<大項目> 放射線影響と放射線防護
<中項目> 放射線による生物影響
<小項目> 健康リスク評価
<タイトル>
動物実験と人間への外挿 (09-02-08-05)

<概要>
 外挿という用語は数学用語であるが、ヒトで得られない放射線影響を実験動物でのデータから推定することに用いられる。実験動物からの外挿を正しく実施するためには、ヒトと動物との形態学的、生理学的差異(動物種差)についての理解と、動物種差がどのように構成されているかの機構を理解することが必要である。外挿の具体的方法としては、なるべく多種類の動物種について同一条件での実験データを用い、これらに現れた動物種差が動物の持つ固有の性質に関するどの指標と関連するかを調べ、目的とする反応のヒトでの値を推定することができる。外挿の実例と関連づけた内因性のパラメータの種類について例示した。
<更新年月>
1998年12月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.ヒトへの外挿とは
 外挿(Extrapolation)と言う言葉は、元来は数学用語であり、 図1 に示す如く、実験点のない部分について既に実験点が幾つかあるものの延長として外部に推定して求めるものを外挿と呼び、実験点の中間点として求めるものを内挿という。従って、実験動物というものの延長上にヒトが存在すると考え外挿という言葉を使うわけで、現在では数学的な厳密さを離れて一般的に実験動物で得られた値からヒトで実測出来ない値を推定するときに広く外挿という言葉を用いるようになった。放射線影響の評価の分野では外挿のもう一つの用い方として、高線量域から低線量域への外挿ということがあるが、同様のデータのない低線量域での値を高線量域から推定することをいう(図1)。

2.ヒトと実験動物はどう異なるか
 外挿の始まりは、動物とヒトとがどのように異なるかの認識である。
  (1) 形態学的には動物は縮小人間ではなく、臓器の相対的な大きさは異なる。
  (2) 生理学的には小さな動物ほど代謝が速く、寿命も短い。
  (3) 機能によっては、ヒトと動物は質的に異なる。例えば食性、酸素系などである。

3.動物種差の二つの性格
 我々が注目する動物種差には二つの性格があり、一つは内因性の動物自身に固有の性質即ち形態学的、生理学的、生化学的の動物差であり、もう一つは実際に外挿が要求されている外因性の動物種差つまり外部から動物に与えられた物質或いは物理的要因に対する動物のレスポンスの動物種差である。内容的には、(1) 危害要因の到達性に関するもの、(2)危害要因の効果に関するもの、の二つに分類される。

4.外挿の基本的考え方
 ある特定要因のヒトでのレスポンスを動物のレスポンスから推定するためには、いくつかの動物種のその原因に対するレスポンスがどのような支配要因によって支配されているかを調べ、その支配要因の大きさ別に動物のデータを並べ、その延長上にヒトがあるとして 図2 に示すごとき方法でヒトの値を求めるのである。この支配要因は通常の場合内因性の動物差の指標に基づくのが普通であり、体重や、体表面積であったり、或いはその他の生理学的指標であったりする。これら指標に就いてはヒトで実測できるので、この値を基準にレスポンスのヒトでの値を外挿により求めることが出来る(図2)。

5.外挿の前提
 実験動物のデータからヒトへの外挿を実施するのには、次の前提が必要である。(1) 用いられた実験動物の生物学的年齢が揃っており、ヒトでの求められる時期に相当すること、(2) 年齢変化のパターンについて情報を得ていること、(3) 検討する指標についてヒトと実験動物の間に質的な差異が無いことが確認されていること、などである。

6.外因性パラメータの動物種差の支配要因の検索
 目的とする外因性パラメータの動物種差がどのような内因性パラメータによって支配されているかについては、いろいろな指標に就いてその直線性を各種のグラフ用紙(実数あるいは対数)を用いて検討し、直線性の良いものが得られれば最少2乗法による回帰直線を求めるなどの手法が使われる。

7.外挿の精度
 外挿の精度を挙げるためには、当然のことながら少数動物種よりも多種類動物種が望ましい。一種類の動物から外挿するのはかなり危険である。

8.外挿の実例
 実際にそのレスポンスの実験動物での種差の支配要因が明らかになり、外挿が成立した具体例をレスポンスの種類と支配要因を示し、挙げておく。
 (1) 照射による白血球の減少時期は、動物の基礎代謝率と直接関係があることが証明され、ヒトでの推定された値は現実に観測されたものと一致した( 図3図4 )。
 (2) 放射性核種生物学的半減期は、核種の種類により異なるが、一つの核種についての生物学的半減期の種差は体重または体表面積と直線関係があり、人体での値は22Na、86Rbでは体重を、セシウム137137Cs)では体表面積を用いることによって推定出来ることが分かった( 図5 )。
 (3) 65Znの連続摂取の有効平衡レベルは動物の体重と相関があり、動物からの外挿値と実際に人体で測定した値とが良く一致した。
 (4) 131Iによる発がんの潜伏期が、ネズミとイヌとヒトとで調べられた結果、代謝率と相関があることが分かった。
 (5) Pu/Raの毒性比は動物の種類によって異なるが、体表面積の対数と直接関係があることが立証され、ヒトでの値が110程度と推定された。
<図/表>
図1 外挿の概念図(内挿との比較)
図2 外因性パラメータと内因性パラメータとの関係模式図
図3 代謝率と放射線障害からの回復
図4 エックス線照射による白血球減少期日と代謝率との関係
図5 137Csの生物学的半減期

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<関連タイトル>
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放射線の晩発性影響 (09-02-03-02)
放射線の身体的影響 (09-02-03-03)

<参考文献>
(1) 松岡理著;実験動物からヒトへの外挿、ソフトサイエンス社、(1980)
(2) 戸部萬寿夫、堀内茂友編;実験医学のめざす外挿、実験動物からヒトへ、清至書院、(1984)
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