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<概要>
 再処理プロセスの抽出分離工程の第1サイクル初段階において発生する高レベル放射性廃液に対する処置については、安全対策上、同廃液のガラス固化処理、ガラス固化体の中間貯蔵放射能減衰)、固化体の深地層への定置、安全確認後の固化体処分というシナリオが世界の主流となっている。固化処理技術はホウケイ酸ガラス系を中心に開発が進められ、外国ではすでに実用に供されている例がある。我が国では動力炉・核燃料開発事業団(現日本原子力研究開発機構)において、そのための開発施設(TVF)が運転開始された(1994年)。原研(現日本原子力研究開発機構)では、安全評価の観点から、固化体の物理化学的特性の把握、長期健全性の追究、また固化体収納容器(キャニスター)耐久性の確認などが進められてきた。国も、高レベル廃液の固化、処分の問題を重視している。
<更新年月>
1998年05月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
  再処理プロセスで発生する放射性廃棄物のうち、最も特徴的なものは「高レベル放射性廃液」であり、この廃液は「抽出分離工程第1サイクルの第1段階(共抽出又は共除染工程)」で生み出される。その放射能は処理した使用済燃料の放射能の90%以上に達する。したがって、この廃液の処理は、これからの原子力開発にとって大きな課題となっている。この高レベル廃液に対しては、現在世界的に、「高レベル廃液の固化」→「固化体の深地層処分」のシナリオが主流となっており、わが国でもこの線に沿った研究開発や調査が積極的に進められている。

1.高レベル廃液の固化処理プロセス
   図1 に「高レベル放射性廃液」に対する「固化処理プロセス」のあらましを示す。第1サイクルの第1段階で発生した高レベル廃液は前処理されたのち、ガラス素材とともに「ガラス溶融炉」に入れられ、高温(摂氏1,200 度前後)で数時間加熱されると廃液中の核分裂生成物FP)成分は溶融状態にあるガラス相内に溶け込み均質化する。その溶融ガラスは、溶融炉下底のノズルを通し、その下部に置かれたステンレス鋼(または銅)製のキャニスターといわれる円筒状の容器のなかに注ぎ込まれる。所要時間を経てキャニスター中の溶融ガラスは固化し、高レベル廃棄物のガラス固化体が完成する。
  ガラス固化の過程では、図1に見られるように、プロセス廃気とプロセス廃液が発生するが、このような2次廃棄物に対しても適切な処理が施さなければならない。固化処理の各ステップで発生する「プロセス廃気」は1箇所(槽類換気系)に集められ、放射能測定のうえ、基準値未満のものは排気筒から大気に放出される(放出される気体廃棄物の主なものは、トリチウム3H とヨウ素129Iであるが、いずれの濃度も“極低”であるので環境に及ぼす影響は無視できる)。なおプロセス廃気に、僅かではあるがルテニウム(放射性)のほか、チッ素酸化物や水蒸気(非放射性)が移行するが、前者は槽類換気系で除去される。また非放射性のチッ素酸化物等は施設内で処理、除去される。一方、一連の固化プロセスで発生する「プロセス廃液」は、廃液処理工程に回され、極低レベル放射性廃液として廃棄物処理場に送られる。

