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<概要>
 職業人が1Bqの放射性核種を摂取したときに受ける実効線量Svを表した係数で、実用上の単位は(Sv/Bq)である。内部被ばく線量計算は、放射性核種の摂取量を何らかの方法で算定し、その量にこの内部被ばく線量係数を乗じることによってなされる。職業人の内部被ばく線量係数は、職業人を想定した標準的成人が一般的な軽作業中に放射性核種1Bqを摂取したと仮定し、摂取後50年間に受ける実効線量の積算値を表した係数である。国際放射線防護委員会(ICRP)ではPubl.68において、摂取経路に関し経口摂取吸入摂取の2経路別に、職業人が摂取すると考えられるほとんど全ての放射性核種を対象として、それぞれの物理化学的存在状態別に線量係数を計算して表示している。
<更新年月>
2007年10月   

<本文>
1.内部被ばく線量計算
 国際放射線防護委員会(ICRP)では、放射線防護を考えるにあたって、放射線被ばくによる線量を被ばくがもたらす健康影響に着目した実効線量Eで表し、実効線量を管理することにより放射線防護の目的を達する仕組みを作っている。ここで、内部被ばくの特徴は、線源となる放射性核種が体内に存在し、放射性核種の摂取による被ばくが摂取後時間的に継続することであり、線量は継続する線量の時間積分値である預託実効線量で表す。積分時間は、職業人の場合作業者の実際の年齢にかかわらず摂取後50年間としている。
 実際の内部被ばく線量計算では、人体臓器組織を放射性核種が分布する線源臓器Sと、そこから放出される放射線を受ける標的臓器Tに分けて考えることが特徴的である。預託実効線量E(50)は、ある標的臓器Tの預託等価線量H<T>(50)を計算した上で、すべての臓器組織についてそれぞれの預託等価線量H<T>(50)を組織荷重係数で重み付けした上で合算することで得られる。すなわち、
   E(50) = Σ<wT>H<T>(50)
であり、ここでwTは臓器あるいは組織Tの組織荷重係数である。
 臓器あるいは組織の預託等価線量は次式で与えられる。
   H<T>(50) = ΣUs(50)SEE(T←S)
ここで
・Us(50)は1Bqの放射性核種摂取後50年間での線源臓器Sでの核変換の総数であり、放射性核種の体内での代謝(体内動態という)から計算する。職業被ばくの場合には作業者の年齢に関わらず摂取後50年間の核変換の総数を計算している。放射性核種の体内代謝とは、経口摂取の場合は消化管での吸収率に始まり、その後の臓器分布、臓器から排泄される生物学的半減期などであり、それらがUs(50)を決定している。
・SEE(S←T)は線源臓器Sでの1核変換によって標的臓器Tに与えられる等価線量であり、ICRPが定めた標準人に関係付けたICRPファントムを用いて計算される。
2.線量係数
 職業人が作業中に放射性核種1Bqを摂取したと仮定し、その後の50年間で与えられる実効線量Svを表した数値を職業人の内部被ばく線量係数e(50)と呼び、Sv/Bqで表される。
 ICRPは放射性核種の摂取による内部被ばくに関し、Publ.68の職業人用の他に、公衆の内部被ばく線量係数を年齢依存で計算し、Publication72として刊行している。職業人の線量係数は公衆のうちの成人の値に近いが、同一ではない。それは下記の理由による。
 吸入摂取に関わる線量係数の算出に当たって、ICRPは職業人の場合も公衆の場合も「人呼吸気道モデル」を用いているが、そこでは吸入されたエアロゾルの呼吸気道における沈着の部位と量はそのエアロゾルの大きさ(粒径)に依存する。職業環境での放射性物質の粒径に関する、これまでの調査から、職業人の線量係数算定に当たっては空気動力学中央径AMADで表して5μmを用いている。これに対し公衆の構成員の線量係数算定の場合には1μmを仮定している。なお、Publ.68では参照のためとして1μmのエアロゾルに関わる線量係数も計算し表示している。
