<大項目> 放射線影響と放射線防護
<中項目> 原子力施設に係わる放射線防護
<小項目> 放射線防護用の測定
<タイトル>
ストロンチウムの放射化学分析と測定 (09-04-03-26)

<概要>
 環境試料中に存在し、人体の放射線被ばくを考える上で重要な放射性核種に、放射性ストロンチウム(90Sr)がある。90Srは、ベータ線を放出して崩壊する物理的半減期28.79年のアルカリ土類元素、ストロンチウム(Sr)の放射性同位体である。ストロンチウムは90Srとともに人体に摂取されると人体組織の骨に沈着する。そのため核分裂生成物の長期にわたる人体への放射線影響を考える際には、最も注目を要する放射性核種の一つである。
 環境試料中の放射性ストロンチウムを測定する標準的な方法として、1960年、文部科学省は「放射性ストロンチウム分析法」を作成した。現在ではその1983年改訂版が使用されている。なお、環境試料の採取方法は、文部科学省が1983年に作成した「環境試料採取法」による。
 環境試料の放射化学分析では、試料を環境試料採取法に従って前処理した後、90Srを担体である非放射性ストロンチウムとともにその他の元素と分離する。
ついで、放射平衡が成立するまで放置して娘核種であるイットリウムの放射性同位体(90Y)を生成させ、これをSrから分離し、90Yの放射能から90Srの放射能を求める。全ベータ放射能の測定法を併用すれば89Srの放射能も求まる。
<更新年月>
2003年02月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.まえがき
 わが国における環境放射能調査は、核爆発実験に伴う放射性降下物、原子力施設周辺の環境モニタリング等に関連して行われてきている。1957年からは放射性降下物のなかで、人体の放射線被ばくへの影響が大きい放射性物質について、主として放射性核種の種類別に、逐次政府機関によりそれぞれ分析マニュアルが整備されてきた。
 環境試料の種類は極めて多い。適切な試料をいかに選び、どのような放射性核種を測定するかは、環境放射線モニタリングの目的によって決まる。
 定常的な環境放射線モニタリングは、長期間継続的に行う必要がある。また、そのための日常業務を効率よく、しかも確実に遂行するには環境試料のすべてを網羅的に採取・測定するよりも試料を選別採取し、これを経験豊富な習熟した技術によって確実に分析・測定するのが望ましい。
 そのために、1983年、文部科学省(当時は科学技術庁)は、各種の環境試料の採取方法として「環境試料採取法」を定め、放射性ストロンチウム核種の分析法として、1960年に「放射性ストロンチウム分析法」を定めた。後者についてはその後、分析手法や測定技術の進歩に伴い、逐次改訂が行われた。現在は1983年の改訂版が使用されている。以下、各種環境試料それぞれについて放射性ストロンチウム分析法の概要を記す。
2. 分析する環境試料の種類、採取法ならびに前処理(分析用試料の調製)法 表1 には、放射性ストロンチウム分析法の適用対象である環境試料の種類を示す。同表には、また、ベータ線の検出限界値を念頭に算出した環境試料の種類別供試量が示されている。有意な測定値を得るためには、試料量が少なくとも供試量を上回っていなくてはならない。
  図1 に環境試料分析法の流れ図を示す。 表2 には環境試料の種類ごとに定められた試料採取法が示されている。環境放射能の分析を行うための試料採取法は、ごく一部の例外を除けば、放射性核種が異なってもほぼ共通しており、90Srを対象とする環境試料採取法も表示されているようにそれに準拠している。
 表1、 表3-1 、 表3-2 は、放射性ストロンチウムの分析に先行して行う必要がある採取試料の前処理法の概念を要約したものである。前処理法には、試料の種類により簡単なものから複雑なものまでさまざまなものがある。たとえば、強酸性陽イオン交換樹脂吸着法とか蒸発法により濃縮するもの、塩酸や硝酸のような強酸水溶液による酸抽出を行うもの、比較的低温(500℃)で加熱灰化処理を行うもの、あるいは上記のような処理法を複数組み合わせるものなどである。
 このように種々の前処理法が適用される主な理由は、環境試料の組成が多種類にわたっているためである。含有する金属成分や有機物などに起因する妨害を低減するには、アルカリ土類元素(Ca,Sr,Ba,Ra)の粗分離を先行して実施することが有効な方策である。
 ストロンチウム(Sr)は、天然存在比で見れば微量元素の一つに過ぎない。その化学分析は厄介な作業である。しかも環境試料中のアルカリ土類成分の濃度、成分比、付着、吸着、化学結合の状況などが試料ごとに相違する。例を挙げれば、大気浮遊じん、じん埃の放射能は表面に汚染物として付着または吸着した状態にあると予想されるのに、動物の骨では骨成分そのものであるとか、陸水では痕跡すら検出しがたいほど低濃度であるのに、海水にはカルシウムの1/50程度(Srとして〜8ppm)溶存するといったことである。
 放射性ストロンチウムの分析では、正確に濃度を定めた一定量のストロンチウム水溶液を前処理の過程で試料溶液に添加し、Srの回収率測定に利用する。
 すべての環境試料は、前処理を経て塩酸とか硝酸のような強酸の希薄水溶液に調製され、以下の放射性ストロンチウム分析用試料となる。
3.放射性ストロンチウム分析法の概要
 分析用試料中の放射性ストロンチウムを含むストロンチウム成分は、通常、発煙硝酸法、イオン交換法、シュウ酸塩法によって、共存するSr以外のアルカリ土類元素から分離される。ただし、牛乳とかドライミルクの灰試料から調製した分析用試料には、HDEHPを用いる溶媒抽出法の適用が可能である。 図2-1 、 図2-2 および 図2-3 には発煙硝酸法、イオン交換法およびシュウ酸塩法の流れ図を、 図3 には溶媒抽出法のそれを示す。
 いずれの方法で分離したとしても、最終的に得られる純粋なSrを含む沈澱物を2週間(放射平衡に要する時間)以上放置して、その娘核種であるイットリウムの放射性同位体(90Y)を生成させた後、酸性水溶液とする。ついで、第二鉄イオンを加え、アンモニア水で90Yを水酸化鉄と共沈させるか、またはイットリウム担体水溶液を加え、アンモニア水でイットリウム(90Yを含む)を沈澱させてSrと分離し、90Yの放射能を計測する。
 90Yは半減期64.2時間、エネルギー2.26 MeVのベータ線を放出して崩壊する。ガンマ線を放出しないためベータ線を計測して放射能を求める。放射線の計測には、ベータ線の高感度測定が可能な2πガスフロー型比例計数器が使用される。計測用試料は、ろ紙上にマウントされ、極少量のコロジオンエタノール溶液のような糊で固め、赤外ランプなどの下で加熱乾燥後、比例計数管内に装着して放射能を測定する。 通常90Yが減衰するまで数回の測定を繰り返す。
 Srの回収率を求めるには、90Yの分離のさいに残されたSrを含む水溶液を用いる。 通常はこれに炭酸アンモニウム飽和水溶液を加え、炭酸ストロンチウムを沈澱させ、Sr用ホローカソードランプを用いて、主として原子吸光光度法により行う。カルシウムの定量が必要な場合にはカルシウム(Ca)用ホローカソードランプを用いる。Sr含有量の大きい試料(海水とか魚類)の場合には、Sr担体添加量を変えた数種の溶液を調製し、同位体希釈法に類似の操作を適用し、その都度検量線を作成して内挿法により求める。