2.ガラス固化処理の主流技術
  各国で、各様の固化体形成法と固化体の健全性(閉込め核種の浸出特性などを含む)試験が進められている。そのポイントは、問題とする核種を、固化体構造中に、熱水条件下であってもいかに安定に存在させるかにある。
(1) 廃液固化方式の主流
  現在、高レベル放射性廃液の処理には、「ガラス固化処理技術」が適用され、世界的な主流となっている。実証または実用の段階に入った技術と見ることができよう。ガラス素材としては「ホウケイ酸系」が選択されているが、他系のガラス材が全く研究されてこなかったわけではない。一方、ガラス系に対立する処理法として、最近「岩石固化法」が注目を浴びるようになった。この固化法は、安定な鉱物特性(結晶相の組合せ)の実現により廃棄物の閉込めをはかろうとする手法である。
(2) ホウケイ酸ガラス系による廃液固化技術
  ホウケイ酸ガラス系を利用する高レベル廃液の固化プロセスは、大きく次の2方式に分類される(a) 「液体供給式直接通電セラミックメルター(LFCM)方式」(アメリカ−西ドイツ−日本動燃事業団(現日本原子力研究開発機構)の系列)、(b) 「マルクール固化方式(AVM) またはラアーグ固化方式(AVH) 」(フランス−イギリスの系列)。
図2 に2方式で使用されている「固化処理装置」の概念を示す。
(a) 液体供給式直接通電セラミックメルター方式(LFCM:Liquid fed Ceramic Melter )ホウケイ酸ガラスのカートリッジ(ガラス繊維を円柱状に成型したもの)に高レベル廃液を注下し(浸み込ませ)、セラミックメルター内に落下させる。溶融炉内の温度は、定常時には摂氏1,100 〜1,250 度に達しており、この温度では直接通電が可能でジュール発熱により温度が維持される。溶解したガラス(放射性核種は、ガラス構造のなかに安定に取り込まれている)は、炉下部に設けられた円筒堅型のステンレス鋼製キャニスターのなかに流し込まれる。このLFCM方式で用いられる溶融炉は、耐火物(セラミックス)を組みあげた構造物の外側を金属ケーシングで囲ったもので、高レベル廃液は当該炉内において蒸発・乾燥・か焼され、同時に「か焼物」がガラス原料とともに溶融される(一つの炉内で、廃液の前処理とガラスの溶融が行われる)。本法が他方に較べて有利な点は、「か焼装置」が不要なこと、スケールアップが容易なこと、通電セラミックメルター方法はガラス工業で確立していること、溶融ガラスと接触する物質が高温耐食性に優れた耐火物であることなどである。
(b) マルクール固化方式(AVM:Atelier de Vitrification Marcoule)及びラアーグ固化方式(AVH:Atelier de Vitrification la Hague)
  LFCM法の場合と異なり、ガラス固化を2段階で行う。初段階では、高レベル廃液をロータリキルン方式のカルサイナーによって、蒸発・乾燥・か焼し、核分裂生成物(FP)を粉末化する。後段階では、粉末状FPにホウケイ酸ガラス原料を加え、その混合物をインコネル製のガラス溶融炉のなかで溶融する(約摂氏1,150度)。溶融したガラス状物質をLFCM法と同じように、炉下部に設置したキャニスターのなかに注ぎ込み、固化させる。AVM 方式はフランスのマルクール再処理工場において1978年から稼働しており、すでに多量の高レベル廃液を処理している。AVH 方式は、ラアーグ再処理工場において1989年から稼働に入っている(UP-2 再処理プラントに付設されたもの)。
表1−1表1−2 および 表1−3 は各国における「ガラス固化処理技術」開発の推移と計画を示したものである。

