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<概要>
 放射線による被ばく事故の中ではX線装置の誤操作によるものが依然として多い。歯科領域では数十万台と推定されているX線装置が診療で使用されている。千葉県で行われた調査からは、歯科診療施設の約80%がX線診療は必要としながらもその約40%が不安を感じていること、X線診療経験のない歯科医師が8%いることが分かった。また歯科医療施設のうち90%以上が2台以上の装置を保有しているが、X線診療従事者は60%以上の施設で1名であった。放射線防護については、X線使用時に防護対策が十分であるとした施設は20%に満たなかった。これらの結果から、X線診療は現在の歯科診療に不可欠である一方、十分な放射線教育並びに線量測定、緊急時の対応等を行うシステムを確立し、放射線安全に対する意識向上が必要であることが認識された。
<更新年月>
2006年01月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 日本歯科放射線学会防護委員会は放射線防護と管理の適正化を呼びかけている。しかし、歯科診療において多く使用されているが、放射線障害防止法の規制対象とならない「1MeV未満のエネルギーのX線発生装置」については,現在でもその使用・管理の実態はほとんど把握されていない。これらの放射線障害防止法の規制対象とならないX線装置の使用の実態を明らかにするために、独立行政法人放射線医学総合研究所緊急被ばく医療研究センターが千葉県内の歯科医療施設の実態調査を行った。
1.調査方法
 2002年(平成14年)1月から3月の間に、千葉県内の2,324の歯科医療施設にアンケート方式の実態調査票を送付し、336件(回収率14.5%)の回答を得た(表1参照)。この調査では、歯科医療におけるX線診療、X線装置の使用状況、被ばく線量の測定、装置設置室内外の測定、X線の防護措置等について、また実際にX線装置を使用している歯科医師の経験や実情等についても調べた。
2.アンケート調査結果
(1)不安感と必要性
 「X線装置の利用に不安を感じますか?」という設問に対して、歯科医療施設の38.5%が不安を感じていた。不安の原因としては「撮影時にどの程度の被ばくがあるかわからない」、「何らかのトラブルが原因で異常被ばくが起こる可能性がある」が多くの施設で挙げられていた。不安に感じる一方で、歯科医療施設では78.2%が今後の診療においてもX線診療はこれまでと同程度に必要と回答している。
(2)X線装置の利用
 歯科医師の7.8%が「使用経験なし」と答えたが、X線装置はほぼ全ての施設に設置されていた。歯科医療施設の93.5%が2台以上の装置を設置しているが、X線診療従事者数は65.2%が1人であった。一般に歯科診療ではパノラマ撮影装置とデンタル撮影装置が使用されている。デンタル撮影装置の使用頻度が高く、ほぼ半数の施設で1か月に50枚以上の撮影が行われており、150枚以上との回答も51%の施設から得られている。使用頻度の低いパノラマ撮影装置についても8.2%の施設では50枚以上の撮影に使用されておりX線装置の使用頻度としては決して低いものではない。
(3)放射線管理・防護
 歯科医療施設で「法規制値に対する撮影枚数等を把握している」施設は10%程度であり、十分に認識されているとは言えない。ほとんどの歯科医療施設では「注意事項の掲示」以外の対応策は取られておらず、放射線の防護対応が十分であるとの回答は18.1%であった。
(4)放射線被ばく線量
 76施設について、施設・装置の調査を行い、患者あるいは医師の被ばく線量,室内線量分布、漏洩線量等の評価計算を行った。X線管球、装置及び装置室の二次元詳細モデル化を行い、電子光子輸送計算によって求めた条件ごとのX線スペクトルを用いたモンテカルロ法によるシミュレーションを行った。
 評価:1撮影当たりの線量を示す(表2参照)。「医療法施行規則、第5節限度第30条の26」によれば「管理区域に係る外部放射線の線量、空気中の放射性同位元素の濃度及び放射性同位元素によって汚染されるものの表面の放射性同位元素の密度は、次のとおりとする。外部放射線の線量については、実効線量が3ヶ月間につき1.3ミリシーベルト」とされている。この調査結果では、口腔撮影時の管理区域境界最大線量は1.3マイクロシーベルトであり、これは3ヶ月でおよそ1000枚以下であればこれを超えることはまずない、と考えられる。
3.今後の課題
 医療法では「診療用放射線の防護」に関して、線量測定の実施,異常被ばく等緊急時の対応が義務付けられており、この実態調査でも、66.4%の施設に漏洩線量測定、47.9%に個人被ばく線量、45.2%に緊急時の対応、40.5%に施設ごとの放射線安全マニュアルの必要性が感じられている。歯科臨床領域においてX線装置を安全かつ有効に利用するためには、施設ごとの実情に応じて線量測定や緊急時対応等のサービスを提供できるシステムを確立し、放射線利用に対する不安感の解消と放射線安全に対する意識の更なる向上を目指す必要があると認識された。
<図/表>
表1 調査対象組織
表1  調査対象組織
表2 1撮影当たりの線量
表2  1撮影当たりの線量

<関連タイトル>
診断用医療放射線と人体影響 (09-03-04-01)
治療用医療放射線と人体影響 (09-03-04-02)
放射線治療における誤照射事故 (09-03-04-04)

<参考文献>
(1)田原隆志、明石真言、小泉彰、福田俊:歯科および獣医科臨床領域におけるX線装置の使用実態と保健物理学的状況、放射線科学、Vol.46、No.12、409-424(2003)
(2)日本歯科放射線学会防護委員会:放射線関連の医療法施行規則等の改正に伴う歯科エックス線防護と管理について、日本歯科医師会雑誌、42、81-90(1989)
(3)医療法施行規則:昭和23年厚生省令第50号(改正:平成16年1月30日厚生労働省令第11号)
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