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<概要>
 原子力災害対策に関する法令、国と地方公共団体の対策・体制等について概説する。原子力災害に関しては、災害対策基本法に基づく防災基本計画の第11編で防災計画を定めている。それを基に関連省庁の防災業務計画や地方公共団体の地域防災計画において原子力災害対策が策定されている。また、原子力災害対策特別措置法は原子力災害における国と地方公共団体の責務を定めており、原子力規制委員会は同法の規定により原子力災害対策指針を定めた。内閣には、平常時から原子力災害に対応する原子力防災会議が置かれ、原子力事故時の対応と長期に亘る総合的な施策を含めた原子力災害対策マニュアルを定めている。
 緊急事態には、官邸に原子力災害対策本部が置かれ、諸情報を集めて解析し、住民等の防護措置を検討して現地オフサイトセンターに置かれた原子力災害合同対策協議会を指示・指導するとともに、現地に要員を派遣して事態の収束に努める。原子力災害合同対策協議会は、地方公共団体の防災責任者、警察・消防、原子力事業者等で構成され、国の原子力災害対策本部、指定公共機関等の支援を得て住民等の保護活動を実施する。保護活動には、住民安全(退避、避難、飲食物の摂取制限、被ばく管理)、情報収集・連絡・広報、環境放射線モニタリング、医療、作業管理等が含まれる。
<更新年月>
2014年01月   

<本文>
 原子力災害対策に関する法令、体制、国と地方公共団体の活動等について述べる。
1.原子力災害対策に関する法令
 原子力災害対策に関する法令と防災計画等の関連を図1に示す。1961年制定の災害対策基本法(以下、災対法)は第34条の規定で防災基本計画の作成を定めており、この防災基本計画の第11編で原子力災害に関する防災計画を定めている。これらの法令、計画に基づき、指定行政機関と指定公共機関は各々の防災業務計画(原子力災害対策編)を策定し、原子力施設関連の道府県と市町村は各々の地域防災計画(原子力災害対策編)を策定することとなっている。
 2000年に茨城県東海村で起きたJCOウラン加工工場臨界事故を機に、原子力災害対策特別措置法(原災法)が制定された。原災法第4条は原子力災害における国の責務について定め、同第5条は地方公共団体の責務について定めている。また、原子力事業者は、原災法第7条により防災業務計画を定め災害に備えている。
 2011年3月の東京電力福島第一原子力発電所事故を経て原子力規制の体制は抜本的に見直され、2012年に原子力規制委員会(以下、規制委員会)と原子力規制庁(以下、規制庁)が発足した。また、この事故への対応に際して原子力防災に係る各種の法令、指針、計画、運用マニュアル等に多くの不備があることが露呈し、原災法も改定された。(ATOMICAデータ「原子力災害対策特別措置法(原災法:2012年9月改定) (10-07-01-11)」を参照。)さらに、規制委員会は、原災法第6条二の規定に基づき原子力災害対策指針を定めた。

