<解説記事ダウンロード>PDFダウンロード

<概要>
 集団線量は、集団をつくる住民あるいは放射線業務従事者一人一人が受けた放射線量をその集団全体について合計したものである。ある線源によって被ばくする個人数にその人々の平均放射線量を乗じた積で定義される。放射線量として何をとるかによって集団線量は種類が異なるが、もっともよく用いられるものは、臓器または組織の等価線量をとった集団等価線量または吸収線量をとった集団吸収線量、及び臓器または組織に組織荷重係数を乗じた集団実効線量である。
 集団線量の単位としては、人・シーベルト(人・Sv)などが用いられる。
<更新年月>
2004年03月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 集団線量は、集団をつくる住民あるいは職業人の各自が受けた放射線量をその集団全体について合計したものである。集団線量(collective dose)という言葉は、ICRP Publication 22(1973年)ではじめて使用された。集団の遺伝的リスクを表わそうとするために、ある線量を受ける人の数とその線量(平均値)との積の合計をとることは、1970年頃から行われていた。国や地域の人口、あるいは、職業人とか公衆の構成員のような特定のグループについても、この方法が広く行われるようになってきたので、それらの場合を含めて集団線量という用語がつくられた。
 放射線量として何をとるかによって集団線量は種類が異なるが、特定の臓器または組織の等価線量であれば、合計した結果である集団線量は集団等価線量(collective equivalent dose)となり、放射線量がその臓器または組織によって値に重みづけをした実効線量であれば、集団実効線量(cllective effective dose)と呼ばれる。集団等価線量、集団実効線量いずれも、集団の範囲、線量の集計または積分をとる期間を示すことが必要である。
(1)集団等価線量
 個人の集団における特定の組織・臓器の総放射線被ばくを表すものとして、ICRP Publication 60では次のとおり集団等価線量を数式的に表現している。すなわち、組織Tにおける集団等価線量S(T)は、
      S(T)=H(dN/dH)dH
積分の範囲は、ある特定の被ばく源からの等価線量(H)がないところ(H=0)から、この集団の人が受ける最大の等価線量までである。ここで、(dN/dH)dHはHとH+dHとの間の等価線量を受ける個人の数である。したがって、次式によっても定義される。
      S(T)=ΣH(i)・N(i)
ここで、N(i)は集団の中で平均組織等価線量H(i)を受けるサブグループiの個人の数であり、総計Σはサブグループiについてとるものとする。
(2)集団実効線量
 ICRP Publication 60 では、次のように集団実効線量を数式的に表現している。
      S=E(dN/dE)dE または S=ΣE(i)・N(i)
ここで、積分の範囲は、線量0(被ばくなし)から無限大(実際はこの集団の人が受けた最大の線量)までとする。また、人数N(i)のサブグループiの人々が受けた平均線量をE(i)とし、総和(Σ)はサブグループについてとるものとする。
 集団線量の単位としては、人・シーベルト(人・Sv)が用いられる。英語のperson・Svあるいはman・Svも使用されることがある。
 表1に集団線量の適用例を示す。チェルノブイリ事故によるベラルーシ、ロシア、ウクライナの汚染区域から1986年に避難した住民の集団線量の推定値である。集団実効線量は約3,800人・Sv、集団甲状腺線量は約55,000人・Svと推定される。なお、表中の内部被ばくによる集団実効線量は約1,500人・Svは137Csによるものである。外部被ばくは、主として地表に沈着した137Csによるもので、これに比べて放射性雲からの初期被ばくの成分少なかった。集団甲状腺線量は、主に131Iによるもので、短寿命放射性ヨウ素と132Teの吸入がいくぶんか寄与した。
(3)集団線量に関連した量
 放射線に照射される、あるいは、放射性物質を摂取する期間を1年間にとったときの集団(等価または実効)線量は、集団(等価または実効)線量率または年集団(等価または実効)線量と呼ばれる。
 集団線量預託(collective dose commitment)は、ある特定の線源あるいは行為から与えられると予測される集団線量率を、将来の全期間までにわたって合計して得られる集団線量の総和である。
 一人当たり線量(per caput dose)は、集団線量をその集団に属する個人の人数で割ることによって得られる。この量は平均線量と呼んでよいものであるが、人数で平均したことをはっきり示すために、一人当たり線量と呼ばれている。
(4)集団線量の意味
 低線量における真の線量・効果関係は知られていないが、確率的影響(がんと遺伝的影響)に対しては、その誘発の確率は被ばくした線量に比例すること、及び、この線量以下ならば影響は全く起きないという「しきい値」がないことが放射線防護における前提となっている。そこで、人の集団中に確率的影響が発生すると予想される数は、被ばく人数と平均線量の両方に比例すると考えられる。このことから、集団線量は、集団の中に生ずる放射線被ばくに伴う損害を測る尺度として用いられる。(損害またはデトリメントについては、ATOMICA構成番号 <09-04-02-08> 参照)
<図/表>
表1 1986年に避難した地域の集団に対する推定実効線量と甲状腺線量
表1  1986年に避難した地域の集団に対する推定実効線量と甲状腺線量

<関連タイトル>
放射線被ばくに伴う損害(デトリメント) (09-04-02-08)
預託線量 (09-04-02-09)
線量預託 (09-04-02-11)

<参考文献>
(1) 日本アイソトープ協会(翻訳):ICRP Publication 60.、国際放射線防護委員会の1990年勧告、丸善(1992年7月)
(2) 放射線医学総合研究所(監訳):原子放射線の影響に関する国連科学委員会の総会に対する2000年報告書 付属書付、放射線の線源と影響、下巻:影響、実業公報社(2002年3月)、p.531,588
(3) IAEA Safety Series No.115,”International Basic Safety Standards for protection against Ionizing Radiation and for the SAfety of Radiation Sources”.jointly sponsored by FAO,IAEA,ILO,OECD/NEA,PAHO,WHO;IAEA,Vienna,1996
(4) 日本アイソトープ協会(編):ICRP Publication 42、“ICRPが使用しているおもな概念と量の用語解説”、丸善(1986年6月)
(5) Bo Lindell:“Concepts of Collective Dose in Radiological Protection”, NEA/OECD(Paris 1985)
(6) 日本アイソトープ協会(編): ICRP Publication 22,”線量は用意に達成できる限り低く保つべきである”という委員会勧告の意味合いについて、丸善(1975年)
JAEA JAEAトップページへ ATOMICA ATOMICAトップページへ