く奨励されるべきであると考える。
(2) 原子炉設置者においては、原子炉施設の安全性の一層の向上を図るため、報告書が示す提案の具体的事項を参考としてアクシデントマネージメントの整備を継続して進めることが必要である。また、行政庁においても、報告書を踏まえ、アクシデントマネージメントの促進、整備等に関する行政庁の役割を明確にすると共に、その具体的な検討を継続して進めることが必要である。
(3) 当委員会としては、アクシデントマネージメントに関し、今後必要に応じ、具体的方策及び施策について行政庁から報告を聴取することとする。
  当面は以下のとおり行うこととする。
a) 今後新しく設置される原子炉施設については、当該原子炉の設置許可等に関わる安全審査(ダブルチェック)の際に、アクシデントマネージメントの実施方針(設備上の具体策、手順書の整備、要員の教育訓練等)について行政庁から報告を受け、検討することとする。
b) 運転中又は建設中の原子炉施設については、順次、当該原子炉施設のアクシデントマネージメントの実施方針について行政庁から報告を受け、検討することとする。
c) 上記a)及びb)の際には、当該原子炉施設に関する確率論的安全評価について行政庁から報告を受け、検討することとする。
(4) 関係機関及び原子炉設置者においては、シビアアクシデントに関する研究を今後とも継続して進めることが必要である。さらに、当委員会としては、これらの成果の把握に努めるとともに所要の検討を行っていくこととする。
2.報告書における技術的検討結果の内容[抜粋]
 同懇談会は海外諸国においてシビアアクシデント(*)対策の一環としての格納容器対策が規制要求としてあるいは原子炉設置者の自主的意図によって採択され始めていることを踏まえ、国内原子炉のPSA米国原子力規制委員会(NRC)が取りまとめを行っている「シビアアクシデントのリスク(NUREG-1150)」など海外のPSA及び国内外のシビアアクシデント研究の最新の成果などを基礎資料として、格納容器対策を主体とするアクシデントマネージメントについて、ワーキンググループを設置して検討してきた。本報告書はこの検討結果をまとめたものである。
 アクシデントマネージメントとは、設計基準事象を超え、炉心が大きく損傷する恐れのある事態が万一発生したとしても、現在の設計に含まれる安全余裕や安全設計上想定した本来の機能以外にも期待し得る機能またはそうした事態に備えて新規に設置した機器等を有効に活用することによって、それがシビアアクシデントに拡大するのを防止するため、もしくはシビアアクシデントに拡大した場合にもその影響を緩和するために採られる措置をいう。ここではこれらのうち、前者をフェーズIのアクシデントマネージメント、後者をフェーズIIのアクシデントマネージメントと呼ぶこととする。
 (*)シビアアクシデント:「設計基準事象を大幅に超える事象であって、安全設計の評価上想定された手順では適切な炉心の冷却または反応度の制御ができない状態であり、その結果、炉心の重大な損傷にいたる事象」
 格納容器ベント設備及び水素燃焼装置を中心として、フェーズI及びフェーズIIの観点から利害得失を含めて検討し、得られた技術的検討結果を以下にまとめて示す。
(1) 格納容器ベント設備
a) フェーズIのアクシデントマネージメントとしての格納容器ベント設備
  米国における耐圧強化型格納容器ベント対策は、Mark I型格納容器容積が他の格納容器の型式に比べて小さいという議論を背景として、主としてMark I型を対象として要求されている。しかし、実際には、国内のBWRプラントのMark IとMark II型では単位出力当りの格納容器容積について設計上の差はなく、また全炉心損傷発生率についても顕著な差はない。従って、Mark I型格納容器に対してのみ特に耐圧強化型格納容器ベント設備を設置する必然性は必ずしも明らかではない。なお、国内PWRプラントにおいては、フェーズIとしての格納容器ベント設備に期待していないので、これについての検討はここでは省くものとする。