2.国の原子力災害対策と体制
 原子力災害対策指針、原子力災害対策マニュアル等に基づき、原子力災害に対する予防対策、危機管理体制及び事態収束後の復旧対策の概要を述べる。
2.1 原災法による国の原子力災害対策
 国は、原子力防災に関して原災法第4条1の規定により、以下の対策を講じる。1)原子力緊急事態には原子力災害対策本部を設置し、応急対策に必要な措置を講じる。2)指定行政機関や指定地方行政機関は、地方公共団体の災害予防対策、緊急事態応急対策及び事後対策に関して勧告・助言し適切な措置をとる。3)原子力事業者の災害予防対策、緊急事態応急対策及び災害事後対策に関して勧告・助言しその円滑な実施のために適切な措置をとる。さらに、自然災害、テロリズム等による災害も想定した措置をとる。
2.2 国の災害予防対策
(1)原子力規制委員会
 原子力規制委員会の主な原子力災害予防対策を表1にまとめた。規制委員会は、原子力災害対策指針(上記)を定めるとともに、「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(原子炉等規制法)」(2012年改正)の第43条三の6に規定する発電用原子炉の設置許可に係る新たな規制基準を定め、原子力施設の安全確保、防災知識の普及、安全研究の推進、情報の収集・連絡及び応急体制の整備等を図っている。そのほか、福島原発事故の原因究明と被害調査、関連する国際調査、研究者及び技術者の養成・訓練等を進めている。
(2)原子力防災会議
 原子力防災会議の平常時の活動の概要を表2に示した。本会議は、原子力基本法第3条4により内閣に設置されており(図2)、原子力防災対策のため、平常時から関連省庁及び地方公共団体の防災計画の策定及びその調整・遂行を図っている。
2.3 緊急事態における危機管理体制
 原子力災害における国の危機管理体制を表3-1表3-2に示す。表の左欄の事態区分は、事故の進展による原子力災害の重大さに応じて表示されているが、実際の事故が必ずしもこの順序どおりに進展するわけではない。以下に事態区分別に体制の概要をまとめる。
(1)情報収集事態(表3-1の区分1)
 原子力施設の立地する市町村で震度5弱以上の地震が観測されると、規制庁に原子力規制委員会原子力事故警戒本部が設置され、また、現地には現地警戒本部が設置され情報収集にあたる。規制庁は、テレビ会議システムを起動する。警戒事態の発生が認められるときは、引き続き事故警戒本部を存置する。
(2)警戒事態(表3-1の区分2)
 警戒事態には、原子力規制委員会事故警戒本部が設置され、関係省庁、関係地方公共団体、指定公共機関等に事故情報を提供し、緊急時モニタリングを準備する。原子力規制庁は、関係機関や組織を結ぶテレビ会議システムを立ち上げ、関連省庁に職員の派遣準備等を要請する。当本部は、施設敷地基地緊急事態になると原子力規制委員会事故対策本部に移行する。
(3)施設敷地緊急事態(表3-1の区分3)
 この事態では原子力規制委員会原子力事故対策本部が設置される。規制庁(ERC:緊急時対応センター)は、現地の各拠点へ要員を派遣するとともに、官邸、ERC、緊急時対策所、原子力施設事態即応センター、オフサイトセンター(OFC)、関係地方公共団体、関係指定公共機関等を結ぶテレビ会議システムによる連絡体制を確立する。また、規制委員会は、施設の状況、緊急時モニタリング等の情報から原子力全面緊急事態の発生を検討する。
 現地では、オフサイトセンター(OFC)に原子力事故現地対策本部と緊急時モニタリングセンターが設けられる。現地事業所の免震重要棟等に設置された緊急時対策所は、事態の技術的解決を進める。
(4)全面緊急事態(表3-2の区分4と5)
 全面緊急事態フェーズ1(初動対応)における政府の体制を表3-2の区分4に示す。原子力緊急事態宣言の発出とともに「原子力災害対策本部」が官邸に設置され、図3の危機管理体制が整えられる。初動対応の分担を表4に示す。現地では、オフサイトセンターに設けられた原子力災害合同対策協議会を中心に、地方公共団体による住民等の広範な防護活動が進められる。
 全面緊急事態フェーズ2(初動対応後)における政府、オフサイトセンター、事業者等の体制を表3-2の区分5に示す。フェーズ1の応急措置により放射性物質の大量放出が止まり、避難区域の拡大は防止され、住民避難が終了した状態である。緊急事態宣言は解除されるが、災害対策本部以下の体制は維持されており住民等の保護と原子力施設等の事故対応は継続する。
 災害対策本部は、放射性物質の放出による環境汚染等が課題である間は存置される。原子力被災者生活支援チームは被災者の生活支援、復旧等が主たる業務である。
(5)原子力災害時後対策(表3-2の区分6)
 生活支援チーム、オフサイトセンター、関係省庁、関係機関等は連携し、被災者の生活支援、環境汚染の低減、事故影響の速やかな低減等の復旧活動を行う。

