<大項目> 放射線影響と放射線防護
<中項目> 原子力施設に係わる放射線防護
<小項目> 放射線防護の諸量
<タイトル>
線量預託 (09-04-02-11)

<概要>
 線量預託とは、ある着目された行為がもとになって受ける一人あたり(年間の)線量率を、時間について将来の無限の時間まで積分したものである。放射線防護の観点からの線量率としては、特定の器官または組織の等価線量率または実効線量率がとられる。線量預託を用いると、その継続的行為をとおして平均的な個人が受ける将来における最大の線量率の評価などができる。一方、集団に対する放射線による健康影響を予想する目的には、集団の人数を考慮した各年間の集団線量率の時間積分である集団線量預託が用いられる。
<更新年月>
2004年03月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.線量預託
(1) 数式的表現
 線量預託(dose commitment)は、ICRP Publication 60、付属書Aによるとある特定の出来事、たとえば、行為の一単位(例として、一年間の行為)による一人当り線量率(等価線量率または実効線量率)の無限時間積分で定義される。すなわち、tを時間として、
    Hc(T)=h(T,t)dt  あるいは  Ec=e(t)dt
積分の範囲は、0から無限大までとする。ここに、Hc(T)は組織Tの等価線量預託、h(T,t)は組織Tの等価線量率、Ecは実効線量預託、及びe(t)は実効線量率である。
 一定の率で行われる行為の期間が無期限の場合、関連する住民の将来の最大年間一人当り線量率(等価線量率または実効線量率)は、その住民数の変化にかかわりなく、数値が1年間の行為の線量預託に等しい。もしその行為が期間τの間だけ継続されるならば、将来における最大の年間一人当り線量率は、次の対応する打ち切り線量預託に等しくなる。
    Hc(T,τ)=h(T,t)dt   積分期間は、0からτまで、または、
    Ec(τ) =e(t)dt    積分期間は、0からτまで。
(2) 概念と用法
 原子力発電、放射性同位元素の利用、あるいは、放射性廃棄物の処分など人の放射線被ばくを伴う業務を一般に「行為」という。行為には、それぞれ目的があり、また、その目的を達成するための様々な活動を含んでいる。ある行為に由来して人々の集団が被ばくするとき、その集団に属する人々の個人に対する平均線量を一人当り線量という。年当りの一人当り線量は、時間経過とともに変化するが、これを時間について集計あるいは積分すると結果として線量預託が得られる。
 単に、線量預託というと、一人当り線量率を積分する時間は無限の将来までとしている。これを完全線量預託ということがある。もし、積分をある時刻τで打ち切れば、得られる量は、打切り線量預託(truncated dose commitment)または不完全線量預託(incomplete dose commitment)と呼ばれる。
 線量預託は、食習慣、摂取経路が同じで、平均的な人間が受ける年ごとの一人当り線量率を時間(年)について積分するものである。放射線で誘発される健康への影響の集団における発生数の予想値を得るためには、その線量預託をこうむる人数を知る必要がある。この点で、後に述べる集団線量預託では、線量預託とともにそれを受ける集団の大きさ、つまり、総人数が考慮される。
 線量預託が初めて用いられたのは、国連科学委員会(UNSCEAR)によってであった。国連科学委員会は、大気中核実験の影響を表すために、1958年に線量預託を導入した。大気中核実験からの環境汚染では、長い半減期の放射性核種(90Sr,137Cs等)が含まれるため、実際の年間線量だけを示すだけでは十分とは考えられなかった。大気中への放射性物質の注入が毎年同じ規模で続くと仮定すれば、放射性物質による汚染が増加して年間の一人当り線量が増加する。しかし、この年間一人当り線量は、核実験に由来する年当たり増加分に対して、放射能の物理学的な減衰とともに放射性物質の環境中移行に関連しての体外放射線の減少分及び体内に取り込まれた放射能の排泄による生物学的な減少分の合計がつり合ったときから一定になる。このことを図で示せば、図1のようである。ここで、つり合った一定値は、1年間分の核実験により将来にわたって与えられる線量率(図1の実線)を時間について積分した値に等しい。
 線量預託(単位:Sv)は、毎年一定の規模で行為が継続するとした場合には、将来において年線量率が次第に増加して最大になった(そして、平衡して定常状態になった)ときの年線量率(単位:Sv/y)を与える。毎年一定の規模で行為が継続するということは、例えば世界中で、同一型式の発電用原子炉で毎年同じだけの電力を発生し、同様な放射性排出物を環境に放出するというようなことである。これを例証しようとするために、図2で考える。
 図2では、どの1年間の行為も、その後の数年間の被ばくを引き起こす環境汚染を生ずると仮定する。年間線量は、その行為の年の間ではAであり、それぞれ1年後、2年後、3年後及び4年後では、B、C、D及びEと仮定した。1年間の行為による線量預託は、この場合の年線量率を合計したもの、すなわちA+B+C+D+Eとなる。その行為がもう1年繰り返される場合には、同様の年線量率の連鎖が、第1年目の行為による線量に重ね合わせられる。行為が継続する場合には、最終的には定常状態が達成される。図2(c)から、定常状態に達したときの年線量率が、その1年間の行為による線量にそれに先立つ年の分による線量を加えたもの、すなわちA+B+C+D+Eとなることがわかる。これは1年間の行為による線量預託に等しい。従って、各年当たりの行為に由来するとして計算される線量預託をあるレベルに抑えれば、将来の1年についての一人当り線量率をそのレベル以下に保つことができる。
 環境中の汚染が減衰してなくなってしまうまでの期間より短い期間τだけの間しか継続しない行為からの汚染は、定常状態には達しない。行為の終了時に最大の年間一人当り線量が現れる。図2(b)は、1年間の行為に由来した環境への放出からの被ばくが以後5年間しか続かないとき、行為が2年限りで終わったとした場合の例である。一人当り線量は、行為の最後の年である2年目に最大となる。
 この最大の年間の一人当り線量は、1年当たりの行為からの線量預託の集計を時刻τまでで打ち切った、不完全線量預託に等しい。
2.集団線量預託
 ある線源または行為から来る集団線量預託は、その線源または行為に由来する年集団線量率を無限時間まで集計することによって得られる。集団線量預託とくに集団実効線量預託は、現代の人々が被る健康損害の量のみならず、将来の世代の人々が被る健康損害をも網羅することになる。
 将来の集団実効線量の算定にあたって、原理的には、環境状況の将来の変化の予測を考慮に加えることができる。しかし、その予測は困難であるため、環境移行率および人の習慣などのパラメータについての現在の状況が無限に続くものと仮定することになるのが通例である。短期間についてはこの仮定は合理的である。しかし、ある種の長寿命核種については、無限時間の預託を計算するということは、現在の諸条件を数千年、あるいは数百万年の将来までも使うということであって、評価が不確かになるという問題がある。長期間にわたる被ばくの影響を調べるには、行為が継続する期間と関連して、時間的にどのように集団線量預託が増えて行くかを表現してみることが便利である。
 図3は、1982年UNSCEAR報告書に示された表からとったもので、原子力発電による電力発生量 100万キロワット・年[GW(e)a]当りの集団実効線量当量預託の時間的な蓄積の様子を示したものである。ここで、用いられている「実効線量当量」はICRP 1977年勧告で定義された量で、1990年勧告では、「実効線量」に置き代えられた。エネルギーが比較的高いγ線による被ばくでは、これら2つの量はあまり変わらない。低エネルギーγ線及びβ線の寄与が大きい被ばくでは、皮膚に対する被ばくへの配慮のため、皮膚線量を0.01倍して実効線量に加えることによって、実効線量の近似ができる(2000年UNSCEAR報告書、付属書A)。この補正は、1982年UNSCEAR報告書で、原子力発電からの希ガスによる線量を計算するためにはじめて用いられた。図3の中でラドンとあるのは、ウランの採鉱・精錬からできてくる鉱屑のボタ山からのラドン222の散逸による集団実効線量預託で、行為が無限に続き、将来の防護状態がずっと現在のままならば最終的には2,800人・シーベルト(man・Sv)となる。炭素14の無限時間積分値は、110man・Svとなる。ヨウ素129は1億年経ってもなかなか無限値に達しないが、その値は560man・Svと計算されている。ここで世界人口は、100億人としている。
 集団実効線量預託の積分期間をある有限な時間で打ち切った不完全集団実効線量預託を、集団の人口総数で割れば、その時点まで継続した行為による年間1人当りの実効線量が求められる。表1は、西暦2500年までの連続的な原子力発電からの年間1人当りの実効線量率を、国連科学委員会が1982年報告書で計算した結果である。
 きわめて長い半減期を有する放射性核種(例えば、ヨウ素129)の場合、無限時間の線量預託の使用は適切でない防護費用を導くことになるという考えが唱えられている。しかし、最適化の評価で関心事となることは、将来の全期間にわたる総集団線量(総損害)でなく、いろいろな防護の選択肢によって軽減される損害の低減である。図4で、曲線Aは、ある防護処置が行われなかった場合の集団線量率を示し、それに対してBは、改善された状況における集団線量率を示している。曲線AとBの間の斜線の面積は、避けることができる集団線量を示している。ある場合には、非常に長期間の後にもなお、防護選択肢の差が残存しているであろう。高レベル廃棄物の地層中処分がその例であり、10万年後まで放射性物質が生物圏に達しないとされている。このように、行為と環境中への放出との間の時間の遅れが大きい場合には、不完全線量預託が、積分打ち切り時点で年間の最大線量率を表さなくなることは注意すべきである。
<図/表>
表1 西暦2500年までの連続的な原子力発電による年間1人当りの線量
図1 線量預託と1年ごとの行為からの(年)線量の蓄積
図2 線量預託と年線量率
図3 集団実効線量預託の時間的な蓄積
図4 集団線量を軽減できる場合

