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<概要>
 原子力発電所など原子力施設で働く従事者の被ばく管理については、法令で定める線量限度(5年間100ミリシーベルト、1年間最大50ミリシーベルト)を、超えることのないようにすることはもちろん、国際放射線防護委員会ICRP)の勧告で示されたALARA(合理的に達成できる限り低く)の考え方に基づき、これを下回るよう努力することが必要である。
 そこで原子力発電所では被ばく線量を少なくするため遮へいを工夫したり、機器を自動化するなどの努力を行ってきている。これらにより、放射線業務従事者の年間平均線量は1ミリシーベルト程度に抑えられている。
<更新年月>
2004年03月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.管理区域
 放射線業務を行う作業場等で、実効線量が3月間につき1.3ミリシーベルトを超えるおそれのある区域を管理区域として設定している。管理区域は、許可された者(放射線業務従事者および一時立入者)以外の立ち入りを禁止し、入域する者には個人線量計の装着を義務づけている。また、放射性物質の経口摂取を防止するため、汚染のおそれのある場所での飲食、喫煙を禁止し、以下のような管理を行っている。
(1)放射線業務従事者
 原子力発電所の管理区域で作業を行う者は、放射線業務従事者(以下「従事者」という)として登録され、線量、作業歴および健康状態等の継続的な把握(従事者の従事している発電所が変わっても、一元的に被ばく線量等の管理が可能であること)が必要となる。この登録には以下の条件が揃っていなければならない。
(a)継続的な線量把握のため、放射線管理手帳(*1)の発行を受けていて、過去の線量(被ばく前歴)が把握できること
(b)健康診断を受診していること(放射線業務に従事できること)
(c)放射線防護教育を受講していること
(2)物品管理
 管理区域に持ち込んだ物は放射性廃棄物となるおそれがあるため、不要な物品(梱包材等)は持ち込まないように制限している。また、汚染区域から物品を移動する時には、移動先の区域区分に適合していることを確認するとともに、管理区域から物品を持ち出す時には、法令で定める基準を満足していることを確認している。
(3)区域管理
 管理区域の線量率、汚染密度は定期的もしくは随時測定し、その程度に応じて表1に示すような区域区分を行い、合理的な管理を行っている。この測定結果および区域区分は、管理区域に立ち入る作業者の見やすい場所に掲示して、従事者に周知している。
(a)線量率による区分(1〜3)
 施錠等による高線量率区域の立ち入り規制や、従事者への注意を喚起する標識など、その線量当量率に応じた適切な区域区分を行うことで、被ばく低減の一助としている。
(b)汚染による区分(A〜D)
 汚染の程度に応じて定められた保護衣・保護具類(マスク等)を着用し、放射性物質の体表面汚染・体内摂取を防止している。また、汚染区域からの退域手順(装備の脱衣等)や、物品の持ち出し手順の徹底により汚染の拡大防止を図っている。
2.個人管理
(1)外部被ばく線量の管理
 フィルムバッジや熱ルミネセンス線量計(TLD)等の個人線量計により線量を評価・記録している。また、管理区域立ち入り毎(または作業毎)の線量が確認できる警報付個人線量計を併用することにより、適切な被ばく管理および作業方法の改善に役立てている。
(2)内部被ばく線量の管理
 定期的および必要の都度、ホールボディカウンター(体内に摂取した放射性物質の核種・量を体外から直接測定する装置)の測定に基づき評価・記録している。
(3)健康管理
 放射線業務に従事する従事者には、従事前および定期的に健康診断を行っている。線量により省略規定があるが、問診、血液、眼、皮膚の健診を行うこととしている。
(4)被ばく線量登録管理制度
 全国規模での個人の被ばく線量を一元的に管理するための制度で、初めて原子力発電所で働く従事者は、(財)放射線影響協会放射線従事者中央登録センターより登録番号の付番を受け、事業者は以下の線量を登録することにしている。
(a)1年分の線量
(b)放射線業務従事者の解除の際、その発電所で受けた線量
 また、放射線管理手帳に毎月の線量等を記録しており、この手帳により自己の被ばく線量等を確認できるようにしている。
3.被ばく低減対策
(1)通常作業
 被ばく低減には線源の除去、遮へい、時間短縮、距離をとるといった原則がある。ここでは原子力発電所の通常作業で行われている被ばく低減対策を紹介する。
(a)線源の除去
 ・配管フラッシング(洗浄)
 クラッド(炉水中の放射性腐食生成物が鉄酸化物に取り込まれた不溶性懸濁物)が溜まり高線量となっている配管や機器に水及び酸化還元剤を通して、堆積したクラッドを洗い流す。
 ・高線量率物品のエリア外への移動
 作業エリアに仮り置きされている高線量率の機器や廃棄物を作業エリア外に持ち出す。
 ・除染
