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<概要>
 X線 検査を中心とする診断用医療放射線の利用は、わが国全体で年間に約2億件に達している。しかし、一般的なX線検査によって患者の受ける線量は、多くても数mSv(ミリシーベルト)から数十mSv程度であり、脱毛、白血球の減少などの急性放射線影響が生じる可能性はない。さらに、X線検査によってがん(癌、ガン)や遺伝的影響が誘発される可能性はゼロではないが、一人の個人にとってはほとんど問題にならないレベルである。X線検査は、その検査が本当に必要な患者に限定して行われれば、患者個人に直接的かつ大きな利益をもたらす。


<更新年月>
2021年04月   


<本文>
1.多いX線検査
 医療では放射線が様々な形で利用され、診断や治療に大変な威力を発揮している。中でもX線検査を中心とする診断のための医療放射線の利用はもっとも頻度が多く、わが国全体で年間に約2億件(2000年現在)と言われている。
 X線も放射線の一つである。したがって、X線検査を受ければ当然、患者は被ばくをする。このために、X線検査を極端に怖がる人々がいることも事実である。身の回りにはX線に限らず、様々な自然放射線あるいは人工放射線が存在しており、それらも参考にしながらX線検査による被ばく線量の大きさを理解し、その影響を定量的に考えることが重要である。
 
2.主なX線検査と患者の線量
  表1 に主なX線検査とそれに伴う患者の被ばく線量を示す。X線検査の場合、X線が入射する皮膚の表面の線量がもっとも線量が多くなるので、この表では、皮膚の線量を表している。X線検査による患者の被ばくには個人差がある。しかし、一般的なX線検査では、皮膚の被ばく線量は、多くても数mSvから数十mSv程度であり、身体内部の臓器、例えば、赤色骨髄、胃などの線量はさらにこの1/2以下となる。これは、放射線を受けた時に影響が発生する最小の線量、すなわち「しきい線量」を大きく下回り、X線検査では、脱毛、白血球の減少や胃腸管障害などの急性放射線影響が生じる可能性がないことがわかる。
 一方、がんや遺伝的影響の場合には、しきい線量がないので、X線検査によってがんや遺伝的影響が誘発される可能性が計算上はゼロではない。しかし、ゼロでないと言っても大きな値ではない。仮に、白血病が問題となる赤色骨髄という臓器に10mSvのX線を1回受けた場合には、被ばく後2年から40年までの間に白血病が生じる可能性は0.005%と見積られる。これは、放射線以外の原因で自然に白血病が発生する可能性が0.7%であることを考えれば、一人の個人にとってはほとんど問題にならないレベルであると言える。また、被ばくした部位以外の部位には影響が発生しない。すなわち、手のX線検査を受けても白血病の可能性も遺伝的な影響の発生する可能性はないし、また、お腹に赤ちゃんのいるお母さんが妊娠と気付かないで、歯科撮影や胸のX線検査を受けても赤ちゃんへの放射線影響は問題とならない。

3.X線検査のあり方
 X線検査の原則は、その検査が本当に必要な患者に限定して行うことである。その原則が守られれば、X線検査に伴うがんなどのわずかな発症の可能性より、はるかに大きな現実の利益をその患者にもたらしてくれる。すなわち、放射線の影響を心配するよりも得られる情報が重要である。また、胸部X線間接撮影法の開発が結核患者の早期発見、治療に大きく貢献したように、X線検査は社会全体にも大きな利益をもたらしている。
 放射線をむやみに怖がって必要な検査を受けなければ、重篤な病気の早期発見や診断の確定などに支障を来す恐れもある。X線検査を上手に受けるコツは、検査の目的についてきちんと説明を受け、必要な検査を正しく受けることだと言える。

4.X線以外の検査
 病気の診断や治療に必要と判断されると、放射線による検査を受けることがある。この時、核医学検査として体内から被ばくする場合の1回当りの被ばく線量を 表2 に示す。また、女性が妊娠に気づかないで、放射線診断を受けてしまうことがある。放射線による胎児への影響は妊娠の時期にもよるが、胎児と母親の被ばく線量は 表3 に示す。この表に含まれる被ばく線量では胎児に放射線影響は出ないと考えられている。なお、妊娠可能な女性の核医学検査を含む放射線検査は、生理の始まった日から10日以内に限定して行う(10日規則)ことが適当ともされていたが、国際放射線防護委員会(ICRP)では、大部分の状況においては、これが必要であるとは証明されていないとしている。


<図/表>
表1 病気の検査や診断で受ける放射線の量
表1  病気の検査や診断で受ける放射線の量
表2 成人患者の核医学検査における被ばく線量
表2  成人患者の核医学検査における被ばく線量
表3 核医学検査時の胎児、卵巣の被ばく線量
表3  核医学検査時の胎児、卵巣の被ばく線量


<関連タイトル>
エックス線発生装置の原理 (08-01-03-01)
X線診断 (08-02-01-01)
治療用医療放射線と人体影響 (09-03-04-02)
X線と放射能の発見 (16-02-01-01)

<参考文献>
(1)草間朋子ほか:「医療のための放射線防護」真興交易医書出版部(1991)
(2)日本保健物理学会、日本アイソトープ協会(編):「新・放射線の人体への影響」丸善(1993)
(3)草間朋子:「放射線防護マニュアル」安全な放射線診断・治療を求めて、日本医療新報社(2000年)
(4)福士政弘、三枝健二:放射線管理学「診断放射線技師を志す学生のために」、医療科学社(1999年)
(5)小須田茂:放射線生物学ノート−放射線にたずさわる医師、技師のために、文栄堂(1996年)
(6)渡利一夫、稲葉次郎(編):放射能と人体、研成社(1999年)
(7)日本アイソトープ協会(訳):「妊娠と医療放射線」ICRP Pub. 84 (2002)、丸善


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