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<概要>
 東京電力福島第一原子力発電所の事故を契機に、原子力安全規制体制の改革が閣議決定され、その後、「原子力事故再発防止顧問会議」や「原子力安全規制に関する国際ワークショップ」を経て、原子力規制委員会設置法が成立し、平成24年9月19日に環境省の外局として「原子力規制委員会」が新たに発足した。
 原子力規制委員会は、国家行政組織法3条2項に基づいて設置された独立性の高い委員会であり、国民の生命、健康及び財産の保護、環境の保全並びに国の安全保障を目的に活動する。原子力規制委員会は、任期5年の委員長及び4名の委員で構成され、放射線利用核燃料サイクル原子炉等に関する規制と関連する研究開発の推進のため、(1)原子炉安全専門審査会、(2)核燃料安全専門審査会、(3)放射線審議会及び(4)独立行政法人評価委員会を設置している。
 また、東京電力福島第一原子力発電所の事故に関し、「特定原子力施設監視・評価検討会」を設置し、事故施設の運営計画について安全性等を確認し必要な規制を行っている。
<更新年月>
2013年01月   

<本文>
1.原子力規制委員会設置の経緯、目的と任務
1.1 経緯
(1)原子力事故再発防止顧問会議
 東京電力福島第一原子力発電所の事故を契機に、閣議で「原子力安全規制に関する組織等の改革の基本方針」が平成23年8月15日に決定され、「原子力事故再発防止顧問会議」が開催された。平成23年12月13日にこの顧問会議から、原子力安全規制組織等の改革の7原則(規制と利用の分離、一元化、危機管理、人材の育成、新安全規制、透明性及び国際性)が提言された(表1)。
(2)原子力安全規制に関する国際ワークショップ
 原子力安全規制の改革に関する国際ワークショップが平成24年1月18日に開催され、原子力安全規制の具備すべき独立性と実効性、透明性と継続性等の助言があった。
(3)原子力規制委員会設置法の成立と同委員会の発足
 上記を踏まえた「原子力規制委員会設置法」が公布され、平成24年9月19日、環境省の外局に国家行政組織法3条2項に基づいた独立性の高い委員会として「原子力規制委員会」が新たに発足した。これまで原子力利用に係る安全規制を担ってきた原子力安全委員会原子力安全・保安院は廃止され、原子力安全委員会、原子力安全・保安院、文科省及び国交省が所掌してきた原子力安全規制に係る事務は、原子力規制委員会及びその事務局として設置された「原子力規制庁」が一元的に担うこととなった。これによっていわゆるダブルチェック体制は廃止され、従来は主に原子力安全委員会が担ってきた原子力安全規制に必要な指針、基準等の決定は、原子力規制委員会が自ら行うこととなった。
 原子力の規制体制について、これまでの体制から新しい体制への改革を図1に示す。内閣府、経済産業省及び文部科学省の規制に関する任務が、原子力規制委員会に移管された。
1.2 目的と任務
(1)原子力規制委員会の目的
 国民の生命、健康及び財産の保護、環境の保全並びに我が国の安全保障に資すること。
(2)原子力規制委員会の任務
 原子力規制委員会の任務を表2に示す。原子力規制委員会は、放射線利用、核燃料サイクル並びに原子炉に関する規制を含め、原子力利用における安全の確保を図る。
2.原子力規制委員会と原子力規制庁の組織
 原子力規制委員会の組織を図2に示す。
2.1 原子力規制委員会の委員と審議会
 原子力規制委員会は、独立性の高い行政委員会で、委員長と4人の委員から成る。委員長及び委員は、両議院の同意を得て内閣総理大臣が任命する。委員長の任免は天皇が認証する。任期は5年で、再任がある。
 原子力規制委員会には(1)原子炉安全専門審査会、(2)核燃料安全専門審査会、(3)放射線審議会及び(4)独立行政法人評価委員会等が置かれ、その業務概要を表3に示す。評価委員会が対象とする独立行政法人と業務等を表4に示す。
 原子力規制委員会の活動はインターネット等で公開される。
2.2 原子力規制庁
 原子力規制庁には、原子力規制委員会の事務を担当する六課と緊急事態対策監及び安全規制管理官が置かれており、各々が担当する事務の概要を表5に示す。(独)原子力安全基盤機構の業務は、原子力規制庁に吸収され同機構は廃止の予定である。職員については、規制の独立性を確保するため原子力推進官庁への配置転換を認めない旨が規定されている。(ただし、法律施行後5年間において、やむを得ない事情がある場合はこの限りではない。)
(1)緊急事態対策監:原子力事故による緊急事態の発生防止、緊急事態対応の体制と対策に関する事務。1名。
(2)総務課:事務の総括・調整、情報公開、経費、原子力安全基盤機構の組織及び運営、東日本大震災復興特別会計の経理など。課内に法務室と業務管理室が置かれている。
(3)政策評価・広聴広報課:基本的な政策の企画及び立案、会議の庶務、広報・公聴、地方公共団体との連絡、独立行政法人評価委員会の庶務など。
(4)国際課:国際機関、国際会議、国際的な枠組、外国の行政機関及び団体との協力など。
(5)技術基盤課:基本的な政策のうち技術に関する企画及び立案、炉規法の施行に関する基準の策定、政策の基礎となる事項の調査・研究、安全確保のための技術に関する研究の推進など。課内に原子力利用の安全確保の研究推進を図る安全研究推進室が置かれている。
(6)原子力防災課:原子力災害対策指針案の作成、原子力事故災害の防止、事故・人的障害への対策、核燃料物質の防護のための規制など。課内に火災対策室、事故対処室及び核物質防護室が置かれている。
(7)監視情報課:放射性物質又は放射線の水準の監視及び測定、原子力事故で放出された放射性物質の拡散の状況の把握、予測及び公表、放射線障害の防止に関する技術的基準の斉一を図ることなど。
(8)安全規制管理官:原子力利用、核燃料サイクル全般の安全規制と安全確保。5名。
3.原子力規制委員会の政策
