<大項目> 原子力の行政・制度・政策
<中項目> 原子力防災と原子力損害賠償制度
<小項目> 防災対策一般
<タイトル>
日本の原子力防災対策の概要−考え方と体制 (10-06-01-01)

<概要>
 原子力防災対策の基本的な考え方は、事故で原子力施設から放射性物質あるいは放射線が放出された場合、周辺の人々のそれらによる被ばくをできるだけ少なくし、地域住民の健康と財産を守るということである。自然災害の多い日本では1961年に災害対策基本法が制定され、これに基づく防災基本計画の中で原子力災害への対策を定めている。原子力防災対策には、一般防災対策活動に共通あるいは類似のものに加えて原子力に特有なものがあることから、旧原子力安全委員会原子力発電所の事故を対象とした防災指針を定めた。1999年9月のJCOウラン加工工場における臨界事故に対する反省を踏まえ、1999年12月に原子力災害対策特別措置法(原災法)が制定され、防災指針も改定された。その後、2011年3月の東北地方太平洋沖地震によって発生した福島第一原子力発電所事故は、想定をはるかに超える原子力災害をもたらし、それまでの原子力防災対策に大きな不備があることが明確となった。そこで、原子力安全規制と原子力防災に関する組織と法令の抜本的見直しを行い、2012年に原子力規制委員会と原子力規制庁を発足させるとともに、原災法を改定し、その下で従来の防災指針に代わる原子力災害対策指針を定めた。原子力災害対策指針は、原子力緊急事態における住民等の放射線被ばくを最小限に抑える防災措置の基本事項、実施体制、実施区域等に関して定めている。
<更新年月>
2014年03月   

<本文>
1.災害対策基本法の制定
 頻発する自然災害によって大きな被害を受けてきた日本では、1961年に災害対策基本法(以下、災対法)が制定され、防災基本計画が定められた。災対法では災害を「暴風、豪雨、豪雪、洪水、高潮、地震、津波、噴火その他の異常な自然現象又は大規模な火事もしくは爆発その他その及ぼす被害の程度においてこれらに類する政令の定める原因により生ずる被害をいう」と定義しており、また、防災とは「災害を未然に防止し、災害が発生した場合における被害の拡大を防ぎ、及び災害の復旧を図ること」と定義している。上記の政令で定める原因の一つとして「放射性物質の大量の放出」が挙げられており、防災基本計画の第11編を原子力災害対策編としている。
 災対法では、防災に関する責任の所在を明確にすることが強調されており、国の責務、さらにその実施主体としての地方公共団体、指定公共機関及び指定地方公共機関並びに住民等に対してそれぞれの責務を明示している。すなわち、(a)国は災害予防、災害応急対策及び災害復旧の基本となるべき防災基本計画を作成すること、(b)都道府県及び市町村はそれぞれ地域防災計画を作成すること、(c)関係省庁、原子力事業者等指定公共機関及び指定地方公共機関は防災業務計画を作成することを義務付けており、災害発生時には役割に応じた対策を講じることになっている。
2.原子力災害の特徴と防災対策の特殊性
 原子力防災対策の基本的な考え方は、事故で原子力施設から放射性物質あるいは放射線が放出された場合、周辺の人々のそれらによる被ばくをできるだけ少なくし、地域住民の健康と財産を守るということである。放射線は人の感覚器官で捉えることができない。また、一般の人々には、被ばくによってどのような影響があるかを判断することが困難である。しかし特別の測定器を使えばきわめて微量でも検出でき、必要な防護対策をとることができる。したがって、専門家の助言を得て適切な措置がとられれば、影響を最小限に留めることが可能である。
 原子力施設の事故によって放射性物質又は放射線の異常な放出あるいはその恐れがある場合、地域住民の健康と財産を守るために防災対策が必要となるが、その際に考慮すべき事項として一般の防災対策に共通のものに加え、原子力に特有なものがある。原子力安全委員会(2012年9月に廃止)は「原子力施設等の防災対策について」(通称、防災指針)の中で、原子力に特有な事項として以下を挙げている。
