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<概要>
 高速増殖原型炉「もんじゅ」(電気出力28万kW、昭和58年(1983年)原子炉設置許可、昭和60年(1985年)着工、平成6年(1994年)臨界)の原子炉設置許可処分の無効確認(行政訴訟)および建設・運転の差し止め(民事訴訟)を求めた訴訟の経緯をまとめた。
 本訴訟のうち行政訴訟については、無効確認訴訟の原告適格の有無が争点となり、昭和62年(1987年)の第一審判決(福井地方裁判所)は原告らの訴えを却下したが、平成元年(1989年)の控訴審判決(名古屋高等裁判所金沢支部)を経て、最高裁判所は平成4年(1992年)9月に原告ら全員の原告適格を認め、審理を福井地方裁判所に差し戻した。これを受け、福井地方裁判所では行政訴訟と民事訴訟を併行して実体審理が行われ、平成12年(2000年)3月に、立地条件、耐震設計、事故防止対策等、同炉の安全性は確保されているとして、いずれも「原告らの請求を棄却する」判決を下した。
 原告は福井地裁の第一審判決を不服として平成12年(2000年)3月、名古屋高等裁判所金沢支部に控訴し、平成15年(2003年)1月、金沢支部は、安全審査には見過ごせない誤りや欠落があったと指摘し、「第一審判決を取り消し、高速増殖炉「もんじゅ」に係る原子炉設置許可処分は無効である」とする判決を言い渡した。被告の国側は、同年1月31日、最高裁判所に上告した。
<更新年月>
2006年09月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 本訴訟は、昭和60年(1985年)9月26日に福井県民会議代表委員の磯部甚三氏ら40人(平成12年:2000年3月現在は34人)が原告となり、国(内閣総理大臣)と核燃料サイクル開発機構(平成10年9月30までは動力炉・核燃料開発事業団で、同年10月1日に「核燃料サイクル開発機構」に改組;2005年10月1日に日本原子力研究所と核燃料サイクル開発機構が統合し、現在は日本原子力研究開発機構)を被告として、高速増殖炉原型炉「もんじゅ」(電気出力28万kW、昭和58年(1983年)5月27日原子炉設置許可、昭和60年(1985年)9月着工、平成6年(1994年)4月5日臨界)の原子炉設置許可処分の無効確認(行政訴訟)と建設・運転差止(民事訴訟)を求めて福井地方裁判所へ提訴したものである。高速増殖炉原型炉「もんじゅ」訴訟の主な経緯を表1に示す。
1.行政訴訟
 行政訴訟については、第一審の福井地方裁判所において、最初に原子炉設置許可処分の無効確認訴訟における原告適格について審理が行われた。第四回口頭弁論(昭和62年(1987年)2月20日)において、同裁判所は民事訴訟と分離して、行政訴訟の審理を終結した。昭和62年(1987年)12月25日に福井地方裁判所は、行政事件訴訟法第36条に定める無効確認訴訟の原告適格の要件を全員が欠くとして、原告らの訴えを却下した。
 原告らは、第一審判決を不服として、名古屋高等裁判所金沢支部に控訴し、平成元年(1989年)7月19日に名古屋高等裁判所金沢支部は、原子炉から半径約20km以内に居住する原告ら17人に原告適格を認め、第一審判決を破棄し、審理を福井地方裁判所に差し戻すとともに、それ以外の住民23人については原告適格を否定し、控訴を棄却した。
 原告らおよび被告はそれぞれ控訴審判決を不服として最高裁判所へ上告し、平成4年(1992年)9月22日に最高裁判所は原告ら全員の原告適格を認め、原判決を破棄し、第一審判決を取り消すとともに、審理を福井地方裁判所に差し戻した。

2.民事訴訟
 民事訴訟については、原告らは人格権・環境権侵害を差止請求の根拠として「もんじゅ」の建設・運転の差止めを求めて昭和60年(1985年)9月26日に提訴、福井地方裁判所において昭和61年(1986年)4月から平成11年(1999年)4月までの13年間にわたり実体審理が行われてきた。

3.福井地方裁判所の判決(行政訴訟および民事訴訟)
 福井地方裁判所(福井地裁)では行政訴訟と民事訴訟を併行して実体審理が行われ、平成12年(2000年)3月22日に、立地条件、耐震設計、事故防止対策等、同炉の安全性は確保されているとして、いずれも「原告らの請求を棄却する」とする判決を下した。
 行政訴訟については、平成4年(1992年)11月から約7年半にわたって審理が行われた。争点は「もんじゅ」の原子炉設置許可に際しての安全審査に重大かつ明白な瑕疵(法律上の何らかの欠点等)といえる不合理な点があるか否かであった。今回の判決では「本件安全審査の調査審議に用いられた審査方針および審査基準に不合理な点があるとは認められない」とし、また審議や判断の過程で「重大かつ明白な瑕疵といえるような看過し難い過誤、欠落があるとは認められない」として原告の主張を退けた。また平成7年(1995年)12月8日のナトリウム漏洩(漏えい)事故は「安全審査の合理性を左右するものではない」との見解を示した。
 民事訴訟については、「もんじゅ」の運転が原告の生命・身体に具体的な危険を及ぼす恐れがあるか否かが争点となった。今回の判決では、まず「原子炉施設の安全性の確保」を「原子炉施設の有する潜在的な危険性を顕在化させないよう、放射性物質の環境への放出を可及的に少なくし、これによる災害発生の危険性を社会通念上容認できる水準以下に保つことにある」と規定し、こうした観点からナトリウム漏えい事故(平成7年(1995年)12月8日発生)を考慮しても、原告の主張する生命・身体が侵害される具体的な危険があるとは認められない」とした。
 原告は行政訴訟および民事訴訟の第一審判決を不服として、平成12年(2000年)3月24日いずれについても名古屋高等裁判所金沢支部に控訴した。