3.1 原子力利用に関する安全規制の概要
(1)実用原子炉(原子力発電所)
 1)設計・建設段階の安全規制
 「原子炉設置(変更)許可申請」が、原子炉等規制法に定められた許可基準に適合しているか審査(安全審査)し、更に「工事計画認可申請」により原子力発電所の設計の詳細を審査する。また、工事の工程ごとの「使用前検査」や「燃料体の検査」を行う。
 2)運転段階の安全規制
 「保安規定」の認可申請を受け、災害の防止上支障がないことを審査する。運転開始後は安全上特に重要な設備・機能について「定期検査」を行う。また、原子力発電所の立地地域に、「原子力保安検査官」が常駐し、発電所内の巡視点検やヒヤリング等を実施し、「保安規定」が遵守されているか確認のため、年4回及び安全上重要な行為に対しての「保安検査」を行う。
 3)廃止措置段階の安全規制
 「廃止措置計画」の認可申請を受け、規則で定める基準に適合しているか審査し、廃止措置が終了したときに、その結果が省令で定める基準に適合しているか確認する。
(2)研究開発段階炉に関する安全規制
 研究開発段階にある原子炉のうち、発電用に供する原子炉に対し、「設置(変更)許可」、「保安規定」の認可等について原子力発電所と同様の規制を行う。原子炉施設の詳細設計や「使用前検査」、定期的に行う検査等についても「原子炉等規制法」及び「電気事業法」による規制を行う。
(3)試験研究炉等の安全規制
 試験研究用原子炉及び発電の用に供しない研究開発段階の原子炉に対して、「設置(変更)許可」の審査、「設計及び工事の方法の(変更)認可」の審査、「使用前検査」、「保安規定の(変更)認可」の審査、「施設定期検査」等、設計、建設、運転の各段階において規制を行う。
(4)廃棄事業の安全規制
 原子炉等規制法に基づき、放射性廃棄物の処理処分を行う「廃棄物埋設事業」及び「廃棄物管理事業」の規制を行う。
(5)再処理事業の安全規制
 「再処理事業」の申請内容が、原子炉等規制法に基づく指定の基準に適合しているか審査し、「設計及び工事の方法の認可」申請により、事業指定の内容に整合しているか、技術上の基準に適合しているかを審査する。更に「使用前検査」、「保安規定」の認可等に関する審査、「施設定期検査」、年4回の「保安検査」を行う。また、安全規制の一環として必要に応じて立入検査を行う。
(6)加工事業の安全規制
 「加工事業」の申請内容が、原子炉等規制法に基づく許可の基準に適合しているか審査し、「設計及び工事の方法の認可」申請により、事業許可の内容に整合しているか、技術上の基準に適合しているかを審査する。更に「使用前検査」、「保安規定」の認可等に関する審査、「施設定期検査」、年4回の「保安検査」を行う。また、安全規制の一環として必要に応じて立入検査を行う。
(7)貯蔵事業の安全規制
 使用済燃料の「貯蔵事業」の申請内容が、原子炉等規制法に基づく許可の基準に適合しているか審査し、「設計及び工事の方法の認可」の申請により、技術上の基準に適合しているか審査する。更に使用済燃料の貯蔵施設について、「使用前検査」、「施設定期検査」、「保安検査」等を行う。また、安全規制の一環として必要に応じ立入検査を行う。
(8)輸送に関する安全規制
 日本ではIAEA安全輸送規則を国内法令に取り入れ、これに基づいて規制を行っている。
 核燃料物質等の輸送の種類には陸上、海上、航空輸送があり、また、規制の項目も輸送物、輸送方法、経路、日時など多岐にわたることから、5つの行政庁が規制を分担している。このうち原子力規制委員会は、陸上輸送の輸送物について、技術基準に適合しているかの確認を行う。(原子力安全基盤機構(JNES)が一部を実施)
(9)核燃料物質の使用等の安全規制
 1)核燃料物質について
 種類と数量により使用を許可。また、保安措置、報告等を事業者に義務づけている。一定量以上の核燃料物質を使用する施設に対して、各種検査や保安規定の認可などを実施する。
 2)核原料物質について
 放射能濃度と数量により使用の届出、保安措置、報告等を事業者に義務づけている。
3.2 原子力防災
 「原子力災害対策特別措置法」に基づき、原子力災害対策を円滑に実施するため事前対策、緊急時対策、中長期対策等について「原子力災害対策指針(平成24年10月31日)」が示された。今後、さらに(1)原子力災害事前対策(放射線量レベル、緊急時区分など)、(2)緊急時モニタリング、(3)オフサイトセンターの在り方、4)東電福島第一原子力発電所事故への対応等について指針が示される。
 改正された「原子力基本法」及び「原子力災害対策特別措置法」による防災体制を図3に示す。平常時から、内閣には原子力防災会議が設置されることになった。原子力規制委員会の委員長は、防災会議において副議長、災害対策本部において副本部長に位置づけられる。
3.3 東京電力福島第一原子力発電所事故への対応
(1)中期的対策:警戒区域及び計画的避難区域の環境の改善、長期避難による健康影響の懸念等について中長期対策を講じる。
(2)原子力災害対策重点区域:住民の避難や退避について、同発電所の危険性の評価等から更に検討する。
(3)特定原子力施設:東京電力福島第一原子力発電所を「特定原子力施設」に指定。「特定原子力施設監視・評価検討会」を置き、施設の運営計画等について安全性を検討し必要な規制を行う。
<図/表>
表1 原子力安全規制組織等の改革の7原則
表1  原子力安全規制組織等の改革の7原則
表2 原子力規制委員会の任務
表2  原子力規制委員会の任務
表3 安全専門審査会等の業務概要
表3  安全専門審査会等の業務概要
表4 評価委員会が対象とする独立行政法人と業務
表4  評価委員会が対象とする独立行政法人と業務
表5 原子力規制庁の事務概要
表5  原子力規制庁の事務概要
図1 原子力規制体制の改革
図1  原子力規制体制の改革
図2 原子力規制委員会の組織
図2  原子力規制委員会の組織
図3 原子力防災体制
図3  原子力防災体制