3.わが国における固化処理技術の開発
  わが国における高レベル廃液の固化処理技術の開発については、原子力委員会・放射性廃棄物対策専門部会の報告(昭和51年 6月、55年12月、および59年 8月)でシナリオが定められている。提言された主要な内容は、(a) ホウケイ酸ガラスによる固化処理技術に重点を置く、(b) 動燃事業団(現日本原子力研究開発機構)が中心的役割を担い、これに官民の研究機関が協力する、(c) 動燃事業団(現日本原子力研究開発機構)における固化プラントの建設・運転を通し、1990年代前半を目標に処理技術を実証する−の3点である。
(1) 動燃事業団(現日本原子力研究開発機構)の研究開発
・ガラス固化体の基礎研究=ホウケイ酸ガラスの基本組成に関連し、約600 種類にわたるガラスの溶融実験を行ってきた。廃棄物含有率の最適化を確認するとともに、ガラス固化体の化学的耐久性の改善や相分離防止を追究している。
  ガラス固化体に要求される特性評価を大別すれば、次の3点である。(a) 地層処分を想定した場合の性能評価、すなわち含有物質の長期にわたる浸出(拡散)挙動、岩石・緩衝材・容器材などとの両立性の確認、(b) 熱的安定性の評価、すなわち熱発生廃棄物である固化体の再結晶化と浸出挙動との関係の確認、そして(c) 放射線効果の評価、とくに長期にわたり影響が懸念される固体中アルファ核種による放射線照射の効果(再結晶化の促進)と浸出特性との関係の確認。
・実廃液による基礎試験=動燃事業団(現日本原子力研究開発機構)では、「高レベル放射性物質研究施設(CPF)」において1982年12月から再処理工場の実廃液を用いたガラス固化ホット試験を進めてきた。CPF の固化試験系列の規模は実プラントのほぼ1/100 スケールであり、中心プロセスであるガラス溶融炉は「直接通電セラミックスメルター」である。製造された固化体については、発熱量、放射能分布、密度、浸出率などの測定のほか、微細な表面観察も行っている。さらに、ガラス溶融・固化工程で発生するオフガス挙動も追究している。
(2) 動燃事業団(現日本原子力研究開発機構)による「ガラス固化処理技術開発施設」の建設
  動燃事業団(現日本原子力研究開発機構)は1988年 1月、東海事業所内において「ガラス固化処理技術開発施設(TVF:Tokai Vitrification Facility)」の建設に着手し、1994年より運転を開始した。同施設で取り扱われる高レベル廃液は、動燃再処理工場の実廃液である。固化処理能力0.7 立方メートル/日は、動燃再処理工場の公称再処理能力0.7 トン/日(=210 トン/年)及び高レベル廃液発生量0.7 立方メートル/日にちょうど対応するように選ばれている。固化体(体積約110 リットル、重量約300kg )製造能力は1.4 日に1体の割合である。キャニスターの中間貯蔵容量は420 体である。
(3) 日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)での研究開発の推移
  原研(現日本原子力研究開発機構)は、「安全性の評価についての研究、および関連新技術の研究」を担当することとされており、ガラス固化体の長期健全性と衝撃特性の評価、キャニスター等の安全性の評価(評価手法の開発)、岩石固化法(シンロック法)の研究(オーストラリアとの協力)、群分離技術の開発、などが主要な課題とされている。すでに1982年から「廃棄物安全試験施設(WASTEF)」において、セシウムやプルトニウムなどの主要核種を添加した固化体を製作し、各種の安全研究を行ってきた。例えば、ガラス溶融時における揮発性核種(セシウムやルテニウムなど)の挙動を調べているほか、固化体に対するアルファ崩壊の影響(測定手段を含めて)などを追究している。
(4) 日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)による「燃料サイクル安全工学研究施設」での研究開発
  原研(現日本原子力研究開発機構)は「燃料サイクル安全工学研究施設(NUCEF : Nuclear Fuel Cycle Safety Engineering Research Facililty」を建設し、1994年より高レベル廃液から有用元素を回収する「群分離」の研究、および「TRU廃棄物安全性の研究」を計画している。同施設での今後の研究が高レベル廃液対策に大きく貢献するものと期待されている。
<図/表>
表1−1 各国におけるガラス固化処理技術開発施設の性能と計画(1)
表1−1  各国におけるガラス固化処理技術開発施設の性能と計画(1)
表1−2 各国におけるガラス固化処理技術開発施設の性能と計画(2)
表1−2  各国におけるガラス固化処理技術開発施設の性能と計画(2)
表1−3 各国におけるガラス固化処理技術開発施設の性能と計画(3)
表1−3  各国におけるガラス固化処理技術開発施設の性能と計画(3)
図1 再処理プロセスの「抽出分離工程第1サイクルの第1段階(共抽出または共除染工程)」で発生した高レベル廃液についての基本フロー
図1  再処理プロセスの「抽出分離工程第1サイクルの第1段階(共抽出または共除染工程)」で発生した高レベル廃液についての基本フロー
図2 ホウケイ酸ガラスを利用する「高レベル廃液固化処理装置」の概念(代表的2方式)
図2  ホウケイ酸ガラスを利用する「高レベル廃液固化処理装置」の概念(代表的2方式)

<関連タイトル>
高レベル放射性廃棄物ガラス固化体の輸送時の安全性 (05-01-01-07)
高レベル放射性廃棄物ガラス固化体の貯蔵時の安全性 (05-01-01-08)
高レベル廃液ガラス固化処理の研究開発 (05-01-02-04)
再処理プロセスと安全性についての基本的考え方 (11-02-04-01)
再処理プロセス廃棄物の安全技術の概要 (11-02-04-04)

<参考文献>
1)原子力安全委員会編(1989):原子力安全白書(平成元年版)
2)原子力委員会編(1989):原子力白書(平成元年版)
3)原子力安全局監修(1989):原子力安全委員会安全審査指針集(改訂5版)
4)下川純一:日本原子力事業NAIG特報、1987年11月号、1988年 3月号
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