b) フェーズIIのアクシデントマネージメントとしての格納容器ベント設備
  フェーズIIのベント設備として特徴的なものは、欧州諸国の軽水炉プラントで設置が進められているフィルター付きベント設備である。
  BWR Mark I、II型格納容器の現状の設計においては、フィルター付きベント設備もしくはウェットウェルベント設備のみでは格納容器の過温破損が防止できないため、必ずしも環境へのFP放出の低減に関して有効とならないが、格納容器への注水と組み合わせた場合には、フィルターもしくはサプレッションプールのバイパスを回避することができ、環境への核分裂生成物(FP)放出量の低減に関して有効なものとなる。
  PWRでは、フィルター付きベント設備は、格納容器の準静的な加圧破損モードに対しては有効であるが、フィルター付きベント設備のみでは他の破損モードには有効ではないため、シビアアクシデント時の格納容器破損の発生率を低下する観点から、格納容器スプレー系の強化あるいは格納容器内注水等ベント設備以外の対策も併せて、総合的に検討していく必要がある。
  なお、格納容器ベント設備の設備仕様を具体的に決定するに当たっては、格納容器直接加熱(DCH)、溶融炉心の冷却特性及びプールスクラビング効果等のシビアアクシデント時の物理現象に関する研究を促進し、不確かさの幅の低減に努めていく必要がある。
(2) 水素燃焼装置
  設計ベースを超える大量の水素ガスの発生に対する対応策については、原子炉安全基準専門部会のワーキンググループにおいて検討がなされてきた。現状で得られた知見をまとめると以下のとおりである。
a) 水素制御方式としては、水素再結合方式、水素燃焼方式及び不活性化方式があるが、このうち設計基準事象を超える大量の水素発生に対しては水素再結合方式は適さない。
b) PWRプラントに比べ、格納容器容積が相対的に小さいBWR Marl I、II型については、我が国では設計当初より窒素ガスによる不活性化方式が採用されている。
c) 格納容器容積が相対的に大きいPWRプラントについては運転中に格納容器の巡視・点検を行っていること及び格納容器容積が大きいことから不活性化方式は適さない。
d) 水素燃焼方式による水素燃焼装置の型式としては、グロープラグ式、スパーク式及び触媒式が挙げられるが、グロープラグ式及びスパーク式は電源の信頼性について検討が必要である。また、触媒式及びスパーク式はシビアアクシデント条件下での性能確認試験が完了していない。
e) 米国及びフィンランドのPWRアイスコンデンサ型プラントには既にグロープラグ式の水素燃焼装置が設置されている。
f) 我が国の産業界の環境への影響評価を含むPSAの結果によれば、PWRアイスコンデンサ型プラントに水素燃焼装置を設置することにより、全格納容器破損発生率は約半分になる。
g) PWRドライ型格納容器プラントは格納容器容積・出力比が大きく破損限界圧力も高いため安全裕度は大きいと認識されており、ドイツにおいて水素燃焼装置が設置される予定であるのを除き各国でも水素燃焼装置を設置していない。
  また、水素燃焼装置の作動の時期を誤り、水素濃度が高くなった時点で作動させることになった場合に、過剰圧力を生じさせないよう適切な操作要領等の検討が必要である。また、このような状態に対して、可能性は低いと思われるが、爆ごうの発生について検討が必要である。
<図/表>
図1 シビアアクシデントに対する我が国の取り組み
図1  シビアアクシデントに対する我が国の取り組み

<関連タイトル>
シビアアクシデント防止に関する研究(ROSA-V計画) (06-01-01-28)
BWR、MARK-I型格納容器圧力抑制系に加わる動荷重の評価指針 (11-03-01-13)
原子炉立地審査指針及びその適用に関する判断のめやすについて (11-03-01-03)

<参考文献>
(1) 科学技術庁原子力安全局原子力安全調査室(監修):改訂8版 原子力安全委員会 安全審査指針集、大成出版(1994).
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