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<概要>
 プルトニウムの化学的毒性は、一般の重金属並みである。放射性毒性も皮膚に付着したり、経口摂取した場合はそれ程でない。
 しかし、呼吸と共に吸入摂取した場合、晩発障害である発ガンの危険性がある。このため、プルトニウムは閉じ込めて取扱われているが、プルトニウムによる障害の起る可能性は一般公衆人よりも取扱い作業者に多くある。
<更新年月>
1998年05月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
<プルトニウムの毒性について>
 プルトニウムは 表1 に示すように、普通の意味で(化学的毒性から見れば)青酸カリや食中毒などに比べて、一般の重金属並みの毒性で特別に高いものでない。しかしながら、放射性的には毒性があると言ってもよい。それはアルファ放射体で比放射能が高いことにある。プルトニウムは放射性毒性が化学的毒性よりも数万倍も上回るとされている。
 ところで、アルファ放射線は紙一枚で遮ることができ、皮膚を通すことができないので、その放射線により障害を起こさせるにはプルトニウムを体内に摂取することによる。皮膚に付いたプルトニウムは容易に吸収されるものでなく、水などで洗い流すことができる。言い換えると、プルトニウムは万一体内に摂取された場合に高い毒性を示すことになる。
 プルトニウムは通常固体(粉末、ペレット)や液体で取り扱われ、気体にはならない。しかし、極微量エアロゾルやミストとして、人体に摂取される可能性がある。経口摂取による場合はプルトニウムが通常不溶解性であり、消化管からの吸収は非常に悪く、ほとんどが排泄されてしまう。一方、吸入摂取の場合はかなりの時間肺や骨に留まり、その附近の組織細胞がアルファ線で照射され、すぐにどういうことはないものの晩発効果として、時としてガンの発生があり得ることになる。プルトニウムは後述するように閉じ込めて取り扱うため、プルトニウムによる障害の起こる可能性は一般公衆人よりもむしろプルトニウムを取り扱う作業者に対するものである。

<プルトニウム利用での取扱いは完全に閉じ込めて>
 プルトニウム利用にかかわる安全確保は、プルトニウムを閉じ込めて取扱い(包蔵性管理)、体内に摂取されないようにすることが基本である。その閉じ込めの機構を確実にするため、施設及び設備の設計や管理に多重防護の概念が採用されている。
 すなわち、第一に粉末やペレット等の固体状の取扱いはグローブボックス等に閉じ込め、液体などはステンレス鋼の容器や配管で隔離して、作業者が素手で直接接触しないようにした形で取り扱われることになる。
 第二に、グローブの破損等で1次の閉じ込め機構から、プルトニウムが万一作業環境に漏洩した場合でも汚染の拡大を防止するため、建物内の空気の気流が汚染度の高い方向に流れるように大気に対して負圧管理がされている。
 第三に、排風機の故障・異常に対して、予備の排風機及び非常発電機の設置の義務が課せられていて、周辺環境にプルトニウムが漏洩することを確実に防止している。

<何故ウランに比べてプルトニウムは危険視されるのか>
 ウランはプルトニウムと同様にアルファ放射体であるが、プルトニウムの放射能はウランに比べて桁違いに高い。すなわち、プルトニウムの比放射能(単位重量当りの放射能の強さ)が約10万倍も強い。この比放射能は半減期に逆比例するもので、プルトニウム239の半減期が2万4千年に対して、ウラン235が7億年、ウラン238が45億年である。プルトニウムの放射性有毒性は正にこの差、ウランよりも半減期が極端に短いことにある。
 アルファ放射体でプルトニウムよりも比放射能が高い物質として、 表2 に示すように天然に存在するラジウム226、トリウム228等があり、これらはプルトニウムと同様に高い放射性毒を持つ物質と言える。

<プルトニウムを摂取するとすべてガンになるのか>
 現在までに得られている動物実験などの結果から、次のようなことが明らかになっている。プルトニウムの人体への影響は飲食物を介する摂取(経口摂取)か空気の吸入による摂取(吸入摂取)かによって大きく異なる。
 経口摂取の場合は消化管からの吸収が非常に少ない(0.1〜0.001%)ため、ほとんどが排泄されて影響は小さい。
 吸入摂取の場合は、数十日から数百日の生物学的半減期で肺から出て、その一部は血液を介して主として骨と肝臓に移行する。骨からは生物学的半減期50年、肝臓からは20年で排泄されると言われている。したがって、プルトニウムの体内被ばくによる影響は、肺、骨及び肝臓における晩発障害である発ガンである。
 プルトニウムや他のアルファ核種による人体への影響は、人類の経験や動物実験を用いた研究結果から、体内被ばくに起因する発ガン等の放射線障害に着目して許容身体負荷量が設定されていた(現在は、年摂取限度と呼ばれる体内への年間の限度が設定されている)。アルファ放射体の大部分はラドンを除いて特定の臓器(主として骨、肝臓、肺)に局限して沈着する。体内被ばくの影響に関して、ユタ大学におけるビーグル犬での静脈注射適用による骨肉腫発生(発ガン毒性)のリスク表2に示すようである。この表から判るように、単位被ばく当たりのリスクはプルトニウム239が最も高いようであるが、比放射能を乗じた単位グラム当たりのリスクではプルトニウムを上回るものもある。

<プルトニウムを摂取した例>
 米国における1974年までの経験として、最大許容身体負荷量(1500Bq)の10〜50%摂取した例が1155例、同50%以上が158例あったようである。これらの中で第2次世界大戦中に、ロスアラモス国立研究所における原爆製造マンハッタンプロジェクト(1944〜1945)で硝酸プルトニウム蒸気の吸入により、26人が最大許容身体負荷量の1/10〜10倍の摂取があったことが知られている。被ばく後32年経過後の報告によれば、プルトニウムに由来すると考えられるガンの発生はなかったとのこと。最近の42年目の報告では、肺ガン2例と骨肉腫1例があったが、潜伏期が40〜50年と長いことなどからプルトニウムを原因と断定することは難しいようである。
 また、1965年10月ロッキーフラッツ兵器工場での大規模な火災事故でプルトニウムを含む煙を吸入して、25人が肺の許容量(約600Bq)以上の吸入被ばくした例があった。24年経過後、事故被ばく者を含む(約70Bq)以上の被ばくをした人で、現在までに死んだ67名について死因を調べたところ、肺ガンは1名で正常人より低い割合に留まっているとのこと。以上のように、明らかにプルトニウム被ばくに由来すると断定された人の発ガン例はないようである。

<アルファ放射体は社会にいろいろ役に立っている>
 1. プルトニウム238は心臓ペースメーカー及び宇宙船(ボイジャー1号等)などの電源として利用されている。
 2. アメリシウム241は製紙工場等の厚み計及びビル等建築物の煙探知機などに利用されている。
 3. カリホルニウム252は医療用の線源や工場用の中性子線源として利用されている。
<図/表>
表1 プルトニウムとその他の高度毒性物質との比較(致死量)
表1  プルトニウムとその他の高度毒性物質との比較(致死量)
表2 主なα放射体毎の比放射能と発ガン毒性の比較
表2  主なα放射体毎の比放射能と発ガン毒性の比較

<関連タイトル>
プルトニウム燃料施設の安全管理 (04-09-01-02)

<参考文献>
(1) ANS;「Q&A−Nuclear Power and the Environment」(1976)
(2) 松岡理;「プルトニウム物語−その虚像と実像−」 テレメディア(株)(1992.6)
(3) 原子力安全委員会;「原子力安全白書」平成4年版(1992.11)
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