・図表を一括してダウンロードする場合は ここをクリックして下さい。


<関連タイトル>
集団線量 (09-04-02-10)
国連科学委員会(UNSCEAR) (13-01-01-19)

<参考文献>
(1) 日本アイソトープ協会(翻訳):ICRP Publication 60.国際放射線防護委員会1990年勧告、丸善(1991年)
(2) Bo Lindell:Concepts of Collective Dose in Radiological Protection、NEA/OECD,Paris,(1985)
(3) 日本アイソトープ協会(翻訳):ICRP Publication 42.ICRPが使用しているおもな概念と量の用語解説(1984年採択)、丸善(1986)
(4) 放射線医学総合研究所(監訳):国連科学委員会1982年報告書、”放射線とその人間への影響”(1982)、(株)テクノ・プロジェクト(1984)
(5) United Nations Scientific Committee on the Effects of Atomic Radiation,UNSCEAR 2000 Report to the General Assembly,with Scientific Annexes,”Sources and Effects of Ionizing Radiation”.United Nations,New York,2000.放射線医学総合研究所・監訳、”UNSCEAR 2000 Report,放射線の線源と影響”、実業公報社、東京、(2002)
(6) IAEA放射線防護基本資料集編集委員会(編):IAEA放射線防護基本資料集、情報センター出版会(1986年10月)
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