1)放射性物質又は放射線の存在は、放射線測定器を用いることにより、健康への影響が考えられない微量でも検知できる。しかし、その存在を五感で直接感じることができず、被ばくの程度を自ら判断できない。
2)一般的な災害と異なり、自らの判断で対処するためには、放射線等に関する基本的な知識を必要とする。
3)原子力災害は原子力事業者の活動によって発生するため、原子力事業者がその予防対策、応急対策について、大きな責務を有する。
4)原子力防災には、原子力に関する専門的知識を有する機関の役割や指示、助言等が重要である。
 一方、通報連絡、住民の退避措置、飲食物の摂取制限等の防災対策の実施については、一般防災対策との共通性あるいは類似性があるので、専門知識に基づく適切な指示があれば、これを活用した対応が可能であると指摘している。
3.原子力災害対策特別措置法の制定と改定
 1979年3月に発生した米国スリーマイル・アイランド(TMI)原子力発電所の事故を契機に、原子力安全委員会は原子力災害特有の事象に着目し、原子力発電所等の周辺における防災活動をより円滑に実施できるよう技術的、専門的事項について検討した結果をとりまとめ、1980年6月に「原子力発電所等周辺の防災等について」を決定し、その後、必要に応じて改訂を行ってきた。
 1999年9月に発生したJCOウラン加工工場における臨界事故への対応に対する反省を踏まえ、災対法及び原子炉等規制法(「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」の通称)の特別法として、1999年12月に原子力災害対策特別措置法(以下、原災法)が制定された。この法律の制定により、防災の対象施設が原子力発電所から原子力施設一般に拡大され、また、原子力事業者の責務が明確化されたことから、防災指針の表題が「原子力施設等の防災対策について」に変更されるとともに、防災対策の内容がより実効性のあるものとなるよう、必要な修正が行われた。
 その後、2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震によって発生した福島第一原子力発電所事故は、想定をはるかに超える原子力災害をもたらし、それまでの原災法の下での原子力防災対策に大きな不備があることが明確となった。そこで、原子力安全規制と原子力防災に関する組織と法令の抜本的見直しを行い、2012年に原子力規制委員会と原子力規制庁を発足させるとともに、原災法の改定を行った。また、改定原災法の第6条二に基づいて従来の防災指針に代わる「原子力災害対策指針」を定めた。この指針に対してはさらに調整・検討が進められ、2013年9月5日に改正されている。
4.原子力災害対策指針の概要
 原子力災害対策指針は、原子力緊急事態における住民等の放射線被ばくを最小限に抑える防災措置の基本事項、実施体制、実施区域等に関して定めている。さらに、諸機関が夫々の原子力災害対策計画を策定・実施する際の科学的な根拠とともに、(a)住民の視点に立った防災計画の策定、(b)災害の長期化を視野に入れた継続的な情報提供体系の構築、及び(c)最新の知見と最適な判断基準の採用等について定めている。原子力災害対策指針についてはATOMICAデータ「原子力施設等による災害の対策について(原子力災害対策指針−その1)(11-03-06-04)」と「原子力施設等による災害の対策について(原子力災害対策指針−その2)(11-03-06-05)」に詳しく解説しているので、ここではその概要の紹介に留める。なお、原子力災害は、核燃料施設、発電用原子炉、再処理施設、放射性廃棄物の処理・処分施設等で起き得るが、以下では主に発電用原子炉の事故を中心に解説する。
4.1 原子力事故について
(1)原子力事故の責任
 原子力事故の発生防止と収束については、事業者が一義的にその責任を負う。
(2)原子炉事故による原子力災害
 原子炉事故では、放射性物質と放射線が火災、爆発、漏えい等による防護壁の損壊で放出され得る。表1は原子炉事故で放出され易いか又はしばしば問題になる放射性物質を示す。これらは、壊変によりアルファ線、ベータ線ガンマ線等を放出し、住民等の放射線被ばくをひき起すことがある。また、施設の損壊で出るガンマ線や中性子線によっても住民等の放射線被ばくが起き得る(図1)。