[用語解説]
 同位体希釈:ある種の元素に対しては、ppb(10億分の1)ないしppt(1兆分の1)の濃度範囲で数%の精度で分析できる方法。放射能で標識した既知放射能を含む目的化合物の一定量を未知混合物に加える。その混合物から分離した純粋な目的化合物の比放射能を測定し、加えた物質の比放射能と比較する。既知放射能(トレーサ)の希釈の程度から最初の未知試料中に存在する非放射性の化合物の量を正確に知ることができる。
<図/表>
表1 放射性ストロンチウムを対象とする環境試料の放射化学分析
表2 放射性ストロンチウムを対象とする環境試料の採取法の概要
表3−1 放射性ストロンチウムの放射化学分析1
表3−2 放射性ストロンチウムの放射化学分析1
図1 環境試料中の放射性ストロンチウム分析法の流れ図
図2−1 放射性ストロンチウムの放射化学分析2
図2−2 放射性ストロンチウムの放射化学分析2
図2−3 放射性ストロンチウムの放射化学分析2
図3 放射性ストロンチウムの放射化学分析3

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<関連タイトル>
文部科学省分析マニュアル (09-04-03-24)
フォールアウト (09-01-01-05)

<参考文献>
(1) 科学技術庁:放射性ストロンチウム分析法、日本分析センター(1983)
(2) 科学技術庁:環境試料採取法、日本分析センター(1983)
(3) 日本分析化学会(編):分析化学便覧、改訂四版、pp908-909(1991)
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