4.名古屋高等裁判所金沢支部の判決(行政訴訟)
 金沢支部の控訴審では、原子炉設置許可の前提となる国の安全審査の妥当性について第一審と同様に「二次冷却材漏洩事故」、「蒸気発生器の伝熱管破損事故」、「炉心崩壊事故」などが争点となった。原告側は、安全審査にはナトリウムと鉄の床ライナが起こす反応などの重要な知見が欠落していることから、審査は違法であると主張した。これに対し被告の国側は、ナトリウムとコンクリートとの接触は床張りの厚さ変更などで防げることなどから、基本的な設計方針は妥当であり、審査の合理性は失われないとした。平成15年(2003年)1月27日に言い渡された「もんじゅ」判決の骨子を表2-1表2-2および表2-3に示す。
 裁判長は、「原子炉設置許可処分が違法とされるのは、現在の科学技術水準に照らし、原子力安全委員会(安全委)もしくは原子炉安全専門審査会(専門審査会)の調査審議で用いられた具体的審査基準に不合理な点がある場合、あるいは当該原子炉施設が具体的審査基準に適合するとした安全委もしくは専門審査会の審議および判断の過程に看過しがたい過誤、欠落がある場合」として、(1)漏洩ナトリウムとコンクリートの直接接触が確実に防止できる保証はない、(2)蒸気発生器伝熱管破損事故の解析で、原子炉設置許可申請書では想定されていない高温ラプチャ型破損が発生する可能性を排除できない、(3)安全審査の「一次系冷却材流量減少反応度抑制機能喪失事象」における炉心損傷後の最大有効仕事量の判断では、遷移過程における再臨界の際の機械的エネルギーの評価はされていない、として、「原子炉格納容器内の放射物質の外部環境への放出の具体的危険性を否定することができないというべき」などど判断した。このような判断により、原告側の請求を棄却した第一審の福井地裁の判決を取り消し、国の設置許可を無効とする住民側の逆転勝訴とした。被告の国側は、平成15年(2003年)1月31日、最高裁判所に上告した。なお、平成15年(2003年)3月に、原告は「民事訴訟」を取り下げている。
(前回更新:2003年3月)
<図/表>
表1 高速増殖炉原型炉「もんじゅ」訴訟の主な経緯(2003年3月現在)
表1  高速増殖炉原型炉「もんじゅ」訴訟の主な経緯(2003年3月現在)
表2-1 「もんじゅ」判決(2003年1月27日)の骨子(1/3)
表2-1  「もんじゅ」判決(2003年1月27日)の骨子(1/3)
表2-2 「もんじゅ」判決(2003年1月27日)の骨子(2/3)
表2-2  「もんじゅ」判決(2003年1月27日)の骨子(2/3)
表2-3 「もんじゅ」判決(2003年1月27日)の骨子(3/3)
表2-3  「もんじゅ」判決(2003年1月27日)の骨子(3/3)

<関連タイトル>
日本の原子力発電所の分布地図(2001年) (02-05-01-05)
高速増殖炉原型炉「もんじゅ」の開発(その1) (03-01-06-04)
発電用原子炉の安全規制の概要(原子力規制委員会発足まで) (11-02-01-01)
動力炉・核燃料開発事業団(PNC) (13-02-01-12)

<参考文献>
(1)経済産業省(原子力安全・保安院):高速増殖原型炉もんじゅ無効確認等訴訟に係る名古屋高等裁判所金沢支部の判決について
(2)原産新聞編集グループ(編):「もんじゅ」設置許可に無効判決、「もんじゅ」判決の骨子、原子力産業新聞(第2171号)、(社)日本原子力産業会議(2003年1月30日)第1-2面
(3)(社)日本原子力産業会議(編):「もんじゅ」判決の骨子、原産マンスリー(2003年2月号)、p.33-38
(4)(社)日本原子力産業会議(編):原子力施設に係る主な訴訟の状況、原子力ポッケットブック2002年版(2002年11月8日)、p.176-177
(5)原産新聞編集グループ(編):もんじゅ訴訟原告の請求を棄却「安全性は確保」と判断、14年半の論争に一応の決着、原子力産業新聞(第2030号)、(社)日本原子力産業会議(2000年3月23日)、第1面
(6)(社)日本原子力産業会議(編集発行):福井地裁、「もんじゅ」訴訟で原告請求を棄却、原子力年鑑2000/2001年版(2000年10月17日)、p.20-21
(7)経済産業省、原子力安全・保安院、原子力保安管理課(編):平成14年(13年度実績)原子力施設運転管理年報、(社)火力原子力発電技術協会(2002年9月)、p.18-19
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