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<概要>
 原子力損害賠償支援機構法は、原子力損害賠償支援機構の設置、組織、業務内容等を定めるものであり、行政法(法令番 号平成23年8月10日法律第94号)として公布日に施行された。この法律の目的は、東京電力福島原子力発電所事故によって大規模な原子力損害が生じたことを受け、政府としても、これまで原子力政策を推進してきたことに伴う社会的な責任を負っていることに鑑み、1)被害者への迅速かつ適切な損害賠償のための万全の措置、2)東京電力福島原子力発電所の状態の安定化・事故処理に関係する事業者等への悪影響の回避、3)電力の安定供給の3つを確保するために、原子力災害賠償支援機構を設立し、将来にわたって原子力損害賠償の支払等に対応できる仕組みを構築することにある。法律の第一章では目的について、第二章〜第四章では原子力損害賠償支援機構の組織について、また、第五章では原子力損害賠償支援機構の業務内容の詳細について定めている。なお、第八章(雑則)の中で、著しく大規模な原子力損害が発生し、国民生活及び国民経済に重大な支障を生ずるおそれがある場合には、政府が原子力損害賠償支援機構に対して必要な資金の交付を行うことができることを定めている。
<更新年月>
2013年07月   

<本文>
1.原子力損害賠償支援機構法の趣旨
 原子力施設の事故に伴う損害に関しては、原子力損害の賠償に関する法律(原子力損害賠償法、昭和36年6月17日法律第147号、平成24年6月27日最終改正)が、その損害が異常に巨大な天災地変又は社会的動乱によって生じたものであるときを除き、当該事業者に賠償責任があることを定めており、この賠償を迅速かつ確実に行うために、原子力損害賠償責任保険契約(保険会社との契約)、原子力損害賠償補償契約(国との契約)を締結すること等の損害賠償措置を原子力事業者に義務づけている。しかし、2011年3月の東京電力福島原子力発電所事故では、原子力損害賠償法第七条第一項に定める賠償措置額を超える巨額の原子力損害が発生し、当該事業者の負担能力では被害者への損害賠償を全うすることができず、また、事故処理や事業継続も困難な事態に至った。
 そこで、政府としても、これまで原子力政策を推進してきたことに伴う社会的な責任を負っていることに鑑み、1)被害者への迅速かつ適切な損害賠償のための万全の措置、2)東京電力福島原子力発電所の状態の安定化・事故処理に関係する事業者等への悪影響の回避、3)国民生活に不可欠な電力の安定供給の3つを確保するとともに、将来にわたって原子力損害賠償の支払等に対応できる仕組みを構築することを目的として、原子力損害賠償支援機構法(法令番号 平成23年8月10日法律第94号)を制定し、必要な業務を実施する法人として原子力災害賠償支援機構(以下「機構」)を設立することとした。原子力損害賠償支援機構法が成立するまでの経緯を表1に示す。

