<大項目> 放射線影響と放射線防護
<中項目> 原子力施設に係わる放射線防護
<小項目> 周辺環境モニタリング
<タイトル>
環境放射線モニタリング (09-04-08-02)

<概要>
 環境放射線モニタリングには、「周辺環境モニタリング」と同義のモニタリングと、原子力施設からの直接放射線、スカイシャインおよび原子力施設から放出された放射性物質からの放射線を測定、監視するモニタリングの二つの意味がある。ここでは後者のモニタリングについて述べる。
 原子力施設周辺環境の放射線を監視するために、放射線量率、積算線量が測定される。放射線量率については、原子力施設周辺にNaI(Tl)シンチレーション検出器あるいは高圧電離箱の検出器を収納したモニタリングポスト、モニタリングステーションを設置し、これらの信号をテレメータ等を介して、監視センターに送り、連続的に監視する。積算線量については、熱ルミネセンス線量計を収納したモニタリングポイントを周辺環境に多数配置し、3か月間積算して監視する。
<更新年月>
2004年03月   

<本文>
 「環境放射線モニタリング」には二つの意味がある。一つは、原子力発電施設、再処理施設等の周辺監視区域境界付近の放射線量率、土壌、陸水等の放射能濃度等を測定、評価することを意味する環境放射線のモニタリングをいい、「周辺環境モニタリング」と同義で用いられる(ATOMICA <09-04-08-01>参照)。もう一つの意味は、放射線量率、積算線量の外部放射線を測定、評価するモニタリングである。後者の「環境放射線モニタリング」は、土壌、陸水、海水等の放射能濃度の測定、評価する「環境試料モニタリング」(ATOMICA <09-04-08-03>参照)と対比されるものである。
 ここでは、放射線量率、積算線量の測定、評価を意味する「環境放射線モニタリング」について解説する。
 「周辺環境モニタリング」の目標は、原子力発電所、再処理施設、加速器施設等(以下、「原子力施設」という)から放出される放射性物質、施設からの漏洩放射線から、原子力施設の周辺公衆の線量が、年線量限度を十分下回っていることを確認することである。
 原子力施設は原則として外界に対して遮断された状態になっているが、若干ではあるが排気筒から放射性希ガス等が放出され、それらのガス等がもつ放射線により、周辺監視区域外に外部被ばくをもたらすおそれがある。また、原子力施設からの放射線が、直接にあるいはスカイシャインにより周辺監視区域境界外の住民に被ばくをもたらすおそれがある。このため、周辺監視区域境界付近の放射線量率、積算線量の測定、監視が行われる。この測定、監視は原子力施設を有する事業者はもとより、原子力発電所が設置されている地方自治体でも実施している。
1.放射線量率の測定・監視
 周辺監視区域境界付近に、いくつかのモニタリングステーションあるいはモニタリングポストを設けて、施設からの放出される放射性物質による周辺環境における放射線量率が連続監視される。各モニタリングステーション等の指示値は、テレメータ等を通じて、一カ所に集めて監視される。もし、異常な放射線量率が検出されたときには、警報を発するよう設備されている。モニタリングポストなどは、気象条件、人口密度などを考慮して周辺監視区域境界付近に設置されている(図1参照)。
 これら連続監視の外に、サーベイメータによっても定点の放射線量率が3カ月に1回定期的に測定されている。また、自動車に測定器を搭載し、あらかじめ定められた道路上の放射線量率が走行しながら測定され、レコーダに記録される。前者は、モニタリングポスト等の設置されていない地点の放射線量率の監視を補間するものであり、後者は、施設からの異常な放射性物質の放出があった場合の周辺環境における放射線量率を迅速に把握するためのバックグラウンドの測定である。
 環境中での空間放射線は、通常、空気吸収線量(率)(μGy(μGy/h))の単位で測定される。この単位で測定される理由は、従来(1989年3月まで)使用されていた照射線量(率)との換算が容易であり、従来の測定結果との関連が把握し易いこと、線量(率)で測定したとき、線量(率)には1cm線量当量、実効線量等種々の単位があり、どの線量で評価されたものか、後の評価において混乱するおそれのあることなどによる。
 環境の放射線量率の測定は、通常、γ線を対象に行われ、検出器としてγ線に感度のよいNaI(Tl)シンチレーション検出器、電離箱がよく用いられる(図2参照)。NaI(Tl)シンチレーション検出器は2インチ径×2インチ以上の大きさのものを用い、シンチレーション検出器がからの信号は、DBM(波高弁別バイアス変調)回路を通すか、検出器に特殊遮蔽体をつけて、検出器感度のγ線エネルギー依存性が補償される。
 電離箱は、一気圧のものか、加圧したものを用い、常温、常圧換算で20リットル以上の容積を有するものを使用して検出感度をあげている。
 NaI(Tl)シンチレーション検出器は一般に高エネルギー側のγ線の感度が低いため、宇宙線によるバックグラウンドの寄与は少ないが、電離箱は、高エネルギー側の感度が高く、NaI(Tl)シンチレーション検出器と比べ、宇宙線によるバックグラウンド寄与分だけ高くなる。
 いずれの検出器も 10 nGy/h 程度の短期変動が検出できる。
2.積算線量の測定
 3カ月間など長期間の積算線量は、施設周辺環境の線量評価および蓄積放射性物質の長期変動の把握を目的として測定される。長期間にわたる積算線量が測定可能なよう、環境中における温度、湿度等に影響されず安定して計測でき、退行現象が少なく、高感度であり、また、検出器のγ線エネルギー依存性が少ないなどの特性を有する測定器の使用が望ましい。このことから、一般に、熱ルミネセンス線量計(TLD:Thermo Luminescence Dosimeter)が用いられる。TLDは小型、かつ素子の繰り返し使用が可能である。
