<大項目> 放射線影響と放射線防護
<中項目> 原子力施設に係わる放射線防護
<小項目> 周辺環境モニタリング
<タイトル>
緊急時環境放射線モニタリング (09-04-08-04)

<概要>
 緊急時環境放射線モニタリングは、放射性物質を大量に保有又は取り扱う原子力発電所等で異常事態が発生し、施設外へ放射性物質が大量に放出されたとき、またはその恐れがあるときに、施設周辺環境の放射線及び放射性物質に関する情報を迅速に得るために緊急に実施されるモニタリングである。
<更新年月>
2005年02月   

<本文>
1.目的
 緊急時環境放射線モニタリング(以下、緊急時モニタリングという)の目標は、次の2項目、すなわち原子力緊急事態の発生時に迅速に行う第1段階のモニタリングと周辺環境に対する全般的影響を評価する第2段階のモニタリングに集約される。
(イ)周辺環境における放射線及び放射性物質に関する情報並びに施設からの放射能放出に関する情報等を迅速に収集することにより、被ばく線量を予測するとともに、住民の健康と財産を保護するために必要な防護対策(退避、避難、ヨウ素剤の投与、立ち入り禁止、食物摂取制限など)を早急に決定するための資料を得ること。
(ロ)放射能異常放出に伴う周辺住民及び環境への放射線の影響を評価すること
 具体的な目的は以下の通り
第1段階のモニタリング
(1)原子力施設周辺の空間放射線量率及び周辺に放出された大気中の放射性物質(放射性希ガス放射性ヨウ素ウランまたはプルトニウム)の濃度の把握
(2)放射性物質の放出により影響を受けた環境試料中の放射性物質の濃度の把握
(3)適切な防護対策に資するための周辺環境における予測線量の迅速な推定
第2段階のモニタリング
(1)第1段階の(1)を継続し、さらに対象とする核種を増やすなど、より詳細な大気中の放射性物質の濃度の把握
(2)第1段階の(2)を継続し、さらに対象とする核種を増やすなど、より詳細な環境試料中の放射性物質の濃度の把握
(3)周辺住民等が実際に被ばくしたと考えられる線量の評価
2.緊急時体制(モニタリング体制)の発令と発令基準等
 原子力災害対策特別措置法に基づき、原子力事業者から通報があった段階では、平常時のモニタリングを強化するとともに、原子力事業者から施設内の状況に関する情報を入手し、事態の推移に応じて、緊急時モニタリングの準備を開始し、さらに、原子力緊急事態を示す事象が発生した場合には、緊急時モニタリングを開始する。
 実際的には、原子力発電所等原子炉施設からの放射性物質の大量放出等の異常事態は、瞬時に発生するということは殆どなく事前に何らかの兆候があると考えられる。このような兆候が検知されたときには、その原子力施設等から国および国の関係機関と地元の道府県、市町村に迅速に情報が伝えられる。通報をうけた国は、原子力災害対策本部設置の準備、県等は災害対策本部設置の準備および緊急時モニタリングの準備を開始する。そして、原子力緊急事態の判断基準に達した場合には、これらの本部の開設とともに緊急時モニタリングが開始される対策本部の設置によって、緊急時モニタリング組織が活動を開始する。また国の本部および国の現地災害対策本部に対して、原子力安全委員会の緊急時技術助言組織による助言が行われる。
3.異常事態発生の際の通報基準及び緊急事態の判断基準
 原子力災害対策特別措置法において、原子力施設の特性、防護活動との関係等を踏まえ、すべての原子力施設に適用できるように原子力防災活動の準備や開始に関する基準を設定している。その要点は次のとおりである。
(1)関係者への通報基準
 1)原子力事業所の境界付近において、空間放射線量率が1地点に10分以上5μSv/h以上又は2地点以上で同時に5μSv/h以上(落雷によるものを除く)
 2)排気筒等からの放射性物質の放出により事業所の境界付近において5μSv/h以上に相当するような異常な放出等(累積放出量で管理している場合には、一事象により50μSv以上に相当するような放出)
 3)その他、施設ごとに定められた異常事象(例えば、臨界事故の発生又はそのおそれがある状態)
(2)原子力緊急事態の判断基準
 1)原子力事業所の境界付近において、空間放射線量率が1地点で10分以上500μSv/h以上又は2地点以上で同時に500μSv/h以上(落雷によるものを除く)
 2)排気筒等からの放射性物質の放出により事業所の境界付近において500μSv/h以上に相当するような異常な放出等(累積放出量で管理している場合には、一事象により5mSv以上に相当するような放出)
 3)その他施設ごとに定められた異常事象(例えば、臨界事故の発生等)
 ちなみに5μGy/hは、バックグラウンド自然放射線)の平均的な値のほぼ100倍に相当する。また、5mSvは、公衆に対する特別な場合の年線量限度(通常の場合の限度は1mSv/年)の値である。
4.緊急時モニタリングの内容