2.原子力損害賠償支援機構法の概要
 原子力損害賠償支援機構法は、原子力事業に係る巨額の損害賠償が生じる可能性を踏まえ、原子力事業者による相互扶助の考えに基づき、将来にわたって原子力損害賠償の支払等に対応できる支援組織(原子力災害賠償支援機構)を中心とした仕組みを構築することを目指したものである。
 第一章(総則)では、「原子力損害賠償支援機構は、原子力損害賠償法第三条の規定により原子力事業者が賠償の責めに任ずべき額(以下、要賠償額)が賠償措置額を超える原子力損害が生じた場合に、当該原子力事業者が損害を賠償するために必要な資金の交付その他の業務を行うことにより、原子力損害の賠償の迅速かつ適切な実施及び電気の安定供給その他の原子炉の運転等に係る事業の円滑な運営の確保を図り、もって国民生活の安定向上及び国民経済の健全な発展に資することを目的とする」旨が示されている。また、国の責務として、「これまで原子力政策を推進してきたことに伴う社会的な責任を負っていることに鑑み、原子力損害賠償支援機構が上記の目的を達することができるよう、万全の措置を講ずる」ことが謳われている。さらに、原子力損害賠償支援機構(以下、機構)はこの目的のために設立される唯一の法人であり、その設立、運営等に関して一般社団法人及び一般財団法人に関する法律の規定を準用することが定められている。
 第二章、第三章、第四章は機構の組織について定めており、それぞれ設立、運営委員会、役員等に関して規定している。
 第五章(業務)は、第一節(業務の範囲等)、第二節(負担金)、第三節(資金援助)、第四節(損害賠償の円滑な実施に資するための相談その他の業務)で構成されている。第一節(業務の範囲等)では、第二節以降に定める業務を行うこと、業務開始に際して業務報告書を作成して主務大臣の認可を受けなければならないこと、必要に応じて原子力事業者に報告又は資料の提出を求めることができることなどを定めている。第二節(負担金)以降に規定されている、具体的な支援の仕組みを以下の(1)〜(5)にまとめる。
(1)原子力事業者からの負担金の納付
 原子力事業者は、機構の業務に要する費用に充てるため、事業年度ごとに、この法律に定める額の負担金を原子力損害賠償支援機構に納付しなければならない。
(2)機構による通常の資金援助
 要賠償額が賠償措置額を超えると見込まれる場合、原子力事業者は、a)原子力損害の状況、b)要賠償額の見通しと賠償実施方策、c)資金援助を必要とする理由と資金援助の内容・額、d)事業・収支に関する中期的計画を記載した書類を機構に提出し、資金援助(資金の交付、株式の引受け、融資、社債の購入等)を申し込むことができる。機構は運営委員会の議決を経て、当該原子力事業者への資金援助に関する決定を行う。
(3)機構による特別資金援助
1)特別事業計画の認定
 機構が資金援助を行う際に政府の特別な支援が必要な場合には、原子力事業者と共同して、当該原子力事業者による損害賠償の実施、その他の事業の運営及び当該原子力事業者に対する資金援助に関する計画(以下、特別事業計画)を作成し、主務大臣の認定を受ける必要がある。特別事業計画には、上記の通常の資金援助の際の記載事項に加えて、経営合理化の方策、賠償履行に要する資金を確保するための関係者に対する協力の要請、資産及び収支状況の評価に関する事項、経営責任の明確化のための方策等について記載する。
 機構は、計画作成にあたり当該原子力事業者の資産の厳正かつ客観的な評価及び経営内容の徹底した見直しを行うとともに、当該原子力事業者による関係者に対する協力の要請が適切かつ十分なものであるかどうかを確認する。主務大臣は、申請された特別事業計画がこの法律に定める要件に該当すると認める場合に、関係行政機関の長との協議を経て、特別事業計画を認定する。
2)特別事業計画に基づく事業者への援助
 主務大臣による認定の後、機構が特別事業計画に基づく資金援助(特別資金援助)を実施するため、政府は機構に国債を交付することができる。機構は国債の償還を請求して現金化を行い、原子力事業者に対して必要な資金を交付する。
 機構が特別資金援助に係る資金交付を行う場合に、国債が交付されてもなお損害賠償に充てるための資金が不足するおそれがあると認めるときに限り、政府は、予算で定める額の範囲内において、機構に対し、必要な資金の交付を行うことができる。
(4)負担金の額の特例
 機構から援助を受けた原子力事業者は、通常の負担金に加えて特別負担金を支払う。特別負担金としては、電気の安定供給その他の原子炉の運転等に係る事業の円滑な運営に支障を生じない限度において、できるだけ高額の負担を求める。機構は、負担金等をもって国債の償還額に達するまで国庫納付(下記第六章参照)を行う。
(5)損害賠償の円滑化業務
 機構は、損害賠償の円滑な実施を支援するため、以下の業務を実施することができる。1)被害者からの相談に応じ、必要な情報の提供及び助言を行うこと。2)原子力事業者からの申込みに基づき、賠償履行に必要な資金を確保するために、原子力事業者が保有する資産の買取りを行うこと。3)原子力事業者からの委託を受けて損害賠償の支払いを行うこと。4)国又は都道府県知事の委託を受けて、「平成23年原子力事故による被害に係る緊急措置に関する法律」に定める仮払金の支払いを行うこと。
 第六章(財務及び会計)は事業年度、予算等の認可、財務諸表等、利益及び損失の処理、借入金及び機構債等について定めている。利益及び損失の処理の項では、機構が特別資金援助に係る資金交付を行った場合において、毎事業年度に残余が生じたときには国債の償還額に達するまで国庫納付を行うこと、借入金及び機構債の項では、政府による債務保証の下で、金融機関から資金の借り入れをして機構債を発行できることを定めている。
 第七章(監督)では、主務大臣が機構を監督することの他、報告及び検査について規定している。
 第八章(雑則)には種々の規定があるが、特に「政府による資金の交付」として以下のとおり定めている。「政府は、著しく大規模な原子力損害の発生その他の事情に照らし、機構の業務を適正かつ確実に実施するために十分なものとなるように負担金の額を定めるとしたならば、電気の安定供給その他の原子炉運転等に係る事業の円滑な運営に支障を来し、又は当該事業の利用者に著しい負担を及ぼす過大な額の負担金を定めることとなり、国民生活及び国民経済に重大な支障を生ずるおそれがあると認められる場合に限り、予算で定める額の範囲において、機構に対し、必要な資金の交付を行うことができる。」この他、この法律における主務大臣及び主務省令は政令で定めることとし、政令第257号(原子力損害賠償支援機構法施行令)第24条の中でその詳細を定めている。