 一方、ドイツのカールスルーエ研究所では、ガラス線量計を用いて積算線量を測定している。これまでのガラス線量計の素子は、TLDのように測定のつど熱処理して、蛍光量を下げることができず、線量を常に積算していくこととなり、使用回数が増すとともに積算量が上昇し、低い検出下限値が維持できなくなり、ある積算線量に達したとき新しい素子と交換する必要が生じる等の問題があった。しかし、最近、熱処理して蛍光量を下げることができ、四半期ごとの測定を行いながら、1年間等の長期間にわたる積算線量が測定できるものが市販されている。
 TLDは小型、軽量であることから、2〜3の素子をひとまとめにして、モニタリングポイントに置き積算線量が測定される。モニタリングポイントは、約20cm立方の巣箱状のものを、地上から約1mの高さの杭に設置したものである。このモニタリングポイントを原子力施設設置事業所周辺に数多く配備し、各地点の3カ月間の積算線量が測定される。モニタリングポイントは、人口密集地に加え、事業所から数km以内の地域に一様に配備される(図1参照)。ある地点における各素子の測定結果を平均して積算線量が求められる。しかし、素子の損傷、劣化、汚れなどにより、異常をしめす場合がある。もし、素子が異常を示した場合には、その素子の結果は棄却される。
3.測定結果の変動とその要因
 環境放射線の測定結果は、降雨、積雪等の自然現象、核爆発実験、測定器感度の温度依存性等により、原子力施設からの影響以外の要因によっても変動する。
 日常よく見られる変動は、降雨によるγ線線量率の上昇である。降雨があると大気中に浮遊しているラドン・トロン娘核種が雨に取り込まれて地表面に落下し、γ線線量率の上昇をもたらす。増加量は雨量などによって異なるが、一般に降り始めに高くなる。通常、上昇は約0.02μGy/hまでである。しかし、雷雨のような激しい雨のときには、0.05μGy/hに上昇することもある。降雪は、その量によって放射線量率が高くなることも減少することもあり、±0.01μGy/h程度の変動を生じさせ、複雑に変動する。積雪が多い場合は、地殻からのγ線を遮へいする効果により、無雪時の放射線量率に対し、数10%の減少をもたらすことがある。
 これら自然界の現象の外に、日常の農耕、整地、道路の敷設等の人間の活動の要因によっても、放射線量率、積算線量の変動をもたらす。例えば、農村地区の水田地帯の放射線量率は、田植え時期の田の冠水により低下し、道路の建設、林の切り開きにより放射線量率、積算線量は上昇する。その程度は、それらの実施規模により異なり一様でない。
 核爆発実験が行われたときには、実験場所により異なるが、数日後に影響があらわれ、核分裂生成物の降下量とともに放射線量率の上昇をもたらす。上昇までの経過日数が2〜3日を短い場合は半減期の短い核分裂生成物が降下し、通常レベルから大きく上昇し、通常値の数倍になることもある。
 測定器の特性にもとづく変動として、温度変化がある。モニタリングポスト等の最新の監視装置は検出器を年間通じて一定温度に保つ処置がとられ、温度特性による測定値の変動はみられなくなったが、温度特性の改善がされていない監視装置では、測定値に変動をもたらす。この変動幅は温度に応じ日変化、季節変化をもたらし、温度によって数%〜10%変動する場合がある。
 核爆発実験を除き、測定条件がよく管理されており、かつ、原子力施設が平常運転されているかぎり、測定値の変動はある幅のなかにおさまる。この変動を「平常の変動幅」と呼んでいる。平常の変動幅は、測定値が正規分布とみなせるときには、通常、標準偏差の3倍がとられる。測定値が平常の変動幅を外れている場合にはその原因が調査される。
<図/表>
図1 環境放射線の監視
図2 固定観測局による空間ガンマ線量率の測定

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<関連タイトル>
緊急時環境放射線モニタリング (09-04-08-04)
リアルタイム環境放射線監視情報システム (09-04-08-06)

<参考文献>
(1)ICRP, Principles of Monitoring for the Radiation Protection of the Population, ICRP Publication 43 ,(1985)
(2)原子力安全研究委員会:環境放射線モニタリング、実務テキストシリーズ No.4(1987年)
(3)山縣 登(監修):環境放射線ハンドブック、情報センター出版会(1985年)
(4)原子力安全委員会:環境放射線モニタリングに関する指針(1989年)
(5)科学技術庁:連続モニタによる環境ガンマ線測定法、放射能測定シリーズ17(1982年)
(6)科学技術庁:熱ルミネセンス線量計を用いた環境γ線測定法、放射能測定シリーズ18(1982年)
(7)日本原子力研究所:環境放射線監視情報、http://www2.tokai.jaeri.go.jp/ermswww/
(8)核燃料サイクル開発機構:環境放射線監視システム、東海事業所、環境放射線モニタリング情報、http://www.jnc.go.jp/ztokai/kankyo/realtime/map_vllg.html
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