 高汚染の機器を開放した際、濡れウェス等で汚染を拭き取る。
(b)遮へい
 ・鉛毛マット・鉛板による仮設遮へい
 作業場所の線源となっている機器・配管等に遮へい材を設置する。
 ・水遮へいの利用
 高線量率の機器の点検を水中で行う。
 ・機器・配管への水張り
 機器内部の水抜きを行うと、内部の水の遮へい効果がなくなり線量率が高くなるため水抜き前に作業を行ったり、点検時に機器内部の水張りを行う。
(c)時間短縮
 ・モックアップ訓練
 モックアップ(実物大模型)で訓練を行い、実際の作業における作業時間を短縮させる。
 ・自動機器・電動工具の活用
 自動機器・電動工具を活用することにより、作業時間を短縮させる。
(d)距離をとる
 ・待機エリア・アクセスルートの指定
 作業の待機場所、作業場所へのアクセスルートは線量率の低い場所を指定する。
 ・低線量率エリアで点検
 高線量率エリアにある機器の点検時、取り外し、移動が容易な機器については、取り外して低線量率エリアに移動し、点検する。
 ・作業管理用ITV(工業用テレビ)・無線通話装置の使用
 作業の状況確認や指示を作業エリア外からITV、無線通話装置を使って行う。
(2)大型工事
 次に大型工事で実施された被ばく低減対策の例を示す。
(a)炉心シュラウド交換
 炉心シュラウドは、BWRプラントの原子炉圧力容器内部に取り付けられたステンレス鋼の円筒状構造物で、炉心部の冷却水流路を確保する仕切板の役割を果たしている。いくつかのBWRプラントではSCC応力腐食割れ)の予防保全対策として炉心シュラウドの取替工事を行っている。
 炉心シュラウドの取替工事では、比較的高い線量当量率下である原子炉圧力容器内で作業を行うため、作業者の被ばく低減を図るために種々の対策を実施している。
 ・線源の除去
 化学除染(酸化還元除染法)の適用
 ・高線量率物品のエリア外への移動
 取り出された旧炉心シュラウドは、水中で収納容器に入る形状に細断され、廃棄物貯蔵施設へ移動
 ・線源の遮へい
 原子炉圧力容器内壁からの放射線量を低減するために遮へいを設置
 ・線源からの距離確保
 自動遠隔操作装置の採用
 ・作業時間の短縮
 自動遠隔操作装置の採用
 モックアップトレーニングの実施
(b)蒸気発生器(SG)取替
 SGは、PWRの原子炉で作った高温高圧の水の熱を使い、別の系統を流れている水を蒸気にするための熱交換器である。PWRのうちいくつかの発電所では、社会的信頼性の向上、保守性の向上、経済性の向上の観点からSG取替工事を行っている。SG取替工事の主たる作業場所は、線量率が比較的高い一時冷却材管周辺であることから、被ばく線量低減を図るために種々の対策を実施している。
 ・線源の除去
 一時冷却材管内面を除染する。
 ・線源の遮蔽
 一時冷却材管内面遮蔽プラグを設置する。
 一時冷却材管外面および周辺の高線量率配管を遮へいする。
 蒸気発生器の二次側を水張りする。
 ・線源からの距離確保
 自動遠隔操作工具を採用する。
 ・作業時間の短縮
 自動遠隔操作工具を採用する。
 モックアップトレーニングを実施する。
 放射線防護具の軽減化によって、作業効率の向上を図る。
4.線量実績
 原子力発電所の従事者の被ばく低減については、種々の対策が講じられてきたことにより、従事者の総被ばく線量および1人当たりの平均被ばく線量(平成13年度、総被ばく線量78.05人・シーベルト、1人当たり平均被ばく線量1.2ミリシーベルト)ともに低いレベルで推移している。図1に放射線業務従事者が受けている放射線量を示す。今後もこれらの努力を引き続き積み重ねていくことが必要である。
5.用語解説
(*1)放射線管理手帳:
 放射線業務従事者(原子炉等規制法関係)の被ばく管理の万全を期するため従事者ごとに放射線管理手帳を持つこととなっている。この手帳により、本人確認、被ばく歴、就労歴などが的確に把握できる。
<図/表>
表1 管理区域の区域区分(例)
表1  管理区域の区域区分(例)
図1 放射線業務従事者が受けている放射線量
図1  放射線業務従事者が受けている放射線量

<関連タイトル>
ICRP勧告(1990年)による個人の線量限度の考え (09-04-01-08)
作業環境管理と個人管理 (09-04-01-10)
個人線量計 (09-04-03-03)
作業環境モニタリング (09-04-06-01)
管理区域入退者の検査 (09-04-07-10)
放射線影響協会・放射線従事者中央登録センター (13-02-01-26)

<参考文献>
(1)原子力発電所における放射線作業にかかる線量低減マニュアル−作業管理者用−、中央労働災害防止協会、(1998年3月)
(2)通産省資源エネルギー庁公益事業部原子力発電安全管理課(編):平成10年版 原子力発電所運転管理年報、火力原子力発電技術協会、p.380-381
(3)放射線防護教育用テキスト、放射線作業と遵守事項、福島第一原子力発電所、東京電力株式会社、p.9
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