3.附則
 この法律は公布の日から施行すること、また、経過措置としてこの法律の施行前に生じた原子力損害についても、原子力事業者は資金援助を機構に申し込むことができることなどを定めている。さらに、「検討」として、この法律の施行後できるだけ早期に、政府が以下を行うことを定めている。
1)平成23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所事故(以下、平成23年原子力事故)の原因の検証、賠償実施の状況、経済金融情勢等を踏まえ、原子力損害賠償制度における国の責任の在り方、原子力事故の収束対応に係る国の関与・責任の在り方等について検討を加えるとともに、その結果に基づき賠償法の改正等の抜本的な見直しをはじめとする必要な措置を講ずる。
2)平成23年原子力事故に係る資金援助に要する費用に関して、当該資金援助を受ける原子力事業者と政府及び他の原子力事業者との間の負担の在り方、当該資金援助を受ける原子力事業者の株主その他の利害関係者の負担の在り方等を含め、この法律の施行状況について検討を加え、その結果に基づき必要な措置を講ずる。
3)電気供給に係る体制の整備を含むエネルギーに関する政策の在り方についての検討を踏まえつつ、原子力政策における国の責任の在り方等について検討を加え、その結果に基づき、原子力に関する法律の抜本的な見直しを含め、必要な措置を講ずる。
 附則の末尾に、この法律の施行に伴って必要となる関連諸法令の一部改正が付記されている。
<図/表>
表1 原子力損害賠償支援機構法成立の経緯
表1  原子力損害賠償支援機構法成立の経緯

<関連タイトル>
日本の原子力損害賠償制度の概要 (10-06-04-01)
再処理施設に関する賠償制度の概要 (10-06-04-04)

<参考文献>
(1)電子政府法令データ提供システム「原子力損害の賠償に関する法律(昭和三十六年六月十七日法律第百四十七号)」、

(2)経済産業省ウェブサイト「原子力損害賠償支援機構法について」、
概要:http://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/taiou_honbu/pdf/songaibaisho_111003_01.pdf
法令:http://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/taiou_honbu/pdf/songaibaisho_111003_03.pdf
施行令:http://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/taiou_honbu/pdf/songaibaisho_111003_04.pdf
(3)原子力損害賠償支援機構ウェブサイトのトップページ、
http://www.ndf.go.jp/
(4)寺倉憲一「東日本大震災後の原子力損害賠償制度をめぐる経緯と課題」、国立国会図書館調査資料「東日本大震災への政策対応と諸課題」(2012年4月11日)、

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