<解説記事ダウンロード>PDFダウンロード

<概要>
 放射性核種の体内への主な取り込み経路として、吸入、経口摂取及び皮膚吸収がある。環境中に放出された放射性物質は、それがそのままの形で直接取り込まれる場合と、生物により濃縮されたり、化学形が変わって取り込まれたりする場合がある。摂取された後の人体への影響は、その物理・化学的な性状、生物学的半減期、親和性をもつ標的器官、年齢、生物学的効果比等によって異なる。
 放射性物質の内部被ばくによる障害を低減させるために、安定ヨウ素剤投与などによって放射性物質の器官組織への沈着を減少させる方法やキレート剤投与によって体内に取り込まれた物質を積極的に体外へ除去する方法などがある。
<更新年月>
2005年09月   

<本文>
 放射線事故には、発生した瞬間から明らかに被ばく事故とわかる場合と、しばらくあとで被ばく事故があったとわかる場合がある。密封されていない放射性核種では、外部被ばくと内部被ばくの両者について考慮する必要がある(表1)。
1.放射性核種の体内取り込み
 環境中に放出された放射性物質が体内に取り込まれる主な経路として、吸入、経口摂取及び皮膚吸収がある。このうち、吸入によって気道や肺に取り込まれた放射性物質は、粒子の大きさや化学形によって体内移行が若干異なるが、最終的には親和性のある臓器に沈着する。たとえば吸入されたプルトニウム(Pu)のような核種は肺から肝臓、脾臓、腎臓など軟組織にも一部移行するが、最終的には骨に沈着する。このような核種を骨親和性放射性核種と呼び、カルシウム45、ストロンチウム90、セシウム137、アメリシウム241などがこれに当たる。経口摂取の場合は飲食物と一緒に体内に摂取されるが、放射性物質の種類によっては食物連鎖の中で特定の生物中に濃縮されたり、あるいは化学形が変わって消化管から吸収されやすくなることが知られている。さらに、傷または健康な皮膚からの浸透によっても体内に入り込む。
 体内への取り込み量は化学形や摂取の経路によっても大きく異なる。たとえば酸化プルトニウムは経口摂取されても消化管からはほとんど吸収されないが、吸入摂取されるとその多くが肺に沈着する。
 放射性物質が体内に取り込まれると、その壊変に伴って放出される放射線が連続的に照射される(内部被ばく)。その影響の大きさは、放出される放射線の線質によって決まる生物学的効果比(RBE)、半減期、生物半減期によって決まる有効半減期(実効半減期)等にも依存する。外部被ばくは線源から離れたり、遮蔽などの防護策を講じることで被ばくをまぬがれることができるが、内部被ばくの場合は、線源が体内にあるため、これを除去しない限り被ばくを受け続けることになる。
2.放射性核種の体外除去
体内汚染がわかった時、最初にとられる処置は一般的には胃洗浄、嘔吐剤、寫下剤、利尿剤などの投与である。場合によっては肺洗浄も考えられる。その後、体内に取り込まれた放射性物質を除去するため(1)希釈(安定体元素などを投与することで排泄を促進させる)(2)錯体形成(DTPA〔ジエチレントリアミンペンタ酢酸〕やEDTA〔エチレンジアミン四酢酸〕などのキレート剤を投与することで放射性核種の排泄を促進させる)(3)吸着(適当な吸着剤を投与することで放射性核種の排泄を促進させる)(4)代謝攪乱(ホルモン剤などを投与することで代謝バランスを崩し放射性核種の排泄を促進させる)などの方法が考えられる。どの方法を選択するかは、当該の放射性核種の性質による。
(1)の例として、ヨウ素は甲状腺に集まる性質があることから、安定ヨウ素剤を飲むことで放射性ヨウ素の沈着を少なくすることができる。(2)のキレート剤(カニがつめで物をはさむように金属イオンをはさみ込んだ形で結合する化合物)投与は、いったん体内に入ったら自然には容易に体外へ排泄されない物質、たとえばプルトニウムやアメリシウムなどのアクチニド元素が摂取された場合に適用が考えられる。不溶性の放射性物質が肺に取り込まれた場合には肺洗浄によって洗い出す方法もあるが、リスクも大きい。
 代表的なキレート剤であるDTPAの投与法、用量等を表2に示した。DTPAの効果が人体で確かめられた例としてハンフォード原子力施設従事者のアメリシウム事故がある。この事故で初期にはCa-DTPAが毎日1g、後期にはZn-DTPAが1g投与されている。1年半に及ぶキレート剤の連続投与などによって、尿中に総量で約37MBqの241Amが排泄され、幸いにも急性障害の発現をまぬがれている。しかし、一般に合成されたキレート剤には毒性のあるものが多いため、化学毒性の少ないキレート剤の開発研究が現在でもなお行われている。
(3)の代表的な例は放射性セシウムに対するプルシアンブルー(鉄のフェロシアン化物)の投与で、毒性がほとんどないためゴイアニア事故やチェルノブイリ事故の際にも使用され、一定の効果が得られたが、わが国では医薬品として認可されていない。ストロンチウムやプルトニウムなど、いったん骨に沈着した放射性核種を除去するのは非常に難しい。動物実験では低リン食を与えたり、副腎皮質ホルモンなどを投与することで骨代謝バランスを崩すことで、放射性ストロンチウムの排泄を促進させることが確かめられているが、生体にかかる負荷も大きいため、人での効果については不明である。
 表3−1表3−2表3−3に種々の放射性核種による体内汚染時に選択される薬剤例を示す。
<図/表>
表1 内部被ばくにおける各算定方法の特徴
表1  内部被ばくにおける各算定方法の特徴
表2 DTPAの投与法、用量
表2  DTPAの投与法、用量
表3−1 放射性核種による体内汚染時の選択薬剤(1/3)
表3−1  放射性核種による体内汚染時の選択薬剤(1/3)
表3−2 放射性核種による体内汚染時の選択薬剤(2/3)
表3−2  放射性核種による体内汚染時の選択薬剤(2/3)
表3−3 放射性核種による体内汚染時の選択薬剤(3/3)
表3−3  放射性核種による体内汚染時の選択薬剤(3/3)

<関連タイトル>
放射性核種の体内移行と代謝 (09-01-04-01)
内部被ばく (09-01-05-02)
米国ハンフォード原子力施設従事者の疫学調査 (09-03-01-02)
緊急被ばく医療 (09-03-03-03)
安定ヨウ素剤投与 (09-03-03-05)
放射線防護薬剤 (09-03-05-03)
施設からの放射性物質放出による公衆の被ばく経路と評価法 (09-04-04-01)
職業被ばくの評価 (09-04-04-08)

<参考文献>
(1)Volf,V.:Treatment of incorporated transuranium elements,IAEA(STI/DOC/10/184)(1984)
(2)NCRP Management of persons accidentally contaminated with radionuclides.NCRP report,No.65.(1980)
(3)Thomson,R.C.:1976 Hanford americium exposure incident.Health Physics,45(1983)
(4)飯田博美(編):放射線用語辞典、通商産業研究社(1995年11月)p.184-186
(5)青木芳朗、渡利一夫(編):人体放射能の除去技術、講談社サイエンティフィク(1996)
(6)青木芳朗、前川和彦(監):緊急被ばく医療テキスト、医療化学社(2004)
JAEA JAEAトップページへ ATOMICA ATOMICAトップページへ