3.地方公共団体の災害対策活動
3.1 地域防災対策
 道府県や市町村は、災対法及び原災法に基づいて、地域防災計画(原子力災害対策編)を作成し、国、原子力事業者等との整合を図り緊密な連携の下で原子力災害に備えている。住民等の防護対策は、地域区分と事態区分で整理される。
 地域区分は「原子力災害対策重点区域」と呼ばれ、原子力施設からの距離等を考慮して決められる。原子力発電所の例では、予防的防護措置を準備する区域(PAZ:〜5km)、緊急時防護措置を準備する区域(UPZ:5〜30km)、プルーム(煙流)通過時の被ばくを避けるための防護措置を実施する地域(PPA:30km〜)に分け、それぞれの事態に応じた防護措置の準備をする。
 原子力災害に関する地域防災計画のうち事前対策の項目を表5の区分1に示す。地方公共団体は、地域防災計画による地域区分と事態区分に応じた諸対策を準備するとともに、関係機関との緊密な連絡、職員の教育・訓練とともに住民等に地域防災計画の周知を図っている。また、事業者と原子力安全協定等を締結し、原子力施設の安全運転に積極的に関わり、情報の速やかな入手に努めている。
3.2 緊急事態対応対策
 緊急事態発生の通報は事業者と国から送られる。表5の区分2は、緊急事態対応対策の項目を示す。地方公共団体は、原子力災害合同対策協議会(以下、対策協議会)の指示・指導の下で地域防災計画により活動体制を確立して住民等の保護活動を準備する。表5の区分3は中長期対策(緊急事態の解除宣言後の対応)を示している。
 対策協議会の概要を図4に示す。対策協議会は、道府県災害対策本部長、市町村の災害対策副本部長、指定公共機関から委任された者、原子力事業者から委任された者、道府県警察・消防機関から委任された者等(又はその代理人)が会合し、原子力災害対策本部が指示する応急対策や事後対策を実施する。活動は、住民安全(退避・避難)、被ばく医療、放射線モニタリング・除染、プラント情報の把握と提供、広報等の多岐にわたる。
3.3 原子力災害中長期対策
 事故終息後に、表5の区分3に示すように地方公共団体は、1)住民等の生活支援、2)避難区域等の設定、3)環境汚染への対応(計測、除染)、4)各種制限措置の解除に伴う業務、5)緊急時モニタリングの継続、6)被災地域と住民等に関する記録の作成、7)被災者の生活再建支援、8)風評被害対策、9)心身の健康調査・相談等の復旧に伴う業務を遂行する。原子力被災者生活支援チーム、関連省庁、関連機関等はこの活動を支援する。
(前回更新:2003年9月)
<図/表>
表1 原子力規制委員会の主な原子力災害予防対策
表1  原子力規制委員会の主な原子力災害予防対策
表2 原子力防災会議の概要
表2  原子力防災会議の概要
表3-1 原子力災害における政府などの危機管理体制(1/2)
表3-1  原子力災害における政府などの危機管理体制(1/2)
表3-2 原子力災害における政府などの危機管理体制(2/2)
表3-2  原子力災害における政府などの危機管理体制(2/2)
表4 全面緊急事態に係る初動対応の役割分担
表4  全面緊急事態に係る初動対応の役割分担
表5 原子力災害に関する地域防災計画の概要
表5  原子力災害に関する地域防災計画の概要
図1 原子力災害対策に関する法令等の関連
図1  原子力災害対策に関する法令等の関連
図2 原子力防災と関係行政機関の事務分担・位置づけ
図2  原子力防災と関係行政機関の事務分担・位置づけ
図3 全面緊急事態の危機管理体制
図3  全面緊急事態の危機管理体制
図4 原子力災害合同対策協議会の概要(全面緊急事態フェーズ1から事後対策まで)
図4  原子力災害合同対策協議会の概要(全面緊急事態フェーズ1から事後対策まで)

<関連タイトル>
日本の原子力防災対策の概要−考え方と体制 (10-06-01-01)
住民への連絡・指示の方法 (10-06-01-06)
緊急時の医療活動 (10-06-01-07)
原子力防災のための訓練 (10-06-01-08)
オフサイトセンター(緊急事態応急対策拠点施設) (10-06-01-09)
日本における防災のための計算機システム (10-06-03-03)
原子力施設等の防災対策について(防災指針) (11-03-06-01)
緊急時環境放射線モニタリング指針(2013年改正以前) (11-03-06-02)
緊急時モニタリングの体制と実施方法(2013年改正) (11-03-06-03)
原子力規制委員会 (10-04-03-02)

<参考文献>
(1)原子力防災会議、原子力災害対策マニュアル(平25、9/5 一部改訂)、
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/genshiryoku_bousai/pdf/taisaku_manual.pdf
(2)内閣府、地域防災計画(原子力災害対策編)作成マニュアル(県分)、(平25、7 一部改正)、

(3)内閣府、地域防災計画(原子力災害対策編)作成マニュアル(市町村分)、(平25、7 一部改正)、

(4)原子力規制委員会、原子力災害対策指針(平25、9/5 全部改正)、

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