(3)原子力災害の特殊性と防護措置の考え方
 原子力災害は、以下の特殊性から放射性物質の拡散抑制と放射線被ばくの低減が重要である:(a)汚染と被ばくにより復旧は長期化、(b)放射線は機器による検出は容易であるが五感で確認は困難、(c)放射線防護にはその基礎知識と専門家・専門機関による助言・援助は不可欠、及び(d)被ばくに対する健康管理には長期・継続的な診療が必要。
4.2 原子力災害の事前対策
(1)基本的考え方
 原子力事業者は原災法及び原子炉等規制法による予防対策を講じるとともに、事業者、国、地方公共団体等は原子力災害に対する迅速で適切な災害対策を準備する必要がある。
(2)緊急事態への準備
1)緊急事態の考え方
 原子力緊急事態では、必要な情報が即座に提供され難いため、これまで国際原子力機関(IAEA)で検討・提案された緊急時活動レベル(EAL:Emergency Action Level)と運用上の介入レベル(OIL:Operational Intervention Level)といった考え方が採用された。したがって、緊急事態の判断にはEALを利用し、迅速な防護措置の判断には放射線モニタリング等の情報を基にしたOILを利用する。
2)緊急時活動レベル
 緊急時活動レベル(EAL)は緊急時に事業者が報告する。レベルは、警戒事態、施設敷地緊急事態及び全面緊急事態に分けられる(表2)。原子力規制委員会は、沸騰水型軽水炉、加圧水型軽水炉、及びナトリウム冷却型高速炉の各々に、EALの枠組を提示している。事業者は、このEALの枠組に基づいて各原子炉の特性や立地に応じてEALを検討し、それを予め原子力規制委員会に届出て事業者の「防災業務計画」に反映する。
3)運用上の介入レベル(OIL)
 防護措置は、緊急時の初期にEALや緊急時環境放射線モニタリンの結果等から速やかに決定されなくてはいけない。そこで、緊急時環境放射線モニタリングの結果等に対する運用上の介入レベル(OIL)を予め決めておく。表3に示すように、OILは、緊急防護措置、早期防護措置及び飲食物摂取制限に分かれる。
(3)原子力災害対策重点区域
 防災措置は、原子力施設の地理的条件等を考慮して地域を区分して講じられる。この地域を「原子力災害対策重点区域」という。地方公共団体は、重点地区で平時から以下の防災対策を講じる:防災対策の周知、迅速な情報連絡手段の確保、緊急時モニタリング体制の整備、防災資機材等の整備、屋内退避・避難等の方法や避難経路及び場所の明示、医療機関等の周知、緊急用移動手段の確保など。
 原子力災害対策重点区域は、原子力施設からの距離を目安に以下のように三区分する。
1)予防的防護措置を準備する区域(PAZ:Precautionary Action Zone):原子力施設から概ね5kmの範囲。被ばくによる確定的影響を回避するため施設敷地緊急事態では予防的に防護措置を準備し、全面緊急事態では即時避難する。
2)緊急時防護措置を準備する区域(UPZ:Urgent Protective Action Planning Zone):原子力施設から概ね5〜30kmの範囲。放射線による確率的影響の低減を図りPAZに準じた防護措置を準備する。
3)プルーム通過時の被ばくを避けるための防護措置を実施する地域(PPA:Plume Protection Planning Area):原子力施設から30km以上の区域。プルーム(煙流)通過による内外部被ばく低減するため、安定ヨウ素剤の服用や屋内退避等の防護措置を準備する。
(4)原子力事業者の原子力災害事前対策
 事業者は、緊急事態に備えて以下を準備する:(a)原災法第7条により「防災業務計画」を作成して従業員を教育・訓練、(b)施設の異常を検出するモニタリングポスト等の計測機器を適切に配置し監視体制を整備、(c)緊急事態の通報体制の整備。
(5)緊急時の住民等への情報提供体制の整備
 地方公共団体は、平常時から迅速な情報伝達体制を整え、情報伝達と広報技術に習熟した人材を育成する。また、住民の正確な理解のため、平易で正確な用語の利用に努める。
(6)緊急時環境放射線モニタリングの体制整備
