<大項目> 放射線影響と放射線防護
<中項目> 原子力施設に係わる放射線防護
<小項目> 放射線防護の諸量
<タイトル>
1センチメートル線量当量 (09-04-02-06)

<概要>
 1センチメートル線量当量(1cm線量当量)は、放射線モニター等から得られた線量測定値と実効線量とを関連づけるため、国際放射線単位測定委員会(ICRU)が定めた、ある場所の放射線の量を表す物理量の1つである。人体組成を模擬した元素組成値をもつ直径30cmの球体(ICRU球)を放射線場に置き、その球表面から1cmの深さの点での線量の値を言う。
<更新年月>
2010年07月   

<本文>
1.はじめに
 線量が放射線防護の分野で使用する基本的尺度として採用されたのは、論理的に放射線障害量と直接比例関係にある物理量を基本としようとしたことによる。しかしながら、放射線と生物との相互作用には多くの因子を導入して組み立てたため、仮想的には線量の測定はできても、実際の被ばく線量を評価することは困難である。さらに問題を難しくしているのは、生物が数多くの組織と臓器から構成されている有機体であり、同じ放射線を受けても各組織、臓器での障害の度合は異なるということである。結論的に言えば被ばく影響は人体部位によって異なっている。放射線防護の分野で放射線管理に必要な線量値が得られ難いとすれば、それに代わる物理量で基準を作らなければならない。この目的のために考えられたのがICRP Publication 60で、勧告・推奨された線量指標という量である(昭和63年10月付けのICRP Pub.26の取り入れによる放射線障害防止法関係法令の改正については、平成12年10月付けのICRP Pub.60の取り入れによる改正で廃止された)。「線量指標」とは、線量を求めたいとする空間の点に、放射線単位測定委員会(ICRU)が定めた人体組織を模擬した物質で作られた半径15cmの球体(「ICRU球」と呼ぶ)の中心を合わせ、この球体内部での最大線量であると定義されている。最大線量を実際に測定するには、放射線が電子線、X線およびガンマ線の時は比較的容易で、球体各部位に微小線量計を埋め込むことで線量分布が求められる。放射線が陽子線や中性子線などの場合は微小線量計の種類を複数にして共用するなどの工夫をして実測できる。その外に、大型計算機を用いて放射線の球体内の挙動をシミュレートすることによっても、最大線量を算出することができる。
2.ICRU球
 国際放射線単位測定委員会(ICRU)はICRU球の使用を勧告している。ICRU球とは、人体組織を模擬した、密度が1g/cm3、直径30cmの人体軟組織等価球体モデルであり(図1参照)、人体軟組織等価物質の元素組成は、重量百分率で、酸素76.2%、炭素11.1%、水素10.1%、および窒素2.6%である。
 線量指標の定義をα線、β線などの透過力の低い放射線にも使えるように、ICRU球を、半径14cmの中心核球とその外側1cm厚の殻とに分けて考え、中心核球内での最大線量を「深部線量指標」と呼び、外側1cm厚殻内の最大線量を「表層部線量指標」と呼ぶ。ただし、1cm厚殻の外側0.07mm厚さの中の線量は考慮外とすると勧告されている。人間の場合、皮膚表面から0.07mm厚までは死んだ細胞組織であるので、放射線の影響を受けないと仮定したことによる。
 線量指標の導入によって、放射線防護上の問題点はかなり解消されたが、多種類の放射線が混在する場合には、各放射線成分に対する最大線量を示す球内の位置が異なるし、さらに各種放射線の混在比が時間とともに変化する場合は、最大線量を求めることはますます難しくなる。
 このため、ICRUは実効線量に代わる放射線管理上の測定量として、以下の量を定義した。
3.周辺線量、方向性線量および個人線量
 放射線が照射されている空間で作業している作業者(放射線業務従事者)の被ばくを予測するためには、通常サーベイメータ等によって線量測定が行われる。これらの測定値を実効線量と関連づけるため、その場所にICRU球を置き、その球体内部での線量分布から求められる適当な量を測定対象量とする。
3.1 周辺線量
 人体の深い位置にある臓器へ影響を及ぼす放射線は、主にガンマ線(X線)や中性子線など電荷の無い放射線である。これらの放射線を対象とする測定器は、どの方向から来る放射線に対しても同等に反応する。このように放射線の入射方向に依存しない測定に係わる計測量を、ICRU球表面からの深さdmmの位置で定義し、「周辺線量」H*(d)と呼ぶ。1cm(10mm)深さの位置に対しては「1センチメートル(周辺)線量当量(1cm線量当量)」H*(10)と呼ぶ。
 放射線の基本的な物理量である照射線量や空気吸収線量などからの換算係数は、放射線障害防止法令集(以下「障害防止法」という」)や国際放射線防護委員会ICRP)報告に示されており、これらを用いて各測定器をH*(10)に対して校正することによりH*(10)は直接測定できる。
3.2 方向性線量
 周辺線量H*(d)は放射線の入射方向に依存しない測定に対応する量であるのに反し、薄窓型サーベイメータなどベータ線や低エネルギーX線などの弱透過性放射線の測定器は放射線の入射方向に依存する。このような場合、方向依存性が大きい測定に対応する量を「方向性線量」H'(d)と呼ぶ。主に皮膚や目の水晶体(深さ0.07mmおよび1cmの位置)の線量を対象として、それぞれH'(0.07)、H'(10)と表される。これらの深さ位置での方向性線量は、実効線量との基本的な関係はなく、着目する組織の線量(等価線量)に対応する。
 なお、我が国では、周辺線量と方向性線量について、それぞれの深さ位置だけに注目し、簡略して1センチメートル線量当量を「1cm線量当量」および70マイクロメートル線量当量を「70μm線量当量」と呼んでおり、障害防止法に導入されている(表1参照)。日本工業規格(JIS)では、これらを総称してICRU球線量と呼んでいる。
3.3 個人線量
 ICRUは、人体個人の線量測定に対応する測定量として、人体表面の着目点からの深さdmmの位置での線量値、「個人線量」Hp(d)を定義した。空間サ−ベイ用のときと同様、対象組織毎に深さに対応してHp(10)およびHp(0.07)と表され、空間サ−ベイにおける測定量と特に区別の必要がない場合、これらもそれぞれ「1cm線量当量」および「70μm線量当量」と呼んでいる。
 図2に放射線防護上使用される各計測線量の関係を示す。我が国では、放射線防護上使用される計測量は、一般に、空間線量も、人の被ばく線量も、1cm線量当量(実効線量に対応)および70μm線量当量(等価線量に対応)と呼ばれ、それぞれ適切な測定器、あるいは測定方法により直接測定される。
(前回更新:2004年3月)
<図/表>
表1 放射線障害防止法に導入されている2種の外部被ばくに係わる線量当量
図1 ICRU球モデル
図2 放射線防護上使用される計測線量

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<関連タイトル>
線量および防護に用いられる諸量 (09-04-02-01)
実効線量 (09-04-02-03)
被ばく管理のための種々の線量 (09-04-02-05)

<参考文献>
(1)日本アイソトープ協会(編):体外放射線に対する防護のためのデータ(ICRP Publication 51)
(2)日本アイソトープ協会(編):アイソトープ法令集,国際放射線防護委員会の勧告(ICRP Pub.60)p.438-445、(I)2002年度版(2003年3月)
(3)日本アイソト−プ協会(編):国際放射線防護委員会の1990年勧告、丸善(1992年7月)
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