<関連タイトル>
わが国における放射性廃棄物処理処分の規制と責任 (05-01-01-06)
原子力安全委員会 (10-04-03-01)
文部科学省と原子力行政 (10-04-05-01)
経済産業省と原子力行政 (10-04-06-01)
原子炉等規制法(平成24年改正)の概要 (10-07-01-05)
放射線障害防止法 (10-07-01-06)
原子力災害対策特別措置法(原災法:2012年改定以前) (10-07-01-09)
原子力施設に対する国の安全規制の枠組 (11-01-01-01)
原子力安全の基本原則 (11-01-02-01)
発電用原子炉の安全規制の概要(原子力規制委員会発足まで) (11-02-01-01)

<参考文献>
(1)原子力安全規制に関する組織等の改革の基本方針、閣議決定(平成23年12月13日)
(2)内閣官房:原子力事故再発防止顧問会議提言(平成23年12月13日)、
http://www.cas.go.jp/jp/genpatsujiko/info/teigen/teigen.pdf
(3)原子力安全規制に関する国際ワークショップ、レポート(平成24年1月18日)、

(4)原子力規制委員会設置法(平成24年6月27日法律第47号)、

(5)原子力規制委員会:第一回独立行政法人評価委員会、資料1、

(6)原子力規制庁組織令(平成24年9月14日政令第230号)、

(7)原子力規制庁組織規則(平成24年9月19日原子力規制委員会規則第1号)、

(8)原子力規制委員会ホームページ、「政策課題」など、
http://www.nsr.go.jp/activity/
(9)原子力規制委員会パンフレット、

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