 事故が発生した場合、原子炉からは主に放射性希ガス(Xe,Kr)や揮発性の放射性ヨウ素が、核燃料施設からは主にウラン、再処理施設からは主にプルトニウムやセシウム137などが大気中に放出される。これらは早い速度で大気中に拡散希釈され周辺住民に被ばくをもたらす。モニタリングとしては、応急措置に直結する第1段階のモニタリングと、精密測定のための第2段階のモニタリングに分けて実施する。表1に、緊急時モニタリングの実施内容として、原子炉施設の場合の例を災害対策本部の設置と関連して示す。
(1)第1段階のモニタリング
 第1段階のモニタリングは、被ばく線量の予測と必要な防護対策を決定することを意図するものである。それゆえ、この段階のモニタリングは周辺環境への放射性物質放出のおそれが発生した直後、あるいは異常な放出が発生した直後から速やかに開始し、その結果は、放出放射能情報、気象情報およびSPEEDIネットワークシステムから得られる情報とともに予測被ばく線量の算定に用いられ、これを基に防護対策に関する判断がなされる。したがって、この段階では精度よりも迅速性が必要である。
 第1段階のモニタリングにおける測定項目、測定または試料採取の地点ならびに測定方法は、以下のとおりである。
 (a)測定項目
  −空間放射線線量率
  −大気中放射性ヨウ素、ウランまたはプルトニウム等の濃度
  −環境試料(飲料水、葉菜、原乳等)中の放射性ヨウ素、ウラン、プルトニウム等の濃度および表面密度
 (b)測定地点または試料採取地点
  −空間放射線量率が最大になると予測される地点とその近傍・・・数点
  −大気中の放射性物質の濃度が最大になると予測される地点とその近傍・・・数点
  −風下軸約60°セクター内における大気中の放射性物質の濃度が最大になると予測される地点を中心とした風下軸の地表面直行線上・・・数点
  −風下方向の人口密集地帯、集落、退避施設等・・・数点
   地点数は当該地域の人口分布等を考慮して適宜決める。
(2)第2段階のモニタリング
 第2段階のモニタリングは、第1段階のモニタリングよりさらに広い地域について、放射線及び放射性物質の周辺環境に対する全般的影響を評価し、確認するために行われる。第2段階のモニタリングの主要な対象は、積算線量及び環境に対する蓄積放射能の時間的経過である。
 (a)測定項目
  −空間放射線線量率
  −大気中放射性物質濃度(ヨウ素及び他の核種)
  −環境試料中の放射性物質濃度
   ・第1段階のモニタリング試料と同じもの(飲料水、葉菜、原乳及び雨水)
   ・土壌、植物
   ・農畜産物
   ・源水(河川、浄水場など)
   ・魚介類(河川または海洋への放出がある場合)
  −外部被ばく積算線量
 (b)測定地点または試料採取地点
  第1段階のモニタリングの結果、必要と考えられる地点
5.モニタリング組織
 緊急時モニタリングを円滑に行うため組織化が図られている。例えば、災害対策本部組織のひとつとして緊急時モニタリングセンターが設けられ、その指揮下にモニタリング実施体制を編成して活動を行う。緊急時モニタリングセンターの組織の例を図1に示す。モニタリングチームは次に示すような支援チームをも含めて構成される。
 −現地派遣専門家チーム
 −現地派遣モニタリングチーム(国が組織、指定行政機関の要請により現地派遣)
 −支援事業所モニタリングチーム(隣接する事業所など)
 緊急時モニタリング組織における連絡方式の例を図2に示す。モニタリングセンター長は緊急時モニタリング組織を総括し、モニタリング作業を指揮する。放出放射能、気象、SPEEDIネットワークシステム、モニタリングポスト等の情報または各モニタリングチームからの情報を基に被ばく線量予測地図、空気中濃度予測地図などを作成し、モニタリング領域、地点等を決定し、サーベイチームに指示すると共に住民の予測被ばく線量の推定作業ならびに住民の実被ばく線量の解析評価を行う。収集した情報と解析評価等必要な事項は災害対策本部長に報告されるとともに防護対策に関し意見が具申される。
6.モニタリングの作業手順
 原子炉事故を例にして、緊急時モニタリングの作業手順例を事故発生後の時間経過とともに表2に示す。
7.緊急時モニタリング計画
 緊急時モニタリングは、異常事態発生時において、直ちにその体制が組織され実施に移すことができるようになっていることが極めて重要である。このため、各地方自治体においては、あらかじめ緊急時モニタリング計画を立案し、緊急時モニタリング体制の整備、緊急時モニタリング用資機材の整備、緊急時モニタリングの実施方法などについて定めた緊急時モニタリングマニュアルの作成等が行われている。
<図/表>
表1 緊急時モニタリングの実施内容(例)
表2 緊急時モニタリングの作業手順(例)
図1 緊急時モニタリングセンターの組織(例)
図2 緊急時モニタリング組織内連絡方式(例)