 吸入されたエアロゾルの呼吸気道における沈着の場所と量は呼吸様式にも依存する。職業被ばくでは作業者は軽作業を行っていると仮定する。1日8時間の軽作業の中では、2時間半を座った状態で過ごし、この間は1分間に12回の呼吸率で1時間に0.54m3の空気を呼吸する。残りの5.5時間は軽い運動をしている状態で、この間は1分間に20回の呼吸率で1時間に1.5m3の空気を呼吸するとしている。沈着を考えるに当たっては、両者を吸入空気量で荷重した平均を用いている。これに対し、公衆の構成員の場合には、1日を睡眠、座った状態、軽い運動をしている状態、激しい運動をしている状態に分け、それぞれで過ごす標準的な時間から導いた1日に呼吸する空気量(22.21m3)等を用いている。同じ成人ではあるが、職業被ばくと公衆被ばくでは仮定するエアロゾルの粒径が異なり、呼吸の生理も異なり、これらのことが異なった線量係数が与えられていることに繋がっている。
3.職業人の内部被ばく線量係数
 経口摂取および吸入摂取にかかわる職業人の線量係数の中から放射線防護上重要な放射性核種の係数を表1に示した。吸入線量係数では、エアロゾルの化学的性質により呼吸気道からの吸収の速度が異なることが分かっており、呼吸気道からの吸収の速いものをタイプF、遅いものをタイプS、それらの中間をタイプMと分類することにより考慮し、さらに呼吸気道から嚥下されたものの消化管での吸収割合f1についても配慮している。経口摂取に関しては消化管での吸収割合f1だけを考慮に入れている。
 表1に示した線量係数の値の中では、経口摂取の場合226Ra、239Pu、210Poおよび241Amなどのアルファ核種で大きく、3Hや14Cなど弱いベータ線しか出さない核種では小さくなっている。また同じ核種の場合にはf1の値が大きいほど線量係数も大きくなっている。吸入摂取でも239Pu、241Am、226Raなどアルファ線を放出する核種で値が大きく、同じ核種では呼吸器での吸収のタイプSの化学形のものは呼吸器からの吸収がゆっくりで、タイプFやMより呼吸器に大きな線量を与え、結果的に線量係数も大きくなっている。
4.年摂取限度
 Publ.68では、単位摂取量あたりの実効線量である線量係数で表しているが、線量限度に関連付けた年摂取限度ALIについても簡単に言及している。すなわち、ICRPは1990年勧告において職業人の実効線量限度を1年に50mSv以内という限定つきで5年間で100mSvと定めているが、この線量限度に対応する年摂取限度は5年間で100mSvの年平均である年実効線量20mSvに基づいて計算すべきとしている。
   年摂取限度ALI = 0.02 / e(50)
5.おわりに
 現在、ICRPは現行の1990年勧告の改定を行い、新勧告を刊行することになっている。そこでは実効線量の計算に用いる組織荷重係数なども最新の知見に合わせて変更することが見込まれている。さらには、ICRP第2専門委員会において放射性核種に関連する元素の代謝モデルを最新のものにする作業、ならびに線量計算のための人体ファントムを従来の数値ファントムからボクセルファントムにする作業なども行われている。したがって、現行の職業人の内部被ばく線量係数e(50)は近い将来改定されることになる。
<図/表>
表1 職業人のための重要放射性核種に関する内部被ばく線量係数(Sv/Bq)
表1  職業人のための重要放射性核種に関する内部被ばく線量係数(Sv/Bq)

<関連タイトル>
年摂取限度(ALI) (09-04-02-14)

<参考文献>
(1)ICRP Publication 68,Dose coefficients for intake of radionuclides by workers,Annals of the ICRP Vol.24,No.4(1994)
(2)ICRP Publication 72,Age-dependent doses to members of the public from intake of radionuclides:Part 5 Compilation of ingestion and inhalation dose coefficients,Annals of the ICRP Vol.26,No.1(1996)
(3)稲葉次郎:職業人の内部被ばく線量係数、放射線科学、VOL.49、NO.11、413-418(2006)
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