 緊急時環境放射線モニタリングに関して各機関の分担を表4に、現地の実施体制を図2に示す。初期モニタリングでは、国がモニタリング計画を策定し、地方公共団体が実施し、指定公共機関等が支援する。事業者は事業所境界等の緊急時放射線モニタリングを実施する。全てのデータは、モニタリングセンターに集約され、それを基に「原子力災害対策本部」はOILを判断する。住民等の被ばくによる確定的影響の回避に主眼を置く。中期モニタリングでは、事故終息後のモニタリングで、住民等の被ばく線量評価と健康影響評価、環境への影響評価に主眼が置かれる。復旧期モニタリングでは、環境の放射線量と放射性物質を全般的に評価する。
(7)被ばく医療体制と安定ヨウ素剤
1)被ばく医療体制:原子力施設が立地する地方公共団体は、被ばく医療体制を整え、被ばく医療特有の教育・訓練とともに、通信・輸送体制を整備する。被ばく医療体制は、初期、二次及び三次被ばく医療機関から成り、被ばく線量と傷病の程度に応じて分担する。
2)安定ヨウ素剤:平常からヨウ素剤の配布の意義、服用方法等について住民への十分な説明と納得が必要である。PAZ外でも避難時の配布・服用の体制の整備が必要である。
4.4 緊急事態応急対策の体制
 首相官邸には平常時から「原子力防災会議」が設置され、ここは緊急時に「原子力災害対策本部」となる。当本部は、EAL等の事業者からの報告、緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)の予測結果、緊急時環境放射線モニタリングの結果等を合わせ現地の防災措置を指示する。現地では、オフサイトセンターに国・地方公共団体等の関係者が参集し、「原子力災害合同対策協議会」を設置して住民等の防護活動を遂行する。オフサイトセンターは、現場の原子力防災活動の中心であり、緊急時に速やかに体制を立ち上げられるように、通信・計測機器、関連資料を整備し、教育・訓練等を積む必要がある。
(前回更新:2004年2月)
<図/表>
表1 原子炉事故で放出されやすい放射性物質
表2 緊急事態(EAL)の区分と防護措置の概要(BWRの例)
表3 運用上の介入レベル(OIL)と防護措置の概要
表4 緊急時環境放射線モニタリングの役割分担
図1 原子炉事故による放射性物質の飛散と被ばく形態
図2 緊急時放射線モニタリングの現地実施体制

・図表を一括してダウンロードする場合は ここをクリックして下さい。


<関連タイトル>
緊急時環境線量情報予測システム(SPEEDI) (09-03-03-01)
安定ヨウ素剤投与 (09-03-03-05)
緊急時環境放射線モニタリング (09-04-08-04)
原子力規制委員会 (10-04-03-02)
原子力防災対策のための国および地方公共団体の活動 (10-06-01-04)
オフサイトセンター(緊急事態応急対策拠点施設) (10-06-01-09)
原子力災害対策特別措置法(原災法:2012年9月改定) (10-07-01-11)
緊急時モニタリングの体制と実施方法(2013年改正) (11-03-06-03)

<参考文献>
(1)原子力規制委員会:原子力災害対策指針、平25年9月5日全部改正、
http://www.bousai.ne.jp/vis/shiryou/pdf/130905_saitaishishin.pdf
(2)原子力規制委員会:原子力防災対策の現状と今後の対策について、
http://www.tiikinokai.jp/meeting/PDF/120date_08.pdf
(3)原子力規制委員会:原子力規制委員会紹介パンフレット、
http://www.nsr.go.jp/nra/panflet/nra_panf.pdf
(4)原子力規制委員会:安定ヨウ素剤の配布・服用に当たって(地方公共団体向)、平25年7月19日、
http://www.nsr.go.jp/activity/bousai/iodine_tablet/data/130724_yousotihou.pdf
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