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<概要>
 放射線防護放射線医療などの分野では、放射線による被ばくについて信頼性の高い線量評価が必要である。近年、被ばく線量評価に使用される人体モデルが、数式で表現されたMIRD5型ファントムからCTやMRIなどの医用画像データを基に構築されたボクセルファントムへ移行しつつあり、より信頼性の高い被ばく線量評価が可能になってきている。
 ここでは、これまでに開発された主なボクセルファントムについて整理し、ボクセルファントムを用いた被ばく線量評価法の研究開発の現状を述べる。
<更新年月>
2005年07月   

<本文>
 近年、CTやMRIなどの医用画像データを基に、臓器・組織の形状や位置をリアルに表現する様々なボクセルファントムが開発されている。ボクセルファントムは、1984年Gibbsらによって開発されたのを最初に、コーカシアンやアジア人のような人種、年齢層、性別などを対象にして研究開発が進展している(表1)。いずれも、ボクセル(VOXEL:volume pixel)と呼称される微小直方全体で構築された3次元形状として、実際の人体に非常に近い形でモデル化されている(図1)。開発されたボクセルファントムは、放射線防護や放射線医療などの分野において、放射線による被ばく線量の評価用ツールとして、より信頼性の高い被ばく線量評価を可能にしている。
 従前、外部被ばくおよび内部被ばくによる実効線量などを評価する際には、円柱や回転楕円体などの組み合わせにより臓器形状を表現したMIRD5型ファントムが利用されてきた。しかし、MIRD5型ファントムは、標準人の体格を有するものの、実際の人体の臓器・組織の形状や位置を正しく反映したモデルにはなっていないことが、専門家間において指摘されていた。MIRD5型ファントムを用いた線量評価の場合、ファントムの臓器位置や胴体表面形状の不適切さなどを理由に、被ばく条件によっては、確度の高い評価結果にならないことが懸念されていた。こうした状況を踏まえ、我が国を含む世界諸国の放射線防護および放射線医療などの研究者によって、ボクセルファントムが開発され、さらに国際放射線防護委員会(ICRP)などにおいて、標準人の体格を有するボクセルファントムの開発が行われるようになった。
 世界諸国において、ボクセルファントムを用いた被ばく線量評価に関する研究は活発に行われている。ICRPのボクセルファントムを開発している独国、標準人の体格を有するボクセルファントムを開発している英国やブラジル、小児、妊婦や大男など、実用面を想定したボクセルファントムを開発している米国では、それぞれのボクセルファントムを用いて、外部被ばくおよび内部被ばくの実効線量係数などを評価している。
 我が国においても、独国と協力し、日本人成人男子および成人女子のボクセルファントムを開発し、外部被ばくおよび内部被ばくに係る諸量を評価している。また、4次元ファントムの開発も進められている。
 国際放射線単位および測定委員会(ICRU)、日本保健物理学会では、ボクセルファントムの開発や利用に関するレビューが行われている。
<図/表>
表1 主なボクセルファントム
表1  主なボクセルファントム
図1 ボクセルファントム
図1  ボクセルファントム

<参考文献>
(1)Gibbs S J,Pujol A,Chen T,Malcom A W and James A E: Oral Surg Oral Med Oral Pathol 58,347-354(1984).
(2)木名瀬栄:RISTNEWS 37,10-19(2004).
(3)Caon M: Radiat. Environ. Biophys.42,229-235(2004).
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(5)Dimbylow P : Phys. Med. Biol. 50,1047-1070(2005).
(6)Kramer R,Khoury H J,Vieira J W,Loureiro E C M,Lima V J M,Lima F R A and Hoff G: Phys. Med. Biol. 49,5203-5216(2004).
(7)Shi C Y, Xu X G and Stabin M G : Health Phys. 87,507-511(2004).
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(9)Kinase S,Zankl M,Kuwabara J,Sato K,Noguchi H,Funabiki J and Saito K : Radiat. Prot. Dosim. 105,557-536(2003).
(10)Nagaoka T,Watanabe S,Sakurai K,Kunieda E,Watanabe S,Taki M and Yamanaka Y: Phys. Med. Biol. 49,1-15(2004).
(11)ICRU Report 48(1992).
(12)日本保健物理学会:高度人体ファントム専門研究会成果報告書(1998年6月).
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