・図表を一括してダウンロードする場合は ここをクリックして下さい。


<関連タイトル>
緊急時環境線量情報予測システム(SPEEDI) (09-03-03-01)
ヨウ素モニタ (09-04-03-10)
環境放射線モニタリング (09-04-08-02)
気象観測 (09-04-08-05)
日本の原子力防災対策の概要−考え方と体制 (10-06-01-01)
原子力防災対策のための国および地方公共団体の活動 (10-06-01-04)

<参考文献>
(1)原子力安全委員会:原子力施設等の防災対策について(1980年, 2000年 改訂)
(2)原子力安全委員会:原子力安全委員会安全審査指針集、緊急時環境放射線モニタリング指針(1984年、1989、1992年および2000年一部改正)
(3)原子力安全研究協会:原子力防災対策実施のための手引き(1980)
(4)日本原子力研究所国際原子力総合技術センター:原子力防災対策講座講義テキスト(第5章、第6章)(2000)
(5)原子力安全技術センター:緊急時モニタリング初級講座テキスト(2000)
(6)科学技術庁:環境試料採取法、科学技術庁放射能測定法シリーズ No.16(1983)
(7)科学技術庁:緊急時におけるガンマ線スペクトロメトリのための試料前処理法、科学技術庁放射能測定法シリーズ No.24(1992)
(8)科学技術庁:ゲルマニウム半導体等の検出器等を用いる機器分析法 3訂、科学技術庁放射能測定法シリーズ No.7(1992)
(9)科学技術庁:緊急時における放射性ヨウ素測定法、科学技術庁放射能測定法シリーズ No.15(1983)
(10)科学技術庁:プルトニウム分析法 改訂、科学技術庁放射能測定法シリーズ No.12(1990)
(11)科学技術庁:連続モニタによる環境ガンマ線測定法 改訂、科学技術庁放射能測定法シリーズ No.7(1996)
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